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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

カラオケ動画は違法?動画投稿で気をつけたい著作隣接権とは

YouTuber・VTuber法務

カラオケ音源を無断利用して動画を作成し、YouTubeにアップしていた男性が、2018年9月に、書類送検された事例があります。

送検容疑は、音楽配信会社がインターネットで有料配信しているカラオケ用音源を5回にわたり不正にダウンロードし、歌詞などをつけたカラオケ用動画をYouTubeに投稿し、約800万円の広告収入を得たというものですが、違反対象となったのは「著作隣接権」でした。

著作隣接権という権利は、あまり一般には意識されていないのですが、音楽の作成や利用においては、無視することができない重要な権利で、知識がないと、気づかずに違反してしまう可能性があります。

ここでは、音楽についての権利としての、著作隣接権を考えてみます。

著作隣接権とは

広い意味の「著作権」は、「著作者の権利(著作権)」と「著作隣接権」に分かれており、「著作者の権利(著作権)」が著作物を「創作した者」に付与されるものであるのに対して、「著作隣接権」は、著作物などを人々に「伝達する者」に与えられる権利です。

こうした「伝達」はさまざまな形態で行われていますが、著作権法では「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の4者を保護するものとして権利が生じ、著作権と同様、国際ルールに則って登録や申請などの手続きを行わずに自動的に発生します。

実演家とは

「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。」(著作権法第2条第1項第3号)と定義されています。なお、「著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」とは、たとえば、奇術,曲芸、手品、モノマネなどのことで、アイススケートショーやサーカスのように「観客向けのショー」として行われるものも実演になります。

「実演家」とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。」(著作権法第2条第1項第4号)と定義されており、何かを歌ったり踊ったり、朗読したりする人が実演家となりますが、著作物だけに限らず、手品やモノマネなどの著作物以外のものでも該当します。

そして保護される実演は、著作権法第7条により、

  • 日本国内で行われた実演  
  • 保護を受けるレコードに固定された実演  
  • 保護を受ける放送で送信された実演  
  • 保護を受ける有線放送で送信された実演  
  • 「実演家等保護条約」「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」 「TRIPS協定」「視聴覚的実演に関する北京条約」により我が国が保護の義務を負う実演

と、なっています。

レコード製作者とは

「レコード」は、音(著作物に限られない)を最初に固定(録音)したもの(いわゆる「原盤」)のことで、媒体は問われないので、CD、テープ、パソコンのハードディスクなどに録音された場合でも、レコードとなります(著作権法第2条第1項第5号)。なお、レコード(原盤)をコピーして市販されているCDなどのことを「商業用レコード」といいます(著作権法第2条第1項第7号)。

「レコード製作者」とは、ある音を最初に固定(録音)して原盤(レコード)を作った者です(著作権法第2条第1項第6 号)。

注意せねばならないのは、「音」は著作物に限定されないので、自然音なども対象となります。さらに、「音の固定」とはレコーディングに限らないので、カラオケ音源を作成したカラオケ事業者や、その他MIDIデータを作成する事業者などもレコード製作者となることです。

保護を受けるレコードは、著作権法第7条により、

  • 日本国民が作ったレコード
  • 日本国内で作られた(音が最初に日本国内で固定された)レコード
  • 「実演家等保護条約」「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」「TRIPS協定」「レコード保護条約」により我が国が保護の義務を負うレコード

と、なっています。

放送事業者とは

「放送」は、「公衆送信」のうち、公衆(「不特定の人」又は「特定多数の人」)によって同一の内容(著作物に限らない)が同時に受信されることを目的として行う無線送信であり、テレビ放送のように、番組が「常に受信者の手元まで届いている」ような送信形態のものです(著作権法第2条第1項第8号)。

サーバー等の自動公衆送信装置を介する場合は、「インターネット放送」「ウェブキャスト」など、装置内での「蓄積」を伴わずに送信される場合であっても、「番組が常に受信者の手元まで送信される」ものではないため、放送には該当しません。

「放送事業者」とは、放送を業として行う者と定義されており(著作権法第2条 1項第9 )、キャンパスFMなどで番組を送信(放送)した者なども対象となります。

保護を受ける放送は、著作権法第7条により、

  • 日本国民が業として行う放送
  • 国内にある放送設備から行われる放送
  • 「実演家等保護条約」「TRIPS協定」により我が国が保護の義務を負う放送

と、なっています。

有線放送事業者とは

「有線放送」は、「公衆送信」のうち、公衆によって同一の内容(著作物に限らない)が同時に受信されることを目的として行う有線送信であり、ケーブルテレビの有線放送のように、番組が「常に受信者の手元まで届いている」ような送信形態のものです(著作権法第2条第1項第9号の2)。

サーバー等の自動公衆送信装置を介する場合は、「インターネット放送」「ウェブキャスト」など、装置内での「蓄積」を伴わずに送信される場合であっても、「番組が常に受信者の手元まで送信される」ものではないため、有線放送には該当しません。

「有線放送事業者」とは、有線放送を業として行う者と定義されており(著作権法第2条第1項第9号の3)、保護を受ける有線放送は、著作権法第9条の2により、

  • 日本国民が業として行う有線放送(放送を受信して行うものを除く)
  • 国内にある有線放送設備から行われる有線放送(放送を受信して行うものを除く)

と、なっています。

著作隣接権と財産権

著作権は、「(財産権としての)著作権」と「著作者人格権」の2つがありますが、著作隣接権は基本的には1種類で、「財産権」となります。

ただし、実演家に対してのみ、著作者人格権に似た「実演家人格権」が与えられるので、実演家のみ「実演家人格権」と「財産権」の2種類が与えられることになります。

著作者が持つ財産権は基本的にすべて「許諾権」であり、他人が無断で利用することを止める事が出来る権利ですが、著作隣接権の財産権には、この許諾権の他に「報酬請求権」があり、他人が利用する場合に使用料などの条件を付けて利用させることができます。報酬請求権では他人の利用を止めることができませんが、お金を払いなさいということができます。

財産権については、「生の実演」と「レコードに録音された実演」と映画、放送番組、ビデオなどの「映画の著作物に録音・録画された実演」について分けて考えるといいでしょう。例えば、「映画の著作物に録音・録画された実演」の場合、俳優などの実演家の了解を得て録音・録画された実演を利用しようとするときには、原則として、改めて実演家の了解を得る必要はありません。(著作権法第91条第2項、第 92条第2項、第92条の2第2項)

しかし、音楽CDなどをコピーするような場合には、「作詞・作曲家」「レコード製作者」だけでなく、「歌手」や「演奏家」などの「実演家」の了解も得ることが必要となります。

これに対して、ビデオや DVD をコピーする場合には、映画製作者や脚本家等の了解を得ることが必要ですが、出演している「俳優」などの「実演家」の了解を得る必要はありません。

動画投稿と著作隣接権

2008年3月、YouTubeはジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)と国内で初めて包括利用許諾を締結し、同年5月にe-Licenseと、同年10月にJASRACとも利用許諾条件の合意に至っています。

また、ニコニコ動画は2008年~2009年に、USTREAMは2010年7月に、JASRAC、JRC、e-Licenseと包括利用許諾を締結しています。

この包括契約により、ユーザーはJASRAC管理楽曲を演奏したり、歌ったりした動画をYouTube等に投稿することができます。

しかし、 CD音源やプロモーションビデオをそのまま投稿したり、それをBGMに使ったりすることはできないということに注意せねばなりません。

なぜなら、これらの包括契約で権利処理されているのはあくまで「著作権」であり、JASRAC等が管理できない「著作隣接権」まではカバーされていないからです。

そして、音楽投稿において重要な著作隣接権は、レコード製作者の権利、原盤権と呼ばれるものです。

いわゆる原盤権

レコーディングのために歌手やミュージシャンなどの実演家と交わす契約においては、実演家の権利をレコード製作者(プロダクションやレコード会社、レーベルなど)に譲渡するのが一般的となっています。そのため、原盤権には通常これらの実演家の権利も含まれています。

なお、実演家の報酬請求権(放送使用料やレンタル使用料を請求できる権利)は譲渡されず、これらは文化庁が指定する団体(芸団協CPRA)を通じて行使されます。

原盤権は、レコード製作者の権利である「複製権」「送信可能化権」「譲渡権」「貸与権」という許諾権と、実演家の権利である「録音・録画権」「放送権・有線放送権」「送信可能化権」「譲渡権」「貸与権」という許諾権を含みます。

許諾権とは他人による利用を許可すること、逆に言えば許可しない限り他人は利用できないということなので、原盤の複製物である市販CDをコピー(=複製)するという利用は、原盤権を有する者の許可がなければ権利侵害になります。

YouTubeにアップしたり自身のSNSやホームページにアップするという送信可能化という利用についても同様です。

冒頭にあげた容疑者は、原盤権者の許諾が無いにも関わらず、複製や送信可能化という利用を行ったことにより、著作隣接権を侵害し、著作権法違反という容疑になったわけです。

著作隣接権と著作権

著作隣接権も、著作権法で定められている権利であるため、広い意味では著作権です。ただ、著作物を創作した著作者に与えられる権利である、財産権としての狭義の著作権とは異なるものという認識が必要です。

音楽の権利と言えばJASRAC(ジャスラック:日本音楽著作権協会)が有名ですが、JASRACが管理しているのは(狭義の)著作権の一部だけであり、著作隣接権とは無関係なのです。

つまり、音楽を利用する場合はJASRACに申請すればすべてOKというわけではなく、利用方法によっては著作隣接権者などJASRAC以外の権利者からの許諾も必要となるのです。

YouTubeやニコニコ動画等は、利用に関してJASRACと包括契約を結んでいるので、動画投稿者は、JASRCに申請することなくJASRAC管理楽曲を投稿することができます。しかしこれはJASRACが管理している範囲の権利、つまり財産権としての著作権に限って予め利用が許諾されているだけです。

ちなみに、翻案権などもJASRACは管理しませんので、JASRAC管理曲を編曲する場合も元の権利者(作曲者または音楽出版社)からの許諾が必要です。

すなわち、市販CDやダウンロード音源など、原盤と同じ音源を利用して動画を作成したり、動画投稿する場合には、原盤権者から「複製」や「送信可能化」の許諾を得なければなりらないのです。

なお、ニコニコ動画、ニコニコ生放送では、一部の楽曲について原盤権者から許諾を受けているため、その楽曲であれば個別に許諾を得る必要なく利用することができます。

音楽利用と著作隣接権

2016年にTBS系で放送されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のエンディングでは、星野源が、自身が歌う「恋」に合わせて新垣結衣らと軽快なダンスを披露し、通称「恋ダンス」として人気を集めました。YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトでは、さまざまな人々が「恋ダンス」を踊る動画をアップし、キャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使(当時)が踊った動画は再生数800万回を超えたりして、大ブームとなりました。

これは、「個人・非営利を目的として “恋ダンス”動画を制作し、公開していること」「使用される音源は、CDや配信で購入した音源であること」「動画で使用されている音源の長さがドラマエンディングと同様の90秒程度であること」という条件を満たせば利用しても良いという許諾が予め原盤権者から与えられていたので、特に申請することなく投稿できたからです(ただし現在は条件期間が終了しているため無許諾投稿はできません)。

そこで、音源の無許諾利用がダメなら、原盤そっくりのものを作ってしまう、というやり方が可能です。使いたい音源を耳コピして、自分で楽器演奏や打ち込みを行い、それを独自の音源として利用するのです。

面倒ではありますが、これなら自分が原盤の製作者となるわけなので、その原盤を自由に利用して動画投稿することができることとなります。

ただし、JASRACとの契約がある動画投稿サイトであればこの方法で問題ありませんが、個人のブログに載せる場合などは、別途JASRACからの許諾が必要となります。

まとめ

動画投稿サイトには、カラオケをバックに歌っている動画や、CD音源に合わせて踊る動画が多数投稿されていますが、そのほとんどは原盤権者からの許諾は得ていないものでしょう。

CD音源はもちろん、カラオケ店に配信される音源を作成した事業者もレコード製作者の権利を有していますから、こういった権利者からの許諾が得られていないということは、著作隣接権侵害の疑いが濃厚です。

著作隣接権を侵害しているか否かの判断は難しい場合も多いので、経験豊かな弁護士のアドバイスを求めましょう。

BGMの著作権について動画で知りたい方は、弊所YouTubeチャンネルの動画をご覧ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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