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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

2ちゃんねるにおける偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪

風評被害対策

2ちゃんねるにおける偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪

2ちゃんねるは日本最大の匿名電子掲示板ですが、巨大になるにつれ、いろいろな人が投稿をするようになり、誹謗中傷性の強いスレッドや投稿が多く集まる掲示板となりました。

脅迫や犯罪予告の投稿も多く、様々な罪状で逮捕・書類送検が後を絶ちません。

2ちゃんねるに不用意な投稿をしてしまうと、いろいろな罪に問われる可能性がありますが、ここでは2ちゃんねるへの投稿で問われた犯罪のうち、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪について、例をあげながら、解説します。

軽犯罪と業務妨害罪

犯罪がないのにあったかのように警察に通報する。火災がないのにあったかのように消防署に通報する。コンサートを妨害すると主催者に通報する。それらは、かつては軽犯罪として扱われ、処理されてきました。

軽犯罪法は、軽微な秩序違反の行為に対して拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料の刑(1000円以上1万円未満の金銭徴収)を定める法律であり、条文に規定される33の行為のどれか一つを行った場合を罪としています。

軽犯罪法の第1条には、

「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する」

軽犯罪法の第1条

とあり、「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」(1条16号)や、「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」(1条31号)など33の行為があげられています。かつては、この軽犯罪法を用いて虚偽の通報をした者に対応してきました。

しかし、最近ではそれらを刑法上の犯罪である業務妨害罪に当たるものとして扱い、対応する傾向となっています。「犯罪がないのにあったかのように警察に通報する」行為は、軽犯罪ではなく、より厳しい罰則を科す業務妨害罪(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)として扱われるようになっています。

警察に対する業務妨害罪

こうした厳罰化の背景には、テロの世界的進行とそれに伴う警備の強化・拡大があります。大勢が集まる駅などに爆弾を仕掛けるという虚偽の通報があった場合、警察は大々的な警備態勢を敷かねばなりません。鉄道会社もその警備への協力を要請され、ゴミ箱を確認したり、改札口を一時閉鎖したり、業務に大きな支障が生じます。この場合、鉄道会社の業務を脅迫によって妨害したとして威力業務妨害罪が成立する可能性はあります。

また、警察に対して、公務を妨害したということで、公務執行妨害罪に当たるようにも思えます。しかし、その場合でも、公務執行を“妨害”したと言えるのでしょうか。通報が嘘であった場合、警察からすれば無駄骨を折らされたことになりますが、嘘の通報による警備活動も警備活動であり、それを妨害してはいません。虚偽による公務執行妨害罪は成立しないと言えそうです

警察に対する偽計業務妨害罪

では警察に対する偽計業務妨害罪は成立するのでしょうか。掲示板への虚偽の犯罪予告の投稿が軽犯罪法1条31号違反なのか、警察への偽計業務妨害罪なのかを争った裁判があります。

2008年7月26日に「今日から1週間以内に土浦駅で無差別殺人を実行する」という投稿が掲示板になされ、土浦警察は翌27日午前7時頃から28日午後7時頃までの間、警察官8名を出動させました。

1審では警察に対する偽計業務妨害罪が成立するとされたのですが、弁護側は軽犯罪法1条31号の「悪戯など」にとどまるものである、として控訴しました。

これに対し、2審は控訴を棄却しました。以下、判旨を見ていきましょう。

「犯罪予告の虚偽通報」に対して 、

「警察においては、直ちにその虚偽であることを看破できない限り、これに対応する徒労の出動・警戒を余儀なくさせられる」として、「虚偽通報さえなければ遂行されたはずの本来の警察の公務(業務)が妨害される(遂行が困難ならしめられる)」

東京高等裁判所2009年3月12日判決)

としました。 また、今回の書込みについて「重大な犯罪の予告」と評価し、

「警察に通報され、警察が相応の対応を余儀なくされることが予見できることなどに照らして、被告人の本件行為は、その違法性が高く、悪戯などではなく偽計」

東京高等裁判所2009年3月12日判決)

であるとして、偽計業務妨害罪を認めました。

偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪

成立範囲が非常に広い犯罪である偽計業務妨害罪は、刑法第233条で規定されています。

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第233条

「虚偽の風説を流布し」て「人の信用を毀損し」た者が信用毀損罪に該当し、「偽計を用いて」「その業務を妨害した者」が、偽計業務妨害罪に該当します。

威力業務妨害罪は、刑法第234条で規定されています。

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

刑法第234条

つまり、「威力を用いて」「業務を」「妨害」という、3つの構成要件から成る犯罪です。 偽計業務妨害と威力業務妨害については下記記事で詳しく解説しています。 

2ちゃんねるへの投稿における偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪

2ちゃんねるへの投稿により業務妨害罪で立件される事例が増加しています。何が“偽計”か“威力”かの判断は難しいのですが、偽計業務妨害罪は間接的、無形的な方法で人の業務を妨害する行為で、威力業務妨害罪は直接的、有形的な方法で人の業務を妨害する行為とされています。わかりやすく言えば、相手を騙したり錯誤に乗じる行為が偽計であり、相手の意思を制圧する行為が威力です。

しかし、実際の境界線は不鮮明です

2ちゃんねるへの投稿が事件になった最近の事例のうち、威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪で逮捕・書類送検されたものをもとにして、この2つの罪を明確に区別できるかどうかを検討してみます。

殺害・脅迫予告の投稿が業務妨害罪になるケースが増加しています。

例1)
2ちゃんねるに「中京大中京高を爆破する」などと複数回投稿し、警察の業務を妨害したとして、愛知県警昭和署は2017年8月、威力業務妨害容疑で名古屋市名東区の無職の男(25)を逮捕しました。昭和署は、部活動などで名古屋市昭和区の校内にいた約20人を下校させて約2時間調べましたが、不審物は見つかりませんでした。

→威力業務妨害罪

例2)
2017年7月、2ちゃんねるに自身の携帯電話から「明日上坂すみれを殺すわ」「上坂すみれを絶対ぶっ殺す」などと投稿し、声優の上坂すみれさんの事務所にイベント会場周辺の警備にあたらせるなどさせ、事務所の業務を妨害したとして、警視庁赤坂署は威力業務妨害の容疑で、山形県鶴岡市日和田町の高専生(20)を逮捕しました。

→威力業務妨害罪

例3)
2チャンネルに「渋谷駅で無差別爆破テロを起こす」というタイトルのスレッドを立て、駅の業務を妨害したとして、2017年6月、茨城県常陸太田市の無職の男(20)が偽計業務妨害罪で逮捕されました。渋谷駅から不審物は見つからず、「ただの悪戯」であることが判明しました。

→偽計業務妨害罪

例4)
自宅パソコンから2ちゃんねるに、「安倍晋三記念小学校を爆破する」などと投稿して大阪府警豊中南署に威力業務妨害の疑いで書類送検されていた非常勤講師の男(42)を免職処分にしたと、2017年3月、発表しました。

威力業務妨害罪

例5)
2ちゃんねるに、『【速報】北九州市立小学校の6年担任、教え子の11歳女児を妊娠させ懲戒免職』という投稿をしたとして、福岡県警は2016年3月、東京都立川市の派遣社員の男(27)を、嘘の投稿をしたことにより北九州市教育委員会の業務を妨害したとして、偽計業務妨害で書類送検しました。

偽計業務妨害罪

例6)
声優の三森すずこさんに対し、2ちゃんねるに「事務所押し入ってぶち殺す」と投稿した専門学校生(22)が、2015年8月、威力業務妨害の疑いで逮捕されました。「自分が好きな声優を三森さんのファンがけなしたので腹が立った」と供述し、容疑を認めました。

威力業務妨害罪

例7)
2ちゃんねるに「佳子を韓国人の手で韓国人の男に逆らえないようにしてやる ICUには同志の仲間がたくさんいるからな」等の脅迫及び犯罪予告の投稿がありました。これに対し、皇宮警察の業務を妨害したとして、偽計業務妨害の疑いで、無職の男(43)が2015年5月に逮捕されました。 威力業務妨害罪

偽計業務妨害罪

例8)
2ちゃんねるに、「俺のこと嫌いなやつ全員殺します」との題名でスレッドを作成し、「友部駅に来てください 包丁用意してあります 本気です」などと投稿し、駅周辺の警戒強化など警察の業務を妨害したとして、茨木県警笠間署と県警捜査1課は、2014年9月、笠間市の無職少年(19)を偽計業務妨害容疑で逮捕しました。

偽計業務妨害罪

例9)
スプリンターズステークス(G1)の開催3日前に、2ちゃんねるに「中山を爆破して死人をたくさん出してやります」などと投稿して、中山競馬場の業務を妨害した疑いで、無職の男(32)が、2013年2月に威力業務妨害の疑いで逮捕されました。

威力業務妨害罪

例10)
プロ野球パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)期間中、2ちゃんねるに西武ドームと札幌ドームの爆破予告を投稿したとして、埼玉県警と北海道警は2013年2月、神奈川県茅ケ崎市の無職の男(26)を、球場の運営を妨害した威力業務妨害容疑でそれぞれ書類送検しました。

→威力業務妨害罪

このように、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の区別はかなり曖昧で難しいのが現状です。

業務妨害罪は親告罪ではない

最後に大切なことを指摘しておきます。ネットにおける誹謗中傷で最も知られているのは、名誉毀損罪です。ネットで誹謗中傷をすると名誉毀損罪に問われ、業務妨害罪が同時に成立することもよくあります

この名誉毀損罪とは異なり、業務妨害罪は親告罪ではありません。

名誉毀損罪は親告罪なので、被害者が刑事告訴しない限り、逮捕されたりすることはありません。しかし、業務妨害罪は偽計業務妨害罪も威力業務妨害罪も非親告罪なので、刑事告訴をする人がいなくても、逮捕され、起訴される可能性があるのです。

ここで誤解する人が多いのですが、非親告罪でも被害者からの告訴は可能です。非親告罪の業務妨害罪でも、被害者は犯人を告訴することができ、被害者の刑事告訴があると被疑者の情状は悪くなり、処罰が重くなる可能性があります。

まとめ

もし投稿で業務妨害されたと思ったら、弁護士に相談し、警察に被害届や告訴状を提出するとよいでしょう。被害届を受理したら、警察は捜査を進め、被疑者を逮捕したり送検したりしてくれます。 2ちゃんねるなどに万一、業務妨害罪が成立するような投稿をしてしまったら、速やかに弁護士に相談するべきです。初犯で社会に与えた影響がそれほど大きくなければ罰金刑で済むことも多いのですが、やはり前科がついてしまいます。前科をつけないためには、不起訴にしてもらわなければならないのです。 経験豊富な弁護士に相談し、迅速に対応することが必要でしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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