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風評被害対策

検索結果の削除は可能か?「忘れられる権利」について解説

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検索結果の削除は可能か?「忘れられる権利」について解説

過去の自らに関する記事などの情報の削除を申し出る権利は「忘れられる権利」として注目を浴びています。では日本では「忘れられる権利」について、どのような法的判断がくだされたのでしょうか。

2017年1月31日、最高裁判所はGoogleの検索エンジン上で表示される約5年前の、児童買春・児童ポルノ禁止法違反での逮捕歴に関するURLについて、「忘れられる権利」という表現は用いずに、プライバシーを根拠として削除の可否を検討し、比較衡量の基準を立ててこれを適用して、削除を否定する決定を行いました。

この最高裁の決定以後、逮捕記事・逮捕歴に関する検索結果は削除しにくくなったという声もあるのですが、検索結果削除の請求は裁判ではどのように取り扱われているかについて、解説します。

犯罪歴や前科の公表

他者の逮捕歴等を公表した場合に、プライバシー侵害が認められた例は数多くあります。

犯罪歴や前科の公表と記事削除

占領下の沖縄で行われた刑事事件で有罪とされた元被告人が、ノンフィクション小説において実名で描写されたことを問題としました(ノンフィクション「逆転」事件)。裁判では、「ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである」としたうえで、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる」として、プライバシー侵害を認め、損害賠償の支払いが命じられています(最高裁判所1994年2月8日判決)。

また、2009年には保険金殺人事件で有罪となり服役を終えた元被告人の情報を実名入りでウェブサイト上に公表した行為が問題になりました。裁判所は、「原告のような有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた者は、一般市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられないことにつき法的保護に値する利益を有していた」としました。

さらに、本件記事が掲載された時点で、すでに事件発生から20年以上が経過しており、原告が刑の執行を終えてから8年以上が経過していることを考慮し「いったん著名となったことによって直ちに原告において前科等にかかわる事実が公表されないことについての法的利益が存在しないことになるものでもない」として、プライバシー侵害を認め、損害賠償の支払いが命じられています(東京地方裁判所2009年9月11日判決)。

このように、他者の逮捕歴等の公表がプライバシー侵害として認められるのであれば、ネット上での逮捕歴等の公表は、それぞれの記事削除を請求すればいいのであって、認められにくい検索エンジンに対する検索結果削除を請求する必要などないのではないかという考え方があります。

これに関しては、

  • 削除請求の相手とコンタクトが取れない場合、つまり、海外サイトや海外在住者等で連絡がとれなかったり、日本の判決等に従わなかったりする場合
  • 削除対象のサイト数が膨大で、時間がかかるし、弁護料や調査費が高額になってしまうという場合
  • 検索結果に表示されることが問題なのであり、検索結果に表示されなければ、匿名掲示板等に中傷記事があっても、我慢できないわけではないという場合

などがあり、検索結果削除が必要とされるケースも多いという現実があります。

犯罪歴や前科の公表と検索結果削除

検索結果の削除はなぜ記事削除よりも認められにくいのでしょうか。改めて論点を整理してみます。

検索事業者といえば、ヤフーやグーグルなどが有名でみなさんも使ったことがあるでしょう。厳密に定義すると、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、この複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を索引に基づいて検索結果として提供するものです。

この検索事業者による情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われています。ですが、そのプログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたもので、検索結果の提供は検索事業者による表現行為という側面を有し、表現の自由にかかわるとされています。

また、検索事業者による検索結果の提供は、人々がインターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであって、現代社会においては、インターネット上の情報流通の基盤として極めて重要な役割を果たしています。

だから、検索事業者による特定の検索結果の提供行為が権利侵害などとされ、その削除を求められるということは、表現行為の制約であり、検索結果の提供を通じて果たされている社会的役割に対する制約でもあると考えられているのです。

いわゆる「忘れられる権利」に関する決定において、最高裁判所は、以下のように判示し、検索結果削除における比較衡量の基準を示しました。

検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

最高裁判所2017年1月31日決定

この決定が大きな反響を呼んだのは、以下の2つの点においてです。

  1. 検索結果の削除を、プライバシー権一般の中で捉え、「忘れられる権利」については、ひとことも触れなかったという点
  2. 「明らかな場合」という要件を明確にしたという点

1については、一部では「忘れられる権利」を否定したとして騒がれたのですが、ことさらに新しい概念を持ち込まなくても、従来の基準で比較衡量して判断できるとしているだけであり、だから、あえて「忘れられる権利」については触れなかったのだと理解できます。

2については、例えばノンフィクション「逆転」事件の最高裁判決等では、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合」とされていた比較衡量の基準が、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」とされたということです。

つまり、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、その結果、プライバシー侵害が少しでも重ければ削除がされるというのではなく、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」であるというのは、最初から検索エンジン側に重きが置かれ、高度のプライバシー侵害がないと「明白」とは判断されず、検索結果は削除されないという意味に解され、削除を請求する者にとってハードルを高くしたものであると受け取られたからです。

まとめ

2017年1月の最高裁決定における「明白性」という要件は、原々々審から原審までは出てきてはいませんし、最も基準が厳しくなっても仕方がない事前差止めならまだしも、単純な削除という事案においてこうした厳しい判断がなされたことは、注目を浴び、冒頭に記したように、この最高裁決定以後、裁判所では、逮捕記事・逮捕歴に関する検索結果は削除しにくくなったと言われることになりました。

もちろん、検索結果削除は様々な事情を比較衡量する結果として判断されるものですし、犯罪歴や前科とひと口に言っても、実刑判決であった場合や不起訴であった場合など、様々です。こうした犯罪歴や前科の検索結果削除がどのように判断されるか、今後の裁判例の蓄積に注目する必要があります。

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