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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

VTuberチャンネルの事業譲渡契約書の要チェックポイント

YouTuber・VTuber法務

今や誰しもが知るところとなったYouTuberの人気ぶり。多くのフォロワーを有するYouTubeチャンネルは財産的価値を持つようになりました。VTuberのチャンネルも同様に財産的価値を持つものとして注目されています。そのため、「事業譲渡」や「買収」の対象になることがあります。

ただ、VTuberチャンネルの事業譲渡契約自体は歴史が浅く、事業譲渡契約書の中で、どのような点に気をつけるべきかという事について、必ずしも十分に認識されていません。

そのため、本記事では、VTuberチャンネルの事業譲渡契約書を作成する際に気を付けるべきポイントについて、解説します。

VTuberとは

VTuberとは、バーチャルYouTuberの略で、2Dや3Dのキャラクターやアバターを用いて、YouTube活動をしているYouTuberのことをいいます。

VTuberとしては、「キズナアイ」が有名です。

「キズナアイ」は、2016年末からVTuberとしての活動を開始し、現在も人気VTuberとして活躍しています。

VTuberチャンネルが事業譲渡の対象になる理由

前述のようにVTuberチャンネルには財産的価値が認められます。

具体的には、チャンネル登録者数が多ければ多いほど財産的価値が高いと考えられます。

VTuberに限らず、YouTubeに投稿された動画は視聴されなければ意味がなく、チャンネル登録者数が多ければ、その分動画が視聴される可能性が高いといえます。自らVTuberチャンネルを立ち上げ、チャンネル登録者数を増やしていく事は、通常、とても時間がかかりますので、すでにある程度のチャンネル登録者数のあるVTuberチャンネルには、財産的価値が認められます。

事業譲渡契約書を作成する際に気を付けるべきポイント

以下では、VTuberチャンネルの特性を踏まえつつ、具体的な条項を示し、事業譲渡契約書を作成する際に気をつけるべきポイントを説明します。

事業譲渡の対象となる譲渡財産に関する条項

VTuberチャンネルに関しては、アカウントに関する権利、すでに投稿されている動画の著作権、キャラクターやアバターの著作権等、様々な財産的要素が認められるため、事業譲渡契約書の中で、事業譲渡の対象となる財産を明確にしておく必要があります。

具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。

第●条(譲渡財産)

1.     本契約に関して譲渡される財産の内容は、以下の通り(以下「譲渡財産」という。)とする。
(1)  本件キャラクターの著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)、特許権、実用新案権、商標権、パブリシティ権その他の一切の知的財産権(以下、単に「知的財産権」という。)
(2)  YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/●●●/)に関連する一切の権利
(3)   本件キャラクターに関するSNSアカウント(Twitter:https://twitter.com/●●●、Instagram:https://www.instagram.com/●●●/)に関連する一切の権利
(4)   第1号で規定される権利のほか、甲が保有する本件キャラクターに関連する一切の権利
(5)  本件キャラクターに関連する一切のグッズ及び商品
2.     甲及び乙は、甲と乙との間には、本契約に定めるもののほかに何ら債権債務が存在しないことを相互に確認する。
3.     甲は乙に対し、譲渡日において、譲渡資産に加えて、本件VTuberチャンネルに関する営業上の秘密、ノウハウ、顧客情報、営業手法等、乙が別途個別に指定した全ての情報を譲渡するものとする。

譲渡価額に関する条項

事業譲渡契約において、金銭に関する事項は、トラブルが生じやすい事項になります。

そこで、譲渡契約書において、譲渡価額に関する事項を明確に定めておくことが重要となります。

具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。

第●条(譲渡価額)
1.     譲渡財産の対価(以下「譲渡価額」という)は金●万円(税込)とする。
2.     乙は甲に対し、令和●年●月までに、前項で規定される譲渡価額を、甲の指定する下記の口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
   ●●銀行 ●●支店
   普通預金口座 口座番号:●●●●●●●
   口座名義:●●●●
3.     本契約締結以後、乙は、本件キャラクターに関連する金員を受領した場合、受領した金員を、金員を受領した日から1週間以内に、前項で規定される口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。

譲渡財産の移転方法や移転時期に関する条項

VTuberチャンネルの事業譲渡における譲渡財産については、前述のように、様々な財産が含まれます。そのため、事業譲渡契約書において、譲渡財産の移転方法や移転時期を明確にしておくことにより、トラブルが生じることを回避することができます。

具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。

第●条(譲渡財産の移転)
1.     甲は、本契約締結後、第●条にかかる譲渡財産の譲渡に着手するものとし、譲渡財産の譲渡に対抗要件の具備等の手続が必要な場合、甲は、当該手続を講じるものとし、乙はこれに協力する。
2.     甲は、前項の譲渡財産の譲渡と対抗要件の具備等の手続を、本契約締結後30日までに完了するものとする。
3.     前2項に関し、必要となる一切の費用は、甲の負担とする。

VTuberチャンネルの価値の維持に関する条項

VTuberチャンネルを譲渡する場合、契約締結日に譲渡が完了するわけではなく、契約締結後、一定期間経過後までにVTuberチャンネルの譲渡が完了されることが一般的です。

そこで、VTuberチャンネルの価値を維持するための条項として、以下のような条項を規定することが考えられます。

VTuberチャンネルの事業譲渡契約書において、譲渡価額は、契約締結時の状態を基準に算定されます。そのため、契約締結時から、実際に譲渡財産の譲渡が完了するまでの間に、VTuberチャンネルの価値を維持する必要があります。

第●条(譲渡日までのVTuberチャンネルの運営)
1.     甲は、譲渡日まで、本契約に関連して適用のある一切の法律、規則、規制、契約および他の拘束をすべて遵守して善良なる管理者の注意をもって本件VTuberチャンネルの管理・運営を続行するものとする。
2.     甲は、譲渡日まで、本件VTuberチャンネルの価値を減少させる可能性のある一切の行為を行わないものとする。

また、VTuberチャンネルの価値が、事業譲渡契約締結時よりも低下した場合等に、解除を認める旨の条項を規定することも考えられます。

第●条(譲受条件と解除)
1.     乙による本件VTuberチャンネルの譲受は、譲渡日において、以下の各号の事項がすべて満たされることを条件とする。
(1)   甲が本契約上の義務に違反していないこと
(2)   本契約締結後から譲渡完了までの間に、本件VTuberチャンネルの価値に重大な影響をもたらすような事由が発生していないこと
2.     前項各号の条件が満たされず、かつ、違反の改善または事由の解消が困難な場合、乙は、本契約を解除することができる。
3.     第1項各号の条件が満たされなかったことにより乙に損害が生じた場合、乙は、甲に対し、前項で規定された本契約の解除とともに、乙が被った損害の賠償を請求することができる。

競業避止に関する条項

VTuberチャンネルの人気に影響する要素としては、キャラクターやアバターが考えられますが、キャラクターやアバターの声を担当している声優も重要な要素です。

声優の人気が要因となり、VTuberチャンネルが人気となっている場合、VTuberチャンネルの譲渡後に、当該声優が他のVTuberチャンネルを運営することにより、事業譲渡の対象となっているVTuberチャンネルの価値が、相対的に低下してしまう可能性があります。

そこで、競業避止義務に関する条項を規定することが考えられます。

具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。

第●条(就業避止義務)
1.     甲は、本契約締結後2年間、本件声優との間で、他のVTuberチャンネルの運営に関する契約等、本件VTuberチャンネルと競合する可能性のある行為を目的とした一切の契約を締結してはならないものとする。
2.     甲は、前項に違反した場合、乙に対し、違約金として、金●万円を支払うものとする。

適用法と管轄に関する条項

VTuberチャンネルの譲渡の場合、インターネットが、国境を越えて利用できることから、日本国内の相手だけでなく、外国の相手と事業譲渡契約が締結されることも考えられます。そのため、適用法と管轄に関する条項を規定しておかなければ、後々、問題が生じてしまう可能性があります。

そこで、以下のような条項を規定することが考えられます。

第●条(適用法と管轄)
1.     本契約に関する解釈および紛争に対しては日本法を適用するものとする。
2.     本契約に関して生じた紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

まとめ

以上、VTuberチャンネルの事業譲渡契約書を作成する際に気を付けるべきポイントについて解説しました。

VTuberチャンネルの譲渡契約は、近年登場した契約ですので、VTuberチャンネルの譲渡契約書を作成した経験のある人は必ずしも多くありません。また、VTuberチャンネルの事業譲渡契約書に関しては、ITや著作権に関する知識も要求されますので、専門知識を有する弁護士に相談をすることをオススメいたします。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上で人気化するYouTuberやVTuberの顧問案件を多く承っております。チャンネル運用や契約関連などで、リーガルチェックの必要性が増加しております。当事務所では専門知識を有する弁護士が対策にあたっております。

下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

https://monolith.law/youtuberlaw
弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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