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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

Twitterの鍵付きアカウントでの誹謗中傷は名誉毀損にあたるか?2つの判例を解説

風評被害対策

Twitterは登録時の初期設定では、ツイートが公開される設定になっています。ただし、知らない人にまで自分のツイートを見せたくない、Twitterを仲間内でのコミュニケーションにだけ使いたいユーザーのために、Twitterにはツイートを非公開にすることが可能です。いわゆる“鍵付きアカント”にする機能があります。

Twitterのツイートで成立する罪にはいろいろなものがありますが、鍵付きアカウントで誹謗中傷が行われたとき、裁判では、どのように取り扱われているのでしょうか。Twitterの鍵付きアカウントを巡る2つの判例を解説します。

鍵付きアカウントとは

Twitterでは「鍵付きアカウント」という名称は使われていません。鍵のアイコンがついているツイートは「非公開ツイート」と呼ばれています。

あなたがツイートを非公開にすると、あなたをフォローしたいユーザーからリクエストが届きます。このリクエストは承認することも、拒否することもできます。

ツイートへのパーマリンクを含め、あなたのツイートはフォロワーにのみ表示されるようになります。また、あなたのフォロワーは、リツイートボタンを使ってあなたのツイートをリツイートまたはコメントを付けてリツイートすることはできません。したがって、鍵付きアカウントにすると、自分のツイートが拡散されるのを防ぐことができますし、したくても拡散できなくなります。

最も重要な点ですが、鍵付きアカウントのツイートはTwitterの検索機能で検索しても、表示されませんし、検索エンジン(GoogleやYahoo!など)にも引っかからなくなります。Twitterで非公開ツイートを検索できるのは、あなた自身とフォロワーのみとなります。

便利なことも多いのですが、自分のことをフォローしていない人にリプライを送った場合には、自分は相手に送ったリプライのツイートを見ることができるのですが、送られた側はそのツイートを見ることができません。鍵付きアカウントで相互フォローしていない人のツイートを見てコメントしようと思ってもできなくなります。

ではこのような鍵付きアカウントによって他人の名誉などを傷つけるような投稿をした場合、どのような法的問題が生じるのでしょうか?以下、判例を解説していきましょう。

鍵付きアカウントと侮辱

名誉感情の侵害、いわゆる侮辱については、判例では、「名誉感情、すなわち人が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(主観的名誉)も法的保護に値する利益であり、表現態様が著しく下品ないし侮辱的、誹謗中傷的である等、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為は、人格権を侵害するものとして、名誉毀損とは別個に不法行為を構成する」(最高裁判所2010年4月13日判決)とされています。

名誉毀損と侮辱はともに「名誉に対する罪」ですが、名誉毀損罪は刑法では、

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条(名誉毀損)

とされ、侮辱罪は刑法では、

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

刑法第231条(侮辱)

とされています。

不特定多数の人が知ることになる状況(公然)で、真実又は虚偽の事実を指摘して、人の社会的評価を低下させることによって成立する罪が名誉毀損であり、事実を指摘しないで、不特定多数の人が知ることになる状況(公然)で、人を侮辱することによって成立する罪が侮辱(名誉感情の侵害)となりますが、鍵付きアカウントにおいて行われた侮辱について争われた裁判を見てみます。

裁判の経緯

高校時代からの友人である被告がツイッターに原告の写真を掲載し、原告の名誉感情を侵害する記載をしたことにより精神的苦痛を受けたと主張して、原告が被告に対し、不法行為に基づき損害賠償を求めて提訴した事例があります。

原告は、第三者から、Twitterのダイレクトメッセージ画面のスクリーンショットを画像として保存したものをInstagramのチャット画面上で送信を受けました。画像には、原告とその子供の写真が掲載され、原告がフォロワーではない「@○○」という鍵付きアカウントに、

  • ホルスタイン
  • マジ産む機械=むり=
  • 子供4人も産んでまじ産む機械
  • 36だよね笑笑 パート先のファミレスで高校生たちにババアって呼ばれてるらしいけどそらそうだわ
  • ドブスドデブですよまじ

などとツイートされていました。このツイートは、原告の肖像権を侵害するものであるとともに原告を一方的に誹謗中傷するものであり、原告に対する不法行為を構成する、というのが原告の主張でした。

これに対し、被告は原告の名誉感情が侵害されたとしても、それは鍵付きアカウントでの投稿を原告に知らせた第三者の行為によるものであって被告の行為によるものではないと主張しました。一方、原告は、Twitterにおいてはその性質上、投稿がフォロワーの閲覧に供され続け、リツイートやコピー&ペースト等により容易に拡散され得る状態に置かれるのであるから、アカウントが公開されているか否かにかかわらず、本件投稿は不特定多数の第三者に対して投稿内容を閲覧させる行為であり、そのような投稿行為を行ったのは被告だから、被告の投稿行為は原告の名誉感情を侵害する行為に該当する、と主張しました。

裁判所の判断

裁判所はまず、本件投稿における記載は、いずれも原告の名誉感情を侵害するものであると認めました。しかしながら、侮辱(名誉感情の侵害)の成立については、以下の理由から認めませんでした。

被告が使用していた「@○○」というアカウントはいわゆる鍵付きアカウントであり、同アカウントの投稿内容は常時非公開であり、被告に許可された限られたフォロワーしかその内容を閲覧することができなかったが、原告はそのフォロワーではなかったことが認められるから、被告が本件投稿をしたとしても、それによって原告に対し投稿内容を告知したことにはならず、本件投稿をもって原告に対する名誉感情侵害の不法行為が成立するということはできない。

東京地方裁判所2019年5月29日判決

としました。

原告に対し投稿内容を告げていないのであるから、原告の名誉感情を侵害したことにはならない、つまり、原告の名誉感情を侵害し得る内容を記載したというだけでは、原告に対する不法行為が成立すると認めることはできないという判断です。

また、裁判所は、たまたま原告に知らせた第三者のように閲覧した画面のスクリーンショットを画像として保存したものを送信した者がいたからといって、本件投稿が不特定多数の第三者に拡散する可能性があったとまでいうことはできないし、拡散の可能性を被告が予見していたということもできないともしています。

そして、原告が写真を自らInstagramに投稿していた可能性を否定することはできないので、被告がTwitterに当該写真を掲載したというだけでは、原告の肖像権を侵害したと認めることはできないとして、肖像権侵害も認めず、原告の請求は全て棄却されました。

鍵付きアカウントと名誉毀損

裁判の経緯

2016年3月に結成されたロックアイドルグループ「○○」のメンバーとして活動していた原告が、同じ「○○」のメンバーとして活動し、2019年6月末に「○○」を脱退した被告に対し、同年7月2日に、被告がTwitter上の自己のアカウントにおいて、①「あ、新宿のレズ風俗やめちゃったんだっけ?あれ」などと記載したツイートを投稿し、さらに、原告の顔写真と共に、②「秋葉原の店舗型リフレでこの写真見せて上手く聞き出してくれませんかね~」などと記載したツイートを投稿したことに対し、名誉を毀損されたとして、損害賠償を求めて提訴しました。

原告は、本件各ツイートは、原告が性風俗店で働いていたことは一度もないにもかかわらず、原告が性風俗店で働いたことがある事実又は原告が現在も性風俗店で働いている事実を摘示するものであり、一般読者の普通の読み方を基準とすれば、原告の社会的評価を低下させるものであり、本件各ツイートが投稿された被告のアカウントには、500人程度のフォロワーが存在しており、不特定多数の者が閲覧可能な状態であった、と主張しました。

これに対し、被告は、本件各ツイートが投稿された被告のアカウントは、鍵付きアカウントであり、被告の承認した者(仲の良い友達)しか見られないものであり、被告としては、本件各ツイートにより、仲の良い友達に愚痴をこぼしただけである、と主張しました。

なお、判決文ではとりわけ指摘されていませんが、前記述より、原告は被告の鍵付きアカウントのフォロワーであり、閲覧が可能であったようです。

裁判所の判断

裁判所はまず、本件各ツイートが原告を対象としたものであり、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件ツイート①は疑問の体裁をとりつつ、本件ツイート②は読者への依頼の体裁をとりつつ、いずれも、原告が性風俗店で働いたことがある事実又は原告が現在も性風俗店で働いている事実を摘示するものと理解されるのが通常であるとして、各ツイートは、原告の社会的評価を著しく低下させるものであると認めました。

その上で、鍵付きアカウントであることにつき、

被告は、本件各ツイートが投稿された被告のアカウントは、いわゆる鍵付きのアカウントであり、被告の承認した者(仲の良い友達)しか見られないと主張する。かかる被告の主張は、公然性を欠くため、本件各ツイートによって原告の社会的評価は低下しないと主張するものと理解される。しかしながら、本件各ツイート時点において、被告の承認を受けている者(本件各ツイートを閲読できる者)は複数いたものと認められることに加え、承認するか否かは被告の任意の判断に委ねられており、本件各ツイート時点で被告の承認を受けていなくても、その後に承認を受けることにより、本件各ツイートを閲読できるようになること、被告の承認を受けた者は、本件各ツイートのデータを複製等することによって、容易に他者へ拡散させることが可能であることに鑑みると、本件各ツイートが不特定多数の者に伝播する可能性があったというべきである。したがって、被告の上記主張は、本件各ツイートが原告の社会的評価を著しく低下させるとの上記認定を左右するものではない。

東京地方裁判所2020年6月19日判決

とし、「鍵付きアカウントだから公然性を欠く」という考えを否定し、「500人程度」という数については言及されていませんが、被告の承認を受けている者が複数いたことを認めました。鍵付きアカウントにおける発言であるという被告の主張に対しては、

  • 承認するか否かは被告の任意の判断に委ねられており、本件各ツイート時点で被告の承認を受けていなくても、その後に承認を受けることにより、本件各ツイートを閲読できるようになる
  • 被告の承認を受けた者は、本件各ツイートのデータを複製等することによって、容易に他者へ拡散させることが可能である

という点をあげ、「本件各ツイートが不特定多数の者に伝播する可能性があった」として名誉毀損の侵害を認め、ただし、各ツイートが鍵付きアカウントであり、「一次的な閲読者が限定されていたこと」やツイート回数が2回であること等の事情を考慮して、慰謝料20万円、弁護士費用2万円、合計22万円の損害賠償金の支払いを被告に命じました。

ツイートの時点では「一次的な閲読者」だけであって不特定多数に伝搬していなくても、「二次的な閲読者」にも伝搬する可能性があるというものですが、先にあげた「東京地方裁判所2019年5月29日判決」における公然性と伝搬の可能性に関する考え方とは異なる判断となりました。

まとめ

鍵付きアカウントについては、1年ほどの間に下級審の判断が2つ出たばかりであり、今後どのような判断が続くか、また上級審に行ったときどのように判断されるのか興味深いところですが、ともあれ、「鍵付きアカウントだからどんな発言をしても構わない」と考えるのは、避けるべきでしょう。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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