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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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アイデアに著作権は認められるか?写真や美術の著作物の判例を解説

著作権法が保護している著作物とは、創作的に表現した具体的なもので、アイデアや理論等の思想や感情自体は、たとえそれが独創性、新奇性のあるものであっても著作物とは認められていません。

本記事では、写真や美術の著作物において、アイデアと著作権はどのように判断されているかを解説します。

なお、言語の著作物においてアイデアと著作権はどのように判断されているかについては、下記の記事で詳しく解説しています。

アイデアと写真の著作権

著作物として存在する写真と同じ被写体を撮影したものを書籍出版したことに対して、元の写真の著作者が著作権侵害等を訴えた事例があります。

廃墟写真事件

「廃墟写真」で有名になったカメラマンが、自己が撮影した「廃墟」を被写体とする5枚の写真とそれぞれ同一の被写体を被告が撮影し、それらの写真を掲載した書籍を出版及び頒布した行為が、写真の著作物の著作権(翻案権、原著作物の著作権者としての複製権、譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、また、「廃墟写真」という写真ジャンルの先駆者であることから生じる営業上の利益を侵害したとして、損害賠償等を求めました。

裁判所は、原告が主張する複製権侵害及び譲渡権侵害、氏名表示権侵害は成立しないとしました。

判旨は「著作物の翻案」について、過去の最高裁判所の「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」をさすとした判例(最高裁判所2001年6月28日判決)を引用しつつ、5枚の写真の翻案権侵害につき、原告が主張する「原告写真の被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が、表現上の本質的な特徴に当たるかどうか」、「被告写真において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうか」を検討しました。

裁判所はまず、例えば群馬県の旧丸山変電所の廃墟の写真について、

原告は打ち捨てられて廃墟化した建物内部を斬新な構図で切り取り、見る者に強いインパクトを与えるものであると主張しましたが、旧丸山変電所の建物内部を被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく、撮影時季、撮影角度、色合い、画角などの表現手法には表現上の本質的な特徴があるが、被写体及び構図ないし撮影方向そのものは表現上の本質的な特徴ということはできない

としました。

裁判所はまた、

原告写真1と被告写真1とは、旧丸山変電所の建物内部を被写体とする点や構図、撮影方向などにおいては共通するが、写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており、被告写真1から原告写真1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

ともしました。そして、写真2(足尾銅山付近の通洞発電所跡)、写真3(大仁金山付近の建物外観)、写真4(奥多摩ロープウェイの機械室内部)、写真5(奥羽本線旧線跡の橋梁跡)についても同じ判断をし、結局、

被告写真の作成が原告写真の翻案に当たるとの原告の主張は理由がない

としました。また、原告は、

「廃墟」を最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されることによって生ずる営業上の利益、すなわち、廃墟を作品写真として取り扱った先駆者として、世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益は法的保護に値する利益であるとして、利益侵害をも訴えていた。これに対しては、ある廃墟を最初に被写体として取り上げて写真を撮影し、作品として発表した者がその廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても、廃墟が既存の建築物である以上、他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限したり、作品として発表する際に、最初にその廃墟を被写体として取り上げたのが上記の者であることを表示するよう求めたりすることができるとするのは妥当ではなく、ある廃墟を被写体とする写真を撮影するに際し、最初にその廃墟を被写体として写真を撮影し、作品として発表した者の許諾を得なければ、当該廃墟を被写体とする写真を撮影することができないとすることや、上記の者の当該写真が存在することを表示しなければ、撮影した写真を発表することができないとすることは不合理である

東京地方裁判所2010年12月21日判決

ともしています。原告はこれを不服として控訴しましたが、知財高等裁判所は控訴を棄却しました。知財高等裁判所も、

被写体として廃墟を選択したのはアイデアであって表現それ自体ではなく、廃墟は既存の建造物であって、撮影者が意図的に被写体を配置したり、撮影対象物を自ら付加したりしたものではないから、対象自体に表現上の本質的な特徴があるとすることはできないとし、被写体及び構図ないし撮影方向そのものは表現上の本質的な特徴とはいえない

2011年5月10日判決

としています。

アイデアと美術の著作権

奈良県大和郡山市の観光名所となっていたオブジェ「金魚電話ボックス」が、自身の作品に酷似しており、著作権を侵害しているとして、現代美術家が大和郡山市の商店街協同組合などを相手に、損害賠償等を求めた事例があります。

金魚電話ボックス事件:第一審

「金魚電話ボックス」は、公衆電話ボックス部材を利用して制作された造作物に本物の金魚を泳がせたオブジェで、学生グループが2011年に制作し、2014年に大和郡山市に設置されました。一方、原告の作品は遅くとも2000年までに制作されたものでした。

原告作品は、公衆電話ボックスを模した形状の造作物内部に水を満たし、その中に金魚を泳がせているものであり、同造作物の屋根部分は黄緑色様で、内部に二段の正方形の棚板を設置し、上段に黄緑色様の公衆電話機が据え置かれており、その受話器はハンガー部分から外されて本体上部に浮いた状態で固定され、受話部から気泡を発生させていました。

一方、被告作品は、実際に使用されていた公衆電話ボックスの部材を利用した造作物内部に水を満たし、その中に金魚を泳がせているものであり、同造作物の屋根部分は赤色で、内部に二段の棚板を設置し、上段に灰色の公衆電話が据え置かれており、その受話器はハンガー部分から外されて本体上部に浮いた状態で固定され、受話部から気泡を発生させていました。

原告は、以下の2点について本作品の著作性を主張しました。

1原告作品は公衆電話ボックス様の造作水槽内に金魚を泳がせ、受話器部分から気泡を発生させている公衆電話機が水槽内に設置された作品であり、街中に存在する公衆電話ボックス様の造形を水槽に仕立て、公衆電話機も設置された状態で金魚を泳がせるという斬新な選択によって、一般人にも興味を引く表現となっている。 また、2受話器から気泡を生じさせる表現は、まさに原告の個性の表れであり、水槽内に空気を送り込むために必然的に生じるアイデアではない。水槽内に空気を送り込むためには、ろ過装置やエアストーンを別途水槽底部に設置して空気を送り込むことが機能上最適であるし、他の類似作品については、受話器から空気は出ていない。このように、原告作品は相当の工夫が施され、原告の個性が発揮されているものであり、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものである。

裁判所は、これに対し、著作権法上保護の対象とはならないと判断しました。

また、判旨では、

公衆電話ボックス様の造作物の色・形状、内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現において、作者独自の思想又は感情が表現されており、創作性を認めることができるから著作物に当たるとしつつ、1については、公衆電話ボックスという日常的なものに、その内部で金魚が泳ぐという非日常的な風景を織り込むという原告の発想自体は斬新で独創的なものではあるが、これ自体はアイデアにほかない。

としました。また、2についても、下記の理由から保護の対象にならないとしました。

公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みについても、多数の金魚を公衆電話ボックスの大きさ及び形状の造作物内で泳がせるというアイデアを実現するには水中に空気を注入することが必須となることは明らかであり、公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば、もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。
つまり、アイデアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなり、そのような限られた方法に著作権法上の保護を与えるとアイデアの独占を招くこととなる。そして、2つの作品を対比すると、原告が同一性を主張する部分は著作権法上の保護の及ばないアイデアとアイデアに必然的に生じる表現であり、被告作品から原告作品を直接感得することはできないから、原告作品と被告作品との同一性を認めることはできず、被告作品によって原告作品の著作権が侵害されたものとは認められない

奈良地方裁判所2019年7月11日判決

として、原告の請求を棄却しました。

金魚電話ボックス事件:控訴審

原告は、一審判決を不服として控訴しましたが、2021年1月、大阪高等裁判所は一審判決を変更して著作権(複製権)侵害を認め、損害賠償金55万円の支払いと金魚電話ボックスの廃棄を命じました(大阪高等裁判所2021年1月14日判決)。

一審と控訴審で真逆の判断となったわけですが、そのポイントは「受話器から気泡を生じさせる表現」をどう捉えるかでした。

一審では、公衆電話ボックスの内部に金魚を泳がせていることをアイデアとし、受話器部分を利用して気泡を出す仕組みについては、アイデアを実現するための限られた方法であるとしていたわけですが、

控訴審では、受話器から気泡が発生していることの創作性を認め、屋根や電話機の色等に相違点があってもそれらはありふれた表現か鑑賞者が注意を向けない表現に過ぎず、一方で、表現上の創作性のある部分、「受話器から気泡を生じさせる表現」を、本来あり得ない状態を有形的に再生する表現であるとして、被告作品は原告作品の「複製」であるとし、著作権侵害(複製権侵害)を認めました。

控訴審判決を意外だとする声もあるのですが、一審で原告は、

2受話器から気泡を生じさせる表現は、まさに原告の個性の表れであり、水槽内に空気を送り込むために必然的に生じるアイデアではない。水槽内に空気を送り込むためには、ろ過装置やエアストーンを別途水槽底部に設置して空気を送り込むことが機能上最適であるし、他の類似作品については、受話器から空気は出ていない

と主張したのに対し、裁判所は、

公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば、もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である

として、アイデアを実現するための限られた方法であるとしました。

しかし、なぜ気泡を発生させるのが「公衆電話ボックス内に通常存在する物」でなければならなかったのか。むしろ原告が主張したように、「ろ過装置やエアストーンを別途水槽底部に設置して空気を送り込むことが機能上最適」であり、アイデアを実現するための方法として、限られた方法として自然であったように思われます。

控訴審は、受話器を水中に浮いた状態で固定していることにより非日常的な情景を表現していること、受話器の受話部から気泡が発生することが本来あり得ないこと、それが通話をしている状態をイメージさせて鑑賞者に強い印象を与える表現である点に、原告の個性が発揮されていると判断したのですが、原告の主張にほぼ全面的に沿った判断と言えます。

まとめ

アイデアのような表現それ自体ではない部分が類似していても、本質的な特徴を直接感得できなければ著作権侵害とは判断されないことは、言語的著作物においてだけでなく、写真や美術の著作物においても該当します。

著作権を考えるとき、アイデアと表現を峻別することは非常に難しいことです。経験豊かな弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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