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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

プロバイダ責任制限法と送信防止措置請求を解説

風評被害対策

ネットで誹謗中傷されたり、プライバシーを公開されてしまった場合は、速やかに記事を削除しなければなりません。放置したままでいるとさらに拡散し、甚大な被害を生む場合もあります。

そこで、記事削除を求めるにあたって、3つの方法があります

本記事では、プロバイダ責任制限法と、投稿記事を削除するために採用する手段の一つである送信防止措置請求について解説します。具体的な判例などを紹介しながら、どのような場合にプロバイダが損害賠償責任を負うのか説明します。

3つの記事削除請求とは?

記事削除を求めるには、通常、

  • サイト運営者やサーバー運営者に対する削除依頼
  • 裁判所を通じての削除請求
  • サイト運営者やサーバー運営者に対する送信防止措置請求

という、3つの方法があります。

1つ目の削除依頼については、各掲示板やSNS等に設置されている「削除依頼フォーム」等から行います。例えばInstagramの場合、下記にて詳しく解説しております。

2つ目の削除請求については、仮処分という手続きを用いて裁判所に記事削除を求めますが、こちらも下記記事にて、詳しく解説しています。

そして、3つ目の送信防止措置請求については、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、通称「プロバイダ責任制限法」に基づいて定められた手続きにより、記事削除請求を行います。

プロバイダ責任制限法

送信防止措置とは、ネット上で誹謗中傷やプライバシーを侵害する記事が投稿された場合、プロバイダ等がその記事を削除することをいいます。プロバイダ責任制限法は、申立者に送信防止措置請求権と発信者情報開示請求権を認め、当該情報の流通を止めなかったというプロバイダの責任を認めるとともにその範囲を制限する法律です。

プロバイダ責任の範囲を明確にした本法

かつては、ネット上で権利侵害があった場合の記事削除や発信者情報の開示について明確な法規定がなく、賠償責任の所在も曖昧であり、プロバイダ側も対処に困っていました。

明確な法規定がなかったため、記事削除や発信者情報開示の請求を拒否すれば申立者から、請求に応じれば逆に発信者から訴えられる可能性がありました。プロバイダ責任制限法が制定されたことで、記事削除と発信者情報の開示について一律の基準が設けられました。

この基準を明確化することにより、申立者、発信者及びプロバイダ等それぞれの関係者の利益を尊重しつつ、プロバイダ等による迅速かつ適切な対応を促進して、インターネットの円滑かつ健全な利用を促進しようとするのが、プロバイダ責任制限法の目的となります。

送信防止措置と損害賠償責任

プロバイダ等の賠償責任の免責

プロバイダ責任制限法では、送信防止措置が要請され、当該情報が他人の権利を侵害していることが明らかである場合には、プロバイダは申立者との関係では、「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」(法3条1項2号)に当たるため、損害賠償責任を負わないようにするには、自主的に送信防止措置を講じる必要があります。

また、発信者に対する損害賠償については、原則として免責とはせず、例外的に以下の要件を満たす場合 にのみ、損害賠償義務を免責するとしています。

  • 他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき(法3条2項1号)
  • 権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し、7日以内に反論がない場合(同項2号)

なお同項2号の「反論がない場合」とは、削除に同意しない場合を意味します。

プロバイダ等とは

プロバイダ責任制限法における「プロバイダ等」とはサイト運営者やサーバー運営者であり、「特定電気通信役務提供者」とも言い換えられていますが、「ウェブホスティングを行う者や電子掲示板の管理者など、特定電気通信の用に供される電気通信設備を用いて他人の通信を媒介している者等」と、法第2条において定義されています。

なお、送信防止措置を請求するためには、プロバイダ側に送信防止措置依頼書を送りますが、送信防止措置依頼を行うことができるのは、権利を侵害された本人と、法律事案となるため、弁護士のみです。弁護士法第72条より、法律事案を弁護士以外が仕事として扱うことはできないとされているため、誹謗中傷対策業者等が送信防止措置依頼を代行すると、非弁行為に当たるので注意が必要です。

送信防止措置とプロバイダ

プロバイダは、送信防止措置依頼書一式を受理したら、申請された「権利を侵害する情報」についての審査を行います。ネット上に投稿された情報は、表現の自由によって一定の権利が保障されているため、全てが被害者の希望通りに削除されるわけではありません。プロバイダ責任制限法に基づいて削除が適切かどうかをプロバイダ側が判断し、選別することになります。

したがって、例えば「プライバシー権を侵害するような内容」であるとして送信防止措置が請求されたとき、プロバイダは、当該記事が本当にその申立者のプライバシー権を侵害する内容であるかどうかを検討し、プライバシー権の侵害であると判断できるものであれば、送信防止の措置を講じなければ損害賠償責任を負う可能性があり(法3条1項)、また、当該措置を講じたとしても法3条2項1号に該当し、発信者からの損害賠償責任は負わないことになるわけです。

プロバイダによる意思確認(照会)

請求を受けたプロバイダ側は、原則として発信者に対して「この記事を削除しても良いか」という意思確認(照会)を行います。この意思確認は発信者に郵送等の手段で行われますが、意思確認の期限は7日 (リベンジポルノ被害に該当する場合は2日) となっており、期限内に発信者からの返答がなければ、プロバイダは記事の削除をしても発信者に対して損害賠償の責任を負うことはありません。

発信者が特定できないときはこの意思確認の手続きは取られません。また、発信者側が記事削除に対して反論する、つまり削除に同意しない場合もあります。しかし、プロバイダ責任制限法に規定されている通り「権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」には、プロバイダ側が削除相当と判断して削除したとしても、損害賠償の責任は免除されます。

一方、プライバシー権を侵害する内容であると判断するだけの情報がない場合には、「権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」に該当しないため、発信者からの訴訟リスクを考慮して静観するか、申立者からの訴訟リスクを考慮して送信防止措置を講じるか、いずれかの対応となります。

記事削除の判断

プロバイダ責任制限法により、プロバイダの損害賠償責任が制限されるかどうかは、最終的には裁判所によって決定されます。ある情報が名誉毀損又はプライバシー侵害に該当し、これによって、プロバイダが何らかの作為・不作為の責任を負うか否かについては、情報の内容、情報が掲載された場所の特性、情報に対する発信者、申立者等又はプロバイダの対応の仕方によって異なり、また名誉毀損及びプライバシー侵害の判断基準は社会環境の変化によっても変化するものであることを考慮する必要があります。

したがって、依頼書を送れば必ず削除してもらえるわけではありません。権利侵害にあたるか否かはプロバイダが判断するのですし、そもそもプロバイダ責任制限法では送信防止措置依頼に対応する義務は定められていないのです。

つまり、最終的に記事を削除するか否かの判断はプロバイダに委ねられており、削除に応じてもらえないことも多くあります。

送信防止措置による記事削除

依頼書を送れば必ず削除してもらえるわけではありませんが、権利侵害が明白であれば、又きちんと書類を整えて請求すれば、プロバイダが迅速に記事を削除してくれる可能性が高くなります。一方、権利侵害の判断が難しい場合には、記事を削除してくれる可能性はどうしても低くなってしまいます。

記事削除が認められた場合

本サイトの別記事、下記の事例では、

被告はプロの写真家である原告に無断で、2羽のペンギンが行進している様子を撮影した写真をウェブサイトからダウンロードし、原告画像に存在した原告氏名表示を削除した上で、まず画面右側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をし、次に画面左側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をして、それぞれオンライン・カラオケサービスのアカウントの自己プロフィール画像1と2に設定して使用するために、2回にわたってアップロードしました。

この画像2は、原告の要請を受けたオンライン・カラオケサービスを運営するSmule社が送信防止措置を行ったことにより画像1が利用できなくなったにもかかわらず、さらに改変してアップロードしたものであり、原告は、被告は仮に権利侵害があっても構わないという考えに基づき侵害行為1を行ったものであるから未必的な故意があり、侵害行為2を行うに当たっては確定的故意があり、悪質であるとして、損害賠償を請求したという経緯があります。なぜ、侵害行為2を行ったのか、理由は不明です。

この事例では、著作権侵害に基づく画像利用料相当額(16万2000円)+内容証明郵便費用(2226円)+本件仮処分申立費用(27万円)+保全執行費用(10万8000円)+弁護士費用(7万円)に、著作者人格権侵害に基づく慰謝料(10万円)を加え、合計71万2226円の支払いが、被告に命じられました。(東京地方裁判所2019年5月31日判決)

本事例の場合、著作者人格権侵害という、判断しやすい権利侵害であったため、運営も削除しやすかったかもしれません。

記事削除が認められなかった場合

原告が、Yahoo!ファイナンス掲示板を管理・運営するヤフー株式会社に対し、人格権に基づき、本件サイト上に書き込まれた投稿記事の削除を求めるとともに、ヤフー株式会社が本件投稿記事を削除しないのは不法行為に当たるとして、民法709条に基づき、慰謝料の支払を求めた事例があります。

原告から委任を受けた原告訴訟代理人は、被告に対し、

原告はa社の元常務取締役であるところ、原告について在日朝鮮人である旨の事実と異なる情報が記載されたため、原告の人格権・名誉権等が著しく侵害された

2017年6月22日付け

として、本件投稿記事の送信防止措置を講じるよう求める書面を送付しました。

ヤフー株式会社はこれに対し、

この度ご指摘を頂いた掲示につきましては、社内にて慎重に検討いたしましたが、現在のところ削除等の措置が相当との判断には至っておりません

2017年9月15日付

という内容の書面を送付したので、原告は11月9日に訴訟しました。

原告は日本国籍を有しており、投稿記事には原告の氏名及び出自・国籍について虚偽の事実が記載されていると認められるとした上で、原告の社会的評価が低下したとは言えないとした被告の主張に対し、

裁判所は、

本件投稿記事の問題点は、本件投稿記事によって原告の社会的評価が低下するか否かにあるのではなく、原告の氏名及び出自・国籍について虚偽の事実が摘示されており、これによって氏名及び出自・国籍を第三者に正しく認識してもらうという原告の人格的利益が侵害されていることにある

とし、

ヤフー株式会社は本件のような事案で過去に人格権侵害に基づいて投稿記事の削除を命じた裁判例が存在しなかったことを理由に、本件投稿記事を削除しなかったものと認められるが、 被告は、投稿記事に原告の氏名及び出自・国籍について虚偽の事実が記載されていることを知った時点で、たとえ本件のような事案で過去に人格権侵害に基づいて投稿記事の削除を命じた裁判例が存在しなかったとしても、本件投稿記事を削除する条理上の義務を負っていることを認識することができたというべきである。ところが、被告は本件投稿記事を削除しなかったのであるから、被告がそのように判断したことには過失があったというべきである。したがって、本件投稿記事を削除しなかった被告の行為は民法709条の不法行為に該当する。

仙台地方裁判所2018年7月9日判決

として、添付書類が送付されてから約1週間後の2017年7月1日までに、原告の人格権が侵害されたことを知ることができたと推認されるとして、訴訟の口頭弁論終結日である2018年5月10日までの慰謝料として、1か月あたり1万5000円、合計15万4838円の支払いを、ヤフー株式会社に命じました。

投稿記事を削除すべきであったのに削除しなかった場合には、プロバイダは、申立者に損害賠償をしなければなりません。

まとめ

プロバイダは、「どんな場合でも記事削除は認めない」と頑なな姿勢をとっているわけではありませんし、判断を誤れば、責任を追及されてしまいます。ただ、名誉毀損やプライバシー侵害のように権利侵害の認定が難しい場合、特に「本件のような事案で過去に投稿記事の削除を命じた裁判例は存在しない」と判断するような場合には、プロバイダは投稿記事削除を躊躇することとなります。

プロバイダに対する送信防止措置請求は必ずしも期待通りの結果をもたらすわけではありませんが、有力な手段のひとつといえます。

なお、プロバイダに対して送信防止措置請求を行っても記事が削除されないときには、仮処分を用いて裁判所に記事削除を求めることとなります。こうした判断や手続きは高度に専門的な知識が必要です。ぜひノウハウを有する弁護士に相談すべきでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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