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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

犯罪者を許さない?逮捕情報を掲載するサイトでの記事削除は可能か

風評被害対策

インターネット上には、「新聞等から逮捕記事を転載しネット上に残し続ける」ということを目的としている(としか思えない)サイトも、存在します。それはそれで一定の「正義」に基づく行為なのかもしれませんが、少なくとも、自身の逮捕記事、特に「濡れ衣」であり不起訴処分となった逮捕記事などが掲載されている場合、一刻も早い削除を求めたくなると思われます。

こうしたサイトを対象とする逮捕記事情報の削除について、当事務所にて、興味深い勝訴判決(後述しますが正確には仮処分決定)があったため、本記事にて紹介いたします。

逮捕記事の情報掲載をテーマとしたサイト

インターネット上の、逮捕記事情報の掲載をテーマとしたブログは、例えば、

  • 公務員など特定の職業についていた個人の犯罪
  • 性犯罪や詐欺など特定類型の犯罪

について、不特定多数に対して情報を公開し続けることをテーマとして運営されているケースがあります。

本件では、問題のサイトは、特定類型の犯罪について、「そうした犯罪者は絶対に許さない」といったメッセージを掲げ、嫌疑不十分での不起訴事件についても「社会への警鐘」などのために削除請求には応じない、といった声明を行っていました。

こうしたサイト上のページの削除について、裁判外交渉が失敗した場合・またはそもそも裁判外交渉による削除の可能性が乏しい場合は、裁判所手続を用いることになるのですが、その際に用いるのは、「裁判」ではなく「仮処分」という手続です。「仮処分」とは、いわば「迅速な裁判」とでも言うべき手続で、裁判に4-12ヶ月の期間が必要なのに対し、仮処分であれば必要期間は平均1-2ヶ月間程度。迅速にページの削除を実現することができます。

逮捕情報サイトへの情報掲載は耐え難い不利益

今回の仮処分の決定では、裁判官は債権者について、

「逮捕されたこと自体は事実であるが、嫌疑不十分を理由として不起訴処分を受けており、同時に逮捕された別の者の刑事事件の判決において情を知らないと認定されているとおり、犯行に関与していない」

と述べた上で、以下のように、逮捕事実を現在において公表し続けることの社会的意義はないと判断しました。

「債権者は、本件被疑事実について、嫌疑不十分として不起訴となっているばかりか、共犯者とされた●●の刑事判決では、本件被疑事実と同旨の公訴事実について、情を知らない者であると認定されている。そうすると、そもそも、債権者が、本件被疑事実を行ったとは認められない。そして、一般に、逮捕されたという事実のみをもって、逮捕に係る被疑事実を行ったと広く思われるものであり、逮捕されたという事実それ自体、被逮捕者の社会的評価を低下させることが明らかな事実である。」

令和2年(ヨ)第123号 投稿記事削除仮処分申立事件

このように、本決定は、逮捕されたという事実を書くことは、「その人物が犯罪行為を行った」という印象を与える、という、ある意味「珍しい」判断を行いました。基本的に裁判所は、

1.単に逮捕されたというだけであれば、その人が犯罪を犯したとは言っていないのであって
2.そもそもその人にとって社会的に不利益となるような情報かどうかも怪しいし
3.何より「逮捕されたこと」は真実なのだから、「真実」である

上記のような判断を行うケースが多いからです。

しかし、同記事でも指摘したとおり、

結果的に誤認逮捕であったとしても、逮捕歴がネット上に残り続けることは、明らかに企業経営者にとってもサラリーマン等にとっても不利益ですし、その理由は、それを読む人が「その人は犯罪をしたのだ」と読み取ってしまうことです。その意味で、これは正に「デジタル・タトゥー」の問題

と言うべきでしょう。

「その人物が犯罪行為を行った」と読み取れることが問題

本決定が判断の基礎としている、「ある人物が逮捕された」という事実の公開が、「その人物が犯罪行為を行った」という印象を与えるものであるという評価は、本件サイトの「不起訴でも情報を掲載し続ける」というメッセージ部分を踏まえて、

「本件ブログは冒頭部分において(中略)と記載するなど、不起訴処分であるからといって被疑者が被疑事実を行っていないとは限らないという見解を示している。そうすると、本件逮捕事実そのものは真実であるものの、それのみを摘示する本件記事は、まずこの点をもって、債権者が犯罪を犯したとする、真実とは認められない事実を社会一般に認識させるものであり、債権者に与える不利益が大きい。」

令和2年(ヨ)第123号 投稿記事削除仮処分申立事件

という判断を行っているものであり、妥当なものであると言えるでしょう。

逮捕記事の削除は容易ではない

逮捕記事削除の判断枠組

逮捕記事の削除は、当サイト内別記事でも解説しているとおり、必ずしも容易ではありません。逮捕記事の削除を求める法的根拠は、基本的にはプライバシー権、いわゆる「前科等をみだりに公表されない利益」と呼ばれるものであり、そして、逮捕情報については、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められる場合もあるため、

  • 逮捕情報を公表されない法的利益
  • 逮捕情報を公表する理由

を比較衡量し、前者が後者に優越する場合のみ、違法である。というのが最高裁の考え方のようです。

比較衡量における判断要素

そして、違法な侵害と認められるかの検討、すなわち上記比較衡量を行う際の考慮要素は、

  • 対象者の属性に関する事項
  • 対象となった事件の内容に関する事項
  • 公表の目的及び意義に関する事項

であり、もう少し要素を分解すると、

  • 起訴されたかどうか
  • 犯罪が行われてからの期間
  • 更生への取り組みがされているか否か
  • 削除の必要性

などが考慮要素とされるケースが多いものと言えます。


逮捕情報の掲載サイトの場合の判断

「逮捕記事の公開に社会的意義がある」などのメッセージを掲げるサイトとの関係では、

  • 「公表の目的及び意義に関する事項」との関係で、そのようなメッセージを掲げるサイトに逮捕情報が掲載されている場合、「犯罪を行った」という印象が強まるのであり、公表の意義が乏しい
  • 「起訴されたかどうか」「削除の必要性」との関係で、そのようなメッセージを掲げるサイトに逮捕情報が掲載されている場合、「犯罪を行った」という印象が強まるのであり、不起訴という事実を重要視すべきであるし、また、削除の必要性が高い

と言えるでしょう。

まとめ

何らかの一定の「正義」に基づいて運営されている場合であっても、サイトの記載が「違法」と言えるケースであれば、逮捕記事の削除は「可能」です。

そして、その違法性の判断の中では、例えば本件のように、当該サイトが「不起訴処分であるからといって被疑者が被疑事実を行っていないとは限らないという見解」を示していることが、違法との判断を導く要素になる場合もあります。

前述の通り、逮捕記事の削除は決して「容易」ではありませんが、当該サイトの記載により、社会生活などに悪影響を及ぼしているのであれば、こうした記事削除に経験とノウハウを有する法律事務所に相談するのがおすすめです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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