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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

LINEやTwitterのDM、メール等で名誉毀損は成立する?送信者特定の請求の可否

風評被害対策

LINEやTwitterDMの発信者情報開示、電子メールの送信者特定について

インターネット上の誹謗中傷・風評被害の典型は、「匿名掲示板で名誉権侵害(名誉毀損)に該当するような投稿を行われた」といったものだと思われます。こうした投稿に関しては、削除を求めたり、その投稿者の特定を求めたりすることが可能です。

では、匿名掲示板などのウェブ上ではなく、電子メール(以下eメール)やLINE、TwitterのDM等で悪意のあるメッセージを送られた場合、名誉毀損であるとして、その送信者を特定することはできるのでしょうか。

結論から先に書くと、これは一般論として、困難です。その理由は大きく2点あります。

  • そもそも、そのeメール(LINE、TwitterのDM等)を送信することは、原則「名誉毀損」に当たらない
  • 例外的に名誉毀損に当たるとしても、LINEやTwitterのDMの発信者の開示を請求する権利があるのか

これらの問題に加えて、どういったケースであれば犯人特定が可能なのかを解説します。

eメール等の送信は「違法」か

名誉権侵害には「公然性」が必要

名誉権侵害(名誉毀損)の成立には、「公然と」事実を摘示することが必要です。

そしてここでの問題は、「公然」です。「公然」とは、「不特定多数に対する」という意味であり、そしてこの「不特定多数」とは「不特定 or 多数」です。「不特定」か「多数」か、少なくとも片方が充足されれば良いわけです。「不特定」というのは、例えば、同じクラス内の同級生などは「特定」で、繁華街の通行人は「不特定」だ、というような意味です。「多数」は、明確な線はありませんが、数十人程度であれば「多数」と考えられています。だから「同じクラス内の同級生全員」は「特定多数」であり、「不特定 or 多数」の片方を満たすから、「不特定多数」に街頭します。

しかし、「誰かにeメール(LINE、TwitterのDM等)を送った」という場合、それは「特定少数」への事実の摘示に過ぎず、「不特定多数」という条件を満たさない可能性があります。

伝播性の理論とは

ただし、一応、上記には例外があります。仮に一人に対して伝えただけであっても、その一人が不特定多数に対して「伝搬」させる可能性があれば、不特定多数への摘示と同一視できる、という例外です。例えば、新聞記者に対してデマを話したケースを想定してください。新聞記者が記事にすることは当然予定されており、新聞記事になれば不特定多数がその「デマ」を読むことになります。「お咎めなし」というのは、ちょっと問題でしょう。こうしたケースに対応するため、「伝搬性の理論」などと呼ばれる、上記のような「例外」が認められているのです。

とはいえ、多くの場合、メールやLINE、TwitterのDMを受信した人は、必ずしも他の人にそれを言いふらさないでしょう。「伝播性の理論」が成立するのは、あくまで例外的なケースに限られます。

名誉権以外の権利の侵害が成立する可能性も

「名誉権」以外の場合は、それぞれの権利特有の議論になるのですが、少なくとも、名誉権を主張すべきケースでは、上記のような問題が生じます。そして実務感覚として、インターネット上の風評被害対策で主張する権利は、過半数のケースで名誉権です。その名誉権が使えないとなると、権利侵害を主張するのも一苦労なのです。

直感に反しますが、悪意のあるeメールについて「違法である」と主張するのは
必ずしも容易ではありません。

発信者情報開示請求権の限界

そして、名誉権やその他の権利の侵害が認められるとしても、もう一つの問題があります。

弁護士による発信者情報開示請求、つまり「誹謗中傷を行った人間のIPアドレスや住所などの情報を開示せよ」という請求は、プロバイダ責任制限法の規定に基づくものです。少し分かりにくいですが、風評被害の発生時に犯人特定を求める権利は、「民法などの基本的な法律によって当然に認められている権利」ではありません。プロバイダ責任制限法によってはじめて「創設」された権利なのです。

そして、プロバイダ責任制限法上の発信者情報開示請求権とは、概ね、以下のような内容です。

「特定電気通信役務提供者」は、権利侵害のあった場合には、投稿者について保有している情報を開示せよ

問題は、「特定電気通信役務提供者」です。これは、「プロバイダ責任制限法」という時の「プロバイダ」の、法律上の言い回しです。そしてこれは厳密に言うと「不特定多数に対する通信を媒介している者」という意味です。

メールサーバーは「特定電気通信役務提供者」か

つまり、ウェブサイトの場合、あるサイトは「不特定多数」に対して公開されているから、サーバー管理者は「不特定多数に対する通信を媒介している者」であり、「特定電気通信役務提供者」に該当します。しかし一方、eメールの場合、それは「特定のある一人」に対する通信です。したがってメールサーバーは「特定少数に対する通信を媒介している者」であり、「特定電気通信役務提供者」には該当しないのです。

だから、仮に名誉毀損に該当するメールが送られてきたとしても、メールサーバーに対して発信者情報開示請求を行うことはできないことになります。

民事での犯人特定は困難

これは、基本的には「現在の法制度の限界」という問題です。「権利侵害であり、民事的に違法な行為が行われているにも関わらず、その犯人を知っている者(メールサーバー管理者など)に対し、犯人が誰かという情報を開示させる手段が用意されていない」という問題状況なのです。今後の法改正で問題が解決される可能性はありますし、また、その必要が高いとは思うのですが、現行法上、この問題は解決されていない、ということになります。

刑事事件であれば犯人特定は可能

もっとも、以上は、あくまで民事レベルの話で、刑事事件として警察が動いた場合は話が別です。警察は「プロバイダ責任制限法の発信者情報開示請求権」ではなく、刑事事件に関する捜査権としてプロバイダに対して情報開示を求めることができます。したがって「メールサーバーは特定電気通信役務提供者に該当するか」という話と無関係に、IPアドレスなどの開示をなし得ることができます

eメール等の送信が「犯罪」に該当することは必要

ただ、警察は、「刑事事件」でなければ動いてくれません。上記のように、電子メールの送信は、原則的に「名誉毀損」には該当しません。そして、インターネット上の風評被害対策において、名誉権の次に多く主張されるのはプライバシー侵害ですが、プライバシー侵害は、犯罪ではありません。「プライバシー侵害罪」といった犯罪は存在しないからです。

したがって結局、

  • 名誉権侵害:一人(や特定少数)にしか送られていない以上、成立しないケースが多い
  • プライバシー侵害:そもそも犯罪ではない

となり、業務妨害や脅迫など、別の「犯罪」の成立を検討しなければいけなくなります。

警察への被害届の提出や告訴

業務妨害や脅迫など、犯罪が成立する場合は、警察に対し、

  • いわゆる非親告罪であれば被害届提出
  • 親告罪であれば告訴

を行えば、警察が捜査を行い、上述のように警察による犯人特定がなされる見込はあります。

ただ、よく言われる話ではありますが、警察は、被害を訴えても、必ずしも積極的に捜査を行ってくれません。この理由は複数あり得ますが、例えば、「そもそもどういう事件であり、どのような捜査を行えば犯人特定に至ることが出来るのか」を、被害者が警察に上手く説明できず、警察側も技術的知識の乏しさなどで理解できていない、というケースもあります。そうした場合は、ITに強い弁護士に依頼し、弁護士と共に被害届の提出や告訴を行うことで、警察による捜査を促すことができる場合もあります。

小まとめ:違法なeメール等と犯人特定手段

以上より、悪意に満ちた、違法と言いたい電子メールやLINE、TwitterのDMなどの通信と犯人特定は、大きく、以下のような形となります。

不特定多数相手であれば名誉毀損と言える内容

「名誉毀損(名誉権侵害)」が「公然と」を必要とする以上、そもそも民事的にも刑事的にも違法でなく、いかなる意味でも犯人特定を行うことはできない

プライバシー侵害など

民事的に違法であり、犯人が誰か分かれば損害賠償請求などの問題になる。しかし、一対一の通信である以上、民事的に犯人を特定するための方法がない。これは基本的に法制度の不十分さによるもの。

プライバシー侵害は「犯罪」ではなく、警察が犯人特定を行ってくれる見込みはない

業務妨害や脅迫など

犯罪であり、警察が捜査をしてくれれば犯人を特定できる可能性がある

民事的にも違法だが、一対一の通信であり、民事的に犯人を特定するための方法がないのは上記と同様。

弁護士会照会による送信者特定ができる可能性も

ただし、上述の「まとめ」に対する例外、いわば「最後の手段」として、民事レベルで、「発信者情報開示請求権」ではなく、いわゆる「弁護士会照会(23条照会)」を用いてIPアドレス開示などの犯人特定を求める手はあります。

弁護士会照会は、論理的には、

  • 犯人が分かれば損害賠償請求が可能なのに
  • 犯人が誰か分からない

というケースで用いることが可能なため、例えば、

  • eメールが送られた事で脅迫の被害を受け、損害賠償請求を行いたいが
  • 誰が当該eメールを送ったのか分からない

といった場面でも利用可能です。もっとも、この照会に対し、eメール等のサーバーが情報を開示してくれるか否かは、また別の問題ではあります。

まとめ

LINEやTwitterのDMやeメールの送信に伴う名誉毀損は原則認められていません。さらに発信者情報開示も認められにくいのが現状です。

ただし、Twitterのリプライ欄やメーリングリストなど、「不特定多数」が目にする可能性の高い場所であれば名誉毀損の成立する余地は大いにあります。

当事務所はIT領域における誹謗中傷訴訟に関する専門的知識を多く保有しております。またIT系の誹謗中傷は放置しておくと看過できないほど拡大することもしばしば。早めに手を打つことが必要です。お悩みの際はぜひ気軽にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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