弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-17:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

「薬物疑惑」「反社疑惑」といった表現でも名誉毀損といえる?

風評被害対策

「薬物疑惑」「反社疑惑」といった表現でも名誉毀損といえる?

他者についてコメントする際、社会的評価を低下させることがないように配慮することが必要です。そのための表現として、断定せずに「疑い」にとどめておくという方法が広く用いられています。

薬物使用、粉飾決算、反社団体との関係など、ネガティブな話題について記述する際には、「疑い」にとどめておいた方が社会的評価の損害が少なくなる可能性があります。

裁判においては、このような「疑惑」という表現はどのように評価されているのでしょうか。

判例を紹介しながら解説していきます。

「疑惑がある」の場合

特定非営利活動法人とその理事長が、週刊誌に対し、「掲載された記事により名誉が毀損された」と主張して損害賠償を求めた事例があります。

訴訟の経緯

週刊誌に掲載された記事は、「7千万円“横領”疑惑」というキャッチコピーで、

年間約1億円の補助金を受けているが、金の流れが不透明であり、理事長は報酬以外にダミー会社を設立し、これまでに7千万円に上る不当報酬を得ている可能性がある。これはNPO法人の活動を規定する特定非営利活動促進法違反となる疑いがある。

という内容でした。

これに対し、理事長らは「記事の内容が事実を摘示しており、名誉を毀損された。」と主張しました。

被告である週刊誌側は、

「横領の疑惑がある」とは法的な見解の表明であり、事実を摘示するものではなく、「理事長である原告には7千万円横領の疑惑がある」との意見ないし論評を表明したに過ぎない。

と主張しました。

裁判所の判断

裁判所は本件記事について、以下の見解を示しました。

横領した、または横領したことを強く窺わせる事実が存在するとの事実を摘示したものと認めることができる。
「横領」という文言は刑事的・民事的責任を問う場面で使用されるような法律用語としての意味だけでなく、より一般的に、他人のものを不正な方法により横取りする行為自体を表現する場合にも使用されるものである。
一般読者基準に従って本件記事等を読むと、原告がNPO法人から不正な手段により金銭を横領した旨が記載されていると理解するのが通常である。横領罪または民事上の不法行為責任が成立するか否かの法的見解を表明したものとは解されない。

東京地方裁判所2019年12月2日判決

原告の主張を認め、被告週刊誌に対し慰謝料100万円、弁護士費用10万円、合計110万円の損害賠償金の支払いを命じました。

「疑惑がある」は、この場合、一般読者基準を採用すると、意見ないし論評を表明したものではなく、えん曲に事実を摘示したものとされました。

「重大疑惑」の場合

パチンコ機および周辺機器の製造・販売会社が、被告会社の有料閲覧ウェブサイトに、『●●ファミリー支援「〇〇社」重大疑惑に新展開』との表題記事を掲載され、名誉を毀損されたとして損害賠償を求めた事例があります。

訴訟の推移

原告は、フィリピン共和国でカジノリゾートプロジェクトを進行しており、一部の報道機関により本件プロジェクトに関して、不正な資金提供が行われたかのような報道をされることになります。

その後、調査委員会により「賄賂性を指し示す証拠は認められない。」との内容を報告しましたが、被告はウェブサイト上に、『●●ファミリー支援「〇〇社」重大疑惑に新展開』との記事を掲載し、賄賂の重大な疑惑が生じた、と報じました。

原告は、以下のように主張しました。

本件記事は「重大疑惑」などとしているが、一般読者の注意と読み方を基準として見た場合、原告が外国公務員への賄賂という違法行為を行った印象を抱かせ、公正な企業活動を行っているかについて強い疑念を抱かせる内容となっている。原告の社会的評価及び社会的信用を著しく毀損するものである。

一方、被告は以下のように反論しました。

本件記事は、重大な疑惑が生じたという事実を摘示するものであり、そのような疑惑が存在することは真実である。

原告は、「仮ライセンス取得のためフィリピン政府関係者に賄賂を供与したこと」は、賄賂を送ったのではないかという「重大な疑惑が生じたこと」ではないとして、法廷で争うこととなりました。

裁判所の判断

裁判所は、「重大な疑惑」などと抽象化した表現を用いたからといって、一般読者の受ける印象が変わるものではないとして、本件記事が事実を摘示したもであると認め、「原告の社会的評価を低下させ社会的信用を毀損するものである」と判断しました。

真実性及び相当性の立証の対象も、疑惑の存在ではなく、原告が子会社等を介して贈賄を行った事実と考えるべきである(中略)
本件記事が摘示する事実が真実であると信ずるについて相当の理由があると認めることもできない。

東京地方裁判所2014年1月20日判決

名誉および信用の毀損を認め、無形の損害に対する賠償150万円、弁護士費用15万円、合計165万円の損害賠償の支払いと、ウェブサイト上に掲載され続けている記事の削除と謝罪広告の掲載を命じました。

「重大な疑惑」と表現しても、前後の記載内容も併せて読めば、事実を摘示したものとされる場合があります。真実性および相当性の対象も、疑惑の存在ではなくなることになります。

まとめ

「疑惑」や「疑い」のような抽象的な表現を駆使しても、一般的な読者・視聴者の観点で理解できるレベルの誤解を与える表現は、「原告の社会的評価を低下させ社会的信用を毀損するものである」と解され、名誉毀損が成立する可能性があります。

このような表現で権利を侵害されている場合は、泣き寝入りせず、専門の弁護士へ相談しましょう。状況や内容を精査し、本記事判例のように名誉毀損を認めさせ、慰謝料を請求することができるかもしれません。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る