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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

YouTubeチャンネルの買収・事業譲渡と法的リスクについて

YouTuber・VTuber法務

一般的な会社関係において、会社の買収や事業譲渡は珍しくありません。

会社の規模を大きくしようと考えた場合、自社で子会社を設立したり、新しい事業部を設けるという方法もありますが、既に存在している会社を買収したり、事業譲渡を受けた方が、メリットが大きいケースも多いからです。

YouTubeのチャンネルについても、会社関係と同様に、買収や事業譲渡を受けた方がメリットが大きいケースがあります。

例えば、ある程度のチャンネル登録者数を有するYouTubeチャンネルを運営する会社を買収する又はYouTube関連事業を譲り受けることにより、自らチャンネル登録者数を増やす活動を行うことなく、登録者数の多いチャンネルの運営を行うことができるようになるというメリット、単純に言ってしまえば、チャンネル登録者数を増やすための工数や期間をお金で買うことができるというメリットがあります。

今やテレビに取って代わるほどの成長を遂げており、それに伴い、チャンネル登録者数の多いチャンネルの価値が上がり、ビジネス上の取引の対象となっています。

そのため、YouTubeチャンネルの買収や事業譲渡でのトラブルが生じるケースが増えており、どのような法的リスクがあるかをしっかりと理解しておくことが重要になっています。

そこで、本記事では、YouTubeチャンネルの買収や事業譲渡とはどのようなものか、また、その法的リスクについて説明をします。

YouTubeについて

YouTubeは、Google LLCが提供している動画共有サイトであり、規模は世界最大となっています。

若年層から比較的年齢が高い人まで楽しめるコンテンツがあり、視聴者の年齢層も広く、 最近では、なりたい職業ランキングの上位にYouTuberが入ってくるほど人気が高まっています。

またYouTubeに動画を投稿すると、チャンネル登録者に通知されるようになっており、チャンネル登録者数が多い方が、動画の再生回数が伸びる傾向にあります。

買収について

本記事では、買収について「YouTubeチャンネルを運営する会社を買収すること」という意味で事業譲渡とは区別して説明をします。

株式会社の買収の方法

会社法上、会社には、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社がありますが、最も典型的な会社形態である株式会社を例に説明をします。

株式会社は、株主によって構成されており、株主は株式を保有しています。

そして、会社の意思決定は、基本的には総株主の半数以上の株主が出席し、その過半数の決議で決します。そのため、買収対象となる会社の過半数の株式を保有すれば、基本的な意思決定が可能になります。

また、重要な意思決定については、議決権の過半数を有する株主が出席し、その2/3以上の決議で決することとなります。そのため、買取対象となる会社の2/3以上の株式を保有すれば、重要な意思決定についても行えるようになります。

そのため、株式会社においては、意思決定を単独で行える数の株式を取得するという方法で、買収が行われるのが一般的です。

YouTubeチャンネルの買取

YouTubeチャンネルを株式会社が運営している場合には、当該株式会社の株式を取得するという方法により買収をすることが考えられます。

YouTubeチャンネルの買収の場合、運営している株式会社が上場していないケースが多いと考えられます。
そのため、株式の取得方法、株価の算定方法、譲り受ける株式数など、買収の条件を検討する必要があります。

また、会社がどのような会社であるが明確にわかっていなければ、価値を正しく判断することができず、買収をするか否かを判断することができません。
そこで、会社を買収する場合には、デューデリジェンス(Due diligence)が行われるのが一般的です。
デューデリジェンスとは、会社の内容を正確に把握するため、対象となる会社の価値やリスクなどを調査することを言います。

YouTubeチャンネルを運営する会社を買収する場合には、事前にどのような会社であるかをしっかりと把握しておくことが重要となります。

事業譲渡について

事業譲渡とは、特定の個人や法人が行っている事業を譲渡するというストラクチャーになります。

例えば、特定の会社が、YouTubeチャンネルの運営事業とタレントのマネジメント事業を行っているケースで、当該会社にタレントマネジメント事業だけを残し、YouTubeチャンネルの運営事業だけを他の会社や個人に譲渡するような場合が考えられます。

事業譲渡については、以下の会社法467条1項1号、同項2号に規定されています。

(事業譲渡等の承認等)
株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
1. 事業の全部の譲渡
2. 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の1/5(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)

上記の条文からでは事業譲渡の意義が必ずしも明らかではありませんが、 会社法467条に相当する旧商法245条1項1号では、

「営業(事業)の全部または重要なる一部の譲渡」とは、一定の営業(事業)目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、それにより、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業(事業)的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じて競業避止義務を負う結果を伴なうもの

最高裁昭和40年9月22日判決

事業譲渡の対象の確認の重要性について

買収の場合には、会社をそのまま買収しますので、買収の範囲の切り分けは通常問題となりません。

ただ、事業譲渡の場合には、事業譲渡の範囲がいかなる範囲かを確認しておくことが重要となります。

例えば、YouTubeチャンネルでキャラクターを用いているような場合には、著作権の譲渡を行う必要があります。

YouTubeチャンネルの事業譲渡の際の譲渡対象

YouTubeチャンネルの事業譲渡の範囲に何が含まれるかはケースバイケースではありますが、例えば、以下のようなものが含まれます。

  • 撮影用機材一式
  • チャンネルに関連する著作権等の知的財産権一式(サムネイルの元データ等)
  • 過去に投稿された動画及びそれに関連する著作権等の知的財産権一式(動画の元データ等)
  • チャンネルのアカウント(ログインIDやパスワード等)
  • チャンネルのウェブサイトが存在するのであれば、それに関連するサーバーアカウント、ウェブサイト一式や関連する著作権等の知的財産権一式
  • チャンネルのTwitterやInstagram等のSNSアカウントが存在するのであれば、当該アカウントや関連する著作権等の知的財産権一式

YouTubeチャンネルに出演者が存在する場合の処理

YouTubeチャンネルに出演者が存在する場合、当該出演者に対しては、今後も引き続き当該YouTubeチャンネルに出演してもらうという対応と、今後は当該YouTubeチャンネルには出演せず、また、一定期間他のYouTubeチャンネルに出演しない旨を合意してもらうという対応が考えられます。

当該YouTubeチャンネルの運営に必要な出演者が存在している場合、事業譲渡後も引き続き動画に出演してもらえれば、再生回数を安定して稼ぐことができます。そのため、必要があれば、引き続き動画に出演してもらえるような取り決めを行う必要があります。

また、今後動画に出演してもらわず、譲り受けた会社が独自に運営していく場合には、一定期間、当該出演者に他のYouTubeチャンネルへの出演を禁止することが考えられます。なぜなら、当該出演者が他の動画に出演してしまうと、そちらに視聴者が移っていってしまう可能性があるからです。ただ、他のYouTubeチャンネルへの出演を禁止するということは、当該出演者の職業選択の自由を制約することとなりますので、永久に他のYouTubeチャンネルの動画への出演を禁止するとの合意は、公序良俗に反し無効と判断される可能性があります。そこで、ケースに応じて、合理的な期間を取り決める必要があります。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。昨今、人気化しつあるYouTuberやVTuberの間でも、法務リスクは存在します。特にチャンネル譲渡などの金銭が関わることとなると、後々大きな火種となりかねません。当事務所ではYouTuberやVTuberの法務対応も行っております。下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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