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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

プロバイダ責任制限法の送信防止措置請求依頼書の書き方とは

風評被害対策

投稿記事を削除するために採用する手段の一つとして、プロバイダ責任制限法に基づく送信防止措置請求という手続があります。これは、裁判所を用いることなく、書面による依頼で、名誉毀損やプライバシー権侵害などに該当する違法なウェブページの削除を求めるものです。

プロバイダへの送信防止措置請求は、期待通りの結果をもたらすとは限りませんが、有力な手段のひとつといえます。本記事では、送信防止措置請求の手続きと、プロバイダに送る依頼書について解説します。

記事削除請求の3個の方法

記事削除を求めるには、通常、

  1. サイト運営者やサーバー運営者に対する削除依頼
  2. サイト運営者やサーバー運営者に対する送信防止措置請求
  3. 裁判所を通じての削除請求

という、3つの方法があります。

この中の2番目である「サイト運営者やサーバー運営者に対する送信防止措置請求」は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、通称「プロバイダ責任制限法」に基づいて、記事削除をサイト運営者やサーバー運営者に対して求める、法に基づく、正式な請求となります。

送信防止措置の手続き

送信防止措置を請求するためには、プロバイダに、送信防止措置依頼書を送らなければなりません。ここで、送信防止措置依頼を行うことができるのは、権利を侵害された本人と、法律事案となるため、弁護士のみです。弁護士法第72条より、法律事案を弁護士以外が仕事として扱うことはできないので、誹謗中傷対策業者等が送信防止措置依頼を代行すると、非弁行為となります。

送信防止措置依頼書の送信

プロバイダは、送信防止措置依頼書一式を受理したら、申請された「権利を侵害する情報」についての審査を行います。ネット上に投稿された情報は、基本的に表現の自由が保障されているため、被害者が希望したからといって全てを削除することはできません。請求された記事削除が適切かどうかは、プロバイダが判断することになります。

プロバイダによる意思確認(照会)

請求を受けたプロバイダは、原則として発信者に対し、送信防止措置を講じるよう要請があったこと、及び申立者等から提供された侵害情報等を通知し、「この記事を削除してもよいか」という意思確認(照会)を行います。ただし、発信者が特定できないときにはこの意思確認の手続きは取られません

この意思確認で当該通知が発信者に到達した後、7日以内(リベンジポルノは2日以内)に所定の方法で反論をしない限り、プロバイダはプロバイダ責任制限法3条2項2号の趣旨に従い、削除等の送信防止措置を講じることができます。

記事削除の判断

発信者から「送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出」があり、その理由として発信者から合理的な反論がなされた場合に、その反論などを踏まえ、「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由」がないと判断されれば、プロバイダとしては、送信防止措置の要請を受けた情報に対して送信防止措置を講じなかったとしても、損害賠償責任を免れるものと考えられています。

一方、発信者から「送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出」があったものの、その理由の記載がない場合には、プロバイダが送信防止措置を講じることができるかどうかは、照会手続を経由しない場合と同様と考えられます。

また、照会手続を経て反論があった場合でも、当該反論が不合理であるなど(例えば、虚偽であることを自認している場合など)「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」(法3条1項2号)又は「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」(法3条2項1号)に該当することをプロバイダが確認できれば、削除するべきであると考えられています。

依頼書を送れば必ず削除してもらえるわけではありません。権利侵害にあたるか否かはプロバイダが判断するのですし、そもそもプロバイダ責任制限法では送信防止措置依頼に対応する義務は定められていないのです。つまり、最終的に記事を削除するか否かの判断はプロバイダに委ねられているのであり、プロバイダは慎重になるあまり、現状を維持する、つまり記事削除を行わない場合が多くなってしまうのが実情です。

送信防止措置依頼書の書き方とは

送信防止措置依頼書のダウンロード方法

送信防止措置を依頼する際は、送信防止措置依頼書を作成します。プロバイダごとに所定のフォーマットが用意されていることもありますが、基本的には一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)が作成している書式を使って依頼書を作成します。

テレコムサービス協会は、プロバイダ責任制限法のガイドラインを制定し、通称「テレサ書式」と呼ばれる書式等も公開しています。プロバイダ各社の運用も基本的にはこのガイドラインに沿ったものとなっているので、「テレサ書式」を用いて解説をします。

「プロバイダ責任制限法関連情報Webサイト」へ行き、「送信防止措置手続」にある「名誉毀損・プライバシー関係書式(PDF)」を、用います。

プロバイダ責任制限法関連情報Webサイト

なお、著作権関係の場合には「著作権関係書式(PDF)」を、商標権関係の場合には「商標権関係書式(PDF)」を、それぞれを用います。

権利を侵害されたと主張する者

まず、「権利を侵害されたと主張する者」の住所、氏名、連絡先(電話番号)(e-mailアドレス)を記載します。氏名の隣に印鑑を押しますが、印鑑証明書を添付するよう指定するプロバイダもあるので、印鑑登録を行なっている実印にしておくといいでしょう。

弁護士が代理人である場合には、この下に弁護士名と弁護士の印鑑を押します。

掲載されている場所

URL、その他情報の特定に必要な情報(掲示板の名称、掲示板内の書き込み場所、投稿日時、ファイル名等)を書きます。プロバイダが該当記事を容易に特定できるようにするのが目的なので、投稿番号があるものは、該当の番号も合わせて記載します。

掲載されている情報

掲載されている情報の欄には、実際にどんな内容のことが掲載されているのかを記載します。例えば、「私の実名、自宅の電話番号を掲載し、『交際希望者の連絡を待っています』という、あたかも不倫相手を募集しているかのような書き込みがされました。」というような、記載になります。

件数が多い場合や、枠内に入りきれない場合などには、別に該当する投稿箇所をスクリーンショットなどで保存したものを添付し、「添付資料の通り」などと記載するとよいでしょう。

名誉毀損では、投稿が誹謗中傷にあたるかどうか前後の文脈を読まなければ判断が難しい場合もありますが、そういう場合には、当該記事の前後の書き込みについても資料として添付しましょう。

侵害されたとする権利

実際にどんな権利が侵害されたのかについて記載しますが、名誉権やプライバシー権の侵害となることが多いでしょう。法人や店舗であれば営業権侵害もあり得ますが、「名誉毀損、プライバシーの侵害」というように、簡潔に記載しましょう

権利が侵害されたとする理由(被害の状況など)

実際起きたことの経緯を記載します。例えば「ネット上ではハンドルネームしか用いず、実名や自宅の電話番号は非公開としているところ、意に反して公表され、交際の申し込みや卑猥ないたずら電話を約〇〇件も受け、多大な精神的苦痛を被っています。」といったような実際の被害を、具体的に記載します。

発信者へ氏名開示してもよいか

最後に「発信者へ氏名を開示して差し支えない場合は、左側に〇を記入してください。〇印のない場合、氏名開示には同意していないものとします。」と、あります。

意思確認(照会)において、上記の2~5は発信者にそのまま伝えられますが、送信防止措置を講じるよう要請した者の氏名等は、申立者が発信者との関係で氏名等を伏せることに合理的な理由がある場合(写真の掲載など送信者が申立者の氏名を知らない場合など)もあるので、原則として非開示とされています。

もちろん、申立ができるのは本人又はその代理人だけなので、名誉毀損、プライバシー侵害等の権利侵害においては、照会手続が行われたことをもって申立者名は自然に発信者に推測できることとなりますが、それはやむを得ないとされています。

送信防止措置依頼のメリット

繰り返しますが、請求された記事削除が適切かどうかは、プロバイダ側が判断することになりますし、そもそもプロバイダには、送信防止措置依頼に応じる義務はありません

プロバイダ責任制限法とは、権利侵害情報に対するプロバイダ等の対応が適切であるかどうかの基準を、「プロバイダ等が送信防止措置を講じた、又は講じなかった場合に、プロバイダ責任制限法3条により損害賠償責任が制限される場合に該当するか否か」という点に見出しており、「送信防止措置を講じなかったとしても、申立者に対する損害賠償責任を負わないケースにはどのようなものがあるか。(法3条1項)」、「申立者等からの要請に応じて送信防止措置を講じた場合に発信者に対する損害賠償責任を負わないケースにはどのようなものがあるか。(法3条2項)」を整理したものにすぎません。

では、送信防止措置依頼はあまり意味がないのではないかと思う人も多いかもしれませんが、送信防止措置を依頼するメリットは他にもあります。発信者に対して、誹謗中傷の書き込みにつき、被害者が法的措置を取る意思があることを伝えるという点です。

プロバイダは投稿を削除するかどうかを発信者に意思確認(照会)しますが、発信者としては、突然プロバイダから削除に関する意見照会が送られてくることになります。この段階で、自分の投稿記事が誹謗中傷にあたる可能性をはじめて認識して自粛する発信者も出てくるでしょう。また、悪意を持って誹謗中傷をしていた場合でも、意見照会が来たことによって被害者が本気で対処しようとしていることを認識し、以後の誹謗中傷をためらうことが期待できます。

特に、代理人として弁護士を依頼している場合には、記事削除が認められなかった場合にもそれであきらめて終了するわけではなく、記事削除仮処分へ進み、裁判となる可能性が高いことを、プロバイダだけでなく、発信者にも意識させることとなります。

ただ、送信防止措置依頼は発信者情報開示と異なり、希望通りに対応される可能性が高いのですが、回答までに早くても1か月程度はかかるので、これを用いず、最初から記事削除の仮処分を選択する場合も多くなります。

まとめ

送信防止措置依頼書の作成は、それほど難しいものではなく、法的知識に乏しい人でも行えます。しかし、不備があればその都度プロバイダから問い合わせがあり、それに応えねばならず、余計に時間がかかるだけでなく、依頼に応じてもらえる可能性が低くなります。

また、送信防止措置依頼が認められなかった場合には、記事削除の仮処分を申請することになりますが、その際にも、迅速に移行できますので、送信防止措置依頼書の作成時から、弁護士に相談しておく方が良いと言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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