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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

Twitterでの「なりすまし」と肖像権侵害

風評被害対策

Twitterでの「なりすまし」と肖像権侵害

Twitterで自分の顔写真等を無断で使う、いわゆる「なりすましアカウント」が登場してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。

なりすましアカウントにおいていろいろな投稿を行われ、深刻な迷惑が生じるという問題が頻発しています。ここでは、Twitterのなりすましアカウントへの対応を解説します。

なりすましアカウントが作成されたとき

Aさんは、名前(ニックネーム)「〇〇」、ユーザー名「@ZZZ」でTwitterアカウントを作り、プロフィール画像に自分の顔写真を使い、日常生活や趣味の音楽等について投稿していました。

ところが、 名前(ニックネーム) 「〇〇」、ユーザー名「@ZZZZ」、プロフィール画像にAさんの顔写真を使った、Aさんのなりすましアカウントが作成され、汚い言葉で相手構わず誹謗中傷を繰り返したり、卑猥な写真を投稿したりという、嫌がらせが始まりました。

この場合Aさんは、このなりすまし行為に対してどのような措置をとることができるのでしょうか。

肖像権とは何か

ネット上で自分の画像が勝手に利用された場合、通常は、肖像権の侵害が問題になります。

「肖像権」とは、「みだりに自己の容ぼう等を撮影され、これを公表されない権利」のことです。著作権などと異なり、明文化はされていませんが、判例によって確立されてきた権利です。

ここで、誤解する人が多いのですが、肖像権とは「自分の顔写真を無断掲載するな」とする権利ではありません。
誰かがプロフィール画像にAさんの顔写真を使ってTwitterアカウントを作成したとしても、直ちに「肖像権侵害」とはならないのです。

同じく当サイトの別記事で引用した大阪地方裁判所2016年2月8日判決では、被告のアカウントを「本件アカウントを利用し、プロフィール画像として原告の顔写真を使用し、アカウント表示名として『B’』という原告の氏名である『B』をもじった名前(本件ハンドルネーム)を使用したものであるから、本件投稿は、いわゆる第三者が原告になりすまして投稿したものと認めることができる」と、なりすましを認めました。

その上で判決は、「本件アカウントのプロフィール画像として用いられた原告の顔写真は、原告が5年ほど前に本件サイトに登録した際に原告のプロフィール画像としてアップロードしたものであって、原告自らが不特定多数の者が閲覧することを予定されたSNSサイト上に公開したものであるから、これが用いられたことにより原告のプライバシー権が侵害されたと認めることはできないし、原告の顔写真は原告が自ら公開したものであるから、本件投稿により原告の肖像権が侵害されたと認めることもできない。」としました。

なりすまし行為を行い、プロフィール画像として他人の顔写真を使っているだけでは、プライバシー権侵害にも、肖像権侵害にもならないということです。

肖像権侵害による不法行為

長野県在住の男性が掲示板にて自身になりすました投稿をされ、肖像権などを侵害されたとして、大阪府枚方市の男性に損害賠償を求めた訴訟の判決が2017年8月30日にあり、大阪地方裁判所は被告男性に損害賠償の支払いを命じました。

判決は、同じアカウント名を使用し、原告の顔写真を使って繰り返した被告の投稿を、原告のなりすましであると認めました。そしてこれらの投稿は、いずれも他者を侮辱や罵倒する内容であり、第三者に対して原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒する人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから、原告の社会的評価を低下させているとして、原告の名誉権が侵害されたことを認めました。

一方、プライバシー権の侵害に関しては、原告は被告に使用された顔写真をプロフィール画像に自ら設定していたのであり、原告自身によって不特定多数の者がアクセス可能な公的領域に置いていたのだから、「他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するとはいえない」とし、これまでの裁判と同様の判断をしました。

ただし、肖像権については、被告は原告の顔写真を本件アカウントのプロフィール画像として使用し、原告の社会的評価を低下させるような投稿を行っているので、被告による原告の肖像の使用目的に正当性を認めることはできなく、原告を侮辱し、原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めました。

判決は、なりすましアカウントにおいて、すでに公開されていた原告の顔写真を使ったことはプライバシー権の侵害にはならないが、原告の社会的評価を低下させるような投稿を行っているため、「被告による原告の肖像の使用目的に正当性を認めることはできないし、『原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益』を侵害した」と判断しました。

たとえ不特定多数の者がアクセス可能な公的領域に置いていたからといって、肖像の使用目的に正当性が認められないなら、言い換えれば悪用しようという意図のもとで使用されるのなら、肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害されたとして訴えることが可能である、認められる可能性が高くなった、と言えるでしょう。

著作権とは何か

著作権法においては、「思想または感情を創作的に表現したものであり、文学・学術・美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条1項1号における「著作物」)」に対して発生する知的財産権とされるのが「著作権」であり、当然、これは写真作品についても発生します

著作者の権利は、財産的な面での利益を保護する「著作権(財産権)」と、人格的な面での利益を保護する「著作者人格権」との二つに分かれます。前者は著作物を著作者以外の他者に無断で利用させないことであり、つまり、「自分が撮影した写真を無断掲載するな」という権利であり、届け出なければならない特許などと異なり、創作すると同時に発生する権利です

アカウントのプロフィール画像が自身で撮影した写真であれば、写真撮影者として著作権侵害を主張することが可能な場合があると言えます。

削除請求権とIP開示請求権

なりすましアカウントが「違法」と言えれば削除請求をすることができますが、なりすましをするような人物は1回でやめるようなことはせず、繰り返しなりすましアカウントを作り、嫌がらせを続けることが予想されます。

そこで、ペナルティーを与えるためにも、犯人を特定する必要がありますが、Twitter社に問合せをしても、基本的には開示してもらえないと考えましょう。

以下の手順で、裁判所の手続きを利用する必要があります。

発信者情報開示の仮処分を申請する

まずは、Twitter社に対する「発信者情報開示の仮処分」を裁判所に申し立て、IPアドレスやタイムスタンプを開示させます

被保全権利の存在と権利侵害の事実を証明できれば、裁判所がTwitter社に対して、犯人のIPアドレスやタイムスタンプの開示命令を出してくれますし、仮処分命令が出たら、Twitter社は速やかに情報を開示します。

発信者情報消去禁止の仮処分を申請する

IPアドレスやタイムスタンプが開示されると、投稿者が利用した経由プロバイダを特定できます。

経由プロバイダが特定できたら、これに対して裁判を行いますが、その前に「発信者情報消去禁止の仮処分」をしておくべきです。

プロバイダや通信会社は、通常投稿が行われてから3~6か月程度が経過すると、発信者に関する情報を消去してしまいます。その後に開示命令が出ても「無い情報は開示できない」と言われて、犯人を特定できません。
そこで、情報があるうちに(訴訟提起前に)情報消去禁止の仮処分を行い、情報を保全しておく必要があるのです。

もっとも、インターネット上の情報が錯綜していますが、この「発信者情報消去禁止の仮処分」は常に必要なものではありません。一部のプロバイダや通信会社は、仮処分を行わなくても、単に「今から訴訟を提起するので、ログを保全しておいて欲しい」と求めれば、この保全要請には応じてくれるためです。どのプロバイダや通信会社はこうした交渉に応じてくれるのか、というのは、風評被害対策の実務を日々行っている弁護士等が有している「ノウハウ」の範疇となるため、早期に相談することをおすすめします。

発信者情報開示の訴訟を提起する

仮処分によって情報が保存されたら、裁判所に、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求を行います。

任意で開示を受けられた方が時間的にも費用的にも負担が軽いため、まずは経由プロバイダに対し任意で投稿者の氏名や住所などの開示を要求しますが、普通は拒絶されてしまうことが多く、訴訟を起こす必要があります。

きちんと証明ができれば、裁判所はプロバイダに対して投稿者の情報開示命令を出してくれます。投稿者に関する氏名・住所・電話番号・メールアドレスが開示されると、なりすまし犯を特定できます。

以上の手順による投稿者特定は、手続としてなかなか複雑ではあります。これらに関しては別記事で詳細に解説しています。

なりすまし犯への対応

なりすまし犯を特定できたら、名誉権やプライバシー権などが害されたことについて、特定した投稿者に損害賠償請求を求めることができます
まずは内容証明郵便などを使って任意の支払いを求め、投稿者が支払いに応じない場合には損害賠償請求訴訟を起こす、というのが一般的です。

なりすましが悪質な場合には警察に通報し、逮捕してもらい、刑事告訴をして刑事罰を与えることも可能です。

刑事告訴の場合、具体的には被害内容と、それが犯罪のそれぞれの構成要件に該当することを説明しなければなりません。経験豊かな弁護士に依頼しましょう。

被害内容は、具体的には名誉毀損罪、侮辱罪、業務妨害罪、信用毀損罪、著作権法違反等が成立する可能性があります。詳細を弁護士とご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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