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風評被害対策

誹謗中傷記事の削除。裁判より簡易な「仮処分」の使い方とは?

風評被害対策

誹謗中傷記事の削除。裁判より簡易な「仮処分」の使い方とは?

ネットで発見した自分に対する誹謗中傷の記事…。「すぐに削除したい」と思うのは自然なことでしょう。ですが、弁護士に相談して、裁判を起こし、判決を待っていたのでは時間がかかってしまいます。もちろん、訴訟が決着するまでの間、当該記事は掲載され続け、経済的、精神的な不利益を被り続けることになるでしょう。

そんな時に役に立つのが「仮処分」という手続きです。仮処分とは、裁判所を通じた、しかし裁判よりも短期間で終わる手続きです。

本記事では、誹謗中傷記事の削除に関する仮処分手続きの概要と流れ、そして実際にはどのような基準で申請が認められているのかを、裁判例をあげて解説します。

仮処分とは

仮処分とは、正式裁判の前に、裁判に勝訴したときと同様の状態を確保することができる手続きのことです。

誹謗中傷対策における仮処分の場合、「その記事が違法かどうかは本訴訟でゆっくり決めるとして、訴訟を行っている間記事が掲載され続けていると被害が拡大するので、とりあえずは一応記事は違法だということにする」という手続きであり、仮処分が認められれば、その記事は「とりあえずは違法」ということになるため、削除されます。

理論的には、この後、本訴訟を行う必要があり、本訴訟に負けて「記事は違法ではなかった」という場合、又は、訴訟を提起しなかった場合には、その記事を復活させた上で掲載されても文句は言えません。しかし、仮処分で「違法」と判断されるような記事は、訴訟でも同じく「違法」と判断される可能性が高いため、ほとんどの場合において命令を受けた相手方は「仮処分で違法となった時点で記事を削除し、その後訴訟が提起されなくても復活させない」という運用をしています。したがって、訴訟という手段を用いる必要は特になく、民事保全法に定められた仮処分手続きを「迅速に終わる訴訟」として使えば十分でしょう。

削除仮処分が認められる要件

削除仮処分が認められるためには、民事保全法第13条より、

  • 保全すべき権利
  • 保全の必要性

という、2つの要件を明らかにしなければなりません。

要件①:保全すべき権利

「保全すべき権利」とは、仮処分命令の発令などを通して守るべき権利のことをいい、ネットにおける誹謗中傷記事の削除の場合、「名誉権」「プライバシー権」や「営業上の権利」「著作権」「商標権」等の権利が認められています。

つまり、誹謗中傷記事の削除を求めるには、単に「その記事のせいで私は迷惑している」と主張するだけでは足りず、「その記事は、私の〇〇の権利を侵害している」と主張する必要があり、どのような要件が満たされる場合に「その権利が侵害された」と言えるのかという点を検討し、当該記事内容との関係で主張を組み立てなければなりません。これは、誹謗中傷対策経験が豊富な弁護士の専門領域といえます。

例えば、名誉毀損を理由とする記事削除の仮処分の可否については、その記事が他人の名誉を毀損する事実を適示するだけでは足りず、その適示が違法でなければなりません。そして、他人の名誉を毀損するような記事の書き込み行為が違法でないのは、その行為が

  1. 公共の利害に関する事実に係り
  2. もっぱら公益を図る目的に出た場合で
  3. 適示された事実が真実であるときである

とされています。記事削除を求める場合には、これらの違法性阻却事由が存在しないことを主張し、書き込みが違法であることを説明する必要があります。

要件②:保全の必要性

保全の必要性とは、その問題を裁判ではなく仮処分手続きによって解決すべき理由のことです。

仮処分は、裁判に比べると迅速な手続きです。これは相手方から見れば、「裁判で争えば勝てたかもしれないのに、迅速な手続きであったために不必要に記事を削除することになってしまった」となる可能性があるので、保全の必要性とは、「その可能性があるとしても、速やかに仮処分によって誹謗中傷記事を削除すべき理由」が存在するということでなければなりません。

ただ、インターネット上で誹謗中傷記事が公開されている場合、当該誹謗中傷記事が存在することによって、被害者は日々社会的な不利益を受けたり、プライバシー情報を公開され続けて精神的損害を受け続けたりすることになります。また公開された情報が拡散されやすいメディアなので、そうしたメディア上に誹謗中傷記事が公開されているということは、被害者側から見れば緊急性の高いケースが多いことになります。そこで、インターネット上の誹謗中傷記事を削除することに関しては、保全の必要性は、通常はあまり問題になりません。

削除仮処分の流れ

削除仮処分の流れを解説します。

仮処分の申し立て

仮処分手続きによる誹謗中傷記事の削除を求める場合、まず、裁判所に「記事削除の仮処分命令の申し立て」をします(民事保全法第23条2項)。

被害者は、保全すべき権利の内容・権利侵害の事実・保全の必要性を明らかにした申立書を提出しますが、「保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない」(民事保全法第13条2項)とされています。

裁判も仮処分も、主張は証拠によって基礎付けられている必要があるのですが、仮処分の場合には、裁判の場合の「証明」と異なり、「疎明」で足りるとされています。合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいと裁判官に確信を抱かせるのが「証明」であるのに対し、迅速を必要とする趣旨から、裁判官に「一応確からしい」という推測を得させる程度の証拠の提出でよいとされているのです。

審尋

裁判所に対して仮処分の申立を行うと、「審尋」という裁判における口頭弁論のような手続きが行われます。裁判とは異なり、裁判官と弁護士が机を挟んで話し合う手続きであり、裁判所の一般的な運用として、相手方が立ち会うことができる審尋期日が定められます。

ただし、海外の法人を相手方とする場合などは、申立人側のみが立ち会う審尋が行われ、サイト運営者等が立ち会わない場合もあります。

審尋期日は、裁判官が相手方の言い分や証拠などを見て判断していくことになりますが、複数回開催されるときでも、1週間から2週間の間隔で指定され、不当に手続きが遅延することのないように早期に終結するのが通例なので、その都度迅速かつ周到な準備をする必要があります。

担保金の納付

審尋の結果、権利侵害が認められ、保全の必要性があると認める「決定」が出たら、「担保決定」となります。裁判で言えば、「勝訴判決を出すので、担保金を預けて欲しい」と言われるような状態です。裁判所が決めた担保金を法務局に供託せねばなりません (民事保全法第23条2項)。

一般論として、仮処分で勝った場合には、一定の金額を「担保金」として預ける必要があります(民事保全法第14条1項)。仮処分は迅速な手続きなので、相手側から見れば、「じっくりと裁判をしたら勝てたかもしれないのに、迅速さを優先した手続きだったので負けてしまった」ともいえます。

ネット上の記事削除請求も、後で正式の本裁判となり、そこで「やはりこの記事に違法性はなかった」ということになるかもしれません。その場合は「記事を削除させてしまったこと」について、損害賠償を支払わなければならなくなる可能性があり、この引き当て金となる「担保金」を預けておく必要があるのです。記事削除の場合、記事量や事案にもよりますが、概ね30万円から50万円となっており、通常、一定の手続きの後に還付されます。

仮処分命令の発令

担保金が供託されると、裁判所により投稿記事削除の仮処分命令が発令されます。先に述べた通り、削除の仮処分命令が発令されると、相手方は、正式な裁判を経なくても削除に応じることがほとんどであるため、結果的に投稿記事を削除させるという目的は達成されます。

執行

「仮処分命令を受けた相手方が削除に応じない場合には、仮差押えの執行又は強制執行という手続きを取ることができる。(民事保全法第52条1項 )」と定められています。また、執行の申立てをすると、相手方が削除するまで、裁判所が命じた金額を相手方に支払わせることができます(民事執行法第172条)。

投稿記事削除仮処分命令申立事件に対する決定の例

実際には、投稿記事削除に対する仮処分はどのように行われているのでしょうか。

Googleマップの口コミに投稿された記事によって人格権(名誉権)が侵害されたと主張し、人格権に基づく妨害排除請求として、2つの投稿記事(以降、本件記事①と本件記事②とします)を仮に削除することを、歯科医院である債権者が、債務者であるGoogle LLCに求めた事例があります。

本件記事①に対する裁判所の判断

本件記事①は、虫歯治療当日の担当医師の治療中の態度や説明振りを摘示したうえで悪評価をつけ、翌日以降の対応について痛みの訴えへの対応を摘示して期待したものでなかったことへの不満を述べ、若手の医師や経験の少ない医師がインプラント手術や大事な手術を行っているとの事実を摘示するものでした。

裁判所は、「これらの摘示事実及び意見・論評は、主として一人の医師に対する不満であるとはいえ、債権者の社会的評価を一定程度低下させるものといえる」としたうえで、しかし、担当した医師が不満であったので批判を述べると明示され、クリニックのすべての歯科医師に関する不満でないことが前置きされており、営業日や院内の様子に関する部分は好意的評価であること等をあげ、

一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、本件記事①を全体としてみれば、同記事は、本件クリニックで治療を受けた投稿者が、担当医師の当日の治療及び翌日以降の対応に不満をもって、批判的意見等を記載したものに過ぎず、債権者が主張するように、患者を初心者の技術向上の踏み台や実験台にしていると捉えられ、医療事故被害を示唆するものであるとまで読むことはできない。

東京地方裁判所2018年4月26日決定
※実際の判例表記は「 本件記事1 」ですが、本記事に合わせて「 本件記事① 」と記載しています。

とし、この程度の社会的評価の低下は受忍限度の範囲内であるとしました。訴訟ではなく仮処分なので、「判決」ではなく、「決定」となっています。

本件記事②に対する裁判所の判断

本件記事②は、本件クリニックについて、費用がセラミックもインプラントも平均的な歯医者より高く、ホームページの記載よりかなり高額で、治療費がやたらに高額であるにもかかわらず、アルバイト医師で技術が乏しく、セラミックを使って治療した歯がすべて直ぐに虫歯になり、「どうにかして欲しい」と言っても何もしてくれなかったとの事実を摘示して、本件クリニックが、「数をこなすだけでプライドをもってやっているとは思えない」との意見を述べるものでした。

裁判所は、本件記事②は本件クリニックの費用や品質に対する社会的評価を低下させるものということができる、としたうえで摘示事実の真実性を検討し、

  • 疎明資料によれば、本件クリニックの治療費が他に比較して特段高額であるとは認められない
  • 疎明資料によれば、ホームページの記載よりかなり高額で、平均的な歯医者より高くつくとの摘示事実が真実であるとはいえない
  • 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、本件クリニックの開設以来の全診療録を調べた結果、セラミックによる治療をして、すべて虫歯になったのでどうにかして欲しいとクレームを申し出た患者はいない

として、摘示された事実は、その重要な部分において真実でないといえるから、この点について違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないものと一応認められるとし、

本件記事②は債権者の社会的評価を低下させ、また、同記事を本件サイトに投稿する行為には、実質的違法性があるといえるから、同記事については被保全権利が認められる。債権者に代わり第三者弁護士○○が債務者のため本決定送達日の翌日から7日以内に30万円の担保を立てることを条件として、債務者は、別紙投稿記事目録記載第2の投稿記事を仮に削除せよ。

東京地方裁判所2018年4月26日決定

と、決定しました。

なお、こうした口コミに対する対応について、裁判所は、

債務者は、本件サイトでは、口コミの対象となる店舗・施設のオーナーにおいて口コミに返信して反論等することが可能であり、債権者において、そのような方法によって対応するべきであるから保全の必要性はない旨主張する。しかしながら、本件サイト上で反論するまでには多数の者による閲覧があり得るし、また、反論には事業者としての立場に由来する内容的な制約等があるから、これによって低下した債権者の社会的評価が十分に回復するとはいえない。したがって、反論が可能であることによって保全の必要性がなくなるとまでいうことはできない。よって、本件記事②については、保全の必要性があるといえる。

東京地方裁判所2018年4月26日決定
※実際の判例表記は「 本件記事2 」ですが、本記事に合わせて「 本件記事② 」と記載しています。

としています。まさに仮処分手続きを求めるべき事例であることを理解したうえでの決定と言えるでしょう。

まとめ

仮処分は、誹謗中傷記事の被害者にとって便利な手続きですが、「簡単な手続き」というわけではありません。疎明資料を周到に用意しなければなりませんし、審尋手続において実質的な議論が発生しやすいということもありますし、また審尋期日間の期間が短いので短期間で補充主張や証拠を揃える必要もあります。

誹謗中傷記事削除の仮処分は、裁判よりも弁護士の腕や経験を問われる要素が多いので、経験が豊富な弁護士に依頼すべきです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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