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音楽メロディーの「盗作」のラインは?複製と二次的著作物の判例「どこまでも行こうvs記念樹事件」を解説

複製と二次的著作物

音楽メロディーの「盗作」の問題は、創造性と著作権の交差点に立つ複雑な領域です。特に、著名な判例「どこまでも行こうvs記念樹事件」は、複製と二次的著作物の解釈において注目すべき先例を提供しています。

この記事では、音楽はどこからが「盗作」となるのかという観点から著作権法と判例を解説します。創作活動や著作権保護に興味がある方にとって、このテーマは重要な意味を持つことでしょう。

著作権法における「複製」と「二次的著作物」とは

複製とは、もとの物と同じ物を別に作ること、原作どおりに再現することを指します。著作権法では、

著作権法(複製権)

第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

とされており、著作者の許諾なく著作物を複製すると、複製権侵害となります。複製は、音楽の場合には、「盗作」や「パクリ」と言われ、たびたび騒ぎになります。

一方、著作権法では、音楽著作物を編曲したものは二次的著作物と規定されており、著作者の許諾を得れば、創作することが認められます。

著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)

著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

この編曲に関して、大きな話題となった裁判を例にあげて、複製と二次的著作物について解説します。

「どこまでも行こうvs記念樹事件」

「どこまでも行こうvs記念樹事件」

この裁判は、「どこまでも行こう」(1966年)の作曲者である小林亜星氏及び同曲の著作権者である金井音楽出版が、「記念樹」(1992年)の作曲者である服部克久氏を訴えた事案です。「記念樹」は「どこまでも行こう」を複製したものであると主張して、原告の小林氏は氏名表示権及び同一性保持権侵害による損害賠償、金井音楽出版は複製権侵害による損害賠償を求めました。他方、被告である服部氏は、原告小林氏に対し、「記念樹」は「どこまでも行こう」とは別個の楽曲であると主張し、自己が「記念樹」について著作者人格権を有することの確認を求めて反訴しました。

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原審の判断:原告の請求を却下

第1審の判断:原告の請求を却下

原告側は、両曲は全体の約72%が同一音であり、残る音も同一和声上に共存可能な音であり、編曲的手法をもってすれば、瞬時に変奏できる程度を超えていないから、両曲のメロディーには同一性がある、と主張しました。

また、「どこまでも行こう」はアレンジが多数発表されているほか、教科書に掲載され、レコード・CD・出版物も数多く発売されており、知らない者がいないほど認知されるに至っているから、被告が同曲を知らないということはあり得ず、「記念樹」は「どこまでも行こう」に依拠して作成された複製である、と主張しました。

一方、被告は部分のメロディーをあげ、各部分のメロディーが聴き手に与える影響が両曲では本質的に異なり、形式や和声においても同一性はなく、そもそも「どこまでも行こう」の各部分は、先行するアメリカの楽曲やロシア民謡と共通する慣用句的音型の連続でできあがっているのであるから、「どこまでも行こう」を知らなくてもこれに類似するフレーズが偶然作られる可能性は高い、と主張しました。

これに対し、東京地方裁判所は、両曲の同一性を判断するに当たっては、メロディーの同一性を第一に考慮すべきであるが、他の要素についても必要に応じて考慮すべきであるとして、2曲をフレーズごとに対比して同一性を判断し、一部に相当程度類似するフレーズが存在することは認められるが、そのフレーズを含めて各フレーズごとの同一性が認められるとまではいえないとしました。

両曲は、対比する上で最も重要な要素であるメロディーにおいて、同一性が認められるものではなく、和声については、基本的な枠組みを同じくするとはいえるものの、具体的な個々の和声は異なっており、拍子についても異なっている。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、「記念樹」が「どこまでも行こう」と同一性があるとは認められないから、「記念樹」が「どこまでも行こう」を複製したものということはできない。

東京地方裁判所2000年2月18日判決

として、小林氏らの請求を却下し、服部氏が「記念樹」について著作者人格権を有することを認めました。

小林氏らはこれを不服として、東京高等裁判所に控訴しました。

控訴審の判断:原告の請求を認める

控訴人である小林氏らは控訴審では複製権侵害の主張を撤回。「記念樹」は著作権法第2条1項11号で規定されている二次的著作物に当たるとして、編曲権侵害を主張しました。

著作権法第2条1項11号

二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

すると、「複製」か否かではなく「編曲」か否かを判断するのですから、フレーズごとに比較し、同一性を判断するという方法はあまり適切ではありません。著作権法は、楽曲の「編曲」について、特に定義を設けていないのですが、位置付けを共通にする言語著作物の「翻案」については、

(翻案とは)既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

最高裁判所2001年6月28日判決

とする判例があります。裁判所はこれに準じて、「編曲」とは、既存の著作物である楽曲に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である楽曲を創作する行為をいうものであるとしました。

その上で、両曲の同一性を検討し、

「記念樹」は、既存の楽曲である「どこまでも行こう」に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより創作されたものであり、これに接する者が「どこまでも行こう」の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものというべきである。そうすると、被控訴人が「記念樹」を作曲した行為は、「どこまでも行こう」を原曲とする著作権法上の編曲にほかならず、その編曲権を有する控訴人金井音楽出版の許諾のないことが明らかな本件においては、被控訴人の上記行為は、同控訴人の編曲権を侵害するものである。

東京高等裁判所2002年9月6日判決

として、「記念樹」は「どこまでも行こう」の二次的著作物であり、二次的著作権者が有するものと同一の種類の権利を有する原著作権者の権利を、服部氏が侵害したことを認めました。

そして、小林氏の意に反して「どこまでも行こう」を改変した「記念樹」を作曲した行為は同一性保持権侵害に当たり「記念樹」を二次的著作物でない自らの作品として公表したことは氏名表示権侵害に当たるとして、服部氏に、小林氏に対して慰謝料500万円、弁護士費用100万円、合計600万円の損害賠償金、金井音楽出版に対して損害額339万412円の支払いを命じました。

これに対して、服部氏は最高裁判所に上告しましたが却下され(2003年3月11日)、判決が確定しています。

まとめ:著作権については弁護士に相談を

創作においては、元となる原著作物が存在する場合、特に注意が必要です。単純な複製権侵害だけでなく、その作品が「二次的著作物」であるかどうかも重要な問題となります。これは原著作物への修正やアレンジの程度が関わってきます。その境界線は非常に微妙であり、法的なリスクを避けるためには、専門的な視点での確認が必要となることも多いです。企業の場合、リスク管理の一環として弁護士によるリーガルチェックを受けることを強くお勧めします。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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