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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

他社のステルスマーケティング(ステマ)記事の削除

風評被害対策

他社のステルスマーケティング(ステマ)記事の削除

ステルスマーケティング(以下、「ステマ」とします。)とは、消費者に宣伝だと気づかれないように宣伝することです。英語のStealth(隠れる、隠密に)に由来します。ステルス戦闘機のステルスです。

ステマは、Amazonカスタマーレビューやその他の口コミサイト、ブログやアフィリエイトサイト等において、中立的な立場での批評や、当該商品と利害関係のない一般人の感想を装ったりして行われます。利害関係のある人や企業が商品の評価を押し上げるために行うのであり、「やらせ」や「サクラ」なので、モラルに反することとされ、発覚した場合には非難の対象となり、ネット上で「炎上」する場合が、多々あります。

2つのよくあるステマ手法

ステマ手法としては、2つのパターンがあります。

  1. 事業者自らが口コミサイトに掲載しているにもかかわらず、第三者が掲載しているかのように誤認させる「なりすまし型」
  2. 事業者が第三者に金銭や、その他の経済的利益を提供して表示させているにも関わらず、その事実を明示しない「利益提供秘匿型」

消費者庁は、平成23年10月28日の「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」において、景品表示法で問題となる事例をあげています。

商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の 評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービス に対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。

インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項

これは、上記1の「なりすまし型」に当たります。

また、平成24年5月9日には「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を一部改訂し、上記2の「利益提供秘匿型」のステマについても、景品表示法上の不当表示として問題になるとしています。

しかし、ステマ事例は、なかなか後を絶ちません。

過去に、日本国内で問題となったステマ事例のいくつかを見てみましょう。

ペニーオークション事件

2012年12月、ペニーオークションサイト「ワールドオークション」で、入札者から手数料をだまし取ったとして、詐欺罪容疑で出会い系サイト運営会社の4人が逮捕されました。

有名なペニーオークション事件であり、これでステマという言葉が一般に知られるようになりました。ステマはこの年の流行語大賞の候補になっています。

逮捕された4人達が運営していた複数のペニオクサイトでは最初は高額商品も0円など低額でスタートし、1円から15円の入札単位で価格が上がっていきます。入札するごとにサイト業者にあらかじめ先払いした仮想通貨で数十円単位の負担をし、落札後には落札額を仮想通貨で支払うのが基本的なシステムと紹介されていました。

しかし、サイト運営者がBOTによる架空会員で自動入札をすることにより、1000万円にならない限りは落札できない仕組みになっており、入札すればするほどサイト業者にお金が入る仕組みになっていたのです。ダミーとして一部の低価格商品のみ例外的に低額で落札可能になっていたのですが、そのような事例は全出品の1%程度にすぎなかったそうです。また家宅捜索で押収した資料を分析した結果、出品した高額商品を仕入れた形跡はなく、入札者に商品を渡す意思は無かったことが判明しています。

この業者の広報を月30万で請け負ったうえで、自身のブログ上に「こんな高価な商品をこんな安くゲットしました!」などと虚偽の広告記事を掲載していたことが発覚し、20数人のタレントの名前があがり、軽犯罪法違反で事情聴取を受けた女性タレントもいます。詐欺だとは知らなかったのですが、その後メディア出演が皆無になったタレントもいます。

この行為は「利益提供秘匿型」のステマにあたります。

楽天市場事件

2015年3月に、楽天市場で架空の注文をしたり嘘の口コミを投稿したりする大掛かりなステマが発覚しました。楽天は「サクラ行為で公正なサービスを妨害された」と主張し、これを仕組んだとして大阪市のシステム会社に約1億9800万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に提起しました。

楽天では、「楽天市場」で買い物した人が商品を5段階で評価してコメントを投稿できる「みんなのレビュー」を提供しています。また、売れ筋商品をランキングで表示しており、利用者が商品を購入する際の判断材料の一つにされています。

このシステム会社は、ランキングの上位表示を狙った121店の依頼を受けて、月額8万円で店側に優位な評価を月150件ずつ投稿する契約を結び、「やらせ」の口コミや架空の注文を繰り返し、わかっているだけで11万4327件も投稿していました。 このシステム会社の行為は「なりすまし型」のステマにあたります。契約した出店者の商品を称賛する、好意的な口コミをいくつも投稿し、それによって、その商品をランキングの上位に押し上げ、商品が売れて出店者は儲かるというわけです。口コミの多い商品は人気商品であると思い込み選ぶ傾向にあるという、消費者心理を利用した行為です。

ステマは景品表示法違反行為に当たるのか

景品表示法によるルールとは?

景品表示法は、企業が商品やサービスを宣伝・広告するときのルールを定めた法律であり、購買者が間違った判断をしないよう、宣伝・広告する側を縛るルールです。

この景品表示法の第5条第1号では、

  1. 実際のものよりも著しく優良であると示す表示
  2. 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示

であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。これを「優良誤認表示」の禁止といいます。

また、第5条第2号では、

・実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示

であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。これを「有利誤認表示」の禁止といいます。

ステマはこの第5条に違反する行為に当たる可能性があると言われることがありますが、禁止されているのは、あくまでも「著しく優良であると示す表示」「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」であり、通常の範囲内の宣伝であれば、景品表示法で問題になることはありません。そもそも、広告・宣伝とは「優良であると示す表示」や「有利であると一般消費者に示す表示」です。

したがって、およそステマ一般を違法とする法律は存在せず、いわば、「行き過ぎたステマは、いわゆる誇大広告などと同様に違法となり得る」という形です。

他社によるステマがもたらす2種類の被害

競合他社がステマを行うと、まず一次的には、同じマーケットを取り合う競合他社がステマ手法によって売上を伸ばし、結果的に自社売上が減少してしまう、という被害が企業に生じます。例えば、Amazonのカスタマーレビューで他社がステマを行い、人気商品を装ったせいで、自社商品の売上が減少してしまう、といったケースです。他社によるステマを止めることができれば、このような売上減少を防ぐことが出来ます。しかし、他社によるステマを削除するのは、なかなか難しいというのが結論です。

一般論として、インターネット上の記事を法的手段で削除する場合、「送信防止措置請求」といった形で、「この記事のせいで自分の権利が侵害されているので、記事削除を行って欲しい」と求めることになります。しかし、競合他社のステマは、直接的に自社の権利を侵害するものではありません。また、景品表示法は、およそ一般論としての消費者の権利を認めるものではないため、「私は消費者であるが、この会社のステマのせいで景品表示法上の権利が侵害されているので、この記事を削除して欲しい」と求めることもできません。これは法的に少し難しい話ですが…。

ただ、法的な請求ではなく、利用規約違反であれば、認められるケースもあります。例えば、「NAVERまとめ」の利用規約には、以下のような記載があります。

第3条(禁止事項)

利用者は、本サービスの利用に際して、以下に記載することを行なってはならず、また、以下の記載事項をおこなわないことを保証します。

(1)法令、裁判所の判決、決定もしくは命令、または法令上拘束力のある行政措置に違反する行為。

(中略)

第4条(コンテンツの取扱い)

当社は、利用者が投稿コンテンツなどに関し法令もしくは本規約に違反しまたは違反するおそれのあると当社が認めた場合、その他業務上の必要性がある場合には、あらかじめ利用者に通知することなく、当社の管理するサーバから投稿コンテンツを削除するなどの方法により、本サービスまたは投稿コンテンツを利用できないようにすることができます。そのため、利用者は常に投稿コンテンツのバックアップを作成しておくことが推奨されます。

つまり、景品表示法に違反するようなステマ投稿は、「NAVERまとめ」の利用規約上、法令に違反する行為として禁止されており、運営会社は、投稿された「まとめ」記事が法令違反に該当する場合、または該当するおそれがあると判断した場合には、そうした投稿を削除することがあり得る旨が規定されているのです。そこで、「NAVERまとめ」の運営会社に対し、競合他社によるステマが行われており、利用規約に則して削除されるべき旨を通報する、という手段があり得ます。

Amazonカスタマーレビューやその他の掲示板サイト等でも、「法令に違反する投稿」は禁止されているケースが多いものといえ、同様です。

ステマに巻き込まれて商品を貶されることによる直接的な被害

競合他社のステマによる被害には、もう1個種類があります。

競合他社が、ステマによって競合他社製品を宣伝するために、そのライバル製品を貶す、という手法を用いることがあるからです。

例えば、アフィリエイトサイトが、A社の依頼を受けてA社の加湿器を推すために、B社の加湿器を「消臭能力も集塵能力も低い」「花粉で鼻が痒いのも治らない」「水漏れ状態になる」などと短所を並べたりして、A社商品の購入を勧めるといった手法です。「思ったほどの効果は無い」などといわれたら、B社には、単に「A社製品がマーケットで売れる結果として自社製品が売れにくくなる」ということを超え、直接的に売上へのダメージが発生してしまいます。

この時、B社としては、どう対応すればいいのでしょうか。

これは、ネガティブキャンペーンにも共通する問題です、ランキングサイト等で自社製品を低い順位にされてしまう場合も、同じような直接的な被害が生じることになります。相手を貶めて自分自身の評価を上げる作戦に巻き込まれては迷惑であり、大変困ります。

こうした場合、「ステマ」それ自体ではなく、自社製品が不当に貶されていることを捉え、名誉毀損などの理由で記事削除を求められる可能性があります。ただ、名誉毀損の典型的なケースからは少しズレるため、スタンダードな名誉毀損の請求などを多数手がけており、記事削除の経験が豊富な者でないと、なかなか対応が難しいケースも多いものと思われます。

例えば、他社による自作自演のランキングサイトにおいて、自社商品が不当に貶されている場合の対応に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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