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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

YouTuberの事務所所属用の契約書と要チェックポイントとは(前編)

YouTuber・VTuber法務

YouTuberの事務所所属用の契約書と要チェックポイントとは(前編)

現在、若年層を中心としてYouTubeを閲覧する人口が急速に増加しています。子供の将来なりたい職業にYouTuberが挙げられるようになるなど、有名なYouTuberは芸能人と同じように憧れの存在として認知されてきています。そのような状況の中、YouTuberのマネジメント事務所の存在が話題に上がることも増えてきました。特に、2017年8月にマザーズへの上場を果たしたUUUM株式会社に代表される大手マネジメント事務所には数多くの有名YouTuberが所属しています。YouTubeにおけるチャンネル登録者数が多いYouTuberはマネジメント事務所からスカウトを受ける機会もあり、実際に所属を検討したことのあるYouTuberもいることでしょう。そこで、YouTuberがマネジメント事務所と契約を締結する際にポイントとなる契約条項や契約交渉における留意点について解説します。

YouTuberが事務所と締結する契約とは

YouTuberが事務所と契約するメリット

YouTuberが事務所と契約するメリットとは?

YouTuberが事務所とマネジメント契約を締結するメリットとしては、YouTuberがマネジメント事務所から営業支援を受けられる点が挙げられます。営業支援と一言でいっても内容は多岐にわたりますが、比較的よくみられるのは次のような内容です。

  • 企業からの広告案件の獲得
  • イベントの主催、運営
  • トラブル対応

企業からの広告案件の獲得

有名YouTuberともなると消費者に大きな影響力を持つため、企業が自社の商品やサービスを宣伝する目的でYouTuberに動画制作を依頼することがあります。これが、企業からの広告案件です。このような広告案件を獲得してくることもマネジメント事務所の役割です。企業の広告案件では、YouTubeの閲覧に伴うYouTubeからの広告収入だけでなく企業から広告費も受け取ることができますので、YouTuberにとっては大きな収益源となります。なお、マネジメント事務所を介さず企業とYouTuberが直接契約するケースに関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

イベントの主催、運営

マネジメント事務所は、YouTuberが出演するイベントの主催や運営業務も行うことがあります。特に大規模なイベントに出演できれば認知度向上にもつながることから、YouTuberにとってのメリットは大きいといえます。

トラブル対応

上記に加え、意外と重要なのがトラブル対応です。YouTuberとして顔を出したり本名で活動したりしている場合には、そのYouTuberに敵対的感情を持つアンチといわれる人たちからいわれなき攻撃を受ける可能性が否定できません。ひどい場合には自宅住所などの個人情報を特定し、家族などに危害を加えるような脅しを受けることもあり得ます。このような被害を受けた場合にYouTuber自身が対応すると更なる炎上の危険性があるうえ、対策をとるために弁護士や警察に相談したり等の手間暇がかかります。YouTuberにとって最も重要な活動は動画制作ですが、人気のあるYouTuberほど動画制作にはかなりの工数を要することが一般的です。

したがって、トラブル対応に手間を取られると動画制作をする時間がとれなくなり収益減に直結します。YouTuberが事務所とマネジメント契約を締結すると、多くの場合に事務所がYouTuberと協同してトラブルの解決にあたることになります。YouTuber一人で対応しなければならないことに比べれば非常に心強い存在となり得ます。また、万が一YouTuberのチャンネルやアカウントが凍結されたような場合にも、マネジメント事務所がYouTuber本人に代わってYouTube側と交渉してくれることもあります。

YouTuberが事務所と契約するデメリット

YouTuberがマネジメント事務所と契約を締結することのデメリットとは?

YouTuberがマネジメント事務所と契約を締結することのデメリットとしては、次の2点が挙げられます

  • 収入の減少
  • 言動や活動内容に対する制約

収入の減少

YouTuberはマネジメント事務所に対してマネジメントフィーを支払う必要があります。一般的にYouTuberが支払うマネジメントフィーは、事務所が獲得した企業案件において企業が支払う額の20%前後です。マネジメントフィーの支払いは、YouTuberが事務所と契約することにより享受することのできるメリットの対価なので、マネジメントフィーに見合う営業支援を受けられると考えるか否かによってデメリットといえるかが変わるといえるでしょう。

例えば、YouTubeで顔や本名を出していないとか、海外に住んでいて実際に危害を加えられる危険性の低いYouTuberの場合には、上でメリットとして挙げたトラブル対応は必要ないと考えるかもしれません。この場合には、マネジメントフィーが発生することのデメリットの方が大きいということもあり得ます。

言動や活動内容に対する制約

YouTuberが事務所とマネジメント契約を締結すると、事務所にとってYouTuberはいわば商品となります。特にYouTuberが企業案件を行っている場合には、そのYouTuberが倫理的に問題のある言動をとれば、宣伝をしている企業自体のイメージダウンにも繋がります。このため、マネジメント事務所と契約を締結すると、YouTuberは自身のイメージを保持しなければいけない立場となります。万が一、問題のある言動によって企業にダメージが発生するようなことが起これば、損害賠償請求を受ける可能性もあります。

このような制約をわずらわしいと考える場合には、事務所と契約することがデメリットとなり得ます。また、マネジメント事務所との契約内容によっては、事務所が主催するイベントに必ず参加しなければならないなど活動内容に対して一定の義務が生じることもあります。そもそも、時間や場所に拘束されず活動できることをYouTuberのメリットと考えている人もいますので、そのような考えの人にとっては好まない活動へ参加しなければならないことはデメリットとなるでしょう。

YouTuberが事務所と締結する契約の法的性質

YouTuberと事務所との契約の法的性質としては、準委任的側面と請負的な側面が混在した無名契約となります。

YouTuberが事務所と締結する契約は、タレントが芸能事務所と締結するタレント専属契約と類似しています。タレント専属契約書の法的性質に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

YouTuberが事務所と締結する契約は、マネジメント会社がYouTuberの知名度や収益向上につなげるための営業支援を行い、その対価としてYouTuberが収益の一部をマネジメントフィーとして事務所に支払う内容となっています。YouTuberと事務所との契約の法的性質としては、事務所がYouTuberに依頼したイベント出演等の業務をYouTuberが受託するという準委任的側面と、事務所の依頼内容に従ってYouTuberが動画などの成果物を制作する請負的な側面が混在した無名契約とみることができます。

無名契約とは、民法で定める定型的な契約類型の範囲外の契約という意味であり、契約書で権利義務をどのように定めるかによって法的性質が変わってくることになります。例えば、マネジメント事務所との契約を準委任と捉える場合には、途中で業務を中断しても途中までの報酬が発生することがありますが、請負と捉える場合には成果物の作成が途中で中断した場合には報酬が一切支払われないことが原則です。もっとも、既に説明したとおり、マネジメント契約の法的性質を準委任と請負のいずれと考えるかは契約書の内容によって変わってきます。このため、契約書において事務所とYouTuber双方の権利義務の内容がどのように定められているかが重要ということになります。そこで、後編ではYouTuberが事務所と締結する契約書における重要なポイントについて詳しくみていきます。

まとめ

YouTuberがマネジメント事務所に所属すると、営業支援や雑務などを代行してもらうことによりYouTuberが動画制作に専念できるというメリットがあります。もっとも、本記事でも説明したようにYouTuberの活動の仕方は様々であり、中にはこのメリットがそれほど享受できないYouTuberもいることでしょう。したがって、それぞれの活動に合わせて、事務所に所属するのか個人で活動するのかを判断していくことが望まれます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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