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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

VTuberの「中の人」を誹謗中傷 権利侵害と法的対応を解説

YouTuber・VTuber法務

YouTuberが人気になって久しいですが、VTuberも幅広い層からの人気を博しています。ですが、視聴者の数が増え、人気が過熱するとともにVTuberに対する誹謗中傷が増え、悪意のある投稿や、本人が公表していない「中の人」のプロフィールを暴露するなどの動きもあります。

こうした、VTuberに対する誹謗中傷やプライバシー侵害には、どのような法的対応が可能なのでしょうか。

権利侵害とVTuberの特殊性

人間(自然人)とも、アニメのキャラクターとも異なる、特殊で新たな存在様式を持っているため、VTuber(バーチャルYouTuber)に対する権利侵害は特殊なものとなる可能性があります。

ハンドルネームを使っているYouTuberを誹謗中傷する場合には、その法的扱いは芸名を使っている芸能人と同様になります。芸名で活動する芸能人を誹謗中傷するなら、その芸能人の本名を誰も知らなくても、当該の人物に対する誹謗中傷となりますが、ハンドルネームAのYouTuberが本名を公表せずに活動しており、誰もAの本名を知らなくても、Aに対する誹謗中傷となります。「Aである」と特定できるからです。

一方、VTuberにおいて問題となるのはこの特定性です。VTuberの場合には、「キャラを設定する人」「アバターを作る人」「アバターを動かす人」「声優」等の多くの人が関与する場合もあります。そこで、VTuberであるBが誹謗中傷された場合、誰に対する誹謗中傷であるのかを特定できない場合が生じます。そうすると、権利侵害を問うのが難しいこととなる可能性があります。

VTuberと名誉感情の侵害

原告の主張

VTuberであっても、「中の人」が一人であり、誹謗中傷の対象が特定できることより、名誉感情の侵害が認められた事例があります。

芸能プロダクションに所属して、「B」という名称の架空のCGキャラクターに本人の音声を合わせた動画を投稿するVTuberが、5ちゃんねるにおける複数の投稿により権利を侵害されたとして、投稿者に対する損害賠償請求権の行使のために、当該投稿に係る経由プロバイダに対し、投稿者の発信者情報の開示を求めました。

本件各投稿の内容は、いずれも原告が「B」として、インターネット上で配信した飲食店で提供された食事を食べきれずに残したというエピソードについて批判的な意見を述べるものでした。その中で、「片親だから」、「オヤナシだから」、「母親が居ないから」などとして、「B」の行動を原告の生育環境と結びつける形で批判するものが、問題となりました。

原告は、問題となる各投稿はいずれも、原告が父子家庭で育ったというみだりに第三者に公開を欲しない私生活上の事柄を指摘して原告のプライバシー権を侵害するものであると主張しました。また、そのような原告の生育環境を指摘した上で、偏見と差別的な思想に基づき、社会的な受忍限度を超えて原告のことを不当に侮辱し名誉感情を侵害するものである、と主張しました。

プロバイダーの主張

これに対し、被告である経由プロバイダは、以下のようにVTuberの特殊性に着目し、権利侵害の否定を主張しました。

一般的に、VTuberが使用するCGキャラクターは、その舞台裏では、デザインを含めてそれぞれの個性、能力を有する複数の人間がダンス、歌唱、声優その他の特徴をそれぞれ担当し、また、映像編集等も別の人間が担当しているといわれているから、当該キャラクターを特定の人間の人格と重ねてこれに還元することは困難であり、本件の「B」についても、当該キャラクターが原告自身であると考えることはできない。

そして、本件各投稿が投稿されたスレッドの一般の閲覧者は、VTuber「B」との関係で、原告の存在、個性、キャラクターとの同一性等についての知識を何ら有していないから、本件各投稿で言及されている対象は、「B」であって原告ではない。

したがって、本件各投稿による「B」についての記載をもって、原告の権利を侵害することが明らかであるとはいえない。

 東京地方裁判所2021年4月26日判決

裁判所の判断

これに対し、裁判所は、

  1. 原告が所属する芸能プロダクションであるaプロダクションには多数のVTuberがタレントとして所属しているが、その中で「B」として活動しているのは原告のみである。
  2. aプロダクションがVTuberのキャラクターを製作する際には、当該キャラクターとして活動する予定のタレントとの間で協議を行った上で、当該タレントの個性を活かすキャラクターを製作している。
  3. 「B」の動画配信における音声は原告の肉声である。
  4. CGキャラクターの動きは、モーションキャプチャーによる原告の動きを反映したものである。
  5. 「B」としての動画配信やSNS上での発信は、キャラクターとしての設定を踏まえた架空の内容ではなく、キャラクターを演じている人間の現実の生活における出来事等を内容とするものである。

等をあげ、VTuber「B」の活動は、単なるCGキャラクターではなく、原告の人格を反映したものであり、本件各投稿で言及されている対象は原告である、としました。

その上で、権利侵害について検討し、

原告が父子家庭であることは事実である一方で、「B」について、母親がいないとのキャラクター設定は存在しないものと認められる(略)から、このような事情の下で、あえて生育環境と結びつけてまで原告を批判する本件各投稿は、単なるマナー違反等を批判する内容とは異なり、社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものとして、その名誉感情を侵害することが明らかというべきである。

としました。プライバシー侵害について判断するまでもなく名誉感情の侵害が明らかであるとして、経由プロバイダに、投稿者の発信者情報の開示を命じました。

複数の人間がチームとして関与するVTuber活動であっても、誹謗中傷が誰に向けられたものか認定できる場合には、権利侵害が認められる可能性があります。

これは、名誉権の侵害においても同様であり、2022年3月には、裁判所がVTuberに対する名誉毀損を認め、経由プロバイダに、投稿者の発信者情報の開示を命じています。

VTuberとプライバシー侵害

VTuberが発信者情報の開示を請求

女性VTuberのアイドルグループに所属して活動を行うVTuber「C」の「中の人」を特定する動きがある中で、ファンスレッドにややぼやけた原告の顔写真を添付し、リンクをクリックすると原告が「C」の活動とは全く無関係な自身のSNSアカウントに投稿した写真が表示されるようにして、顔写真の人物である原告が「中の人」であると指摘したことに対し、プライバシーを侵害された等として、経由プロバイダに対し、VTuberが投稿者の発信者情報の開示を求めた事例があります。

プロダイバの主張

被告である経由プロバイダは、「C」の「中の人」がニコニコ生放送の配信主の「D」であることはインターネット上で多数の者によって公表されており、その顔写真もネット上で容易に入手でき、それらの情報は一般に既に知られているので、原告個人にかかる情報が第三者に公開されたくない情報であるとは解されず、プライバシー侵害の要件を充たさないと主張しました。

さらにキャラクターがVTuberの本体であり当該キャラクターの裏にいる生身の人間が明らかでない場合には、当該キャラクターに対する行為は、生身の人間を対象としていないと評価すべきであって、この場合には、当該キャラクターに対する人格権侵害が行われたとしても、生身の人間に対する人格権侵害は問題とならないというべきである。

東京地方裁判所2021年6月8日判決

と、VTuberに対する権利侵害の特殊性を主張しました。

裁判所の判断

これに対し、裁判所は、「C」というVTuberとして活動するのは専ら原告であり、また、原告がVTuberとしての芸能活動を行うに当たり、所属事務所との間では、原告が一個人として生身で活動を行うことが禁じられるなど最低限の遵守事項が定められていることをあげて、原告は「C」と自身のプロフィールを結び付ける形で自身の情報を一般に開示してはいない点に着目しました。

そもそも着ぐるみや仮面・覆面を用いて実際の顔を晒すことなく芸能活動をする者もいるところ、これと似通った活動を行うVTuberにおいても、そのVTuberとしてのキャラクターのイメージを守るために実際の顔や個人情報を晒さないという芸能戦略はあり得るところであるから、原告にとって、本件画像が一般人に対し公開を欲しないであろう事柄であったことは十分に首肯できる。ましてや、本件においては、上記1で認定したとおり、原告が「C」が自身であることを積極的に公開していた形跡はなく、所属事務所との間でも一個人として生身で活動を行うことが禁じられていたのであるから、原告は本件画像の公開を欲していなかったことが認められる。

同上

として、プライバシー侵害を認め、経由プロバイダに、投稿者の発信者情報の開示を命じました。

なお、裁判所は、本件画像が過去に原告自身がSNSにおいて世間に公開していたものであったとしても、あるいは別人によって「C」を指すものとしてネット上で公開されていたとしても、「C」との同一性を示すものとして新たに公開され、あるいは世間に拡散されることを原告が望んでいないことは明らかなのだから、本件画像を投稿した行為はプライバシー侵害となる、としています。

他の人も特定しようとしていたのだから、自分の行為はその一環なのだから、と言っても、言い逃れはできません。

まとめ

VTuberに対する権利侵害は、対象が特定できる場合であれば、一般的な事例のアナロジーとして、解決できるといえます。

ただし、複数の人が関与し、対象が特定できないような場合の問題は残っており、今後の議論が待たれます。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

カテゴリー: YouTuber・VTuber法務

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