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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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著作権法の引用とは?適法に行うための4要件を解説

インターネットの発展により、近年、様々な方法によって情報発信が行われています。例えば個人では、SNSや動画配信などにより情報発信が行われることがあります。一方企業では、自社でメディアを運営し情報発信を行うという情報発信の方法が行われることがあります。このように、自社でメディアを保有することを、オウンドメディア(Owned Media)といいます。個人で情報発信を行う場合でも問題となりますが、企業がメディアを運営する場合に特に気を付けなければいけないことは、著作権の問題です。企業がメディアを運営する場合、個人より規模が大きくなることが多いため、他人の著作権を侵害してしまうと、大きな問題に発展する可能性もあります。そこで、本記事では、他人の著作権を侵害することを防止するために、著作権を侵害せずに文章や画像を引用する方法を紹介します。

著作権とは

他人の著作者を利用する際の、許諾を得る場合とそうでない場合について説明していきます。

まず、そもそも、「著作権」とは、著作物について、著作者に認められる権利のことをいいます。著作権については、特許権のように登録等の手続を行わなくとも、著作をした時点で、何らの手続を要することなく当然に発生します。著作権は、認められるために、手続を要しないことから、無方式主義と言われます。

他人の著作物を適法に利用する方法(ライセンス契約)

他人の著作物を、無断で利用することは、原則として、著作権法に違反することとなります。そのため、他人の著作物を利用する際には、著作権法に違反しないように気を付ける必要があります。他人の著作物を適法に利用する方法として、権利者から、著作物の利用について「許諾」を得るという方法があります。この「許諾」を得る契約については、一般的に、ライセンス契約といわれます。

許諾を得なくても他人の著作物を利用することができる方法

上記では、許諾を得て他人の著作物を利用する方法を紹介しましたが、許諾を得なくても他人の著作物を利用する方法があります。例えば、以下のような関係では、許諾を得なくても他人の著作物を利用することが可能です。

  1. 私的利用・付随対象著作物の利用等
  2. 教育関係
  3. 図書館・美術館・博物館等の関係
  4. 福祉関係
  5. 報道関係等
  6. 立法・司法・行政関係
  7. 非営利・無料の場合の上演・演奏・上映・口述・貸与等の関係
  8. 引用関係
  9. 美術品・写真・建築関係
  10. コンピューター・ネットワーク関係
  11. 放送局・有線放送局関係

自社でメディアを運営する場合、他人の著作物を引用するということが行われることがあります。この引用について、「引用であれば許される」と漠然と理解している人も見受けられますが、全ての引用が無制限に許されるわけではなく、著作権法上、適法な引用として認められる方法により行う必要があります。

著作物を適法に利用することができる「引用」とは

以上のような建付の上で、メディア運営などを行う際に最も重要なのが、引用です。メディアは、オウンドメディアのような文章のメディアであれ、YouTuberがアップする動画であれ、「誰かが何かを執筆した・言及した」といったことを取り上げ、それに対する意見論評などを掲載するケースがあります。こうしたケースに最も当てはまる、著作権者(つまりオリジナルの文章や発言を行った者)の許諾がなくてもなし得る著作物利用方法が、著作権法上の「引用」だからです。

著作権法第32条第1項では、引用は、以下のように規定されています。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

他人の著作物の引用について、著作権法上の適法な引用として認められるためには、以下の要件を満たす必要があると考えられています。

すでに公表されている著作物であること(公表要件)

すでに公表されているといえるためには、著作物が発行されている場合や、ライセンスを受けた者が公表している必要があります。

引用されていること(引用要件)

この要件は、下記のように、さらに2個に分けることが出来ます。

  1. 明瞭区分性→引用部分にカギ括弧をつけるなどして、引用部分と利用者が作成した部分とを、明瞭に区別できる必要があります
  2. 主従関係性(付従性)→利用者の作成した部分が極めて少なく、ほとんどが他人の著作物であるような場合には、引用ということはできません。あくまで「引用する部分が従で、オリジナルの部分が主」という関係性が必要です。

公正な慣行への適合性(公正慣行要件)

どのような引用方法が、公正慣行要件を満たすかは、ケースバイケースですが、裁判例では、出所の明示があるかということが判断の基準とされた例もあります。

正当な範囲に属すること(正当範囲要件)

引用については、引用の目的を達成するために必要最小限度の範囲である場合に正当と判断されることになります。

文章の引用について

著作権を侵害せずに文章や画像を引用する方法とは?

他人の文章を引用する際には、上記の要件を満たしているかをしっかり確認する必要があります。特に、メディア運営において気を付けなければならない要件は、上記正当範囲の要件です。メディア運営においては、引用を行わなくとも、自社で文章やコンテンツを作成することができるケースが多いと考えられます。また、ライターなどに依頼をし、文章やコンテンツを作成することができます。

たしかに、「報道、批評、研究」などでは、他人の文章を引用すべき必要性が認められる範囲は広いものと考えられますが、メディア運営においては、扱う内容にもよるものの、必ずしも引用が必要ではない場合も多いものと考えられます。そのため、正当範囲の要件を満たさないと判断される範囲も広いと考えられます。メディア運営において他人の文章を利用する場合には、著作権法上認められている「引用」の要件を満たしているかをしっかり確認するか、権利者の許諾を得るようにしてください。

画像の引用について

作品の画像等については、原則として、著作物となりますので、著作権者の承諾が必要となります。例外的に、著作権法上の「引用」にあたる場合には著作権者の承諾が不要となります。画像の場合に問題とされるケースが多いのは、引用要件の主従関係性です。例えば、他人の撮影した写真、描いた絵画、イラストなどをメインで掲載し、それに対するコメントを「オマケ」のように付け足すといったケースでは、「画像の方が主でコメントは従である」と判断され、適法な引用とは認められない可能性が高いと言えます。

ただ、「引用」にあたるかどうかの判断基準は明確なものではありません。明らかに上記にあたるといえない限り、引用元の注釈に加え、著作権者の承諾を得ておくこと方がベターであるとは言えます。画像データの元になるものが、作品自体ではなく、これを撮影した写真などである場合には、作品自体の著作者の承諾に加え、その写真の著作者の承諾も必要になることがありますので注意が必要です。

また、写真については、被写体が人物であれば肖像権やプライバシー権が認められる可能性があり、芸能人等の有名人であればパブリシティ権が認められる可能性があります。そのため、これらの権利との関係で権利者の許諾が必要となる可能性もありますので、著作権法上、引用の要件を満たしている場合でも、肖像権、プライバシー権及びパブリシティ権との関係で問題がないかをしっかり確認するようにしましょう。

動画の引用について

また、最近では、例えばYouTube動画内で他のYouTube動画を引用する、何らかのメッセージを伝える動画を作成するために他人の作成した音楽をBGMなどの形で「引用」する、といった形で、動画内で行われる引用行為の適法性が問題となるケースも増えてきました。この点に関する裁判例は、以下の記事にて紹介しています。

権利者が引用を禁止している場合に引用を行うことができるか

著作物について、「禁引用」などと表記されていることがあります。このような記載がある以上、引用をすることは違法であると考える人がいます。しかし、この「禁引用」との記載は、事実上の意味を持つに過ぎず、法的な意味を持つものではありません。そのため、著作権法上の引用の要件を満たせば、「禁引用」の表記があったとしても引用をすることは適法となります。

言い換えれば、

著作権者の個別具体的な許可(ライセンス契約)を受けなくても、一般ルールとしての禁止(禁引用)が明記されていたとしても、それでもなお著作権法上の「引用」に該当すれば、適法にその著作物を利用することができる。

からこそ、「引用」はメディア運営にとって重要なのです。

まとめ

以上、著作権を侵害せずに文章や画像を引用する方法について説明をしました。
著作権を侵害してしまうと、権利者から損害賠償請求を受けるなどのリスクも考えられますが、運営メディアの評価が下がるなどのレピュテーションリスクの問題もあります。そのため、軽い気持ちで著作権侵害を行わないように注意をする必要があります。著作物の引用については、本記事で紹介しているように、著作権法上規定されている要件を満たす必要がありますので、弁護士によるアドバイスを受けるということが望ましいといえます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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