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YouTuber・VTuber法務

破局時は全動画削除?カップルYouTuberが円満な間に決めておくべきポイント

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破局時は全動画削除?カップルYouTuberが円満な間に決めておくべきポイント

いわゆる彼氏・彼女や夫婦間で動画を作成する「カップルYouTuber」は、YouTubeにおける一つのジャンルとして高い人気を誇っています。

ただ、少なくともチャンネル登録者数10万人以上など、一定の規模まで成長した場合、そのYouTubeチャンネルは、「カップルの趣味」といったレベルを超え、良くも悪くも、一つの「事業」としての性質を帯びてきます。そして、YouTubeに限らず、「事業」全般に言えることですが、明確な契約関係やルールなどがない状態で開始されている共同事業は、事後的な事情変化等によって亀裂が生じがちです。

特に「カップルYouTuber」は、人間関係の破綻時、つまり、別れてしまった場合や離婚してしまった場合に、過去動画の扱い、今後のチャンネル運用、収益分配など、様々な点について大きな問題が生じやすい代物です。

どういった問題が生じ得るのか、そして、それらをどのように解決すれば良いのか。本記事にて概要を解説します。

カップルYouTuberと「共同事業」の特徴

カップルYouTuberと同様に、あらゆる共同事業の開始時に、「人間関係等の理由で決裂すること」を想定しておくことは、「難しい」のですが、重要です。どんな共同事業も、開始時には、「その基礎となる人間関係は永続的で、事業はずっと上手く続くはずである」という期待と共に開始されることが一般的です。ただ、その「期待」は、必ずしも実現するとは限らないからです。

カップルYouTuberは、2名による共同事業ですが、YouTubeのシステム上、そのチャンネルの「所有者」や、当該チャンネル内の動画から広告収益を受け取る者は、そのうちの1名であることになります。この上で、当該1名が他方に対して、例えば収益の一定割合を支払う、(「所有者」より下の権限である)「管理者」権限を付与する、といった形で、1個のチャンネルをカップル両名が共同運営しているケースが多いと思われます。

カップルYouTuberの破局時に発生する問題とは

この関係性の上でカップルが破局すると、下記のような問題が生じます。

  1. 今後のチャンネル運用に関して、当該チャンネルは基本的に「所有者」に帰属しているため、他方は何らの権利を得ることができず、登録者の増えたチャンネルを「奪われる」ことになってしまう。
  2. 過去動画から生じる広告収益に関して、当該収益は基本的に「所有者」が設定可能な口座に振り込まれるため、他方は収益を受け取ることができなくなってしまう
  3. 過去動画に関して、他方が肖像権などを主張し、削除を求める可能性がある。そして、この請求に応じると、いわゆる案件動画について、クライアントとの関係で約束していた動画公開状態の保持を守れなくなってしまう危険がある。

以下、特に上記の2番目と3番目の問題について、詳しく解説します。

破局後の動画収益はどのように分配されるのか

2番目の問題について、「自分が出演していた動画から生じた広告収益は自分にも支払われるべきである」という主張は、法的には、「不当利得」と整理されると思われます。

民法第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

つまり、チャンネルの「所有者」である一方は、契約書などがない状態で(法律上の原因なく)、他方の出演や編集等行為によって、当該動画から生じる収益の全てを受け取ることになるわけです。その一部は、他方の「労務によって」受けている「利益」であり、それを他方に支払わなければならない、というロジックです。

ただ、このように整理した場合、請求できるのは、「YouTubeから振り込まれる収益(売上)の●%(例えば50%)」といった金額ではなく、「利益、つまり、売上から経費等を引いた金額のうち、自分の寄与度に応じた割合」といった金額になると思われます。つまり、例えば「2名で共同運営していたチャンネルなのだから、収益分配は原則的に50%ずつである」といったロジックではなく、「どの程度の利益が出ていて、自分はそれについてどの程度寄与しているのか」ということを、請求する側がゼロベースで主張立証しなくてはいけなくなってしまうのです。

このため、

  • 「経費はいくらか」といった議論
  • 自分の寄与度はどの程度か、例えば、出演時間や、編集など出演以外の工程で自分が行った作業がどの程度あったのか、といった議論

が生じることとなり、分配ロジックが、かなり複雑なものとなることが想定されます。こうした複雑な交渉を破局後に行わなければならないことは、実際問題として、双方にとって大きな負担になってしまうと思われます。

破局後の過去動画削除とクライアント案件

また、3番目の問題について、破局した以上、過去動画については全て削除すべき…、という考え方もあり得ます。ですが、いわゆる企業案件の場合、報酬を受け取る代わりに、例えば「12ヶ月は動画を削除せず公開し続けること」といった契約を行うケースも少なくありません。そうした場合、

  • カップルの他方との関係では、肖像権などを主張されて削除を求められる
  • 企業案件のクライアントからは、動画を削除せず公開し続けることを求められる

となり、「板挟み」になってしまう可能性があります。

円満なうちに行っておくべき「取り決め」とは

カップルYouTuberに限らず、「共同事業」においては、その関係性が円満なうちに、関係が破綻した場合にも大きな問題が生じないような「取り決め」を行っておくことが重要です。

この「取り決め」は、契約書による方が、「合意が行われたこと」「その合意の内容の明確性」という意味でベターと言えます。ただし、現実問題として、カップル間で契約書締結を行うのは心理的抵抗が大きい、という問題はあるでしょう。

ただ、契約は、「契約書」によらずとも、成立します。例えば、LINEで箇条書きの「取り決め」を送り、LINE上で「その形で構わない」といった返信を受けておき、そのスクリーンショット等を保存しておくだけでも、何もしないよりはベターです。

具体的に、取り決めを行っておくべき事柄は、以下の事項に関するものだと思われます。

チャンネルの帰属に関する取り決め

チャンネルそれ自体がどちらの「所有」するものなのかという点。例えば、カップルYouTuberとして数十万人などの登録を得たチャンネルを、破局後に個人チャンネルとして運用継続できるのはどちらなのか、という点に関する取り決めです。

(過去)動画の収益分配に関する取り決め

上述のように、広告収益は、一次的にはチャンネルの「所有者(が指定した口座の名義人)」に帰属します。この上で、当該収益を、どのように分配するのかという点。これは大きくは、

  • 何を:収益(売上それ自体)なのか、利益(売上から経費を控除した金額)なのか
  • どう:全動画について共通のパーセンテージなのか、動画によって変更するのか(例えば、動画ごとに編集を分担している場合に、「編集を行った側が60%、行っていない側が40%」といった分配も、一応あり得る)

分配するのか、という問題です。カップルが破局し、二人で新たに撮影等する動画がなくなったとしても、破局前にアップした動画から、収益は生じ続けるからです。

肖像権に関する取り決め

破局した場合に、破局前に撮影・アップロードされた動画を削除すべきか否か、という点も取り決めておいたほうがいいでしょう。特に、上述のようなクライアント案件については大きな問題となる可能性があります。例えば、「普通の動画は削除するが、案件動画は削除しない」という取り決めも、有効でしょう。

「契約書」を作成することの必要性

そして、こうした取り決めについては、「契約書」を作成しておいた方が、

  • そもそもその取り決めが正式に合意されたということ
  • 取り決めの詳細がどのようなものかということ(例えば一例ですが、仮に「50%ずつ分配する」という取り決めだとして、それは「売上(収益)」を折半するという意味なのか、「(経費を控除した)利益」を折半するという意味なのか)

という面で明確であり、ベターではあります。上述のように、一般論として、契約は「契約書」がなくても成立しますが、契約書のない契約は、どうしても、事後的にトラブルになった場合には、上記のような点に関して疑義が生じかねないものであるからです。

婚前契約等とも共通するテーマではありますが、冷静な話し合いが可能な関係性であれば、万一将来的に破局した場合にトラブルが深刻化してしまうことを防ぐために、「契約書」という形で取り決めを明確に行っておいた方が、ベターではあるのです。

夫婦YouTuberの場合の特殊性

なお、本記事では、婚姻関係にないカップルを想定した解説を行ってきましたが、夫婦の場合は特殊な事情が存在します。

民法第754条(夫婦間の契約の取消権)
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

裁判例によって効力に制限の認められている条文ではあるのですが、条文上、夫婦間の契約は、いつでも一方的に取り消しが可能となっているからです。つまり、上述のような「取り決め」を行っても、夫婦関係に亀裂が入り始めたタイミングなどで、一方的に「取り消し」を行われ、その取り決めの効力がなくなってしまう危険性があります

いわゆる婚前契約や夫婦間の取り決めに関する一般論を前提にする議論となってしまうため、本記事では詳細を割愛します。結論としては、法人を設立し、法人の事業として夫婦YouTuberチャンネル運用を行い、法人から夫・妻個人への収益分配等をどのように行うか検討する、という方針で設計を行うのがベターではないかと思われます。

まとめ

繰り返しにはなってしまいますが、共同事業は、関係が円満なうちに、「もし今後、その関係が破綻した場合に、その事業について、どのようなルールが適用されるのか」という点について、決めておくことが重要です。そして、YouTubeチャンネルの運用は、最初はともかく、チャンネル登録者が増えた以降においては、ただの「趣味」ではなく、「事業」と捉えるべき行為です。以上の話は、カップルYouTuberの場合も同じであり、本記事で解説したような各ポイントについて、きちんと取り決めを行っておくことが重要だと言えるでしょう。

また、こうした取り決めは、「共同事業」「YouTubeというインターネット上の空間で行われる事業」としての特殊性を前提にしたものとなるため、こうした分野に専門性のある弁護士に相談することが重要だと言えます、

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。高い人気を誇るカップルYouTuberですが、法務リスクは存在します。特に金銭が関わることとなると、後々大きな火種となりかねません。当事務所ではYouTuberやVTuberの法務対応も行っております。下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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