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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

病気情報をネットで公開されたらプライバシー侵害と言えるか

風評被害対策

病気情報をネットで公開されたらプライバシー侵害と言えるか

『宴のあと』事件の判決文において東京地方裁判所(1964年9月28日)は、「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」であるとしてプライバシー権を認容しました。これが、プライバシー権を認めた初めての裁判例です。この判決文において東京地方裁判所は、プライバシー権の侵害を満たす4要件を、

  1. 私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
  2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること
  3. 一般の人々に未だ知られていない事柄であること
  4. 公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと

としました。

個人の病気に関する情報はプライバシーに関する情報であり、極めてセンシティブな情報です。上の要件の全てを満たし、特に4番目の要件にある「公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと」に強く合致するので、本人の承諾なく他人の病気に関する情報を公開したり、利用したりすることは、法的な問題が生じる可能性が極めて高いといえます。

癌の闘病ブログの場合

個人の病気に関する情報の公開はプライバシーの侵害として問題とされます。

当サイトの別記事でもご紹介しましたが、若年性乳がんの闘病記録であるブログを匿名で運営していた女性が、被告の投稿により氏名、年齢、勤務先学校等を特定され、若年性乳がんに罹患していた事実を一般の人に知られてしまい、プライバシーを侵害されたとして提訴した事例があります。

東京地方裁判所は2014年6月、「被告による本件投稿は、軽率かつ悪質なものであったといわざるを得」ず、「プライバシー情報は、一度インターネット上に流出すると、それを全て削除することは、事実上不可能に近いといわざるを得ないことを併せ考慮すれば、被告の行為による結果は重大なものといわざるを得ない」として、プライバシー権が侵害されたと認定し、慰謝料120万円及び弁護士費用12万円の合計132万円の支払いを、被告に命じました。

HIV感染による解雇の場合

HIV感染という病気情報を、本人の承諾なく開示したことが、プライバシー侵害と認定された事例があります。

Aは、X株式会社との間で、X社の現地法人であるY株式会社への派遣を内容とする雇用契約を締結し、タイへ渡航しました。その直後、Y社の指示により就労ビザを取得するため、現地病院で健康診断を受けたところ、医師がAに無断でHIV抗体検査を行い、陽性であることをY社代表取締役のBに知らせました。BがX社に報告したことからX社はAに帰国命令を出し、帰国すると代表取締役がAにHIVに感染していることを告げ、感染を理由としてAを解雇しました。
これに対し、AはX社に対して解雇無効、地位の確認、Y社ないしBに対してプライバシーの侵害等を主張し、訴訟を提起しました。

東京地方裁判所は、「使用者といえども被用者のプライバシーに属する事柄についてはこれを侵すことは許されず、同様に、被用者のプライバシーに属する情報を得た場合にあっても、これを保持する義務を負い、これをみだりに第三者に漏洩することはプライバシーの権利の侵害として違法となると言うべきである」として、BがX社に連絡し、X社代表取締役が本人に告知したことを、

個人の病状に関する情報は、プライバシーに属する事柄であって、とりわけ本件で争点となっているHIV感染に関する情報は、前述したHIV感染者に対する社会的偏見と差別の存在することを考慮すると、極めて秘密性の高い情報に属すると言うべきであり、この情報の取得者は、何人といえどもこれを第三者にみだりに漏洩することは許されず、これをみだりに第三者に漏洩した場合にはプライバシーの権利を侵害したことになると言うべきである。

東京地方裁判所1995年3月30日判決

として、地位確認と休業損害、またX社に300万円、Y社とBに300万円の慰謝料の支払いを命じました。

B型肝炎による不採用の場合

B型肝炎ウィルス感染検査を本人の承諾なく取得して利用したことが、プライバシー侵害と認定された事例があります。

大学の卒業予定者Aが金融機関の採用試験に合格し、健康診断を受けた際に、会社の指示により血液検査を受け、B型肝炎ウィルス検査を受けたところ、陽性であることが判明しました。しかし、Aはこの結果を知らされることなくさらに精密検査を受け、慢性の活動性肝炎であることが判明し、結局不採用となりました。Aは、本人に説明することなく、同意を得ないでウィルス検査、精密検査を行ったことによりプライバシー権が侵害されたとして、金融機関を提訴しました。

東京地方裁判所は、

(問題が発生した)平成9年当時、B型肝炎ウィルスの感染経路や労働能力との関係について、社会的な誤解や偏見が存在し、特に求職や就労の機会に感染者に対する誤った対応が行われることがあったことが認められるところ、このような状況下では、B型肝炎ウィルスが血液中に常在するキャリアであることは、他人にみだりに知られたくない情報であるというべきであるから、本人の同意なしにその情報を取得されない権利は、プライバシー権として保護されるべきであるということができる。

東京地方裁判所2003年6月20日判決

として、Aに説明することなく、同意を得ずにウィルス検査、精密検査を行ったことがプライバシー権の侵害であることを認め、慰謝料150万円を認めました。

B型肝炎ウィルス感染がプライバシーにあたること、採用時に血液検査や精密検査等を実施することは、その必要性があり、受験者に目的や必要性を説明し、同意を得たうえでなければ違法であることが示されました。

HIV感染による就労制限の場合

病院勤務の看護師が、大学病院における血液検査の結果、HIV陽性と診断されました。これを大学病院の医師から知らされた勤務先病院の医師及び職員が本人の同意なく、他の職員らに伝達して情報を共有したのはプライバシー侵害の不法行為であり、また、病院がHIV感染を理由に就労制限したのは、働く権利を侵害する不法行為であるとして、損害賠償を求めた事例があります。

福岡地方裁判所は、

本件情報は、HIV感染者に対する偏見・差別がなお存在していた状況の下においては、個人に係る医療情報の中でも特にプライバシー保護の観点からは重大な内容であった上、本件情報が目的外に利用された相手方は、原告の上司を含む、勤務先において責任者の立場にある者であって、原告としては今後の勤務を継続する上で特に秘しておきたい立場にある者であったと考えられる。そして、これらの者に本件情報が伝えられたことにより、原告が少なくとも本件病院における勤務の継続に精神的苦痛を感じ、また、本件面談における就労制限によっても精神的苦痛を感じたことが認められる。

福岡地方裁判所2014年8月8日判決

としてプライバシー侵害を認定し、慰謝料200万円を認めました。

HIV感染医療従事者が患者に感染させたという報告は、当時においても世界中でわずか数例であり、看護師に限れば1件であり、他の患者に感染させる危険性が一定程度あったとまでは認められず、適切な予防措置を講じることによって大多数の医療行為で感染の危険をなくすことができるという見解も、すでに示されていたのです。また、就労制限についても、「被用者が労働契約に基づいて働くことは義務であるとともに権利でもあ」り、「被用者が勤務を休むことについては、その自由な意思に基づくものでなければならず、雇用者がこれを妨げ、被用者に対して勤務を休むように指示するなどして勤務を休むことを強いることは不法行為」であると判示しました。

認知症の高齢文化人の場合

病気情報は秘密性が高い情報であるために、プライバシー侵害と名誉毀損で提訴される事例もあります。

90代の映画監督の男性と家族が、介護されている様子を訪問ヘルパーにブログで紹介され、家の中を徘徊しているなどと揶揄されたとして、ヘルパー女性と訪問介護会社に対し、プライバシー侵害と名誉毀損による損害賠償を求めて提訴した事例があります。

訪問介護会社は平成2013年5月から6月にかけて映画監督宅にヘルパーを派遣し、ヘルパーは同年6月に自分のブログに男性の実名を載せ、自分で歯を磨けず、自宅内をうろついているなどと身の回りを介護する様子を細かく書き、「大活躍していた○○も認知症が進み、かつての威厳、栄光も今や形無し」と嘲笑しました。女性は3回派遣されただけで「このヘルパーには任せられない」と契約を解除されたのですが、その後、ブログを目にした一般読者が、女性を雇用していた訪問介護会社の所在地の自治体に通報し、自治体は会社に対応を求めました。会社はすでに「指導に従わない」として女性を解雇しており、ブログの存在も知らなかったので、慌てて女性に書き込みの削除を命じましたが、1週間後、女性はブログを更新し、さらに悪態を連ねました。

映画監督本人と親族は「ホームヘルパーという職業でしか知り得ない病状や家庭内の様子に作り話を加えて不特定多数に公開し、売名と自己顕示のためにプライバシーを侵害し、名誉を傷付けた」として女性と、「従業員に秘密漏洩をさせない義務に違反した」として女性を雇用していた訪問介護会社に損害賠償を求めました。

東京地方裁判所は、

6月記事は、原告が認知症に罹患していること、歯磨きや服の着替え等日常生活の動作を1人でこなすことができないこと、服薬の理由がわからなくなっていること、部屋を歩き回っていることなど、認知症を患っている原告の自宅における日常の様子を公開するものであって、その内容は、原告の私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるもので、かつ、一般人の感受性を基準とすれば、かかる事項は秘匿し,公開を欲しないであろうと認められるものであるといえる。

東京地方裁判所2015年9月4日判決

としてプライバシー侵害を認め、さらに、「6月記事及び9月記事の掲載は、原告のプライバシーを公開し、社会的評価を低下させる行為であり、これにより原告は精神的苦痛を被ったと認められる(このことは,原告が成年被後見人であっても否定されない)」として、名誉毀損も認め、女性に150万円の支払いを命じました。

また、訪問介護事業者については、会社はその従業員の選任及び監督にあたっては、利用者のプライバシーや名誉を侵害することがないよう従業員を十分に指導監督する必要があるのに、この女性に関してはこの点について何らの注意も払われておらず債務不履行責任を負うとして、雇用中の6月記事について100万円、契約解除後の9月記事について30万円、合計130万円の支払いを命じました。

まとめ

病気情報は秘密性が高い情報であるとともに、損害の内容が精神的苦痛にとどまらず、雇用における採用拒否や就労制限等による損害をもたらす場合も多いので、より被害が深刻となり、そのため慰謝料が高額となる傾向があります。病気に関する情報を公開されたり、利用されたりした場合には、速やかにご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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