弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-17:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

名誉毀損の慰謝料が加害行為の悪質性で高額になるケースとは

風評被害対策

名誉毀損の慰謝料が加害行為の悪質性で高額になるケースとは

名誉毀損が認められると、被害者は加害者に対する損害賠償請求権が認容されますが、その中心となるのは慰謝料です。

慰謝料とは、「物質的損害ではなく精神的損害に対する賠償、いわば内心の痛みを与えられたことへの償い」(最高裁判所1994年2月22日判決)とされていますが、その苦痛の程度を客観的・数量的に把握することは困難であり、裁判所は様々な要素を比較衡量して、慰謝料を算出しています

この「様々な要素」について、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房:西口元・小賀野晶一・眞田範行著)では、次の算定式が提唱されています。

被害者属性別中央値 ± 伝搬性・影響力の強弱 ± 加害行為の悪質性

全ての名誉毀損は犯罪であり、許されるものではありませんが、一部にとりわけ悪質で執拗な名誉毀損といっていいものがあります。名誉毀損に対する慰謝料は謙抑的なものが多いのですが、これら加害行為が悪質なものに対しては、どのような判断がなされているのでしょうか。

ここでは、「加害行為の悪質性」について、裁判でどのように評価されているかを解説します。

執拗な名誉毀損に対する場合

原告がa大学在学中に賃借していたアパートの家主が、同大学を卒業してアパートを明け渡した3年後から、①原告の勤務先の病院に原告を誹謗するメールを送信し、②「○○動画」、「○○コミュニティ」に、原告を誹謗中傷しその名誉を毀損する動画又はコミュニティを繰り返しアップさせ、③投稿した動画等の中で、原告の氏名、住所、勤務先を明らかにし、原告の顔写真をアップするなどして原告のプライバシーを侵害し、④このような行為を本件訴訟の提起後、及び和解期日における和解協議進行中もやむことはなく、かえってエスカレートさせた、という事例があります。

嫌がらせの繰り返し

卒業後3年もたってからのことであり、どのような人間関係のもつれがあったのかは不明ですが、「(派遣型性風俗)の女性を部屋に呼んでろうそくプレイなどをした」「洋物ハードポルノ、ロリ(ロリータ)部門の愛好家であり、無修正DVDの販売を目的とする小雑誌が業者から多数送られてきていた」「家賃を8か月分滞納し、2か月分は不払になっている」などの事実摘示を、原告の氏名、原告の勤務先(c病院泌尿器科)、原告とその実家の住所、原告の顔写真といった個人情報と併せて投稿したことに対し、裁判所は、原告の名誉を毀損し、プライバシーを侵害する不法行為に当たることが明らかであるとしました。

高額の損害賠償が認められた例

その上で、

原告は、○○動画、○○コミュニティに対し、削除要請を行ったものの、この要請に基づく削除が行われても、被告は繰り返し同様の動画等をアップすることを繰り返し、原告においてその都度削除要請を繰り返さざるを得なかったこと、原告代理人の申請により被告がアカウント停止に追い込まれると、被告は、これに対抗して、原告の顔写真等を掲載した原告に関するコミュニティを12個も作成するなど、嫌がらせとしか思えないような行為を執拗に繰り返したこと、本件訴訟が提起され、その中で和解に向けた協議が進行していた間にも、被告は、○○動画上に、「a大生でね、店子だった。…ところがこいつがひどかったのよ。うん。医者にはなったけどもね、めちゃくちゃ。家賃は払わないわ、滞納するわ、ものは壊すわ」などの事実摘示を、「まさかそんな医者で小汚いのがいるとはよ」、「家賃を払わないガキがね、その後医者になって訴えてきやがった」などの侮べつ的、挑発的な表現とともに投稿したこと、このような被告による執拗な投稿が行われた結果、原告の氏名を入力して△△サイトで検索をすると、被告の投稿に係る上記動画等が上位に表示されるような事態になっていることが認められる。
東京地方裁判所2013年7月19日判決

とし、「被告による名誉毀損及びプライバシー侵害によって原告に生じた被害は深刻かつ重大といわざるを得ず、特に、原告の顔写真、氏名、住所等の個人情報を執拗に掲載し続けた点は極めて悪質である」として、慰謝料250万円、弁護士費用25万円、合計275万円の支払いを、被告に命じました。

名誉毀損を理由とする損害賠償においてはもっぱら100万円程度を賠償額の上限とする例が多くみられ、とりわけインターネットを利用した名誉権侵害においては損害額の算定が謙抑的なものが多いと言われますが、このような、「執拗」で「極めて悪質」な行為に対しては、より厳しい判断が下される可能性があります

事前差止めを求めた場合

電子メールやインターネットを利用しての誹謗中傷等により名誉及びプライバシー権が侵害され、ホステスとしての信用を毀損されたと主張して、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金100万円を求めるとともに、人格権に基づく差止請求として、被告が原告の個人情報を含む情報を電気通信回線を通じて送信し不特定又は多数の者が閲覧し得るようにすること等の事前差止めを求めた事例があります。

電子メールによる恫喝と掲示板への執拗な投稿

原告は、もと六本木のクラブ「a店」でホステスとして「A」の通称で勤務し、平成27年5月以降、銀座のクラブ「b店」にて同様にホステスとして勤務するようになった女性であり、被告は、原告が「a店」在店中に知りあった同店の顧客であり、原告に好意を寄せていました。

原告は、「a店」から「b店」へ勤務先を変えたのを機に、被告との連絡等交流を一切断とうとしたところ、これを快く思わなかった被告は、平成27年5月頃から、周囲に原告のあらぬ悪評を言いふらしたり、原告に対し、「自殺しろ」などと恫喝する電子メールを度々送信したりするようになりました。

さらに、同年11月以降、ホストラブ掲示板のb店スレッド上に、「死ねAババア!明日交通事故で死んだら!!!!」、「Aは死ね!早く死ねよ!とにかく早く死んで!!お前は生きててもキャバクラで働くしかない極道の女たちによくて出れるくらいのババアなんだから早く死ねよ!」、「絶対に雇ってはいけない、指名してはいけない極悪ホステス情報。元a店、銀座クラブb店のA・○才×月△日誕生日《〈注〉原告の年齢と誕生日》(本名:X)について書かれていますのでクリックして読むべし!!」などと罵詈雑言を書き連ね、さらに、「こっちはAを追い詰めるためと辞めたとか確認するために掲示板利用してんだよ!」、「てめえ、俺を好きだから攻めてきたんだろ?この攻撃は俺が舐められた、かなりのレベルでAに舐められたと思ったから報復してるんだよ!」などと不当表現を自認する記載・公表をし、原告の氏名、携帯電話番号などの個人情報をサイト上に原告の許可なく無断で公開し、さらに顔写真まで掲載した上で、「これが銀座クラブb店・A(本名:X)の色恋結婚詐欺営業の現場写真だ!!」などと原告があたかも犯罪行為をはたらいたかのようなデマ・中傷記事を投稿・公表しました。

やがて、被告は「b店」に来店するようになり、店内で他のホステスに原告の悪口を吹聴するなどし始めたので、原告は被告の常軌を逸した脅迫、プライバシー侵害、名誉毀損行為等に非常な恐怖を感じるとともに、精神的な平穏を害され、原告代理人弁護士に対処方を相談し、被告に対し、今後こういった行為を止めるよう求め、さらに、被告がこれを続ける場合には裁判上の対処も辞さない旨を通告する内容証明郵便を送付しました

内容証明郵便での警告への対応

しかし、被告はその後も脅迫等を止めず、ホストラブ掲示板のb店スレッドに上記の内容証明郵便の内容を公開しつつ、「結婚詐欺師に詐欺と言ってなにが悪いンだよ!市川よ!」、「自殺してほしい気持ちは一生変わらねぇよ!!」、「困惑する暇があるなら自殺しろ!」、「日給3時間で5万円貰って色恋営業結婚詐欺してなにが弁護士だ!死ね!」、「結婚詐欺、色恋詐欺だろ バーカ市川!!」、「心から死んで欲しいという真心です!!今死ね、今日死ね、明日死ね。毎日死ね!」などと、開き直りとしか取れない誹謗中傷を続け、原告になりすましてFacebookのサイトを開設し、原告の顔写真を何枚も掲載・公表するとともに、原告の名誉・信用を傷つける記事掲載を繰り返しました。

これに対し、裁判所は、

被告の行為は、執拗かつ異常なものであり、卑劣極まりないものである。呪詛のように「死ね」とか「自殺しろ」と繰り返す被告の行為は、それ自体、対象者が生存に価しないという侮辱的表現であり、義務なきことを強要するばかりでなく、従わないならば被告自らが手を下すことを暗喩するものであって、極めて悪質な脅迫と言わなければならない。
被告のこのような行為は,ホステスとして稼働する原告の信用を毀損するばかりでなく、原告の名誉及びプライバシー権を侵害するものであり、原告を困惑、不快にさせるばかりでなく、畏怖させるに十分な不法行為である。
東京地方裁判所2016年8月25日判決

とし、「原告が被った多大なる恐怖感、精神的不安を慰藉するためには、相応額の金銭の支払を被告に命じることが相当である」として、慰謝料100万円(請求額の満額)を認容し、さらに、

被告は、原告の本件訴訟代理人である弁護士から、内容証明郵便での警告を受けたにもかかわらず、同弁護士を愚弄・揶揄し、また、さらに原告を誹謗、脅迫する注釈をつけた上で、同警告文をサイト上に投稿するなどしたばかりか、従前と同様の投稿を続けた上、原告を騙ってフェイスブックのサイトを開設し、原告を誹謗するような投稿を続けていることからすると、被告が今後も、原告の名誉及びプライバシー権や精神的平穏を侵害するような行為を続ける蓋然性が高く、被告によるこのような侵害行為を予め禁止する必要性が高い。したがって、原告の人格権に基づき、被告が原告の個人情報をインターネット上のサイトに投稿するなど、電気通信回線を通じて送信し、不特定又は多数の者が閲覧し得るようにすることや、電気通信回線を用いた送信、あるいは文書配布、もしくは、原告に対する発信、電話又は手紙により、原告の生死に関わる指示要求を内容とする文言を表示することを差し止めることが相当である。
同前

として事前差止を命じ、原告の請求を全認容しました

https://monolith-law.jp/reputation/spoofing-facebook-hijackin

名誉毀損における事前差止

名誉毀損における事前差止は、表現の自由との関係で厳しい要件の下でしか認められませんし、インターネット上での名誉毀損においては、投稿やアップロードをするだけで表現が可能なので、事前差止の実効性があまりないため、問題とならないことが多いのですが、この事例のように「執拗かつ異常な」名誉毀損や脅迫が繰り返され、今後も同様の行為を繰り返すことが明らかに予想される場合には、認められる可能性が生じます

まとめ

犯人に対する慰謝料の認容額はいまだ低額すぎるといえます。しかし、その中でも、執拗な名誉毀損を繰り返すような、悪質な事例に対しては、比較的高額な賠償金が認定されるようになってきましたし、裁判後の侵害行為に対しては、事前差止を認められる可能性もあります。

誹謗中傷を執拗に繰り返す加害者の責任を追及したい、泣き寝入りしたくない、悪質な加害者に反省させたいと願うのであれば、経験豊かな弁護士にご相談ください。裁判の見通しや手続きについても、詳しい説明を得ることが可能です。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る