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YouTuber・VTuber法務

アイドルの「恋愛禁止条項」は法的に有効?2つの裁判例を紹介

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アイドルの「恋愛禁止条項」は法的に有効?2つの裁判例を紹介

YouTuber事務所とYouTuberの関係、VTuber事業主と声優との関係で、YouTuberや声優などのプライベートを制約する条項が含まれる契約が締結されるケースがあります。

しかし、このようにプライベートを制約する条項は、そもそも有効なのでしょうか。この問題は伝統的に、芸能事務所と芸能人の契約関係で問題とされてきているようです。

特に近年では、アイドルに対する「恋愛禁止条項」が含まれる契約が締結されるようなケースをよく見かけます。

本記事では、YouTuberや声優に対する契約内容を検討する前提知識として、「恋愛禁止条項」に基づく損害賠償請求が争われた裁判例をもとに、このような条項の有効性等について解説します。

アイドルの「恋愛禁止条項」が有名になったきっかけ

2021年2月、「文春オンライン」で、ハロー!プロジェクトのアイドルグループに所属する女性メンバー(24)が、シンガー・ソングライターとの熱愛を報じられました。メンバーとしての自覚を欠いていることを理由に、同グループでの活動を終了させることとなりました。

本人も「沢山の方の気持ちを裏切ってしまいました」と謝罪し、脱退を報告しています。

アイドルの「恋愛禁止」違反は、たびたび話題となりますが、ハロー!プロジェクトにおける恋愛禁止条項の存否については明らかになっていません。

幸い、今回は損害賠償などのトラブルにはならなかったようですが、マネジメント会社がアイドルの育成等に多額の金銭を支出している場合は多く、トラブルの種になりやすいものといえるでしょう。

そこで、以下では、アイドルの恋愛禁止条項に違反したことが原因で裁判に発展した場合、法的責任はどのように判断されるのか、2つの裁判例をもとに解説していきます。

事例①:恋愛禁止条項に違反したアイドルに損害賠償責任が認められた事例

最初の事例は、アイドルグループ元メンバーの女性(17)が異性との交際を禁じた規約に違反したとして、マネジメント会社などが、当該女性に対して損害賠償を求めたものです。

事案の概要

被告は、2013年3月に原告マネジメント会社と専属契約書を取り交わし、当該契約書には、「ファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合」には、契約の解除に加え、損害賠償を請求できる旨の規定が定められていました。

また、専属契約締結の際に、被告は、原告から「アーティスト規約事項」を受領し、その中には、下記のようないわゆる「恋愛禁止条項」が定められていました。

  • 私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止致します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止及び解雇とします。
  • CDリリースをしている場合、残っている商品を買い取って頂きます。
  • 異性の交際は禁止致します。ファンやマスコミなどに交際が発覚してからでは取り返しのつかないことになります。(事務所、ユニットのメンバーなどに迷惑をかけてしまいます)

このような契約を取り交わしていた被告でしたが、同年10月初旬頃、ファンと称する男性に誘われ、二人でラブホテルに行き、その男性がホテルの室内で、被告と二人でいる様子の写真を鏡越しに撮影しました(本件交際)。

その後、ファンを経由して、この写真をグループの他のメンバーが入手し、原告会社は、このメンバーから本件写真を見せられたことで、被告の本件交際を知るに至りました。そして、同年10月16日に急遽、グループは解散されることになりました。

主な争点

この事例では、主に次の3点が争点となりました。

  1. 本件交際が債務不履行及および不法行為にあたるか
  2. 損害の有無とその額
  3. 本件交際と損害の因果関係

以下では、上記各争点に対する裁判所の判断を見ていきましょう。

裁判所の判断

1.本件交際は債務不履行および不法行為にあたる

この事例では、まず、恋愛禁止条項を含む本件規約については、被告の母親が署名押印しており、被告自身は署名押印していないため、被告が契約責任を負うのかが争点となりましたが、裁判所は、この点について、次のように判示しました。

…原告の供述によれば,原告が被告に対し本件規約の内容の読み合わせをした事実が認定できる(原告の上記供述は,同人には原告の代表取締役としてアイドルとして活動を開始する被告に対し本件規約の内容を知ってもらう動機があること,被告自身もファンと仲がいいことが発覚してはいけないことや本件規約に恋愛禁止と記載されていることを知っていた事実と整合すること,被告らが指摘する原告証言の変遷は勘違いによるものと見るべきことなどに照らして,十分に信用することができる。)。
 被告は,本件規約の読み聞かせを受けていないと主張するが,上記認定に照らして採用できない。
 以上から,被告は,本件グループで活動するにあたり,恋愛禁止条項について説明を受け,その内容を認識していた事実が優に認定できる。

東京地方裁判所平成27年9月18日判決

つまり、アイドル自らが契約書等に署名押印していなくても、契約書等の内容の読み合わせなどの機会があり、当該アイドル自身が恋愛禁止条項の存在を認識していれば、当然に恋愛禁止条項を含む契約責任を負う、と言えるでしょう。

さらに、本件では、恋愛禁止条項が死文化していたかどうかも争点となりましたが、裁判所は、この点について、次のように判示しています。

 確かに,本件グループの活動開始後も交際を継続していたメンバーが存在していた事実は認められるが,同人は交際の事実を原告らには隠していたのであり,また,当該メンバーが、ファンから性被害を受けたというものであることや相手方の確保や写真の回収等に協力的であったことなどを踏まえ,原告らが処分をしなかったとの事実も認定できるから,交際禁止条項の死文化を示すものとはいえない。
 そして,本件専属契約第10条2項は,その文言から見て,交際等が原告に発覚した場合について規定していると認めるのが相当であるし,本件規約7項は,ファンへの交際発覚を含む旨を明確に記載しているから,本件交際がファンや原告らに発覚したことが交際禁止条項の違反にあたることは明らかであるから,本件交際は債務不履行にあたる。
 加えて、一般に,異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならないことは,被告らが指摘するとおりであるが,被告は当時本件契約等を締結してアイドルとして活動しており,本件交際が発覚するなどすれば本件グループの活動に影響が生じ,原告らに損害が生じうることは容易に認識可能であったと認めるのが相当である。そうすると,被告が本件交際に及んだ行為が,原告らに対する不法行為を構成することは明らかである。

同上

つまり、他のメンバーが恋愛禁止に違反していて、マネジメント会社がその事実を知りながらなお処分等していない場合であっても、直ちに恋愛を黙認をしていることにはならない、ということです。

2.逸失利益の損害が認められるが、被告にも過失がある

本件では、本件交際の事実が広く世間に明らかにならなかったため、原告の信用毀損による損害の主張は認められなかったものの、以下のとおり、逸失利益としての損害が認められました。

原告らが支出した本件費用(衣装代、レッスン代等)は,本件グループの活動のために,本件交際の発覚前に支払われたものであることが明らかであり,これを直ちに原告らの損害と見ることは困難であるといわざるを得ない。

他方,原告らは,本件費用は本件グループから予想利益を得られなくなったことにより損害となった旨を主張しているところ,…原告の供述及び弁論の全趣旨に鑑みれば,芸能プロダクションは,初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ,これにより人気を上昇させてチケットやグッズ等の売上げを伸ばし,そこから投資を回収するビジネスモデルを有していると認められるところ,本件においては,本件グループの解散により将来の売上げの回収が困難になったことが優に認められる。

同上

他方で、マネジメント会社がアイドルに対して恋愛禁止条項を遵守させるために指導監督を十分にしていなかったとして、マネジメント会社にも過失があると判断され、過失相殺となりました。

 上記の各事実によれば,交際禁止条項は,死文化していたとまでは認められないものの,原告らにおいてこれを本件グループメンバーに遵守させようと十分な指導監督をしていたとも認められないのであって,これは原告らが本件グループを運営管理するにあたっての過失にあたるというほかなく,この過失は被告による本件交際の一因であったと解するのが相当である。
 その上で過失割合について検討すると,原告らが芸能プロダクションとして職業的にアイドルユニットを指導育成すべき立場にあることや,被告Y1が当時未だ年若く多感な少女であったことなどを踏まえると,本件交際における過失割合は,原告らが40,被告が60とするのが相当である。

同上

3.本件交際の発覚と本件グループの解散には因果関係がある

被告は、本件交際が発覚しても、本件グループを存続させればよかったのであるから、本件交際と本件グループの解散による損害には因果関係がないと主張しましたが’、裁判所は、次のように判示して、これを認めませんでした。

本件グループは女性アイドルグループである以上,メンバーが男性ファンらから支持を獲得し,チケットやグッズ等を多く購入してもらうためには,メンバーが異性との交際を行わないことや,これを担保するためにメンバーに対し交際禁止条項を課すことが必要であったとの事実が認められる。 

上記事実を前提とすると,原告らが主張するとおり,アイドル及びその所属する芸能プロダクションにとって,アイドルの交際が発覚することは,アイドルや芸能プロダクションに多大な社会的イメージの悪化をもたらすものであり,これを避ける必要性は相当高いことが認められる。

そして,本件においては,本件写真が既に一部のファンに流出していたのであるから,本件写真がさらに流出するなどして本件交際が広く世間に発覚し,本件グループや他のアイドルユニット,ひいては原告らの社会的イメージが悪化する蓋然性は高かったと認めるのが相当である。

したがって,原告らが本件グループの早期解散を決めたことにも一定の合理性があったと認められるから,本件交際の発覚と本件グループの解散との間には,相当因果関係があると認められる。

同上

事例①からわかること

  • アイドルと契約書等を交わす際は、読み合わせの機会など、必ずアイドル自身が恋愛禁止条項を認識できる機会を設けることが重要
  • 契約締結の段階だけでなく、恋愛禁止に関する指導・監督を継続的に行うことが重要

事例②:恋愛禁止に違反したアイドルに損害賠償責任が認められなかった事例

次は、アイドルグループに所属していた女性(23)が、ファン男性との交際を契機として、ライブへの無断欠席、連絡にも一切応じないなど、その後の出演業務を一方的に放棄した例を解説します。

芸能プロダクションが債務不履行又は不法行為等に基づく損害賠償を求めたというものです。

事案の概要

2012年4月、当時19歳9か月であった被告は、原告会社との間で「ファンと性的な関係をもった場合 またそれにより原告が損害を受けた場合」に原告会社が被告に対して直ちに損害賠償できる旨の条項を含む専属マネジメント契約(本件契約)を締結しました。

しかし、その後被告は、2013年12月頃からファンの男性と交際を開始し、男女関係を持った上、2014年7月11日、原告会社に対して、「安定しない収入でこの年になってまで親に迷惑かけたくなくて、ちゃんと就職して安定したいです」、「今年中に辞めます」とメールで伝えました。

これに対し、原告会社は「来年5月周辺で卒業できるように調整する」と返信しました。

しかし被告は、同月20日のライブに出演せず、同月26日に「2014年7月11日にメールで伝えた通り2014年7月11日をもって貴社との業務委託を解除します」と記載した内容証明郵便を差し出しました。

これを受け、原告会社は、8月17日に本件グループが行ったライブ会場において、被告が本件グループから脱退したこと、被告がファンと交際していたこと、それが重大な契約違反であり被告の本件グループ脱退の理由であることを観客に説明しました。

そして被告に対して、上記対応に要した労力・費用及び逸失利益を含む合計約880万円の損害賠償を求めて提訴しました。

この事例では、本件契約の法的性質や解除の効力発生時期など多くの争点がありましたが、特筆すべきは、恋愛禁止条項の有効性について判示した点です。

そこで以下では、恋愛禁止条項の有効性に絞って、裁判所の判断を取り上げます。

恋愛禁止条項は有効だが、損害賠償できる場合は限定される

恋愛禁止条項の有効性について、裁判所は、次のように判示しました。

確かに,タレントと呼ばれる職業は,同人に対するイメージがそのまま同人の(タレントとしての)価値に結びつく面があるといえる。その中でも殊にアイドルと呼ばれるタレントにおいては,それを支えるファンの側に当該アイドルに対する清廉さを求める傾向が強く,アイドルが異性と性的な関係を持ったことが発覚した場合に,アイドルには異性と性的な関係を持ってほしくないと考えるファンが離れ得ることは,世上知られていることである。それゆえ,アイドルをマネージメントする側が,その価値を維持するために,当該アイドルと異性との性的な関係ないしその事実の発覚を避けたいと考えるのは当然といえる。そのため,マネージメント契約等において異性との性的な関係を持つことを制限する規定を設けることも,マネージメントする側の立場に立てば,一定の合理性があるものと理解できないわけではない。
 しかしながら,他人に対する感情は人としての本質の一つであり,恋愛感情もその重要な一つであるから,かかる感情の具体的現れとしての異性との交際,さらには当該異性と性的な関係を持つことは,自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ,異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない自由は,幸福を追求する自由の一内容をなすものと解される。とすると,少なくとも,損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは,いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても,いささか行き過ぎな感は否めず,芸能プロダクションが,契約に基づき,所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に,所属アイドルに対して損害賠償を請求することは,上記自由を著しく制約するものといえる。また,異性と性的な関係を持ったか否かは,通常他人に知られることを欲しない私生活上の秘密にあたる。そのため,原告が,被告Y1に対し,被告Y1が異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求できるのは,被告Y1が原告に積極的に損害を生じさせようとの意図を持って殊更これを公にしたなど,原告に対する害意が認められる場合等に限定して解釈すべきものと考える。

東京地方裁判所平成28年1月18日判決

要するに、マネジメント会社が所属アイドルに対して恋愛禁止条項を設けることにも一定の合理性があり、有効ではあると示しました。

しかし、異性との交際が憲法上の幸福追求権に基づくものであることから、損害賠償が認められるのは、当該アイドルがマネジメント会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限られる、とされました。

本件では、上記「当該アイドルがマネジメント会社に損害を与える目的」が認められなかったため、結論として、恋愛禁止条項の違反を理由とする損害賠償が認められなかった、ということになります。

事例②からわかること

  • 恋愛禁止条項を設けること自体は有効
  • しかし、恋愛禁止条項の違反を理由とする損害賠償請求は、当該アイドルがジメント会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限り認められる

まとめ:アイドルの恋愛禁止条項の違反に対する措置に困ったら弁護士に相談しよう

本記事で紹介した2つの事例は、いずれも下級審のものであり、今後、必ずしも上級審においても同様の判断が維持されるとは限りません。

そもそも、恋愛禁止条項の有効性や、恋愛禁止条項の違反を理由とする損害賠償請求が認められるかは、様々な要因を比較衡量して判断されるべきであり、「当該アイドルがマネジメント会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限られる」とするのは、判断が硬直的すぎるように思われます。

そして、この問題は、所属タレントのプライベートを制約するという意味で、マネージメント会社と所属アイドルの関係だけにとどまらず、YouTuber事務所とYouTuber、VTuber事業主と声優との関係でも、同様に生じうる問題です。

以上のとおり、恋愛禁止条項は様々な問題に発展しうるとともに、法的にも困難な問題を含んでいます。お困りの場合は、この分野に実績のある弁護士にぜひ相談しましょう。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上で人気化するYouTuberやVTuberの顧問案件を多く承っております。チャンネル運用や契約関連などで、リーガルチェックの必要性が増加しております。当事務所では専門七騎を有する弁護士が対策にあたっております。 下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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