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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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動画の無断転載の法的問題は?肖像権侵害の判例を解説

最近は、YouTubeやInstagramのストーリーなどを利用して誰でも動画を気軽にアップロードできるようになりました。もっとも、このような動画は基本的にはアップロードした本人に著作権が帰属するほか、動画に写っている人には肖像権があります。

このため、他人が投稿した動画を安易にSNSや掲示板等に無断で転載することは違法になることがあります。そこで、動画を無断で転載された方に向けて、動画を無断で転載する行為が肖像権の侵害にあたるケースについて最新の裁判例を取り上げながら解説します。

動画の無断転載に関する裁判例

最近の裁判例として、Instagramのストーリーに投稿された動画を他の掲示板に無断転載したことが肖像権にあたるかが争われた事例があります。

ある夫婦が2人で食事に行った際の様子をインスタグラムのストーリーズにアップしました。

その動画は、男性が撮影し女性が写っていましたが、その一部をスクリーンショットで保存した何者かが後日、匿名掲示板にその画像を添付して投稿しました。

東京地方裁判所は、令和2年9月24日、

Instagramのストーリーに投稿された動画を他の匿名掲示板に無断転載することは動画の被撮影者の肖像権を侵害する

との判決を出しました。

この裁判はそもそも、インターネットサービスプロバイダに対して動画を無断転載した人を特定するための情報を開示するよう求める裁判です。「発信者情報開示請求」と呼ばれるものです。プロバイダに対する発信者情報開示請求を認めるべきかを判断する前提として、動画の無断転載の違法性が検討されました。 

この判決では、まず以下のように肖像権侵害が成立するための要件として、従来の判例で示されてきたものと同様の要件を挙げています。

人の肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する。そして、当該個人の社会的地位・活動内容、利用に係る肖像が撮影等されるに至った経緯、肖像の利用の目的、態様、必要性等を総合考慮して、当該個人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合には、当該個人の肖像の利用は肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解される。

東京地裁令和2年9月24日判決

判決が上げた肖像権侵害が成立するか否かの判断基準自体は、京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日判決)という有名な事件において示されたものが踏襲されています。

ここで示されている基準をみると、他人の姿が写った動画を被撮影者に無断で転載したからといって、すべてが違法になるわけではないということがわかります。

あくまでも、撮影の経緯や目的、態様、必要性などを具体的に考慮して違法と評価すべき程度であるかによって肖像権侵害の成否が判断されるということです。

肖像権侵害の要件に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。

その上で、今回の判決では、以下の事実関係に注目して動画の無断転載が肖像権侵害にあたるとの結論を導いています。

  1. 本件動画はInstagramのストーリーという機能により24時間に限定して保存する態様で投稿されたもので、その後も継続して公開されることは想定されていなかった
  2. 被撮影者は、動画を転載した者に対して自身の肖像の利用を許諾したことはない
  3. 被撮影者は私人であり、本件画像は被撮影者の夫が夫婦の私生活の一部を撮影した動画であった
  4. 本件画像は、撮影者の著作権を侵害して複製され公衆送信された

Instagramのストーリー機能による動画配信

上記1.の事実は、本件の事例でポイントとなる点です。オンラインで配信されている動画は、インターネット上で不特定多数の人の目に触れることについて黙示の承諾を与えていたとみる余地があるためです。現に、本判決でも被告側はそのような主張をしています。

しかし、裁判所は、

本件動画が24時間で削除される動画として投稿されている以上は、他のサイトに転載されて24時間を超えて不特定多数の人が動画を閲覧することまで被撮影者は許容していない

と判断しました。

したがって、動画の無断転載の違法性を主張したい場合には、その動画がどのような趣旨で公開されたものかを事案に応じて具体的に主張することが重要といえます。

Instagramのストーリー機能によって投稿された画像や動画の肖像権に関しては、以下の記事で詳細を解説しています。

被撮影者が私人であること

上記3.の事実について、一般論として被撮影者が政治家など公人である場合には、肖像をインターネット上に掲載することに公益性や必要性が認められることがあります。

これに対し、本判決の事案で被撮影者となったのは撮影者の妻であり一般私人でした。しかも、動画の内容も夫婦の外食中の一コマを撮影したものであり、これを無断で転載することにはなんら公益性や必要性が認められないといえます。

動画の無断転載と著作権

上記4.の事実は動画の無断転載と著作権の問題が絡んでいます。本判決では、被撮影者の肖像権侵害のほかに、動画の撮影者の著作権侵害(複製権及び公衆送信権の侵害)も認められています。

本判決では、

動画の無断転載自体が著作権を侵害する違法な態様で行われたことから、無断転載を正当化される余地がない

と判断されました。裏を返せば、動画の無断転載に報道など公共性や緊急性がある場合には、他人の写った動画を本人に無断で配信したとしても肖像権侵害とならない余地があるともいえます。

なお、動画の無断転載と肖像権侵害との関係は、以下の記事でも詳細に解説しています。

他に動画の無断転載になり得るケース

今回取り上げた裁判例の事例は、Instagramのストーリーに投稿された動画を無断転載したものでした。これ以外にも動画の無断転載が問題になりやすいケースとして次のようなものがあります。

ゲーム動画の無断転載

最近はゲームをしている様子をYouTubeなどで配信することがよくあります。人気のある配信者のゲーム動画のチャンネルは登録者数も非常に多くなっています。

このようなゲーム動画は意外と権利関係が複雑です。動画でプレイしているゲーム自体がゲームの開発者やデザイナーの著作権の対象となります。また、ゲーム動画に写っているプレイヤーの姿もまた肖像権により保護されています。

このため、他人のゲーム動画を無断で別のサイトなどにアップロードすると、今回取り上げた裁判例のように違法となることがあります。

解説動画の無断転載

このほか、ゲーム動画と同様に人気のある「解説動画」と呼ばれるジャンルも同様の問題が起きやすいといえます。解説動画では、家電やPC機器等の使用方法を解説するもののほか、経済やニュースなどについて解説するものなど内容はさまざまです。

解説動画には配信者が写っていることが多いため、これをそのまま無断で他のサイトに転載すると肖像権侵害の問題となり得ます。

まとめ

動画の無断転載が肖像権侵害等により違法となる場合、被害者は無断転載されたサイト上から動画を削除するよう請求することができます。この請求の前提として、無断で転載した人が匿名である場合には、無断転載者を特定する必要があります。

動画を無断で転載をした人を特定するためには、転載した人が投稿する際に使用したインターネットサービスプロバイダに対して契約者情報の開示を依頼する必要があります。ただし、この開示のために必要となるログをプロバイダが3ヶ月〜1年程度の短期間で消去してしまうことがあるため、情報開示にはタイムリミットがあります。被害を受けた場合にはできるだけ早く、専門的知識を有する弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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