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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

Twitterでの「なりすまし」は違法?犯罪?どんな罪になる?

風評被害対策

Twitterは、好きなことを気軽に呟くことができるツールとして、多くの人に利用されています。世界的な人気を誇るTwitterですが、なりすましアカウントが多発しているのも事実です。最近でも著名な経営者やYouTuberなどの偽アカウントが話題になりました。

Twitterは個人が匿名で複数のアカウントを持つことができ、誰でも簡単になりすましアカウントを作成することができます。

では、Twitterでのなりすましは、どんな罪になるのでしょうか。本記事では、下記の5つのポイントに絞って解説します

  • 名誉毀損
  • プライバシー権
  • 肖像権
  • 著作権
  • アイデンティティ権

なりすまし

なりすましの典型は、自分の本名や所属、顔写真やプロフィール文章などを、他人がそのまま勝手に利用し、自分のふりをして投稿を行っているケースです。ただ、例えば必ずしも本名でなくとも、例えばペンメーム、芸名、源氏名、ハンドルネームなどを無断利用された場合でも、「なりすまし」と言えるケースもあります。法律用語で「同定可能性」と呼ばれている問題です。この問題については下記記事にて詳細に解説しています。

では、実際にTwitter上でなりすまし被害に遭ってしまった場合、どのような権利侵害を問えるのでしょうか。

名誉毀損

名誉毀損には、刑事上の名誉毀損と、民事上の名誉毀損があります。名誉とは人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な社会的評価のことであり、この社会的評価を低下させる行為が名誉権の侵害であり、名誉毀損です。

Twitterに限らず、なりすましは、まず名誉権の侵害が問題となります。

被告が原告と同じアカウント名を設定し、プロフィール画像として原告の顔写真を使用して原告になりすまし、第三者を罵倒する投稿等を行ったことにより、名誉権等を侵害されたとして、原告が損害賠償を求めた事例があります。

被告は、別の利用者にも差別用語や侮蔑表現を用いて罵声を浴びせ、名誉毀損的発言を繰り返しました。なりすましの典型的パターンです。

裁判所は、

一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿は原告によって行われたと誤認されるものであると認められる

大阪地方裁判所2017年8月30日判決

とし、第三者に対し、

原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒する人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから、原告の社会的評価を低下させその名誉権を侵害している

と認め、慰謝料60万円、発信者情報開示請求費用58万6000円、弁護士費用12万円、合計130万6000円の支払いを、被告に命じました。

つまり、例えば第三者が自分について、「あいつは他者を根拠無く侮辱する人間だ」という誹謗中傷を書いたら、それは名誉毀損です。それと同様に、第三者が自分になりすまし、「自分は他者を根拠無く侮辱する人間だ」と書いた場合も、やはり名誉毀損になる、というロジックです。

加害者のなりすまし行為により、なりすまされた被害者の社会的評価が低下させられた場合、名誉毀損を追及することが可能です。

また、名誉毀損は刑法上の犯罪でもあるため、こうした類型のなりすましについては、警察に被害を訴えることも可能です。

プライバシー権

Twitterのなりすましの事案ではプライバシー権の侵害はほとんど認められていません。当サイトの別記事でも解説しましたが、プライバシーの侵害を満たす要件は、

  • 私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄である
  • 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄である
  • 一般の人々に未だ知られていない事柄である
  • 公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと

と、されています。

なりすましに対する裁判では、プロフィール画像として原告の顔写真を使用したことを、プライバシー権侵害として訴えても、ほとんど認められていません

上で名誉毀損の例としてあげた事例でも、原告はプロフィール画像として原告の顔写真を使用したことをプライバシー権侵害として訴えたのですが、裁判所はこれを認めず、

本件投稿の当時、被告に使用された顔写真を本件サイトのプロフィール画像に自ら設定していたことが認められ、本件サイトは不特定多数の者がアクセスできるインターネット上のページであることを踏まえれば、原告の顔写真は、原告によって第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたと認めるのが相当であり、他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するということはできない。そうすると、被告が使用した原告の顔写真を第三者から無断で公開されないという利益は、少なくともプライバシー権によって保護されるものと認めることはできない。

大阪地方裁判所2017年8月30日判決

としました。

他の裁判でも、同様の判断がされています。ネット上にあげた顔写真は、第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたのですから、他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するということにはならず、プロフィール画像として原告の顔写真を使用されたとしてプライバシー権侵害を訴えるのは、難しいといえます。

また、プライバシー侵害は、民事上では違法ですが、刑法上の犯罪ではありません。したがって、プライバシー侵害を理由に警察に捜査などを求めることはできません。

肖像権

ネット上で自分の画像が勝手に利用された場合、通常は、肖像権の侵害が問題になりますが、肖像権については、

肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する

最高裁判所2012年2月2日判決

とされていますが、一方で、

他人の肖像の使用が正当な表現行為等として許容されるべき場合もあるというべきであるから、他人の肖像の使用が違法となるかどうかは、使用の目的、被侵害利益の程度や侵害行為の態様等を総合考慮して、その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断して決すべきである

最高裁判所2005年11月10日判決

ともされています。

つまり、他人の肖像の使用は、あらゆる場合に許されるわけではもちろんありませんが、あらゆる場合に許されないのでもなく、「みだりに」利用されているか、「社会生活上受忍の限度を超え」て利用されているか否かが問題となるわけです

ヴァイオリンを専攻している高校3年生が、氏名不詳者のTwitterでのなりすましにより肖像権等が侵害されたとして、経由プロバイダに、発信者情報開示を請求した事例があります。

氏名不詳者が、Twitterに原告と同姓同名の「A」をアカウント名とし、「@×△□」をユーザー名とするアカウントを登録し、これを使用して原告の顔写真を添付の上、「b小→c中→d64期ヴァイオリン専攻aの裏垢」などと記載して投稿しました。

裁判所は、

「@×△□」のうち「×」の部分は、ローマ字読みで「×」と読むことができ、かつ、他に適当な単語もないことからそのように読むのが自然であるところ、これは、「女たらし」という、女性を騙してもてあそぶことや、それを常習とする男性を意味する言葉を容易に想起させる文言であり、「△」との部分は「×」との文言と続けて読むことで、「△」という自慰行為を想起させる読み方をする文言と受け取られかねないものであり、少なくとも本件発信者は上記の読み方及び趣旨で上記ユーザー名を登録したものと合理的に考えられるとし、残り「□」の読み方及び趣旨は必ずしも判然としないものの、この点を除いた上記部分のみでも、本件アカウントのユーザー名は俗悪な印象を与えるものであるということができると判断し、また、原告が、通学している高校において、他の生徒から「×」と呼ばれて揶揄され、保護者の間でも原告について不当な噂が流布されていることがうかがわれる状況にある

と認めました。そして、

本件発信者は原告を不当に貶める目的で、原告になりすまして本件アカウントを登録・使用し、その一環として原告の顔写真を原告に無断で使用したものと認められるから、上記顔写真の使用の目的は不当なものであり、およそ必要性は認められず、使用の態様も悪質であるといわざるを得ないとして、本件投稿による原告の肖像権侵害は社会生活上受忍の限度を優に超えるものというべきであり、本件投稿は不法行為法上違法となることが明らかである

として、肖像権侵害を認め、経由プロバイダに発信者の情報開示を命じました。

アカウントに自己の写真を使用されたからといって、直ちに肖像権侵害が認められるわけではないですが、自らがネット上で公開した写真であっても、「社会生活上受忍の限度を超え」て、「みだりに」利用されている場合には、肖像権侵害が認められる可能性があります。

名誉毀損との関係で言えば、名誉毀損が認められるような場合であれば、肖像権侵害も認められる可能性が高いと言えます。

なお、肖像権侵害も、刑事上は違法ではなく、警察に捜査などを求めることはできません。

著作権

Twitterのなりすましは「著作権」との間でも問題になることがあります。

著作権は「思想または感情を創作的に表現したものであり、文学・学術・美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条1項1号における「著作物」)」に対して発生する知的財産権ですが、これは写真作品についても発生します。

写真の場合、原告になりすまして本件アカウントを登録・使用し、その一環として原告の顔写真を原告に無断で使用した場合、肖像権侵害が認められないときには、その写真が自分で撮影したものであるなら、著作権侵害を主張することが可能な場合があります。

当サイトの別記事でご紹介した事例でも、原告が自撮りした写真をTwitterのプロフィール画像としたところ、発信者がこの写真を原告の許諾なしに複製したことに対し、著作権侵害が認められています。(東京地方裁判所2017年6月9日判決)

なお、著作権は届け出なければならない特許などと異なり、創作すると同時に発生する権利です。

また、著作権侵害には刑罰も定められています。著作権を侵害した場合、捜査機関による捜査を経て最終的に罰金刑や懲役刑といった刑事罰を科される刑事手続の対象となる場合もあります。

刑事手続は、著作権者から侵害の差し止め、損害賠償、名誉回復措置などを要求される民事手続とはまったく別の手続きで、刑事告訴は刑事手続が開始されるきっかけの一つとなります

アイデンティティ権

  • 名誉毀損
  • プライバシー権侵害
  • 肖像権侵害
  • 著作権侵害

に当たらないような類型のなりすまし行為が行われた場合であっても、なりすまし行為によって本人以外の別人格が構築され、そのような別人格の言動が本人の言動であると他者に受け止められるほどに通用性を持つことにより、なりすまされた者が平穏な日常生活を送ることが困難となるほどに精神的苦痛を受けたような場合には、名誉権やプライバシー権とは別に、

「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」という意味でのアイデンティティ権を考え、なりすましをこれの侵害としてとらえることが、少しずつ認められ始めています

大阪地方裁判所2016年2月8日判決では、

「なりすまされた者が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるほどに精神的苦痛を受けたような場合」

とされていた要件は、大阪地方裁判所2017年8月30日判決では、

「その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうか」

と、かなり緩やかになっています。

アイデンティティ権を認めたこの2つの裁判例は、大きな一歩と言えます。今後増加が予想されるアイデンティティ権に関する判例は注目が必要です。

なりすまし自体を違法であると認め、「人格の同一性が偽られている」とされる場合には、アイデンティティ権の侵害として、違法性を認めるべきではないでしょうか。

まとめ

誰でも簡単に行えてしまう、Twitterでのなりすまし。

放置しておくと被害はどんどん拡大してしまうため、速やかな対応が重要となります。実際に被害にあってしまった場合は、経験豊かな弁護士にご相談ください。なりすまし被害に関する、削除や投稿者特定に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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