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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ブランド・ライセンスにおける商標ライセンス契約の要チェックポイント

商標ライセンスが必要となるケースの1つに、新規ブランドのために考えた名称が既に他社が登録しているときが考えられます。

このケースの商標ライセンスは単純に「名称の貸し借り」と考えて良いのですが、それがブランドの名称となると話は別です。

ブランドの商標は単なる文字の羅列や図形などではなく、「ブランドの正当な商品であることの証明」なので、消費者はその商標を付した商品を類似商品よりも高額で購入してくれるのです。

そのため、ブランドの商標をライセンスする場合には、ブランド側はライセンシーに対しブランドにふさわしい商品の製造や適切な商標の表示などを要求しなければなりません。

今回は、一般の商標ライセンスとは異なる、ブランド・ライセンスにおける「商標ライセンス契約」において、ライセンサーであるブランド側が知っておかなければならない重要ポイントを解説します。

ブランドとは

ブランドビジネス先進国である米国のマーケティング協会は「ブランド」を次のように定義しています。

ブランドとは、ある販売者の商品またはサービスを、他の販売者のものとは異なるとして識別する「名称」「用語」「記号」「デザイン」「シンボル」、またはその他の機能のこと。

つまり、ブランドは、その商品やサービスを他の類似商品やサービスと差別化する特徴(付加価値)を付加することができる存在で、差別化の要因には機能や形状などの実体があるものから、歴史・イメージ・信頼感などの実体のないものまで含まれており、ブランドの商標には、次の3つの機能が備わっていると考えることができます。

  • 商品識別機能:商標が付された商品を他の商品と識別する
  • 品質保証機能:商標が付された商品の品質を保証する
  • 顧客吸引機能:商標が付された商品にブランドの顧客を誘導する

このような経済的価値のある商標は、特許庁に登録することで商標権(独占排他権)が得られ、第三者に対して使用許諾が可能となるのです。

ブランド・ライセンスにおける商標ライセンス

ファッション業界などでは、ブランド・ライセンスは特に珍しいことではありません。本家ブランドのサブブランドや他国での現地生産・販売を目的としたものなどさまざまです。

ブランド側にとってはロイヤリティ収入だけでなくビジネスの拡張や新規市場の開拓などのメリットがあり、ライセンシーにとってはそのブランドの知名度・信用・イメージなどを利用した高収益のビジネス展開が期待できます。

ブランド・ライセンスは一般的には「ブランドネーム」や「ロゴマーク」などの使用に関するものが中心と考えられているようですが、実際には商品のデザイン・製造・販売について契約で細部にわたって厳しく規定されるケースもあります。

ブランド側からすれば、時間と資金を投入して育てた大切なブランドのイメージや信用に傷をつけられないよう考えるのは当然のことです。

このように、単なる商標の使用を目的とした商標ライセンス契約と、ブランド・ライセンスにおける商標ライセンス契約では役割が異なっています。

商標ライセンス契約の要チェックポイント

ここでは、ブランドの商標ライセンス契約特有のチェックポイントに絞り要チェクポイントを解説します。

使用許諾の範囲

第●●条
1.甲は許諾商標を以下の各号で定める範囲で、乙に対し通常使用権を許諾する。
① 許諾地域:〇〇〇〇
② 許諾商品:〇〇〇〇
③ 許諾期間:〇〇〇〇年〇〇月〇〇日〜〇〇〇〇年〇〇月〇〇日
2.乙は、許諾商標の使用に関し前項に定める範囲以外の権利は有しない。
3.甲及び乙は、本契約締結後〇〇日以内に相互に協力して第1項に定める通常使用権の設定登録申請を行う。尚、当該設定登録に要する費用は乙が負担する。
※ライセンサー:甲、ライセンシー:乙

自社が保有するブランドの商標をライセンスする場合に最も重要となるのは、「使用権の種類」及び「使用許諾の範囲」です。

例えば「スポーツ分野」での「独占的使用権」を許諾するとした場合、第三者からテニス用品、あるいはゴルフ用品などに対する商標ライセンスの要求があってもライセンスはできません。

さらには、許諾商品を「ゴルフ用品」としても、「ゴルフボール」「グルフクラブ」「ゴルフウエア」などに細分化することも可能です。

このように、ブランド側にとっては、今後のブランドビジネスがどのように発展するか見通せないため、安易に使用許諾の範囲を決定するとビジネスチャンスを失う恐れがあります。

また、使用権の種類には「通常使用権」と「専用使用権」の2種類があり、「専用使用権」の場合には設定登録されると使用許諾の範囲内では商標権を持っているブランド側でも使用ができなります。そのため、よほど大きなメリットがない限りは選択しない方が良いでしょう。また、当事者間で独占について定めた「独占的通常使用権」の許諾も契約上は可能です。

ですから、ライセンシーの能力やビジネスプランを基に許諾範囲などを判断することが重要です。

なお、設定登録が必要な専用実施権とは異なり、通常使用権は登録は義務ではありませんが登録することにより、その後に商標権を取得した第三者にも対抗できます。

許諾商標の使用

第●●条
1.乙は、許諾商標の使用にあたり、許諾商標が甲の信用および商品の品質を表すものであることを認識し、甲のブランド価値を毀損しないよう努める。
2.乙は、許諾商標を別紙1で指定された表示形態、使用方法並びに甲が随時行う指示に従って使用する。
3.乙は、許諾商標の使用にあたり、許諾商品にその製造者が乙である旨を明示しなければならない。
4.乙は、許諾商標を甲の事前の書面による許諾なく第三者に再許諾し、または、譲渡、担保提供などの一切の処分行為をしてはならない。
5.乙は、許諾商標の使用を中止又は終了する場合には、速やかにその旨を甲に書面で通知する。

第2項の「別紙1」では、許諾商標の表示位置・サイズ・色彩、ブランド名及びロゴマークとの組み合わせ方などの表示形態の他に、販促資料や商品タグなどに「許諾商標は(ライセンサー)の登録商標であり、(ライセンシー)が使用許諾を得て本商品に使用しています。」などの記載義務を加えることも考えられます。

上記のサンプル条文の規定以外に、ブランド価値の毀損防止を目的とした、次のような禁止事項を加えることも可能です。

乙は、許諾地域の内外を問わず以下の各号の行為をしてはならない。
① 許諾商標に類似し又はこれと混同するおそれがある商標その他の標識を使用し又は登録すること。
② 許諾商標の識別力を失わせ又は信用を毀損すること。
③ 許諾商標を許諾商品の品質を誤認させる可能性がある態様で使用すること

ただし、ライセンシーに対して競合品の製造・販売禁止などの義務を課すと、独禁法上問題となる可能性があるので注意しましょう。

許諾製品の品質認定

第●●条
1.乙が許諾商標を表示できる許諾商品は、別紙2に記載の指定品質基準に適合しなければならない。
2.乙は、指定品質基準に適合すると甲が認定した許諾商品にのみ許諾商標を使用できる。
3.乙は、前項に定める甲の認定を受ける為に、許諾商標を付した許諾商品の見本を甲に提供し、甲は、当該見本の受領後〇〇日以内に認定の可否を乙に書面で通知する。

許諾商標を付した商品の品質が一定水準に満たない場合には、ブランドの信用が毀損される恐れがあるため許諾商品の品質チェックは重要なプロセスです。

品質以外にも、「デザイン」「価格帯」「ターゲット」そして「宣伝・広告」などによっても、本家のブランドに悪影響が出る可能性があるので、「認定条件」に加えることも考えられます。

ライセンサーのリスクを回避する必須条項

不保証

第●●条
甲は、許諾商標に係る商標権の有効性並びに、許諾商標の使用が第三者の権利を侵害しないことを保証しない。

この条項は特許実施許諾契約と同様に、全ての類似登録商標などをチェックすることは事実上不可能で、権利侵害についても裁判によらなければ判断できないため、ライセンサーがこのような保証をすることは非常に大きなリスクとなります。

商標権の侵害に関して詳しく知りたい方は下記記事にて詳述していますので本記事と合わせてご覧ください。

免責

第●●条
甲は、許諾商品の不良および許諾商標の使用に関して発生した乙の損害について、一切の責を負わないものとします。

ブランド側が品質認定をしたとしても許諾商品の不良はライセンシーの責任であり、また、ブランド名やロゴマークを表示することによって、ブランド側が許諾商品の「製造物責任」を問われる可能性があるため本条項は不可欠と考えられます。

まとめ

今回は、一般の商標ライセンス契約とは異なる、ブランド・ライセンスにおける商標ライセンス契約でブランド側が知っておかなければならない重要ポイントを解説してきました。

実際の契約書では、上記の他に「商標使用料」「解約」「秘密保持義務」「契約終了後の措置」「損害賠償」「準拠法」「管轄裁判所」などの条項が必要となります。

ブランドの商標ライセンスは、ブランドビジネスの知識も必要となることから独自に判断するのではなく専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします。

商標権だけでなく著作権や特許権など、トータルにライセンス契約を知りたい方は下記記事にて詳述していますので本記事と合わせてご覧ください。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

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