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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ウィキペディア(Wikipedia)の投稿者を特定する方法と弁護士費用の相場

風評被害対策

ウィキペディア(Wikipedia)とは、ウィキメディア財団が運営するインターネット百科事典です。全世界の各言語で展開されており、サイトにアクセス可能な人であれば誰でも、記事の執筆や編集を行うことができます。そのため、誹謗中傷にあたると思われるような記事が投稿されてしまう可能性もあります。

ウィキペディアに誹謗中傷記事が投稿されている場合、その記事の投稿者を特定することはできるのでしょうか。また、その場合、弁護士費用はいくらくらいかかるのでしょうか。この記事では、ウィキペディア投稿者の特定方法や弁護士費用の相場について解説します

ウィキペディアとは

ウィキペディアは、一般のインターネットユーザーによって編集が可能である点が、専門家によって編集される従来の百科事典と大きく異なる特徴です。また、ウィキメディア財団のスタッフなどを除き、編集や運営管理を行う人々の大部分がボランティアであることなども特徴として挙げられます。

ウィキペディアでは、自分のアカウントを作成して記事を執筆・編集することができます。アカウントを作成してログインしなくても、記事を執筆することはできますが、個人設定やコンテストにおける投票などができないといった制限があります。

ウィキペディアで、人物名や会社名を検索して記事がヒットすれば、略歴や概要、沿革などを確認することができます。ウィキペディアのアプリをダウンロードすれば、サイト上だけでなくアプリでも記事を読むことができます。

ウィキペディアに投稿される誹謗中傷の例

ウィキペディアは、誰もが執筆・編集できるため、誹謗中傷にあたると思われるような記事が投稿されてしまう場合もあります。どのような誹謗中傷記事が投稿される可能性があるのでしょうか。以下、考えられる例を挙げます。

  • プライバシーを侵害する投稿(例:「A(実名)は六本木ヒルズ25階に住んでいる」
  • 他者の名誉等を傷つけ、結果的に名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪などに問われる可能性のある投稿(例:B(実名)は逮捕歴あり。)

上記の例の投稿は、ウィキペディアにの「削除の方針」に従って削除依頼をすることができるものと考えられます。削除依頼を行うと、ウィキペディアの利用者が対処法を審議し、その審議結果に基づき、管理者や削除者が削除等を行うこととされています。削除依頼を行っても記事が削除されない場合や、たとえ削除されたとしても、その投稿により大きな損害を被った場合は、投稿者特定手続を取ることができます。投稿者特定手続を経て投稿者が特定されれば、悪質な投稿者へ損害賠償を請求することができます。投稿者特定手続の流れについて、以下でご説明します。

投稿者特定の手順1:IPアドレス開示請求

投稿者特定手続で、最初に行うのは、IPアドレスの開示請求です。

IPアドレスとは

IPアドレスとは、インターネットに接続された機器(PC、スマホなど)を識別するための番号で、インターネット上の住所や電話番号のような役割を担っています。

ウィキペディアは、上の画面の通り、利用者名とパスワードを登録すればアカウントを作成することができます。なお、メールアドレスは省略することができます。ウィキペディアのFAQには、以下のように記載されているため、

本名で登録しないといけませんか
本名でなくて結構です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:FAQ_%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88

アカウントの利用者名は本名でなくてよいこととされています。

そのため、ウィキペディアの運営者は、投稿者の個人情報をほとんど把握していない可能性が高いです。したがって、IPアドレスを開示してもらわないと、投稿者を特定できないのです。なお、ウィキペディアではログインしなくても記事を編集することができますが、その場合はIPアドレスが公開履歴に記録されます。

投稿者のIPアドレス開示請求

IPアドレスの開示請求は、裁判所を通して行います。ウィキペディアの「削除の方針」のうち、「削除対象になるもの」に該当すると思われる記事は、削除依頼をして、利用者の審議を経て審議がまとまれば、投稿が削除される可能性があります。しかし、削除依頼を行っても記事が削除されない場合は、IPアドレスの開示請求をするという方法があります。ウィキペディアの記事の削除方法に関しては、下記記事で詳細に解説しています。

IPアドレスの開示請求は、裁判によらずとも、仮処分という手続によって行うことができます。裁判は、長引くケースでは一年以上かかってしまうこともありますが、仮処分は、1~2か月程度で終わります

記事の削除請求とIPアドレスの開示請求を行う場合、弁護士へ依頼するとどのくらい費用がかかるのでしょうか。

インターネット上の情報によれば、記事などの削除請求とIPアドレスの開示請求を行う場合の弁護士費用の相場は、

着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度とされています。

https://monolith.law/reputation/reputation-lawyers-fee

ただ、これはあくまでも目安の費用であり、記事の内容や文字数などによって、費用は前後します。

投稿の違法性の立証

裁判所にIPアドレスの開示命令を発令してもらうためには、そのウィキペディアの記事の違法性を立証する必要があります。IPアドレスの開示命令は、裁判所が該当する記事の違法性を認めた場合にのみ出されるためです。

ウィキペディアの記事が「削除の方針」に該当すると思われる場合には、削除依頼を行うことができ、審議を経て合意を得られれば、記事は削除されます。この場合は、その記事に必ずしも違法性があるわけではありません。たとえ違法でなくとも、審議の結果合意が得られれば削除されるケースがあります。

一方、裁判所によるIPアドレスの開示命令が発令されるためには、以下の二つが必要です。

  • 投稿が違法であることを示す法的な主張
  • 上記を裏付ける証拠

その投稿のどの部分がどう違法なのかを法的に主張したり、その違法性を裏付ける証拠を探したりしなければなりません。

また、海外法人相手の裁判手続きは証拠や文書の英文化など、諸費用が追加でかかります。

こうした議論や証拠探しを弁護士へ依頼せずに単独で行うのはとても難しいでしょう。そのため、インターネットでの誹謗中傷対策を多く手がける弁護士に依頼するのがおすすめです。

投稿者特定の手順2:ログの削除禁止

手順1でIPアドレスの開示命令が出され、IPアドレスを手に入れることができれば、その投稿をした人物が使っていた経由プロバイダを特定することが可能になります。プロバイダは、そのIPアドレスを使っている者のログを保存しています。しかし、ログには保存期限があり、ずっとログが保存されているわけではありません。固定回線の場合は1年程度保存されていますが、携帯回線などは保存期限が短く、3か月程度で削除されてしまいます。このため、プロバイダに対し、ログの削除をしないように禁止命令を出してもらって、ログを保存しておいてもらわなければなりません。この禁止命令を出してもらうためには、上記のIPアドレス開示請求とは別の裁判手続を起こす必要があります。

ただ、「これから投稿者の住所氏名開示請求を行うため、しばらくログを削除せずに保存しておいてほしい」旨の通知を出せば、裁判手続までしなくてもログを保存しておいてもらえるケースもあります。このため、すぐに裁判を起こすのではなく、まずは通知の送付を検討すべきであると言えます。ただ、たとえ通知を出すだけの場合でも、該当する投稿の違法性の主張やその立証は必要です

この通知の作成を弁護士へ依頼した場合、弁護士費用は約10万円程度で足りるものと思われます。ネット上に記載例などの情報があまり載っていないため、こうした手続のノウハウを持っている弁護士に依頼しましょう。

投稿者特定の手順3:住所氏名開示請求

手順2でログ保存の依頼の通知を行った後、プロバイダに対し、投稿者の住所と氏名を開示するよう請求する裁判を起こします。住所氏名開示請求は、仮処分ではなく、裁判手続をしなければなりません。例えば、ウィキペディアに「○○株式会社の社長Aは脱税している」いう記事が投稿された場合であっても、その投稿にちゃんとした裏付けや証拠があり、また、その内容を公開することが公共の利益に合致する場合は、投稿者のプライバシーは尊重されるべきであると考えられます。住所と氏名は、特に重要な個人情報です。そのため、裁判所は正式な裁判手続を通じてその投稿が違法であると判断した場合にのみ、開示命令を出します。

この住所氏名開示手続を弁護士へ依頼した場合の弁護士費用の相場は、

着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度とされています。

https://monolith.law/reputation/reputation-lawyers-fee

投稿者特定の手順4:損害賠償請求

手順3の住所氏名開示請求裁判で勝訴すれば、ウィキペディアの記事を投稿した際に使われた回線の契約者の住所氏名が開示されます。住所氏名が開示されれば投稿者を特定できるので、投稿者に対し、一連の手続にかかった弁護士費用や慰謝料などの損害賠償を請求することも可能になります

投稿者へ損害賠償請求を行って、弁護士費用に充当できれば、被害者の金銭負担はなくなります。ただ、投稿者の特定ができないリスクや、特定できた場合でも損害賠償金が弁護士費用より少なく、金銭負担が発生するかもしれないリスクはあります。この点に関しては、下記記事で詳しく解説しています。

まとめ

ウィキペディアは、誰もが自由に編集できる百科事典のため、誹謗中傷にあたると思われるような投稿が行われるケースもあります。ウィキペディアに悪質な投稿がされている場合、その投稿者を特定するためには、上記の通り、複数の裁判手続が必要です。投稿者の特定に成功すれば、投稿者へ損害賠償請求をすることが可能になります。ただ、一連の手続にかかる弁護士費用もけして安いとはいえないため、たとえ損害賠償金が支払われたとしても、損害をまかなえない可能性もあります。投稿者特定手続は、けして簡単な手続ではありません。そのため、ウィキペディアの悪質な投稿に悩まされている場合は、インターネット上の誹謗中傷対策に詳しい弁護士に依頼しましょう

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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