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風評被害対策

投稿者特定の発信者情報開示請求はどういう場合に棄却される?

風評被害対策

投稿者特定の発信者情報開示請求はどういう場合に棄却される?

インターネット上の情報流通によって権利を侵害された人は、発信者情報の開示を請求する権利を有します。

発信者情報開示請求権は救済の観点から有益なものですが、プロバイダ責任制限法では、

「権利が侵害されたことが明らか」であり「開示を受けるべき正当な理由があるとき」のいずれにも該当するときに限り「当該権利の侵害に係る発信者情報」の開示を請求することができる。

プロバイダ責任制限法第4条

と規定されています。

しかし、すべての場合に発信者情報の開示が認められるわけではありません。

本記事では、発信者情報開示請求が棄却されるのはどのようなときであるかについて、実際の判例をふまえて紹介します。

発信者情報開示が認められる要件

プロバイダ責任制限法第4条で要件とされている「権利が侵害されたことが明らか」であるというときの「明らか」とは、権利を侵害されたことが明白であるという趣旨ですが、不法行為の成立を阻却する事由がある場合は認められません。

以下の要件を満たした場合に、発信者情報の開示を行うことが可能とされています。

  • 情報の流通により権利を侵害されたこと
  • 違法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと

名誉毀損における権利侵害の明白性

情報の流通による権利侵害のパターンとしては、

  1. 名誉毀損、プライバシー侵害
  2. 著作権等(著作権及び著作隣接権)侵害
  3. 商標権侵害

が考えられますが、刑法上名誉毀損に対しては

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条

と規定されており、名誉とは、

人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な社会的評価

最高裁判所1997年5月27日

とされていいます。社会的評価を低下させる行為は名誉毀損となりえますが、

当該行為が、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であると証明されたときには違法性がなく、仮に摘示された事実が真実でなくても行為者において真実と信ずるについて相当の理由があるときには故意・過失はなく、不法行為は成立しない。

最高裁判所1966年6月23日

と規定されており、事情によっては不法行為が成立しない場合があります。

名誉毀損について権利侵害の明白性が認められるためには、当該侵害情報により被害者の社会的評価が低下した等の権利侵害に係る客観的事実のほか、

  1. 公共の利害に関する事実に係ること
  2. 目的が専ら公益を図ることにあること
  3. 事実を摘示しての名誉毀損においては、摘示された事実の重要な部分について真実であること、または真実であると信じたことについて相当な理由が存すること
  4. 意見ないし論評の表明による名誉毀損においては、意見ないし論評の基礎となった事実の重要な部分について真実であること、または真実であると信じたことについて相当な理由が存することの各事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと

が必要とされています。

この名誉毀損についての判例は、発信者情報開示請求においても適用され、権利侵害の明白性が認められなければ、発信者情報開示は認められません

権利侵害の明白性が認められなかった例

運送及び配送業を営む原告が、匿名掲示板「爆サイ.com」に投稿された記事によって名誉を毀損されたとして、管理者からIPアドレスとタイムスタンプの開示を受け、経由プロバイダに投稿者の氏名、または名称及び住所に係る情報の開示を求めた事例があります。

具体的な事実適示

原告は、掲示板の「騙され会社に入ったが」「辞められなくなってしまった」というコメントを、「虚偽の労働条件を告げ、従業員を雇用しているという事実を摘示するものである」と主張しました。それに対し裁判所は、「こうした漠然とした表現によって、原告の社会的評価を低下させる具体的な事実摘示があるということはできない」と、事実が適示されていないことを指摘し、「『騙された』といった表現が、日常的には、違法性や法的責任の存在を前提としない軽い意味で用いられることもあることも考慮すれば、これをもって、原告に対する権利侵害が明白であるということはできない」と結論付けました。

また、「年末、年始も仕事、過労死してしまいそう?!誰か助けてください」というコメントについて「労働者に休みを与えず、労働者を過労死させるような苛烈な環境で勤務させているという誤解が生じ、原告の社会的評価を低下させる」と主張したのですが、裁判所は、

原告が労働関係法令に違反し、あるいは、社会的に容認し難いような労働環境を強いていることをいうものではなく、年末年始にも業務を継続しなければならない職場は社会一般に存在するのであるから、そのような職場であること自体、社会的評価を低下させる事実とはいえない。

東京地方裁判所2015年10月14日判決

として、原告の請求を棄却しました。公然と事実を摘示したわけではないので、名誉毀損にはあたらず、情報開示を求める正当な理由はないという判断です。

請求の一部のみ認められた裁判例

原告が、匿名の発信者によるインターネット上のブログ記事により、名誉を棄損され、権利を侵害されたとして、経由プロバイダである被告に対し、発信者情報開示を求めた例があります。

ストーカー行為と示談

2010年頃、原告は、いわゆる風俗店において女性と知り合い、2012年6月頃から翌年1月頃までの間に同女性に対して複数回メールを送信し、勤務先である風俗店付近において待ち伏せをしたことがありました。原告は、その2日後、神奈川県警伊勢崎警察署において事情聴取を受け、女性に二度と近づかない旨の上申書を作成して提出しました。

このストーカー行為に関しブログに投稿された3つの記事について、「名誉を棄損され、権利を侵害された。」として、原告は発信者情報開示を求めました。3つの記事とは、以下のような内容でした。

・記事1
2014年4月20日頃時点において、原告がまだストーカー行為を繰り返しているというもの。

・記事2
2013年12月19日頃時点において、原告が本件ストーカー行為について、警察で任意の取り調べを受けているが、これに対して否認しているという事実を適示したもの。

・記事3
2014年5月2日頃時点において、大阪でストーカー殺人が起きた旨の事実を摘示し、本件発信者がいつか原告が殺しにやって来そうであると思っているとの意見または論評を記載することにより、原告が、同日時点において、未だストーカー行為を継続しているとの事実を摘示したもの。

裁判所は、

原告がストーカー行為を行っている旨の事実を摘示したものであり、ストーカー行為はストーカー行為等の規制等に関する法律により規制され、これを行った者には刑事処分が科せられる場合もあることからして、原告が上記事実を行っている旨を摘示することには公共性が認められる。

東京地方裁判所2016年3月8日判決

として記事2に対する発信者情報開示請求を認めませんでした。

請求が認められた記事

一方で、記事1、3について、

原告が本件ストーカー行為をしたことがたとえ過去の事実としては真実であり、本件示談に守秘義務条項がないことから本件ストーカー行為の存在等を第三者に知らせることが直ちに違法であるとまではいえないことを考慮しても、原告が女性に対するストーカー行為を継続するおそれがなく、ストーカー行為をしたとも認められない状況下において、不特定多数人が閲覧可能であるインターネット上のブログ上に本件記事1及び3を投稿したことについては、公益を図る目的があったと認めることができないとして、本件記事1及び3については、違法性は阻却されないので、本件記事1及び3に係る発信者情報の開示を求める部分は理由がある。

東京地方裁判所2016年3月8日判決

として、発信者情報の開示を命じました。

このように、裁判所は複数の記事がある場合には、記事ごとに厳密に判断するので、請求すればすべてが認められるわけではありません。発信者情報開示請求には、周到な準備が必要となります。

まとめ

発信者情報開示請求は、権利を侵害された者の救済の観点から有益なものですが、発信者情報は発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密とも深く結びついた情報です。開示に際し、慎重な判断が必要となるのは、やむを得ないといえます。

発信者情報開示請求は速やかに行わねばなりませんが、周到な準備が必要となり、素人には困難な手続きです。

発信者の特定に成功すれば、裁判に要した費用等を損害賠償請求できる可能性があります。

このような手続きについては、すみやかに経験豊かな弁護士にご相談下さい。

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