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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

YouTube動画の無断撮影で起こりうる問題点と対処法を解説

YouTuber・VTuber法務

YouTubeは、世界中で多くの人が利用している動画投稿サイトです。

手軽に動画を投稿でき、投稿した動画が注目を集めれば大量のアクセスを稼ぐことができるでしょう。さらに、動画再生の広告収入のみで生計を立てる、いわゆるYouTuberと呼ばれる職業が登場し、多くの人のあこがれの存在となっています。

一方、YouTube上には、他人が映り込んだ動画を、映っている人に無断でアップロードしていると思われる事例も数多く存在しています。

撮影した動画に他人が写っている場合、写っている人に無断で自分のアカウントで動画を投稿することは、肖像権等の権利侵害にあたる可能性があるのです。

そこで、本記事では、YouTube動画の無断撮影で起こり得る問題とその対策について解説します。

YouTube動画の無断撮影は肖像権侵害となる可能性がある

動画の無断撮影によって侵害する可能性がある権利として、まず挙げられるのは、肖像権です。

そもそも、肖像権とはどのような権利なのでしょうか。肖像権侵害の成立要件や肖像権侵害となり得る場合についても説明します。

肖像権とは

「肖像権」は法律で定められた権利ではなく、憲法13条の幸福追求権に基づいて、判例で認められている権利です。

日本において肖像権について言及した初めての判例である最大判昭和44年12月24日は、「これを肖像権と称するかどうかは別として」と留保しつつも、以下のように述べています。

個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。

最大判昭和44年12月24日刑集第23巻12号1625頁

さらに、 最判平成17年11月10日は、以下のように判示しています。

人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、(省略)また、人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する(省略)

最判平成17年11月10日 民集第59巻9号2428頁

これらの判例から、肖像権の内容として、「撮影されない権利」と「公表されない権利」の2つが認められていると考えられています。

ただ、肖像権とは、「自分の顔や姿を無断で撮影・公表されることを、無条件で禁止できる権利」ではありません。では、どのような場合に肖像権侵害は成立するのでしょうか。

肖像権侵害が成立する要件

前述のとおり、「肖像権」は法律で定められた権利ではなく、判例と解釈で認められている権利です。したがって、肖像権侵害が成立するかについても過去の判例を参考に判断されることになります。

判例では、明確に要件を挙げているわけではありませんが、以下のような諸事情に照らして肖像権侵害といえるかを総合的に判断することとされています。

  • 撮影された人の社会的地位
  • 撮影された人の活動内容
  • 撮影された場所
  • 撮影の目的
  • 撮影の態様
  • 撮影の必要性

例えば、動画に映っている人物の顔や姿が本人を特定できるほど明瞭である場合には、肖像権侵害と判断される可能性は高まります。反対に、風景を撮影した動画の中にたまたま通行人が小さく映り込んだという程度であれば、肖像権侵害となる可能性は高くありません。

また、映っている人の立場からみて「撮影されたくない」「公開されたくない」と感じるような撮影方法である場合には、肖像権侵害となりやすい傾向にあります。例えば、自宅などプライバシーが保護されるべき場所での様子を外から無断で撮影されているようなケースや、酔いつぶれて道端で寝ている動画などを通行人に撮影されているようなケースです。

肖像権侵害が成立する基準や判例に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

無断撮影や利用で肖像権侵害になり得るYouTube動画とは

動画の撮影や投稿において、実際に肖像権侵害となるリスクの高い具体的な事例を以下で説明します。

セミナーの様子を無断で動画撮影

セミナーを開催している人が、自分のアカウントでセミナーの様子を動画で公開することがあります。実際のセミナーの様子が分かる動画は、参加するか迷っている人に、内容や参加者の雰囲気を伝えることができる有効な集客手法としてよく用いられています。

しかし、参加者の顔がはっきり映る状態でセミナーの様子を無断撮影すると、肖像権侵害にあたります。これを回避するためには、事前に参加者から個別に承諾を得る必要があるでしょう。もし、承諾を得られない場合には、その参加者が特定できないように画像を加工しなければ、動画を公開してはいけません。

また、動画に映っている参加者から承諾を得る場合には、後々トラブルに発展しないよう、口頭で済ますのではなく証拠の残るメールなどを利用するのもポイントです。

無断撮影した画像の利用

YouTubeに投稿する動画のクオリティ向上のために、自分で撮影した写真を掲載したり、動画の途中にアイキャッチ画像を挿入したりすることはよくあります。

このような場合に使用する画像においても、肖像権侵害とならないように注意する必要があります。

特に、撮影した写真に映り込んでいる場合は、人物の顔や姿が本人を特定できるほど明瞭ではないか、映っている人の立場からみて「撮影されたくない」「公開されたくない」と感じるような撮影方法で撮影したものではないかを確認する必要があります。

さらに、その写真を使用する場合には、映っている人にきちんと承諾を得ることを忘れないようにしましょう。

肖像権侵害となった場合のペナルティ

肖像権侵害をしたからといって刑事上の罪に問われることはありませんが、民事上の責任を追及される可能性はあります。具体的には、公開した動画の削除を請求されることや差し止め請求、さらに慰謝料として損害賠償請求をされることがあり得ます。

肖像権侵害による損害賠償請求をするためには、動画を公開した側に故意又は過失があることが必要です。つまり、過失があれば肖像権侵害として不法行為の成立が認められる可能性があるということです。

通常、自分の撮影した動画については内容を確認してから公開します。このため、「人が映っているとは気づかずに配信した」という言い訳は認められないことが多いでしょう。

したがって、人が映っている動画を公開したことについての過失はほとんどのケースで認められることになります。動画の撮影や公開が上で説明した肖像権侵害にあたるのであれば、違法となってしまうことが多いでしょう。

また、YouTubeなどに肖像権侵害となる違法な動画をアップロードしていた場合には、YouTubeからアカウントを凍結されるリスクもあるため注意が必要です。ロケ動画をYouTubeで公開する際の注意点に関しては、弊所下記記事でも詳細に解説しています。

肖像権だけではない!YouTubeの無断撮影の問題点

ここまで、肖像権侵害について解説してきましたが、無断撮影した動画をYouTubeに投稿することには、その他にも様々な権利侵害の可能性があります。

パブリシティ権の侵害

肖像権としばしば混同される権利として「パブリシティ権」があります。パブリシティ権は、芸能人やスポーツ選手などの有名人が、自己の肖像・氏名が経済的価値を有する場合に、自らの経済的価値をコントロールする権利のことをいいます。したがって、パブリシティ権を持つのはその肖像に経済的な価値のある有名人に限られることになります。

「著名」とはいえない一般市民の場合、問題となるのは専ら「肖像権」の方です。パブリシティ権は、前提として、「顧客吸引力」を有する芸能人など有名人についてのみ問題となる権利です。

したがって、芸能人の撮影現場等に遭遇したときに、その有名人を無断で撮影し、YouTube等に投稿することはパブリシティ権を侵害することとなり、原則許されないため、注意が必要です。

どのような場合にパブリシティ権が発生するかについては、弊所下記記事にて詳しく解説しています。

プライバシー権の侵害

プライバシー権も、明文で保障されているわけではありませんが、判例上、憲法13条に基づく「個人の私生活上の自由」として認められており、要は「私生活上の情報をみだりに公開されない権利」です。

判例で認められているプライバシー侵害の典型例のうち、YouTubeの無断撮影との関係で問題となり得るものとして、「日常生活・行動」、「氏名・住所・電話番号」、「家庭内の私事」などが挙げられます。

このような情報を撮影対象者に無断で撮影・投稿することは、プライバシーの侵害にあたる可能性があるため、十分注意する必要があります。

どのような動画がプライバシー侵害に当たるかについては、弊所下記記事にて詳しく説明しています。

著作権の侵害

著作権とは、著作物を保護するために、著作権者が有する権利の事を言います。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」をいい、身近な著作物としては、音楽、絵画、アニメ、漫画、映画、写真等が挙げられます。

YouTubeにおいて、これらの著作物が写り込んだ動画を、著作権者の許諾なく投稿することは著作権侵害に当たる場合があります。しかし、撮影する動画内に一切著作物が写りこまないようにすることは非常に困難です。

そこで、令和2年の著作権法改正によって、いわゆる「写り込み」にかかわる権利制限規定の対象範囲が拡大されたことで、日常生活において一般的に行われ得る行為に伴う「写り込み」が、幅広く認められることとなりました。

著作権法改正と「写り込み」については下記弊所記事にて詳しく解説しているので、ご参照ください。

YouTubeの無断撮影が問題になることを避けるための対処法

YouTubeの無断撮影が問題にならないよう、注意すべき点を解説します。

撮影許可を取る

まず、当然ながら、「撮影可」、「撮影禁止」など事前に撮影の可否を明らかにしている場所では、それに従う必要があります。

しかし、撮影の規模や使途によって撮影の可否が変わる場所もあります。そのような場合には、撮影場所の管理元に問い合わせ、必要であれば撮影許可を取りましょう。

撮影許可を取らずに無断撮影すると、後々トラブルに発展しかねないため、事前によく下調べをし、必要に応じて許可を取ることが重要です。

写り込んでしまった人や物はきちんと加工する

どんなに注意していても、通行人などが写り込んでしまうことはあります。その場合は、モザイクやぼかしなどで編集し、人物や物が特定されないように配慮しましょう。

先述の通り、無加工でアップロードしてしまうと、動画の削除を請求されたり、肖像権侵害として訴えられたりする可能性があります。

まとめ:YouTubeの無断撮影は周りに配慮することが大切

YouTube投稿のために無断で動画撮影する場合は、あくまでも「撮影させてもらっている」という意識の元、周囲の人や撮影場所に迷惑をかけないよう十分に配慮して撮影しましょう。

また、撮影中に管理者や店側から注意されたら、速やかに撮影を中止しましょう。
プライバシーやマナーに十分配慮することで、トラブルに巻き込まれることを予防できます。

それでも、トラブルに発展することは往々にしてあります。特に、YouTubeなどの動画サイトにアップロードする際には、上記以外にも気を付けなければならない法律が多岐に渡って存在します。

トラブルに巻き込まれた場合はもちろんのこと、人が写り込んでいる動画を公開したい場合や、許諾の取り方に不安がある場合には、ITビジネスの経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。昨今、YouTuberやVTuberの間でも、チャンネル運用にあたって、肖像権や著作権、広告規制などリーガルチェックの必要性が急増しております。また契約をめぐる問題についても事前にしっかりと下準備をしておくことが不可欠です。下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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