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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

肖像権侵害の慰謝料の相場はいくら?2つの判例をもとに解説

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肖像権侵害の慰謝料の相場はいくら?2つの判例をもとに解説

個人の容貌や姿態が無断で撮影・公表された場合、プライバシー権の一内容である肖像権の侵害として、損害賠償請求が可能なケースがあります。

肖像権とは、一般的に、「みだりに自己の容貌等を撮影され、これを公表されない権利」であると考えられています。

本記事では、どのような場合に肖像権侵害にあたるのか、また、損害賠償としての慰謝料の相場はいくらかという点について、実際の事例をもとに解説します。

なお、肖像権とプライバシー権の関係や、肖像権侵害を理由に損害賠償請求を行うまでの流れについては、下記記事で解説しています。

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居室内にいるガウン姿の写真を掲載した事例

週刊誌のカメラマンが、新聞社の会長である原告の自宅居室内におけるガウン姿を撮影し、週刊誌に当該写真を掲載した事例があります。

原告は、自己の容貌・姿態をその意に反して撮影・公表されたことがプライバシーの侵害にあたるとして、当該週刊誌の出版社及び編集長に対し、不法行為に基づいて、当該写真の掲載の差止め謝罪広告の掲載及び慰謝料の支払いを求めました。

訴訟の経緯

原告がオーナーを務めていた球団のスカウトが、ドラフト会議で獲得を目指していた大学野球部の投手に対して約200万円の現金を渡していたことが発覚し、これを契機に、原告が球団のオーナーを辞任しました。

しかし、原告は辞任についての記者会見に出席せず、辞任の理由等に関しても自ら記者会見を開きませんでした。さらに取材の受付もしていなかったので、原告の動静は国民的な関心事になっていました。

こうした状況下で、週刊誌に3枚の写真が掲載されています。そのうち2枚は、原告が居住していたマンションに隣接する遊歩道から、居室内にいるガウン姿の原告を、望遠レンズで撮影したものでした。

写真には、「オーナー辞任で意気消沈の〇〇氏」というコメントとともに、原告の正面向きの上半身の写真と「ワンマンの末路」という見出しが付された原告の横向きの上半身の写真が掲載されていたのです。

原告の主張

そこで原告は、居室内においてガウン姿でくつろぐ容貌・姿態の写真は、誰であっても公開を望まないものであり、これが公開されると、個人としての平穏な生活が維持できなくなるとしてプライバシーの権利が侵害されている、と主張しました。

被告の反論

「原告は、多数のテレビ・ラジオ局等の関連企業をもつ会社の会長を務めていて、マスコミ界を知り抜いた立場にあることから、注目度の極めて高い公的存在であり、どのような取材方法をとられるかについて熟知しており、自宅内を写真撮影される可能性があることも承知していた。

また、本件居室の全面ガラス張りの窓際が、報道陣に自分の姿を現認されて、撮影され得る位置関係にあることを熟知していたにもかかわらず、報道陣に退去するよう求めたり、写真撮影をしないよう抗議したりすることはなかったうえに、当日もカーテンを閉めず、その窓際付近を何度も行き来した後、窓際に立って報道陣を眺めていた。

以上の事情から、被告は、原告が公的存在であり、プライバシーの権利の一部を失っていることから、プライバシー侵害にならない、また、プライバシー侵害にあたるとしても、原告は、本件のような写真を撮られることについて黙示に承諾し、もしくはプライバシーを放棄していたのであるから、違法性が阻却される」、などと反論しました。

裁判所の判断

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裁判所は、まず、プライバシー侵害の成否につき、人がその承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影され公表されないことは、個人の人格的利益として法的保護の対象となるというべきであるという一般的見解を示した上で、以下のように判示しました。

特に、自宅の室内においては、他人の視線から遮断され、社会的緊張から解放された無防備な状態にあるから、かかる状態の容貌・姿態は、誰しも他人に公開されることを欲しない事項であって、これを撮影され公表されないことは、個人の人格的利益として最大限尊重され、プライバシーとして法的保護を受けるというべきである。

東京地判平成17年10月27日

このようにしてプライバシー侵害を肯定した上で、本件では、原告がプライバシー侵害について黙示の承諾をしていたか否か、プライバシーを放棄していたか否か、という違法性阻却事由が認められるかが争点となりました。

この点、裁判所は、公的存在であるとしても、自宅居室内における容貌・姿態は純粋に私的領域に係る事項であるから、公衆の正当な関心事とは言えず、したがって、原告が公的存在であることから直ちに本件写真撮影に対する黙示の承諾をしていたとは言えないと判示しました。

さらに、裁判所は、仮に原告が報道陣から容易に撮影される位置関係にあることを知っていたとしても、純粋な私的領域である自宅居室内にいる自己の容貌や姿態を承諾なくみだりに撮影され公表されるとは予測し難く、安易に撮影され公表されないことを期待して当然であることから、プライバシーの放棄があったとは認められない、とも判示しました。

以上から、本件写真撮影はプライバシー侵害にあたり、違法阻却事由も認められないことから、被告らに慰謝料として200万円の支払いを命じました。

なお、以下の別記事で紹介している裁判例では、問題となった写真は背広姿であり、原告に格別な羞恥、困惑等の不快感を与えるものではない、また撮影場所や撮影方法も、原告が居住するマンションの建物玄関から出るところを公道に準ずる公共性の高い場所で撮影したものなので、社会通念上不相当であるとまではいえない、とされて肖像権侵害は認められませんでした。

なお、原告が求めた謝罪広告に対しては、裁判所は、

本件写真が本誌に掲載されたことによって原告のプライバシーが侵害されたのであるが、名誉を毀損された場合と異なり、いったんプライバシーが侵害されると、これを謝罪広告を掲載することによって回復することはできない。
よって、被告会社に謝罪広告の掲載を命ずることはできない。

同上

としています。ここに、プライバシー侵害に共通する問題があります。プライバシーはいったん侵害されると、被害を回復することが困難であり、謝罪記事掲載や謝罪広告等を行うと、新たに被害を拡大することになりかねません。名誉毀損よりも被害が深刻になる場合が多くあるのです。

許可なくテレビ中継映像を放映した事例

次は、被告テレビ会社が企画制作する、平日の午前5時30分から午前8時30分まで全国ネットで放送されていた生放送の報道番組において、承諾なしに原告の容貌等を放映したことが問題になった事案です。

同番組内で、原告の承諾なしに容貌等を生放送したことにより、名誉及びプライバシーが侵害されたと主張して、原告が被告テレビ会社らに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めました

訴訟の経緯

2006年12月、証券会社員が殺害され、バラバラに切断された遺体が遺棄される「エリート会社員バラバラ殺人事件」という事件が発生しました。

翌年1月10日に妻が逮捕され、翌11日、本件殺害行為が行われたとされる東京都渋谷区の会社員の自宅マンション前で、アナウンサーによる現場中継として本件放送が行われました。

その途中、ごみ収集車が停車しているのを見つけたアナウンサーが、マンションのごみ集積所に遺体の一部が生ゴミと一緒に遺棄されていたことがあったので、収集車に駆け寄り、運転席にいた原告に、マンションのごみを捨てる場所などを尋ね、その様子が生中継されました

その際、原告は「これテレビ出るんですか?」と尋ね、アナウンサーは、「映さないように、ええ、配慮いたします」などと答えていました。しかし実際には、2分以上にわたって原告が収集車を運転している様子や、収集車から降りてきた原告の顔などが放送されてしまいました

本件放送後、原告が被害者の遺体の一部を収集したと誤解した知人や親戚などから、原告の妻の元に「ごみ屋をしているんだって、みんなびっくりしてたよ」「手首を運んだ車には塩をふった方が良い」「バラバラ死体の一部を収集したんだって」などと、原告の職業を蔑んだり、侮蔑的な連絡が多数ありました。

また、原告に対しても、職場の同僚などから同様の発言がなされ、放送当時小学2年生だった原告の長男も、友人らから、「お前の父ちゃん、ごみ屋さんなんだって?死体や手首を運んだのか?」「くさい」などといじめを受けるようになり、結果的に登校拒否になってしまいました。

原告の主張

このように本件放送によって多大な精神的苦痛を受けているとして、原告がテレビ会社らに対し、プライバシーの侵害や名誉毀損、肖像権の侵害等に基づく損害賠償を求めました

被告の反論

これに対し、被告らテレビ局側は、放送当時、原告は顔を隠すことなく公道上で業務に従事しており、収集車の運転手も立派な職業であり、それ自体が通常公開されることを欲しない情報であるとは言えないとして、プライバシーを侵害してはいない等と主張し、争うこととなりました。

裁判所の判断

裁判所は、本件放送によって原告の肖像権とプライバシーの侵害を認めました。

一般に、何人も、みだりに他者からその容貌を撮影されたり、職業等の個人情報を公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有するというべきである。これに対し、本件放送は、上記のとおり、原告が収集車を運転していた様子や収集車から下りて収集車の前で説明している原告の顔などを生放送し、原告が収集車の運転手をしていることを広く社会一般に報道して公開したものであるから、原告の承諾があるなど特段の事情が認められない限り、原告の肖像権を侵害しただけではなく、原告のプライバシーをも侵害したものというべきである。

東京地判平成21年4月14日

また、被告らテレビ局側の「収集車の運転手も立派な職業であり、それ自体が通常公開されることを欲しない情報であるとはいえない」という主張に対しては、

確かに、廃棄物を収集したり処理することも社会に役立つ立派な職業であり、何ら問題はないはずではあるが、社会一般の実情を考えると、一部の職業に対する偏見や無理解が完全に無くなっているわけではなく、ときに差別的な発言等がなされたり、子供に対するいじめなどの引き金になったりす
ることもありうるところである。そうすると、原告において、自分が廃棄物収集業に従事していることを他人には知られたくないと考えることも、理由がないわけではないものと認められるから、収集車の運転手をしているということは、原告にとってプライバシーに該当するものというべきである。

同上

として、被告らの主張を退けています。

慰謝料の額

裁判所は、被告らテレビ会社らに対し、慰謝料100万円、弁護士費用20万円、合計120万円の損害賠償金の支払いを命じました。

損害賠償金の金額の算出にあたっては、原告が主張している被害は、番組関係者によって引き起こされたものではなく、あくまで本件放送を見ていた心ない視聴者や原告の知人等の言動によって引き起こされたものであり、そのような原告の職業を差別するかのような言動を行った者こそが非難されるべきである、ということが考慮されました。

なお、テレビ会社らは、このようなことが再び起きないよう再発防止の検討を行い、本件以後、現場中継を行う際には、一般人の顔がその意に反して特定されることがないようにすることや、取材を受ける人たちに生放送中であることを知らせるため、「生放送中」という看板を掲げるようにするなどして、再発防止の措置を採用していることを裁判中で明らかにしています。

まとめ:肖像権侵害の慰謝料請求は弁護士に相談しよう

自分や家族の肖像権が侵害されてしまった、慰謝料を請求したい、と考えられる方は多くいらっしゃるかと思います。

実際の慰謝料の請求には、今回紹介した判例のように、様々な事項について検討し、幅広い観点から主張をしていくことが重要になりますが、そのためには、高度は法的知識が必要です。
ぜひ一度、専門性の高い弁護士にご相談されることをおすすめします。

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