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物にパブリシティ権はあるのか

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物にパブリシティ権はあるのか

パブリシティ権とは何か、また、それはどういう場合に発生し、どういう場合に発生しないと認められるのかについては、別記事で詳しく解説しています。

氏名や肖像の顧客吸引力がもたらす財産的価値を考えると、その顧客吸引力を人に限定する必要はないという考え方があり得ます。物に顧客吸引力がある場合、その物の所有者にパブリシティ権を認めてよいのではないか、という主張は可能かもしれません。ゲームソフトに実在の野球選手やサッカー選手の氏名を無断で使用すれば、肖像を使用した場合と同じく、パブリシティ権の侵害となります。では、人が所有する競走馬の馬名やその肖像をゲームソフトに使用する場合にはどうなるのでしょうか。

パブリシティ権という言葉は法律上の言葉ではありません。裁判により少しずつ明らかになり、認められてきた比較的新しい権利です。物のパブリシティ権も、所有者に無断で競走馬の名称を使用して製作したゲームソフトを巡って、裁判で争われました。

ギャロップレーサー事件(名古屋地方裁判所2000年1月)

物にパブリシティ権があるのかについて書かれています。

競走馬の馬主22名が、所有する競走馬の馬名を使用したゲームソフト「ギャロップレーサー」を製作、販売した業者に対し、パブリシティ権に基づいて、販売等の禁止と不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えました。このゲームは、プレイヤーがジョッキーになり、自分の選択する競走馬(日本中央競馬会のG1、G2、G3を含む重賞レースの出場馬)に騎乗し、実際の競馬場を再現した画面においてレースを展開するものです。

名古屋地方裁判所は、

「著名人」でない「物」の名称等についても、パブリシティの価値が認められる場合があり、およそ「物」についてパブリシティ権を認める余地がないということはできない。また、著名人について認められるパブリシティ権は、プライバシー権や肖像権といった人格権とは別個独立の経済的価値と解されているから、必ずしも、パブリシティの価値を有するものを人格権を有する「著名人」に限定する理由はないものといわなければならない。

このような物の名称等がもつパブリシティの価値は、その物の名声、社会的評価、知名度等から派生するものということができるから、その物の所有者(後述のとおり、物が消滅したときは所有していた者が権利者になる。)に帰属する財産的な利益ないし権利として、保護すべきである。

名古屋地方裁判所2000年1月19日判決

と、物のパブリシティ権を認めました。

また、「物のパブリシティ権が経済的価値を取得する権利にすぎないことを考慮すると、現段階においては、物についてのパブリシティ権に基づく差止めを認めることはできない」としつつ、「ただし、物についてのパブリシティ権であっても、不法行為に基づく損害賠償の対象としての権利ないし法律上保護すべき利益には該当するものと認められるから、損害賠償は認められるものと解する」として、製作、販売した業者に対し、G1レースに出走したことのある競走馬の馬主20人に対して、4万1412円から60万842円までの賠償を命じました。

ギャロップレーサー事件(名古屋高等裁判所2001年3月)

控訴審判決は、商標法による馬名の無断使用の防御に関しては、「商標法によって商標として登録した馬名が保護されるのは、登録した商標を自己の業務にかかる商品又は役務について使用する場合に限られる」のだから、「馬主が有する競走馬の有する名声、社会的評価、知名度等から生じる顧客吸引力という経済的利益ないし価値を保護するには、商標法による保護のみでは十分とはいえず、一定の要件のもとに物のパブリシティ権を承認してこれを保護する必要があると解するのが相当である」と、物のパブリシティ権を認めた名古屋地方裁判所の判決を支持しましたが、G1レースで優勝した競走馬にのみ、パブリシティ権を認めるにとどめました。

また、販売差し止め請求に関しては、

著名人に関するパブリシティ権は、その著名人のプライバシー権、肖像権を含む人格権と密接に関連するものであることから右パブリシティ権に基づく差止請求が承認されているところ、物のパブリシティ権は、物の所有者の人格権等と関連するものではなく、その物の顧客吸引力という経済的利益と関連するものであり、著名人に関するパブリシティ権と同じように扱うことはできない。

名古屋高等裁判所2001年3月8日判決

と、1審の名古屋地方裁判所と同様に認めませんでした。

ダービースタリオン事件(東京地方裁判所2001年8月)

判例は物に対するパブリシティ権を否定しました。

競走馬の馬主23名が、所有する競走馬の馬名を使用した競走馬育成シミュレーションゲーム「ダービースタリオン」(計4バージョン)を製作、販売した業者に対し、パブリシティ権に基づいて、販売等の禁止と不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えました。東京地方裁判所は、「当裁判所は,原告らの主張に係る「物の顧客吸引力などの経済的価値を排他的に支配する財産的権利」の存在を肯定することはできないと判断する」として、物のパブリシティ権を否定しました。

東京地方裁判所は、

1:排他的な権利を認めるためには、実定法の根拠(人格権など明文がないものも含む。)が必要であるが、原告らが主張する「物の経済的価値を排他的に支配する権利」を、従来から排他的権利として認められている所有権や人格権の作用を拡張的に理解することによって、根拠付けることは到底できない。

2:上記のとおり、排他的な権利を認めるためには、実定法の根拠が必要であるが、知的財産権制度を設けた現行法全体の制度趣旨に照らし、知的財産権法の保護が及ばない範囲については、排他的権利の存在を認めることはできない。また、「物の経済的な価値を排他的に支配する」利益を尊重する社会的な慣行が長い間続くことによって、これが慣習法にまで高められれば、明文上の根拠がなくとも、排他的権利の存在が認められるとの見解に立ったとしても、原告らが主張する排他的権利を肯定することは到底できない。

東京地方裁判所2001年8月27日判決

とし、1についてはさらに「このような排他的な権能は、あくまでも、自然人が本来有している人格権が侵害されたと評価される場合に初めて認められるのであって、これと異なり、そもそも、第三者が、他人の所有物を利用しても、直ちには物の所有者の人格権を侵害するものではないから、人格権を基礎にして、原告らの主張するような排他的権能を根拠付けることは到底できない」とし、2についてもさらに「知的財産権関係法が付与する排他的権利は、その性質上、権利者に対して、独占的保護の限界を画したものと解されるべきであり、第三者に対して、行為の適法性の限界を画するものとして解されるべきものである。したがって、第三者が、知的財産権関係法の定める排他的権利の範囲に含まれない態様で行為をすることは、適法な行為というべきことになる」としました。

ダービースタリオン事件(東京高等裁判所2002年9月)

1審で販売等の禁止と不法行為に基づく損害賠償を認められなかった原告らは控訴しましたが、東京高等裁判所は、控訴を棄却しました。

東京高等裁判所は、

著名人の氏名、肖像を商品の宣伝・広告に使用したり、商品そのものに付したりすることに、当該商品の宣伝・販売促進上の効果があることは、一般によく知られているところである。このような著名人の氏名、肖像は、当該著名人を象徴する個人識別情報として、それ自体が顧客吸引力を備えるものであり、一個の独立した経済的利益ないし価値を有するものである点において、一般人と異なるものである。自然人は、一般人であっても、上記のとおり、もともと、その人格権に基づき、正当な理由なく、その氏名、肖像を第三者に利用されない権利を有しているというべきなのであるから、一般人と異なり、その氏名、肖像から顧客吸引力が生じる著名人が、この氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利を有するのは、ある意味では、当然である。著名人のこの権利をとらえて、「パブリシティ権」と呼ぶことは可能であるものの、この権利は、もともと人格権に根ざすものというべきである。

東京高等裁判所2002年9月12日判決

と「パブリシティ権は人格権に根ざすもの」であるとし、

著名人のパブリシティ権は、前述のとおり、もともと人格権に根ざすものと解すべきであるから、競走馬という物について、人格権に根ざすものとしての、氏名権、肖像権ないしはパブリシティ権を認めることができないことは明らかである。

同上

としました。

ギャロップレーサー事件(最高裁判所2004年2月)

以上のように、「ギャロップレーサー」と「ダービースタリオン」とでは判断が分かれましたが、「ギャロップレーサー」事件の上告審において、最高裁判所は、原判決を破棄し、原告らの請求を棄却して、物のパブリシティ権を否定しました。

最高裁判所は、当サイトの別記事「他人の所有物を勝手に撮影して公開することは許されるか」でご紹介した「顔真卿自書建中告身帖」に対する最高裁判所判例を踏襲して、「1審原告らは、本件各競走馬を所有し、又は所有していた者であるが、競走馬等の物の所有権は、その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり、その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから、第三者が、競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく、競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても、その利用行為、競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである」としました。

最高裁は、

競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。

最高裁判所2004年2月13日

と判示して、差し止め、不法行為のいずれについても、成立を否定しました。なお、「ダービースタリオン事件」の東京控訴審判決に対する上告及び上告受理申し立てが競走馬の所有者側からなされていたのですが、これも同日付で上告棄却、不受理の決定がなされました。

まとめ

判例は、芸能人やスポーツ選手に関して認めたのと同様なパブリシティ権を、物に関して認めることは否定し、不法行為の成立についても、物の無体物としての利用については、基本的に不法行為は成立しないとしました。物に関するパブリシティ権については、結論が得られていると考えてよいでしょう。

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