弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-17:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

バーチャルYouTuber・VTuber声優への業務委託契約書のチェックポイント

YouTuber・VTuber法務

バーチャルYouTuber・VTuber声優への業務委託契約書のチェックポイント

最近になって急速に人気を集めているものとしてバーチャルYouTuber・VTuberがあります。バーチャルYouTuber・VTuberはYouTuberの一種です。YouTuber動画では動画に生身の人が登場するのに対し、バーチャルYouTuber・VTuber動画ではアバターと呼ばれるキャラクターを使って動画配信を行うため人間は基本的に登場しません。そして、バーチャルYouTuber・VTuber動画は、キャラクターに声優が音声を吹き込むことで動画として成立します。バーチャルYouTuber・VTuberが声優を兼ねているケースもありますが、そうではなくバーチャルYouTuber・VTuberの運営者自身は動画制作や企画のみを行い、声の吹込みを別の人に依頼するケースもあります。そこで、後者のようにバーチャルYouTuber・VTuber動画における声の吹込みを声優に依頼するための業務委託契約書について解説します。

バーチャルYouTuber・VTuberにおける声優への業務委託契約書とは

バーチャルYouTuber・VTuberにおける声優への業務委託契約書では
一定の結果発生を保証する請負契約としての側面も併せ持つと解釈されることが一般的でしょう。

声優への業務委託契約書の目的

バーチャルYouTuber・VTuber動画を制作するためには、出演させるキャラクター(アバター)の作成、動画の編集、声の吹込みという複数の工程が必要となります。バーチャルYouTuber・VTuberの声優に対する業務委託契約書とは、上記の工程のうち声の吹込みに関する業務について、バーチャルYouTuber・VTuber以外の声優に委託することを目的とした契約書です。バーチャルYouTuber・VTuber動画の声優はプロの声優ではないこともあります。また、アニメなどと異なり、多くの場合に誰が声優を務めているかは公開されていない点も大きな特徴です。

声優への業務委託契約の法的性質

バーチャルYouTuber・VTuber動画の声優に対する業務委託契約は民法上定められた契約類型ではありません。このため、契約を実質的にみて契約の法的性質を判断する必要があります。業務委託契約の法的性質については一般に、準委任契約と請負契約の側面を併せ持つものと考えられています。準委任契約とは、契約上定められた業務の遂行についていわゆる善管注意義務を負うものの、結果の発生については責任を負わないものをいいます。善管注意義務とは、他人の業務を行うに際して通常求められるレベルの注意を尽くすべき義務をいいます。したがって、声優への業務委託契約を準委任契約と解釈する場合には、声優が一定の期日までに契約上指定された業務を完成することが報酬発生の要件とはなりません。

しかし、バーチャルYouTuber・VTuber動画の声優はバーチャルYouTuber・VTuberの指示に従って決められた声の吹込みを行うことが業務です。したがって、その限りで一定の期日内に業務を完成させること、すなわち結果発生が要求されていることが通常です。
したがって、バーチャルYouTuber・VTuber動画の声優に対する業務委託契約書は、準委任契約としての側面だけでなく声優が契約上定められた一定の結果発生を保証する請負契約としての側面も併せ持つと解釈されることが一般的でしょう。

ただし、後で説明するように声優に支払う報酬の算定方法を時給方式で計算する場合のように、成果物の納品を必ずしも報酬発生の要件としなくても良いのであれば準委任契約とする余地もあります。この場合には、解釈に疑義を生じさせないために「本契約は準委任契約とする」旨の条文を入れておくことが良いでしょう。

声優への業務委託契約書において重要な条項

バーチャルYouTuber・VTuberから声優に対する業務委託契約書におけるポイントについて説明していきます。

バーチャルYouTuber・VTuberから声優に対する業務委託契約書における重要な条項について、条項の規定例や交渉上のポイントを解説します。条項例において、「甲」はバーチャルYouTuber・VTuber、「乙」は声優とします。なお、バーチャルYouTuber・VTuber自身がマネジメント事務所に所属する際の契約書に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/corporate/virtual-youtuber-office-contract”]

業務内容に関する条項

第〇条(業務内容)
甲は乙に対し、別紙で定める甲が制作する動画における甲指定のキャラクターについて、音声の収録を行う業務(以下「本件業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。

業務内容の定めは、業務委託契約において根幹をなす条項といえます。したがって、声優が受託する業務の範囲を明確に定めることが重要です。具体的には、声の吹込みを行う動画の範囲やキャラクターの名称を契約書において具体的に指定します。なお、これらの具体的事項は契約書の本文において定めることだけでなく、契約書の別紙に記載することも可能です。上の条項例は契約書の別紙に具体的事項を記載することを想定した条文となっています。

また、受託者である声優が委託者であるバーチャルYouTuber・VTuberの制作する動画に継続的に出演するような場合には、基本契約となる業務委託契約書においては「別途個別契約において定める業務」などと抽象的に定めたうえで、実際に案件が発生した際に個別契約において具体的な業務内容を定めることも可能です。

報酬に関する条項

第〇条(報酬)
1.甲は乙に対し、本件業務に対する報酬として●●円(消費税別)を、本件業務を完了した月の翌月末日までに支払う。
2.甲が制作する動画により発生する一切の収益金は甲に帰属する。

条項例の第1項は、バーチャルYouTuber・VTuberから声優に対して支払われる報酬の算定方法を定めるものです。バーチャルYouTuber・VTuberの声優への報酬については、案件ごとや月額で固定報酬を定める方式が一般的です。なお、報酬を業務に要した時間に単価を掛け合わせる時給方式で計算することも一応可能ですが、業務委託契約として締結する以上は雇用関係が発生しないという点に注意する必要があります。したがって、バーチャルYouTuber・VTuberが声優に対して業務に要する時間数を指定するなど契約に定める以上の指揮監督はできないこととなります。

また、時給方式で報酬を算定する場合には声優が声の吹込みに要した時間を記録する必要が生じますので、時給方式を採用するのは録音に委託者が同席することができる場合に限られるのが実情でしょう。なお、バーチャルYouTuber・VTuber動画の配信により得られる広告料収入などについてはバーチャルYouTuber・VTuberが取得することになります。これは、動画配信の主体がバーチャルYouTuber・VTuberである以上当然のことですが、声優との間でトラブルを生じないために念のため条項例第2項のように定めることも有用といえます。

権利帰属に関する条項

声優に著作権が発生することを前提として当該著作権をバーチャルYouTuber・VTuberが無償で譲り受ける条項を入れておくことが望ましいです。

1.キャラクターに関し発生する知的財産権は、全て甲に帰属する。
2.本件業務の過程で発生する一切の知的財産権(著作権、著作隣接権を含み、著作権の場合には、著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は甲に帰属し、又は乙から甲に対して無償で譲渡される。乙は、甲に対して無償で譲渡した一切の著作物に関する著作者人格権を行使しない。

キャラクターに関して発生する知的財産権のうち特に重要なものは著作権です。著作権法上の著作物として保護されるためには、個性が表現された独自の創作行為により生み出されたことが必要です。動画制作における企画、シナリオ作成や全体の構成はバーチャルYouTuber・VTuberによって考案されることが通常です。したがって、基本的にはキャラクターに関する著作権等は元からバーチャルYouTuber・VTuberに帰属します。条項例の第1項はこの点を定めるものです。

一方、声優の声の吹込みに関しては、声の実演として著作権(厳密には著作隣接権)の対象となる余地もないわけではありませんが、通常であればバーチャルYouTuber・VTuberが制作したシナリオやバーチャルYouTuber・VTuberの指示に従って声を吹き込むだけであるため創作行為とまではいえず、声優に著作権は発生しないといえるでしょう。反対に、シナリオ作成自体も声優が行う場合には創作行為といえるため声の吹込みが著作権の対象となる可能性があります。バーチャルYouTuber・VTuberにとってキャラクターに関する知的財産権を保有していることは動画制作の生命線です。もし、知的財産権に関して第三者とトラブルになれば既に公開した動画を削除せざるを得なくなったり、損害賠償を請求されたりということにもなりかねません。

そこで、声優の声の吹込みに著作権が発生するかについてはケースバイケースであるものの、念のため上の条項例第2項のように声優に著作権が発生することを前提として当該著作権をバーチャルYouTuber・VTuberが無償で譲り受ける条項を入れておくことが良いでしょう。

競業避止義務に関する条項

乙は、本契約の有効期間中、甲の書面による事前の同意なく、本件キャラクター以外の他のバーチャルYouTuberの声優として活動をしてはならないものとする。バーチャルYouTuber・VTuber側からすると、自身の動画に出演した声優が競合する他のバーチャルYouTuber・VTuberのキャラクターの声優を担当することになれば閲覧者から混同されるリスクもあります。また、バーチャルYouTuber・VTuberの場合には声優の声自体にファンが付いていることもありますので、声優が他のバーチャルYouTuber・VTuber動画へ出演することは基本的に望ましいことではありません。そこで、条項例のような競業避止義務を定めることもあります。

ただし、競業避止義務に関しては声優側に受け入れてもらえるかという問題があります。例えば、受託者が声優業を本業としておらず、あくまでも趣味で依頼を受けているような場合には問題なく受け入れてもらえることもあります。しかし、声優業を本業としている場合には、他の動画への出演を制約されると生活に支障が生じる可能性があります。したがって、後者のような場合に競業避止義務を受け入れてもらうためには、声優に対して相当額の報酬を提示することも検討する必要があります。

機密保持義務に関する条項

乙は、本件業務を担当していること及び本契約の存在につき、甲の事前の書面による承諾を得ずに第三者に開示又は漏洩してはならない。

上でも少し触れましたが、バーチャルYouTuber・VTuber動画においては声優が誰であるかを非公開にしていることが一般的です。アニメなどで声優が当然に公開されていることとは根本的に慣習が異なるといえます。バーチャルYouTuber・VTuberにおいて声優を公開しないのは、基本的にはキャラクターが生身の人間と同様に活動しているとの設定であるためです。すなわち、バーチャルYouTuber・VTuber動画を公開しているのはキャラクター自身という想定であり、キャラクター自身がSNSを運営していることすらあります。このようなフィクションに現実味を持たせるためにはキャラクター制作に関わるいわゆる「中の人」を非公開とする必要があるのです。

したがって、業務委託契約書において声優に対して当該動画の声の吹込みを担当していること等について秘匿する義務を課す必要があります。条項例は、このような機密保持義務を声優に課すための条項です。機密保持義務に関連することとして、声優がキャラクターを利用したSNS運営をすることや自身の営業活動にキャラクターを利用することなども禁止する必要があるでしょう。これらは法的には機密保持義務に含まれるものと整理することもできますが、より明確に禁止事項として定める方が安心です。この場合、以下のような条項を禁止事項として規定します。

乙は、本件業務の遂行に関して、以下の各号に定める事項を遵守する。
(1)甲の事前の許可なく本件キャラクターに関する営業活動を行わないこと
(2)甲の事前の許可なく本件キャラクターを使用しないこと

なお、バーチャルYouTuber・VTuberの声優による問題行動に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/corporate/virtual-youtuber-clients”]

まとめ

バーチャルYouTuber・VTuberは最近になって急速に流行し始めたジャンルであるため、法的論点に関して十分に認知されているとは言い難い状況にあります。例えば、声優などの「中の人」を非公開にすることなど従来の動画やアニメとは異なる慣習もありますので、バーチャルYouTuber・VTuberに関する法律問題に関してはバーチャルYouTuber・VTuberに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所は、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つ、東京・大手町の法律事務所です。

シェアする:

TOPへ戻る