弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

補助金申請の代行業者利用上の注意と必要な契約書項目を解説

会社を経営する上では、さまざまな補助金の申請を検討することがあります。

補助金は、国や地方自治体が政策目標を実現するために目標に適合する事業者の取り組みを支援するために資金の一部を給付するものです。

補助金は基本的に返還不要であるため、企業の資金繰りにとって非常に大きな助けとなります。

もっとも、補助金は申請すれば誰でも受理できるものではありません。補助金申請には複雑な要件が設けられており、この要件に基づいて補助金を申請する事業の内容などを申請書類にわかりやすく記載して提出する必要があります。

補助金の申請書類はかなりのボリュームであるため、会社が日常業務を行いながら申請準備をすることは相当の負担となります。このため、補助金申請を外部のコンサルタント等に依頼することが比較的よくみられます。

そこで、補助金申請の代行を外部委託する会社に向けて、補助金申請の業務を委託する際のコンサルティング契約書について気を付けるべき事項を解説します。

補助金申請の手続

補助金は、冒頭でも説明したように国や地方自治体の政策目標にあわせて、事業者の取り組みを支援するために必要経費の一部を給付する制度です。

主に、経済産業省が補助金を多く取り扱っています

補助金を申請する際には、最新の公募要項や指定の申請書を入手し、補助金の申請期限に間に合うように事務局に書類を提出する必要があります。

その後、事務局が補助金申請を審査し採択するか否かが決定されます。

そして、補助金の対象となる事業の実施は採択決定後に行う必要があります。

また、補助金は採択されたらすぐに会社に支給されるわけではありません

補助金に採択された会社は、先に経費全額を支出し、その後事業の実施内容等を報告してはじめて補助金を受け取ることができます。

補助金には通常、一定の予算上限があるため、すべての申請が採択されるわけではありません

例えば、事業者に人気のある「ものづくり補助金」は採択率がおおむね50%前後といわれています。

このため、少しでも確実に審査を通すために、補助金申請書をプロであるコンサルタントに依頼する会社が多いのです。

なお、補助金と似ているものとして「助成金」があります。助成金も補助金と同様に、国や地方自治体などから給付されるものであり返還は不要です。【強調】補助金と助成金の違いは、助成金は一定の要件を満たしていれば基本的に給付を受けられるという点です。また、助成金は厚生労働省が管轄する雇用に関する給付がメインです。

補助金申請はだれに依頼すべきか

補助金申請を外部委託する場合、誰に依頼すればいいのでしょうか。結論からいうと、補助金申請の代行に特別な資格は必要がありません。このため、補助金申請コンサルティングを自称する代行業者は数多くいます。

もっとも、実際にはコンサルタントの資格である中小企業診断士が補助金申請を取り扱っていることが多いようです。

このほか、税理士、公認会計士などが補助金申請コンサルティングを行っている例も多いようです。

補助金申請書の書き方には、ポイントがあるといわれています。このため、補助金申請を外部に委託する場合には、補助金申請について豊富な実績を持つコンサルタントに相談するとよいでしょう。

また、補助金申請の報酬は、着手金と成功報酬の二段階となっていることが一般的です。

この場合、着手金が10〜15万円程度、成功報酬は採択額の10%程度が相場とされています。したがって、これよりも大幅に報酬額が高い場合には依頼するべきか慎重に検討した方がよいかもしれません。

補助金申請コンサルティング契約書

補助金申請を外部に依頼する場合には、コンサルタントと業務委託契約書を作成し締結することになります。そこで、コンサルティング契約書のチェックポイントについて詳しく説明します。

以下で示す契約書の雛型において、「甲」はクライアントである補助金申請を委託する会社、「乙」が補助金申請代行を行うコンサルタントを指します。

また、実際に契約書を作成する場合には、以下で挙げる条項例をそのままテンプレートとして利用するのではなく、当事者同士の実情にあわせてアレンジするよう注意してください。

なお、一般的な業務委託契約書の内容に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。

委託業務の内容に関する条項

第○条(業務内容)
甲は、乙に対し、以下の業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
(1) 令和○年度○○補助金の申請書その他必要書類の作成業務
(2) 前項に定める業務を遂行する上で発生する付随業務

コンサルティング契約書において中心的な条項が、委託するコンサルティング業務の内容に関するものです。ここでは、業務の内容や範囲が明確に記載されているかを確認します。具体的には、どの補助金申請を委託するのかを明示することがポイントです。

補助金は通常、募集される年度と補助金の名称によって特定されます。そこで、補助金を募集する国や地方自治体の公募要項などとも照らし合わせて、補助金の名称等に誤りがないかを確認しましょう。

報酬に関する条項

第○条(報酬等)
本業務の対価は、以下の通りとする。
(1) 着手金
甲は乙に対し、着手金として、○○円(消費税込)を支払う。
(2) 成功報酬
本業務により申請した補助金が採択された場合、甲は乙に対し、採択金額の○○%(消費税込)を支払う。

委託業務の内容とならんで重要な条項が、業務の対価(報酬)に関する条項です。前述のとおり、補助金申請の報酬については着手金と成功報酬の二段階となっていることが一般的です。

そこで、補助金申請を委託する企業としては、報酬の算定方法や金額がコンサルティング契約において一義的に定められているかを確認する必要があります。

また、着手金や報酬金以外にも会社が負担する料金や費用が定められている場合には、トラブルになることを避けるためにも費用の内容について事前に十分に確認しておきましょう。

なお、最近は補助金申請を扱うコンサルタントが増加していることもあってか、着手金無料の完全成功報酬制を採用するコンサルタントもいるようです。

再委託に関する条項

第○条(再委託)
(1) 乙が本業務を第三者に委託する場合には、甲から事前に書面による承諾を得るものとする。
(2) 前項に基づき乙が本業務を第三者に再委託する場合、乙は、本契約に基づき自己が負う義務と同等以上の義務を当該第三者に課さなければならない。

補助金申請は数ヶ月ごとに申請期限が設けられている関係で、申請代行を行うコンサルタントからすると一定の時期に極端に業務が集中する傾向にあります。

このため、外部の協力業者などに補助金申請書の作成を再委託することがあります

その場合でも、再委託されているのか否かを依頼する側が把握できる状態にしておく必要があります。そこで、上の条項例では第1項で書面による承諾を条件としています。

最初から、再委託することがわかっているのであれば、条項例の第1項で「乙は本業務を○○に再委託することがあるものとし、甲はこれを承諾する」などとすることも考えられます。

委託する側としては、再委託先については可能なかぎり業者の名称などを開示してもらうことがよいでしょう。

また、補助金申請に関する書類は会社にとって経営上の機密情報が含まれています。このため、外部業者に再委託する場合でも最低限、機密保持義務などを再委託先にも負担させているかを確認するべきです。

この趣旨を含むのが、上の条項例の第2項となります。

契約解除に関する条項

第○条(契約の解除)
1. 甲又は乙は、相手方が次の各号のうちいずれか一つに該当する場合には、相手方に書面で通知することにより、本契約を解除できる。
(1) 本契約の各条項に違反したとき
(2) 信用状態が悪化したとき
(3) その他本契約の目的を達成することができない理由があるとき
2. 甲が補助金に採択された後、補助金の受け取りを拒否した場合又は甲が事業を実施しなかったことにより補助金の受け取りができない場合には、本契約の解除はできないものとする。

条項例の第1項は、一般的な契約解除に関する条文です。補助金申請の業務委託において特に問題になりやすいのは、条項例の第2項の方です。補助金申請業務の成功報酬は、申請した補助金が採択された時点で発生することが通常です。

もっとも、実際にクライアントである会社が補助金を受け取ることができるのは、採択された事業を実施した後です。条項例の第2項によれば、補助金に採択された後にクライアントの都合で実際に補助金を受け取れなかったとしても成功報酬は発生することになります。

補助金採択後にクライアントが補助金をクライアントが受け取るための手続をとらなかったことはコンサルタントの責任ではないので、このような条項が入ることはやむを得ない面があるでしょう。

一般条項

以上に挙げた条項例のほかに、契約書において一般的に定められる一般条項があります。

一般条項としては、例えば損害賠償責任に関する条項、相手方とトラブルになった場合の管轄裁判所に関する条項、機密保持義務に関する条項などがあります。

このうち、補助金申請においては会社の事業計画や決算情報など秘匿性の高い情報をコンサルタントに提供しますので、機密保持義務に関する条項は非常に重要です。万が一、競合他社に情報が漏洩すると会社が損害をこうむるリスクがあるためです。

機密保持義務に関しては、コンサルティング契約書に定めることもありますが、重要性に鑑みて契約書とは別にNDAと呼ばれる機密保持契約書を作成することもあります

機密保持契約書(NDA)に関しては、以下の記事で詳細に解説しています。

まとめ

外部のコンサルタントを上手く活用して補助金に採択されれば、会社にとっては非常に大きなメリットがあります。

補助金申請に関する業務を外部に委嘱する場合には、必ず契約書を締結するようにしましょう。

業務内容や報酬に関しては、特にトラブルが発生しやすいので注意深く契約書を確認する必要があります。契約内容に不安がある場合には、企業法務に詳しい弁護士に相談しアドバイスを受けることもできます。

当事務所による対策のご案内

上記のように、補助金代行業の安全な活用にあたっては契約書の作成が必要です。

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。

もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る