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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

2ちゃんねるにおける転載やリンクと名誉毀損

風評被害対策

2ちゃんねるにおける転載やリンクと名誉毀損

サイトやブログ等に限らず、掲示板においても、他人の投稿記事を転載したり、リンクを貼るということは広く行われています。それは、自分が投稿した記事をより分かりやすくするために必要であったり、自分が良いと思った記事を他の人にも知ってほしかったりというような様々な理由からでしょう。

こうした、軽い気持ちで行っている転載やリンクが、名誉毀損に問われることはあるのでしょうか。

2ちゃんねるは日本最大の匿名掲示板ですが、巨大になるにつれていろいろな人々が参加するようになり、多くの問題が発生しました。

転載やリンクも、2ちゃんねるを場として法廷で争われることとなった問題です。

転載は名誉毀損になるのか

転載が問題となったのは、ネット掲示板や書籍に書かれた中傷記事を2ちゃんねるに転載した匿名の投稿について、転載であっても名誉毀損に当たるかどうかが争われた裁判です。

海外在住の日本人男性が、国際間の違法送金や資金洗浄に関与しているかのように書かれた書籍や投稿記事を2ちゃんねるに転載されたことから、投稿者を特定するため、経由プロバイダを相手取って情報開示を求め提訴しました。

1審の東京地裁は、誹謗中傷の文言を転載した匿名の投稿について、これらは、

既に公開されているインターネット上の掲示板に掲載された記事又は出版された書籍の内容を転載したものに過ぎず、これらの記事の掲載又は書籍の出版以上に原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。
それゆえ、本件各情報が掲載されたことにより、原告の名誉権が明らかに侵害されたと認めることはできない。

東京地方裁判所2013年4月22日判決

として、請求を棄却しました。

要するに、投稿は書籍や元記事を転載したものにすぎず、すでに社会的評価を低下させている書籍や元記事以上に、新たに社会的評価を低下させたわけではないと判断したわけです。

この判断は、到底受け入れることができないものです。

この判断を受け入れたとしたら、ひとたびネット上で社会的評価を低下させる投稿がなされれば、その後にその投稿を転載して被害を拡大させたとしても、転載した者は何も責任を問われることがなくなります。

しかも、ネット上で誹謗中傷を繰り返す者は、多数のスレッドや掲示板に同一内容の投稿を繰り返して、炎上を目論みます。ユーザーはその情報が繰り返し転載されているのを目にすることで、情報の内容が真実であるかのように受け入れてしまい、情報は拡散していきます。

そして、Googleのような検索サイトは、その人に関する情報を検索したとき、その人を誹謗中傷するサイトを上位に表示するようになり、誹謗中傷記事はますます多数の目に触れることとなります。

東京地裁のこの判決は、控訴審で取り消されました。

転載は名誉毀損になる

東京高等裁判所は、転載された記事は社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を摘示するものであると認め、これらの記事は先に別の掲示板に掲載されたものであるか、書籍に掲載されていたものであるとしつつ、

(これらの記事を)ウェブサイト2ちゃんねるで見た者の多くがこれと前後して××の転載元の記事や□□の記事を読んだとは考えられず、ウェブサイト2ちゃんねるに本件情報を投稿した行為は、新たに、より広範に情報を社会に広め、控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる。

東京高等裁判所2013年9月6日

として、発信者情報開示を、経由プロバイダに命じました。

転載しただけでも、名誉毀損になる可能性があります。「新たに、より広範に情報を社会に広め、控訴人の社会的評価をより低下させ」るからです。 軽い気持ちで誹謗中傷記事をコピペして掲示板やSNSに転載したりしないよう、注意しましょう。

リンクとは

リンクとは、英語では「link」で、「鎖」「繋がり」「関連付ける」などの意味です。

Web上でページとページをつなぐ仕組みで、元は「ハイパーリンク(hyperlink)」と呼ばれていましたが、現在ではほとんどの場合リンクと、略して使われています。

リンクを貼ることにより、ダイレクトに他ページへのアクセスを行えますが、リンクは元ページからリンク先ページに対しての「このページを見るといいよ」という推薦投票だとみなされます。だから、検索エンジンはリンクの数や質をリンク先ページの評価に利用していると言われています。

では、誹謗中傷を行い、誰かの名誉を毀損するようなサイトのリンクを貼る行為は、名誉毀損になるのでしょうか。

リンクを貼る行為と名誉毀損

投稿にリンクを貼ることによる名誉毀損とは?

日本最大の匿名掲示板である2ちゃんねるでは、投稿が名誉毀損だとして争われることが多いのですが、名誉毀損的なサイトにリンクを貼ることが名誉毀損になるのか否かの争いの多くも、2ちゃんねるを舞台として行われてきました。

リンクを貼る行為で名誉毀損以外の罪が問われた判例としては、2012年7月9日の最高裁決定があり、児童ポルノサイトへのリンクを貼った行為について、児童ポルノ公然陳列罪の成立が認められています。

既に第三者によって公然陳列されている児童ポルノの所在場所を情報として示すことも、「公然と陳列した」に含まれるとされたわけです。

では、名誉毀損についてはどうなのでしょうか。第三者による名誉毀損に該当する投稿の所在場所を情報として示すことも、名誉毀損に該当するのでしょうか。

これについては、「対象者のリンクを貼ったことが一般読者に記事の存在を知らしめ、その閲覧を教唆したもので、対象者の社会的評価を低下させるものである」という主張に対し、「リンクを貼ったことをもって、ただちに原告らの社会的評価を低下させるとはいえない」(東京地方裁判所2010年6月30日判決)と判断されてきました。

これは、リンクというものについて、リンク先を訪れるか否かの選択は、個々のユーザーにより異なるという判断がもとになっています。

リンクを貼る行為は名誉毀損になるのか

2011年1月に、2ちゃんねる内に「P大学」というスレッドが立ち記事1が掲載され、24日には「A(R寺に勤める僧侶)のセクハラ」というスレッドが立ち記事2が掲載され、各記事には同じ2ちゃんねる内の「A(浄土宗 千葉教区の僧侶)」へのリンクが設定されており、記事1,2中のリンクをクリックすると、記事3が表示されるようになっており、記事3には、原告がP大学の学生時代にクラブの女子学生に対してセクハラを行ったと書いてありました。

原告は各記事の発信者に対して損害賠償などを求めるため発信者情報開示を請求し、経由プロバイダが拒否したため、裁判を提起したのですが、1審の東京地方裁判所は原告の請求を棄却しました。1審は、

原告は、本件各記事が原告の社会的評価を低下させる文書への到達を容易にする点においても、原告の社会的評価を低下させる旨主張する。本件各記事には本件記事3へのハイパーリンクが設定されているところ、本件記事3は原告の社会的評価を低下させる記事ということができるから、本件各記事は原告の社会的評価を低下させる文書への到達を容易にするということができる。
しかし、本件各記事が本件記事3への到達を容易にするものであるとしても、本件各記事自体原告の社会的評価を低下させると評価することはできない。

東京地方裁判所2011年12月19日判決

とし、発信者情報開示請求を認めませんでした。

つまり、名誉毀損的な表現を含む記事への「到達を容易にする」ことは認めたわけですが、記事3を記事1と2の内容とすることはできず、それぞれの記事単独では原告の社会的評価を低下させるものではないとしたのです。

リンクを貼る行為が名誉毀損になる場合

これに対し、控訴審判決では、1審とは異なる判断が示されました。

東京高裁は、記事1と2は、そして記事3も、それ自体では名誉を毀損しているわけではないが、3つの記事を併せて読めば、原告がP大学の学生時代にセクハラを行ったとの印象を与える内容になっているとし、

本件各記事が社会通念上許される限度を超える名誉毀損又は侮辱行為であるか否かを判断するためには、本件各記事のみならず本件各記事を書き込んだ経緯等も考慮する必要がある。本件各記事にはハイパーリンクが設定表示されていてリンク先の具体的で詳細な記事の内容を見ることができる仕組みになっているのであるから、本件各記事を見る者がハイパーリンクをクリックして本件記事3を読むに至るであろうことは容易に想像できる。そして、本件各記事を書き込んだ者は、意図的に本件記事3に移行できるようにハイパーリンクを設定表示しているのであるから、本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる。

東京高等裁判所2012年4月18日判決

として、控訴人が記事3のようなセクハラを行ったことを認めるに足りる証拠はないとし、違法性阻却理由はないとした上で、名誉毀損を認めました。また、

確かに,ハイパーリンク先を訪れるか否かは個々人によって異なることは、被控訴人が主張するとおりである。しかし、前記のとおり、ハイパーリンクが設定表示されている本件各記事を見る者がハイパーリンク先の記事を見る可能性があることは容易に想像できるのであり、ハイパーリンク先を訪れるか否かの選択が個々人によって異なるという理由だけで、ハイパーリンク先の記事を併せ読むことが一般的ではないということにはならない。

同上

として、記事1と2の「リンクによる名誉毀損」を認め、各記事について発信者情報の開示を命じました。

この判決は、リンクを設定しているスレッドの記事とリンク先のスレッドの記事の内容を併せて把握し、判断の対象とできるということを初めて判示したものです。

リンクを貼る行為が名誉毀損となる場合があるということも示されましたが、この判決は、投稿記事に興味を持つネットユーザーの通常予想される行動、リンクをたどって様々な情報にアクセスするという行動と、その意図的な利用による名誉毀損の現代的な形に対する法のあり方として、合理的で妥当なものと考えられます。

プロバイダ責任制限法検証に関する提言

2011年6月、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」は、「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」をまとめています。

この中で、すでに、「情報の流通それ自体は違法とはいえないものの、当該情報と関連性が認められる情報の流通により他人の権利を侵害している場合についても、プロバイダ責任制限法の対象とすべきとの主張がある」とし、「貼付されたリンク情報それ自体は違法ではないといえるものの、リンク先の情報が他人の権利を害するような場合に、リンク情報それ自体を送信防止措置の対象とすべきかが問題となりうる」とされています。 提言では、

他人の権利を侵害しているリンク先の情報の流通行為とリンク情報の流通行為とが関連共同性を有する一体のものと評価される場合には、リンク情報の流通がリンク先の権利侵害行為との間で(広義の)共同不法行為と評価されうることから、送信防止措置の対象となる可能性がある一方、そのように評価できない場合には、送信防止措置の対象とはならない可能性が高いと考えられる。

とされています。この中の「関連共同性を有する一体のものと評価される場合」とは、先の東京高裁判決中の「記事に取り込んでいる」とほぼ同一だと考えられますが、これが成立しているかどうかを判断するのは、けして容易ではないように思われます。

今後、どのような判例が蓄積されていくか、注目する必要があるでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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