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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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引用がNGとされる「著作権法」の事例について(文章・画像編)

著作物の複製や、改変、掲載は、状況や⽬的等によって、許諾なく⾏なっても著作権侵害にならない場合があります。

「著作物の利⽤を⾃由に⾏えるとき」は、著作権法で細かく規定されていますが、例えば、

  • 私的使⽤のための複製(30条)
  • 図書館等における複製等 (31条)
  • 教科⽤図書等への掲載 (33条)
  • 試験問題としての複製等(36条)

などとともに、「公表された著作物の引⽤ (32条)」において、正当な範囲内での著作物の利用も認められています。

本記事では、実際の裁判で引用はどのように判断されているかを解説します。

引用とは

引用とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載し、それを解説する場合のような、自己の作品の中で他人の著作を副次的に紹介する行為を指し、他人の芸術作品やその要素を自己の作品に取り入れることです。

引用は権利者に無断で行われるものですが、著作権法第32条で認められた合法な行為であり、権利者は引用を拒否することはできません。権利者が拒否できるのは、著作権法の引用の要件を満たさない違法な無断転載等に限られます。

1.公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法第32条

適切な引用の要件

著作権法第32条の中に、「公正な慣行に合致」や「引用の目的上正当な範囲内」のような要件がありますが、多数の判例によって、適法な引用となるか否かの判断には、次の実務的な判断基準が示されています。

  1. 既に「公表されている著作物」であること
  2. 「公正な慣行」に合致すること
  3. 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
  4. 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  5. カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
  6. 引用を行う「必然性」があること
  7. 「出典元」が明記されていること

このうち、「出典元」の明示については、著作権法の第48条に規定されており、これを怠ると剽窃とみなされます。

引用部分を明確にする方法としては、カギ括弧のほか、段落を変えたり、参照文献の一連番号又は参照文献の著者名等を用いた参照記号を該当箇所に記載するなどの方法もあります。

また、「引用」と認められず、違法な無断転載等とされた場合には、著作権法第119条以降の罰則に基づいて、懲役や罰金に処される可能性があります。

Twitterにおける引用を巡る裁判

原告は、電子たばこに使用するフレーバーリキッドを製造している者であり、Twitterアカウントを開設し、同アカウントのプロフィール画像及びヘッダー画像を掲載していました。

本件アカウントのユーザーは、原告のリキッドに関して批判記事を投稿したところ、原告によりブロックされました。そこで、このブロック行為を批判し、原告が販売するリキッドの購入について注意を呼びかける内容の文章をTwitterに投稿し、原告アカウントが本件アカウントのユーザーをブロックしている画面のスクリーンショットを掲載しました。

さらに、ブロックの理由を原告に尋ね、原告がそれに対して答える動画を、本件アカウントのユーザーがTwitter上に投稿したところ、当該動画における原告の回答内容を記載した文章とともに、当該動画の一部をスクリーンショットした静止画を掲載したのですが、右上に原告の本件プロフィール画像とヘッダー画像が掲載されていました。

これら7回の投稿を受け、原告は仮処分命令を東京地方裁判所に申し立て、仮処分決定に基づきTwitter社がIPアドレス及びタイムスタンプを開示したので、これを受けた原告が、経由プロバイダに発信者情報の開示を請求した事例があります。

裁判の経緯

原告は、氏名不詳者が別紙著作物目録記載の原告のプロフィール画像及びヘッダー画像を無断でTwitterに投稿することにより、原告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害し、上記プロフィール画像及び原告が撮影された動画の一部である静止画像を同じくTwitterに投稿したことで、原告の肖像権及び名誉感情を侵害したとして、損害賠償を請求するための発信者情報の開示を求めました。

被告である経由プロバイダは、本件プロフィール画像等はいずれも著作物に該当せず、また、本件各投稿が本件プロフィール画像等を含む状態で撮影された画像がそのまま本件各投稿に掲載されたものであるとしても、著作権法32条の適法な引用に当たるとしました。

一方、被告は、

  • プロフィール画像等がそのまま掲載され、プロフィール画像等の出所に当たる原告アカウント名及びユーザー名が明示されている。
  • これらの画像に含まれる原告の各画像は、本件発信者による投稿部分と明瞭に区別して認識することができる。
  • 各投稿のうち、プロフィール画像等の分量はごくわずかで、本件発信者による投稿部分が主で、プロフィール画像等の部分が従の関係にある。

としました。また、原告アカウントのユーザーが、正当な理由なく本件アカウントのユーザーをブロックしたことについて批判し、原告からリキッドを購入する者に向けて注意を促す内容から、「本件発信者は、その主張をより明確かつ説得的に一般読者に伝えるために、従前のやりとりを掲載する目的で本件各投稿を行ったのであって、投稿の必要性、有用性が認められるばかりでなく、その方法も、社会通念上合理的な範囲内にとどまる」と主張しました。

裁判所の判断

裁判所はまず、本件プロフィール画像の被写体が原告であり、本件ヘッダー画像の女性のイラストについて原告が利用許諾を受け、原告の営業に用いられていることに照らせば、本件プロフィール画像等を制作したのは原告であり、その著作権は原告に帰属すると認めました。

その上で、適法な引用の成否について、原告が本件アカウントのユーザーをブロックしたことを繰り返し非難した上で、原告が販売するリキッドの購入について注意を呼びかける内容となっているところ、各投稿の目的、内容等に照らすと、上記ユーザーが本件各投稿を行うに当たり、原告の容姿等の写った本件プロフィール画像等及び本件静止画をツイッター上に掲載する必要性があったとは認められない、としました。

また、プロフィール画像等は、画面全体において目立つ態様で表示され、更に操作によっては携帯電話の画面において独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさで閲覧することも可能であることも考慮すると、各投稿において引用された本件プロフィール画像等が従で、他の記載が主の関係にあるということもできない、としました。

そして、

以上によれば、本件各投稿における引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであると認めることはできないというべきであり、本件プロフィール画像等を引用して利用することが公正な慣行に合致すると認めるに足りる事情も存在しない。したがって、本件各投稿における本件プロフィール画像等の掲載が適法な引用に当たるということはできない。

東京地方裁判所2020年2月12日判決

とし、原告の公衆送信権を侵害することが明らかであるとして、経由プロバイダに、発信者の情報開示を命じました。

「出典元」が明記されており、「引用部分」が明確になっていても、引用を行う「必然性」がなく、「主従関係」が明確でなく、引用の目的上「正当な範囲内」とはいえず、「公正な慣行」に合致すると認められなければ、正当な引用とは認められません。

まとめ

引用が認められているのは、あらゆる場合に著作権者等の許諾を受け、必要であれば使用料を支払わなければならないとすると、文化的所産である著作物等の公正で円滑な利用が妨げられることになり、文化の発展に寄与することを目的とする著作権制度の趣旨に反することになりかねないためです。

一方、著作権者等の利益を不当に侵害しないように、引用の条件は厳密に定められており、厳しい判断基準をクリアしなければなりません。著作権侵害になるか否かについては判断が難しい場合が多くありますので、経験豊かな弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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