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雇用契約書を渡された場合の要チェックポイントとは

雇用契約書を渡された場合の要チェックポイントとは

働いたことがある人であれば、雇用契約書を締結したことがあると思います。ただ、雇用契約書について、渡された段階で、内容をよく確認せずに署名捺印してしまうという人も意外に多いです。その結果、実際に働き始めた後に、思っていた内容と違った、聞いていた内容と違ったなどの不満がうまれてしまうことがあります。このような事態を避けるために、本記事では、雇用契約を渡された場合の要チェックポイントについて説明をします。

雇用契約書とは

雇用契約書とは、使用者(雇う側)と労働者か(雇われる側)の当事者間で、労働条件等を明らかにするために締結される契約書のことをいいます。雇用契約書は、労働契約書などの名称で呼ばれることもあります。

雇用契約書の内容

雇用契約書に規定される内容について詳細に説明していきます。

雇用契約書の内容については、主に以下のような内容が規定されることになります。以下の事項以外の事項についても、労使間で合意がなされれば、雇用契約書に記載されます。

  1. 雇用期間に関する事項
  2. 就業場所に関する事項
  3. 従事する業務の範囲に関する事項
  4. 時間外労働に関する事項
  5. 休日労働に関する事項
  6. 始業・終業時間に関する事項
  7. 休憩時間に関する事項
  8. 休日・休業に関する事項
  9. 有給休暇に関する事項
  10. 賃金に関する事項
  11. 競業避止に関する事項

雇用契約書の契約書案

雇用契約書
○○○○株式会社(以下「甲」という)と○○○○(以下「乙」という)は、本日、次の労働条件による雇用契約を締結した。

第1条(雇用期間等)
1.乙の雇用期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日とする。その他、退職に関する
事項は臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定めるところによる。
2.乙の就業開始日は、令和○年○月○日とする。

第2条(就業場所及び従事する業務)
1.乙の就業場所は、甲の○○工場○○部とし、従事する業務は○○業務とする。
2.甲は、業務の都合により前項の就業場所及び従事業務の変更を命ずることがあり、乙は、これをあらかじめ承諾する。

第3条(始業・終業時刻及び休憩時間)
前条1項の就業場所における、乙の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。
始業時刻 8時30分
終業時刻 17時30分
休憩時間 12時から13時

第4条(時間外及び休日勤務)
1.甲は、乙に対し、業務の都合により必要がある場合、法令及び臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定める手続を経たうえで、時間外または休日勤務を命ずることがあり、乙は、これをあらかじめ承諾する。
2.甲は、乙に対し、業務の都合により必要がある場合、深夜勤務(22時から翌日5時までの間の勤務)を命ずることがあり、乙は、これをあらかじめ承諾する。

第5条 (休日及び休業)
1.第2条1項の就業場所における所定休日については、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定めるところによる。その他、甲が乙の就労義務を免除する休日、休業の範囲等に関しては、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定めるところによる。
2.甲は、業務の都合により、前項の所定休日を、あらかじめ他の日と変更または振り替えることがあり、乙は、これをあらかじめ承諾する。この場合の変更または振替の手続等に関しては、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定めるところによる。

第6条(年次有給休暇)
1.甲は、乙の勤続期間に応じて年次有給休暇を付与する。
2.年次有給休暇の付与日数及び乙が年休権を行使する場合の手続に関しては、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定めるところによる。

第7条(賃金等)
1.甲が乙に支給する賃金の決定、計算、締切日及び支給日に関しては、臨時・パートタイム従業員等用の賃金規定の定めるところによる。
2.甲は、月給金□□円を、乙に対する基本賃金として支給するものとし、乙は、これを承諾する。
3.賞与及び乙が退職する場合の退職金は、臨時・パートタイム従業員等を適用対象とする賃金規定あるいは退職金規定に特別の定めのない限り支給しない。

第8条(競業の禁止)
乙は、在職中はもとより、退職後2年間は、甲の許可を得ることなく、甲と競業する事業を営み、または競合する会社に雇われてならない。

第9条(その他)
1.本契約に定めのない事項については、法令、労働協約、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則(賃金規定、安全衛生規定等の別規定を含む)の定めるところによる。
2.本契約で定める労働条件が、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定める労働条件を上回る場合には本契約によるものとし、臨時・パートタイム従業員等用の就業規則の定める労働条件を下回る場合には臨時・パートタイム従業員等用の就業規則によるものとする。

第10条(特約事項)
○○○○○○○○

以上
令和○年○月○日
(甲)住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
名称 ○○○○株式会社
(乙)住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
氏名 (自署)    <印>

雇用契約書と労働条件通知書との違い

雇用契約書とは別に使用者から労働条件通知書を渡されたという経験がある人も多いと思います。雇用契約書と労働条件通知書は、双方とも労働条件等について規定されており、内容はほとんど同じものになります。

両者の違いは、主に以下の2点です。

まず、労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項で、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定されており、法律上要求される書面となります。一方、雇用契約書は、法律上要求される書面ではありません。

次に、雇用契約書は、使用者の労働者の合意により締結される書面ですが、労働条件通知書は、使用者が労働者に対して通知する書面であり、合意による書面ではありません。

雇用契約書と労働条件通知書の関係

雇用契約書と労働条件通知書の内容は、企業によって異なります。例えば、労働条件通知書については、法律上要求されている事項を最低限記載し、雇用契約書や就業規則に詳細な規定を記載するケースがあります。一方、雇用条件通知書に、法律上要求されている事項に加えて、詳細な規定についても記載されているケースも考えられます。また、労働条件通知書にも、雇用契約書にも詳細な規定がされているケースもあります。

このように、企業によって、雇用契約書と労働条件通知書の関係から、雇用契約書の内容の濃淡が異なることとなります。
ただ、当然のことながら、上記のどのパターンでも、雇用契約書には労働条件のうち、重要な事項が記載されることになります。

雇用契約書の要チェックポイント

雇用契約書を渡されたらまずは下記の事項をチェックしましょう。

雇用契約書を渡された際、専門用語が多く使われており、読むのが大変だなと思うかもしれません。ただ、契約書の内容の確認は非常に大切ですので、雇用契約書の要チェックポイントについて説明をします。

契約期間について

まず、契約期間をしっかり確認するようにしましょう。企業の都合との関係で、1日でも早く働いて欲しいと要望されることもあれば、1か月先から働いて欲しいと言われることもあると思います。働き始めるまでの期間が長期間であれば、その間、賃金を得ることができず、生活に支障をきたす可能性もあります。

また、逆に企業から早く働いて欲しいと要望を受けたにもかかわらず、現在在職している企業からそんなに早く退職することができない場合もあります。そのため、契約期間をよく確認する必要があります。

就業場所について

支店が多くある企業であると、面接は本社のある東京でやるが、実際の就業場所は他県となる場合もあります。そのため、実際に就業する場所がどこかをしっかり確認する必要があります。

また、転勤や出向などで就業場所が変更となる可能性もあります。家庭があったり、小さい子供がいたりすると転勤や出向が難しいと思います。そのため、まず、直近の就業場所を確認し、また、転勤や出向により勤務場所の変更の可能性があるかについてもしっかり確認することが重要です。

支払われる金銭について

まず、支払われる金銭の代表的なものとして、賃金があります。
賃金について、時給制の場合には内容がわかりやすいですが、月給制や年俸制の場合には、必ずしも内容がわかりやすいものではありません。そのため、賃金の内訳をしっかり確認する必要があります。

また、賞与の有無や退職金の有無は、支払われる金銭の額に大きな影響を及ぼしますので、確認をする必要があります。
賞与については、賞与の支給があるかないかということに加え、支給される場合には、いかなる金額を基準に、何か月支給されるかを確認するようにしましょう。また、交通費や社会保険の関係もしっかり確認をしておくことが重要です。
派遣の場合には、時給が高くても交通費が出ないこともあるので注意が必要です。さらに福利厚生の内容なども確認をしておくとよいでしょう。

残業時間について

ワークライフバランスに大きく関わる事項として、残業時間があります。残業の有無については、労働条件通知書を見ればわかるかと思いますが、具体的にどれくらいの残業時間が想定されているのかを、雇用契約書によりしっかりと確認しておくことが重要です。また、雇用契約書で、みなし残業が規定されている場合もあります。例えば、「月30時間の残業を含む。」などの記載です。みなし残業を採用している企業も増えているので、みなし残業であるかについて、しっかりと確認をすることが必要です。

休日について

休日に関する事項も、ワークライフバランスとの関係で非常に重要な事項ですので、しっかり確認することが重要です。まずは、休みが何日間あるかを確認する必要があります。また、休みの日数に加えて、何曜日に休みがあるかを確認する必要もあります。例えば、平日休みの場合には、飲食店やテーマパークなどが比較的空いているという利点がありますが、その反面、家族や友人などが土日休みであり、休みが合わない可能性があるというデメリットとあります。そのため、休日の日数及び曜日をよく確認するようにしてください。

まとめ

以上、雇用契約書を渡された場合の要チェックポイントについて説明をしました。労働条件は、私たちの生活に大きく関わる重要なものですが、意外によく確認しない人も多いように思います。後々後悔しないためにも、雇用契約書の内容をよく確認するようにしましょう。また、労働条件通知書や就業規則についても確認することが重要です。本記事では、雇用契約についての要チェックポイントについて説明をしましたが、自分で雇用契約の内容を確認することに不安のある方は、専門家である弁護士に相談をするようにしてください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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