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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

YouTube動画で個人名をあげて名誉を毀損されたりプライバシーを侵害されたりしたとき

YouTuber・VTuber法務

YouTube動画では、著作権侵害や肖像権侵害のトラブルが絶えず、問題となってきました。しかしこれらだけではなく、この数年、過激な口調で世間に意見する“物申す系YouTuber”の人気が高まるとともに、名誉毀損やプライバシー侵害も目立つようになっています。

YouTube動画による悪口や誹謗中傷、とりわけそれが名誉毀損や、プライバシー侵害にあたる場合、どのような対応が可能であるかを解説します。

YouTubeの規約改定と“悪口禁止”

2019年6月に改定された規約により、YouTubeの広告掲載規制が強化されました。“悪口禁止”が明確になり、過激な口調で世間に意見する“物申す系YouTuber”が該当する「炎上目的・侮辱的」な動画について、広告表示無しや広告制限となる例が追加されました。「個人を名指しで罵る、中傷するコンテンツ」「個人に対する悪意のある攻撃、中傷、名誉毀損」が、これに該当します

 “物申す系YouTuber”がそれまでのような暴言とも取れる意見を述べることは難しくなり、“物申す系”の動画を再生しても広告がついていないものが目立つようになりました。

しかし、これはあくまでも広告規制の問題であり、“物申す系YouTuber”にとっては問題であったとしても、広告収入が主目的ではない一般のユーザーにはあまり影響がないでしょう。また、どの程度を超えれば違反とみなすのか、悪口なのか皮肉なのか、といった判断は難しいので、“悪口禁止”によって、「個人を名指しで罵る、中傷するコンテンツ」「個人に対する悪意のある攻撃、中傷、名誉毀損」がなくなるわけではないでしょう。実際、“物申す系YouTuber”の悪口や誹謗中傷は形を工夫しながら続いていますし、YouTuber動画による悪口や誹謗中傷はそれほど減ってはいません。

名誉毀損とは

YouTubeで個人名を特定して名誉を毀損されたら、法的にはどのような問題があるのでしょうか。そもそも、名誉毀損はどういう場合に成立し、どのような罰則が設けられているのでしょうか。

名誉毀損の要件

刑事の名誉毀損罪は、刑法230条により、事実の摘示が要件であり、具体的な事実(証拠等をもってその存否を決することが可能な事項)を示さなければ成立しません。

1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条

一方、民事の名誉毀損は要件が明確に規定されていません。

他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

民法第723条

この点について判例は、「名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである」(最高裁判所1997年9月9日判決)としています。

したがって、民事においては、一般人の感覚を基準として人の社会的評価を低下させる表現であるのなら、それが事実の摘示か意見ないし論評であるかを問わず名誉毀損が成立することとなります。


YouTube動画と名誉毀損

YouTube動画で個人名や、個人特定が可能な個人情報をあげて誹謗中傷されたら、放置しておいてはいけません。大きなリスクが発生するので、早急に適切な対応をしましょう。

「〇〇は学生の時に強姦罪で逮捕された」「前科がある」「△△はキャバクラで働いている」「同僚と不倫している」などと言われたら、根も葉もない話であっても、誰に何と思われるかわかりませんし、掲示板やSNSなどに転載されて、情報が拡散されてしまう可能性もあります

ネット上の掲示板やSNSでこのように、「事実を示して」他人の社会的評価を低下させる投稿をすれば、名誉毀損になります。YouTube動画でも同じです。公表された事実が真実であっても名誉毀損は成立します。たとえば実際に不倫しているとしても、第三者がYouTube動画で「〇〇は不倫している」と公表したら、名誉毀損にあたります。

名誉毀損にあたるのであれば、相手に合わせて汚い言葉で反論したり罵ったりすることなく、冷静に、YouTubeに動画の削除を依頼しましょう。

YouTubeの名誉毀損対応

「YouTubeヘルプ」へ行き、「YouTubeのポリシー」から「法律に関するポリシー」へ進み、「名誉毀損」の項を見ると、以下のように書いてあります。

名誉毀損に関する法律は国によって異なりますが、他の人物や会社の評判を傷つけるようなコンテンツは通常これに該当します。名誉毀損の定義は世界中で異なりますが、一般的には誰かの評判を傷つけるような、事実とは異なる言動や、誰かが孤立したり、避けられたりするよう仕向けることが名誉毀損とされます。

ここだけを見ると、「事実とは異なる言動」である場合にしか名誉毀損とならないような書き方ですが、そのあとに、「YouTube では名誉毀損を理由とするブロックの手続きをする際に、その地域の法律的な側面も考慮します」とありますので、日本においては、日本の刑法第230条1項に従うことになります。

ユーザーへの直接連絡

「名誉毀損」の項には、

場合によっては、アップロードしたユーザーが有害なコンテンツの削除を快諾することもあります。裁判所命令を取得するにはコストと時間がかかる可能性があるため、YouTube では問題のコンテンツをアップロードしたユーザーに直接連絡することをおすすめしています。
アップロードしたユーザーと連絡が取れない場合は、その動画が YouTube のプライバシー ポリシーや嫌がらせ行為に関するポリシーに基づいて削除される対象となるかどうか検討してみてください。

と、あります。著作権の場合、気づかずに侵害してしまっている場合もあるかもしれません。肖像権の場合はその可能性がさらに大きいかもしれません。しかし、名誉を毀損するような動画をアップロードした人が、名誉を毀損している可能性に気づいていないという場合は、ほとんど考えられません

したがって、アップロードしたユーザーに直接連絡しても、削除を快諾してもらえることはなく、連絡すると反発され、逆効果となる場合が多いと考えていいでしょう。

YouTubeへの名誉毀損申し立て

YouTubeへ名誉毀損申し立てを行うには、「削除依頼ウェブフォーム」を利用します。

「ヘルプ」で「名誉毀損」を検索し、「名誉毀損の申し立て」をクリックします。開いた「名誉毀損の申し立て」の頁で「異議申し立てを行う国」とあるので、「日本」を選択すると、「削除依頼ウェブフォーム」が開きます。

  1. 「氏名」を書き入れ、「メールアドレス」(自動表示されています)を確認します。
  2. 「動画のURL」を貼り付けます。
  3. 「名誉毀損の申し立てを行うには、申し立ての対象となる箇所を明確に特定する必要があります」とあり、「どのような情報から誹謗中傷の対象を特定しましたか(該当するものすべて)」とあるので、「自分の氏名・自分の画像・自分の声・自分のビジネス名・その他」から選択します。
  4. 「動画またはメタデータ内の名誉毀損に該当する文言を正確に入力してください。『動画全体』などの文言は無効です」とあります。ここは丁寧に書きましょう。担当者も忙しいので、わかりやすく書くことが大切であり、慎重に言葉を選んで書きましょう。
  5. 「場所を選択してください(該当するものすべて)」とあり、「動画内・動画のタイトル・動画の説明欄・チャンネルのタイトル、プロフィール、または概要セクション・その他」から選択します。」
  6. 「この文言がお住まいの国で名誉毀損に該当する理由をご記入ください」とありますから、どの部分がどのような理由で名誉毀損に該当するのかを、日本のどのような法律に抵触しているのか法律の条文をあげて、丁寧に記入しましょう。

最後に記載情報に偽りや不足がないことを誓い、署名、送信すれば終了です。なお、申し立てはアップロードしたユーザーに通知されます。アップロードしたユーザーに自分の氏名やメールエイリアスを開示したくない場合は、その旨を明記する必要があります。

「不愉快である」「我慢できない」などとせず、刑法230条1項や最高裁判例等をあげ、相手のどの発言がどのように法律に違反し、名誉毀損に相当するかを冷静に、客観的に記述しましょう。

法的手続き

名誉毀損申し立てが行われると、報告された動画についてYouTubeの側で審査が行われ、名誉を毀損する動画であると判断されれば、当該動画は削除されることになります。

YouTubeへの名誉毀損申し立てをしても、当該動画を削除してもらえないとき、弁護士からの削除要請なら削除されるというケースもありますので、この段階で弁護士に相談するという選択もあり得ます。

動画削除の仮処分申請

裁判外での削除請求が不調であった場合、あるいは動画をアップロードしたユーザーの法的責任を追及したいときは、法的手続きを利用する必要があります。プライバシー侵害の場合も同様となります。まず、裁判所に「動画削除の仮処分命令の申し立て」をします(民事保全 法23条2項)。被保全権利の内容・権利侵害の事実・保全の必要性を記載した申立書と、それらを証明するための証拠を提出する必要があります(民事 保全法13条)。

発信者情報開示請求

同時に、運営側は利用者の個人情報開示に基本的には応じてくれないので、裁判所を通じて、コンテンツプロバイダである、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき設立された合同会社YouTube LLCに対して発信者情報の開示を請求し、得られたIPアドレスとタイムスタンプから、YouTube LLCのマネージングメンバーとしてYouTube LLCを代表する、同じくアメリカ合衆国デラウェア州法に基づき設立された合同会社であるGoogle LLCに、投稿記事の発信者情報の開示を請求します。Google LLCは、広告収入を得るために用いられた住所を把握しています。

いずれも、日本の裁判所で処理してもらうことが可能です。国際裁判管轄については、当サイトの別記事「風評被害関連の裁判や仮処分と管轄裁判所とは」で解説していますが、独力で発信者情報開示請求を成功させるのは極めて困難なので、弁護士に依頼して対応してもらいましょう。

発信者情報が開示されたら

発信者情報が開示され、発信者が特定されたら、選択した対処方法を実行することができます。

次のような選択肢がありえます。

  • 今後誹謗中傷を行わないと誓約させる
  • 損害賠償を請求する
  • 刑事告訴をする
  • 謝罪広告(=謝罪動画の公開要求)を要求する

最後の「謝罪広告(=謝罪動画の公開要求)を要求する」は、名誉毀損やプライバシー侵害の場合、被害を拡大させる可能性が高いので、一般にはあまり要求されることはありませんが、すでに被害が拡大している場合や、著名人、企業の場合などには、これを要求することも選択肢に入るでしょう。

まとめ

YouTube動画において悪口を言われ、誹謗中傷されると、掲示板やSNSよりもはるかに多い、膨大な数の人々の目に触れる可能性があります。そうした名誉毀損やプライバシー侵害に該当する発言は放置せず、経験豊かな弁護士に相談し、早急な解決を目指しましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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