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廃止された(旧)弁護士報酬基準とは?具体的計算方法も紹介

廃止された(旧)弁護士報酬基準とは?具体的計算方法も紹介

弁護士に依頼を行う場合、その費用がどの程度の金額になるかは、当然ながら重要な関心事です。

実は、以前は、弁護士費用に関して、弁護士が所属する各弁護士会が弁護士報酬会規を制定しており、その中に弁護士報酬基準という基準が示されていました。個々の弁護士は、自由に弁護士費用を金額設定することができなかったのです。

弁護士報酬基準は2004年4月に廃止されており、弁護士報酬は各弁護士が自由に設定できることになりました。ただ、弁護士報酬基準は、やはり長年「基準」として用いられていただけあって、結果的に「適正」となるケースが多い基準です。自由化後も、一定の範囲で(旧)弁護士報酬基準を基準として報酬基準を定めている法律事務所が多いものと言えます。

  • (旧)弁護士報酬基準では、どのように弁護士費用が算定されるのか
  • その算定にはどのような問題があるのか

といった点について、以下解説します。

(旧)弁護士報酬基準と「経済的利益」

(旧)弁護士報酬基準は、裁判外での紛争案件や裁判案件について、例えば、下記のような算定基準を置いています。

  • 着手金:経済的利益が300万円以下の場合、経済的利益の8%
  • 成果報酬金:経済的利益が300万円以下の場合、経済的利益の16%

キーワードは、「経済的利益」です。

経済的利益とは

経済的利益とは、依頼者が弁護士に依頼し、獲得・回復・維持しようとする金額のことです。例えば、相手方に貸したお金が返済されず、弁護士に債権回収を依頼するという場合を想定しましょう。貸した金額が300万円で、相手は「その300万円は物などによって返済済みだ」と主張しており、最終的に200万円を回収できた、という場合、

  • 着手金:請求額である300万円の8%で24万円
  • 成果報酬金:回収できた200万円の16%で32万円

という計算になります。着手金と成果報酬金とで、「経済的利益」の計算は上記のようになり、また、割合は8%と16%になります。

この割合は、「経済的利益」が大きくなる毎に下がっていき、正確には、

報酬の種類弁護士報酬の額
着手金事件の経済的利益の額が300万円以下の場合 8%
300万円を超え3000万円以下の場合 5%+9万円
3000 万円を超え3 億円以下の場合 3%+69万円
3 億円を超える場合 2%+369万円
※着手金の最低額は10万円
報酬金事件の経済的利益の額が300 万円以下の場合 16%
300 万円を超え3000 万円以下の場合 10%+18万円
3000 万円を超え3 億円以下の場合 6%+138万円
3 億円を超える場合 4%+738万円

(出典:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準

となります。また、着手金の最低金額は10万円です。

高額な請求だと着手金が肥大化する

弁護士費用は「経済的利益」を基準に計算することが基本です。

この結果、例えば、10億円を請求し5億円を回収できた、という場合であれば

  • 着手金:300万×8%+2700万×5%+2億7000万*3%+10億×2%=2369万円
  • 成果報酬金:300万×16%+2700万×10%+2億7000万×6%+2億×4%=2738万円

という計算になります。

このように、請求額が大きくなると、弁護士費用のうちの着手金も、当然ながら高額となります

弁護士が受任を拒否するケースとは

また、着手金が肥大化するのであれば、完全成果報酬型で受けて欲しい、というのが依頼者側のニーズだとは思われますが、完全成果報酬型の弁護士費用設定は、弁護士側の立場としては、結果的に報酬を一切受け取れない可能性がある以上、一般論としては、躊躇われるものです。当事務所は、

  • 当事務所がノウハウを有する風評被害対策などに関しては、裁判外交渉の場合、完全成果報酬型でも依頼を受けるケースが多い
  • 顧問先企業からの依頼であれば完全成果報酬型で依頼を受けるケースも多い

という方針ですが、これは、

  • ノウハウを有している業務分野、かつ、裁判外交渉であれば、最低限の情報で見通しを立てられる場合もあり、完全成果報酬型でも依頼を受けることができる
  • 顧問先企業からの依頼であれば、そもそも相談を受けた時点で基礎的な情報が分かっているため、最低限の情報で見通しを立てられる場合もあり、完全成果報酬型でも依頼を受けることができる

といった理由に基づくものであり、少なくとも一般論として、弁護士に完全成果報酬型で依頼を行えるケースは少ないと思われます。

そしてこれは、裏返せば、「依頼を受けるということは、着手金を頂いてしまうということ」です。したがって弁護士としては、勝てる見込がない案件を受任し、結果的に着手金の支払いを受けるだけになってしまうケースは避けるべきであり、こうした場合には受任を拒否するケースもあります。

関連記事:弁護士が案件を断るケースとその理由とは?弁護士が解説

相手方から請求を受けている事件の場合

また、相手から請求を受けている事件の場合であれば、

  • 着手金における経済的利益:相手から請求を受けている金額
  • 成果報酬金における経済的利益:減額に成功した金額

となります。例えば、1000万円を請求され、最終的に300万円の支払で済んだ場合であれば、

  • 着手金:経済的利益は請求を受けた1000万円。上記のテーブルに当てはめ、300万×8%+700万×5%=59万円
  • 成果報酬金:経済的利益は減額できた1000-300=700万円。上記のテーブルに当てはめ、300万×16%+400万×10%=88万円

という計算になります。

これが、先ほど「経済的利益」について、「獲得・回復・維持」という言葉を用いた理由です。請求を受ける側の場合、そもそも「獲得」を目指すお金は存在しない訳ですが、「維持」を目指すお金は存在する、ということになります。

自身も相手方も相互に請求を行っている事件の場合

相互に請求を行っている場合も同様に計算を行います。

さらに、例えば、システム開発の案件で、

自社が相手方企業から開発を受託しシステムを完成させたが、相手方企業は完成していないと主張し報酬1000万円を支払ってくれない、さらに相手方企業は、完成の遅れのせいで500万円の損害が発生したとして500万円を請求してきている。自社としてはその損害賠償請求に応じる意思はない。

という場合、

  • 着手金の計算:相手方企業に1000万円を請求し、相手方企業は自社に500万円を請求しているので、着手金の計算における経済的利益は1000万+500万=1500万円。上記のテーブルに当てはめ、300万×8%+1200万×5%=84万円

という計算になります。そしてこの紛争が最終的に

たしかに完成しており相手方企業には代金の支払い義務があり、相手方企業の主張する損害は発生自体していないと認められたが、完成したシステムに一部バグがあり、1000万の報酬が減額され800万円で和解に至った。

という場合、

  • 成果報酬金の計算:1000万円中800万円の請求が通り、500万円の請求を受けた部分はゼロになったので、成果報酬金の計算における経済的利益は800万+500万=1300万円。上記のテーブルに当てはめ、300万×16%+1000万×10%=148万円

という計算になります。

「お金」を巡る紛争は全て同様の計算方式

(旧)弁護士報酬基準における経済的利益の算出方法にはもう少し細かい話もあるのですが、「お金」を巡る紛争に関しては、概要は上記の通りとなります。これは、「お金」を巡るものである限り、あらゆるタイプの紛争について基本的に共通です。上記ではシステム開発関連の紛争を題材にしましたが、例えば風評被害対策の場面で、誹謗中傷を行う犯人を特定し、当該犯人に対して慰謝料などを請求するという紛争であっても、

  • 着手金:慰謝料等、相手方に請求する金額を経済的利益として算出
  • 成果報酬金:相手方から回収できた金額を経済的利益として算出

という計算になります。

「お金」以外を巡る紛争における弁護士費用の計算

ただ、ここまでの話は、全て「お金」を巡る紛争における、(旧)弁護士報酬基準上の弁護士費用の算定に関するものです。そして紛争は、常に「お金」だけを巡るものではありません。

お金に算定可能な権利等を巡る紛争

なお、例えばある発明に関する特許権の帰属を巡る紛争などの場合、その権利の価値を金額算定すれば上記と同様に計算可能なので、こうした紛争は、「お金」を巡るものと同様に考えることが可能です。300万円の価値がある特許権について、原告被告で帰属に争いがあり、結果的に原告のものであると認められた場合であれば、

  • 着手金:経済的利益300万円の8%
  • 成果報酬金:経済的利益300万円の16%

という計算になり、お金を巡る紛争と同じです。

(旧)弁護士報酬基準における類型別の弁護士費用

また、(旧)弁護士報酬基準は、「お金」以外を巡る、少なくとも制定当時に一般的であった類型の事件に関しては、それぞれ類型別の基準を置いています。典型は離婚事件で、離婚事件における着手金と報酬金は、

それぞれ20万円から50万円の範囲内の額
※離婚交渉から離婚調停を受任するときの着手金は,上記の額の2分の1
※財産分与,慰謝料等の請求は,上記とは別に,(金銭的事件の場合の計算方法)による。
※上記の額は,依頼者の経済的資力,事案の複雑さ及び事件処理に要する手数の繁簡等を考慮し増減額することができる。

とされていました。およそ離婚事件としての着手金が「20万円から50万円の範囲内」、同時に財産分与や慰謝料なども請求する場合は、その部分は金銭的な事件の場合と同様に経済的利益ベースで計算する、という方法です。

このような「類型」としては、上記の離婚事件以外に、

  • 契約締結交渉
  • 督促手続事件
  • 手形・小切手訴訟事件
  • 境界に関する事件
  • 借地非訟事件

などが定義されていました。例えば「境界に関する事件」というのは、土地の境界を巡る隣人同士の紛争のことです。民法の誕生から現在まで続く紛争類型であり、したがって(旧)弁護士報酬基準にも定めがある、ということになります。

「お金」では算定できない紛争の場合

お金を算定できない紛争における弁護士費用の計算とは?

ただ、(旧)弁護士報酬基準には基準が記載されていない、かつ、どうやっても「お金」では算定できない、または、それが著しく難しいという紛争もあります。

例えば風評被害対策の場合、ある風評被害に該当するような掲示板書込の削除を求め、当該掲示板運営者に対して削除請求を行う、という紛争は、「お金」には換算しにくいものですし、(旧)弁護士報酬基準の制定時にはあまり想定されていないタイプの紛争であるからか、(旧)弁護士報酬基準には算定方法の記載がありません。

こうした場合、金銭的評価が不可能又は著しく難しい請求については、160万円とみなす、という算定を行うことになります。つまりこの請求は、仮に(旧)弁護士報酬基準に従えば、

  • 着手金:経済的利益160万円の8%
  • (削除成功時の)成果報酬金:経済的利益160万円の16%

という計算になります。

なお、お金を巡る部分とお金に換算しにくい部分が混在する紛争、例えば、風評被害対策で言えば、実名のTwitterアカウントで誹謗中傷を行う相手方に対し、

  • 100万円の慰謝料の賠償を請求するのと同時に(お金を巡る部分)
  • 当該投稿の削除を求める(お金に換算しにくい部分)

という場合、着手金算定における経済的利益は、100万+160万=260万円となります。そしてこの紛争が、最終的に「慰謝料の請求は放棄するがツイートの削除は認めさせる」という和解で終わった場合、成果報酬金算定における経済的利益は160万円となります。

(旧)弁護士報酬基準の問題点

しかし、例えば風評被害対策における上記の算定は、ある人がある会社(掲示板運営者)に対して削除を求める限り、常に「金銭的評価が不可能又は著しく難しい」請求である以上、定額です。極端なことを言えば、1行だけの投稿1個を削除する場合も、1000個の投稿を削除する場合も弁護士費用が変わらない、ということになってしまいます。

さらに、この算定は、相手方が複数の場合、相手方ごとに行われます。したがって、インターネット上に同じ風評被害投稿がコピペで5個存在するという場合、

  • その5個がたまたま同じサイト(同じ運営者)内にある場合:経済的利益は、160万円
  • その5個がたまたま別のサイト(別の運営者)内にある場合:経済的利益は、160万円×5=800万円

という計算になります。裁判外交渉でも裁判でも、たしかに「全て同じサイト内にある場合」と「全て別のサイトにある場合」では、多少なりとも工数や難易度が異なるのですが、それにしても、経済的利益が5倍(したがって弁護士費用も5倍弱)になる、というのは、明らかにおかしいでしょう。

(旧)弁護士報酬基準の、「お金」では算定できないような請求(非金銭的請求)について一律160万円、というルールは、どうしても硬直的であり、対象が実際問題として多い場合や、相手方が多い場合は、どうしても不合理な計算になってしまいます。

このため多くの法律事務所は、

  • 金銭的な事件に関しては、(旧)弁護士報酬基準をベースにした計算を行う
  • 非金銭的な事件に関しては、作業量や難易度などを踏まえ、(旧)弁護士報酬基準とは異なる計算を行う

という方法を用いているものと思われます。後者の典型例は、「弁護士が実際に稼働した時間に応じた弁護士報酬」という、タイムチャージ型と呼ばれるものです。契約書作成やチェック等の業務に関しては、タイムチャージ型の考え方を採用している事務所が多いと思われます。

関連記事:契約書作成等タイムチャージ型の弁護士業務の平均所要時間とは

また、例えば当事務所は、風評被害対策に関して、裁判外交渉でのページ削除は、完全成果報酬型、1ページ10万円~にてお受けしておりますが、これも後者の形による弁護士費用の設定の一つの形だと言えるでしょう。

モノリス法律事務所の取扱分野:風評被害対策

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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