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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

病院転職ラボにおける風評被害対策とは?

風評被害対策

病院転職ラボにおける風評被害対策とは?

医師や看護師、医療事務など、医療に関わる方たちが就職活動や転職活動をする時、一般的な転職サイトには、通常、病院やクリニックは掲載されていません。そんな方々の強い味方になるのが専門職の転職サイトです。病院転職ラボは、医療従事者を専門とした転職サイトの1つであり、ここでは全国の病院について、職場の評判や口コミを読むことができます。病院転職ラボでは、実際に働いていた人のリアルな口コミが見られるので、ポジティブな情報からネガティブな情報まで様々な人の口コミや情報が掲載されており、ユーザーにとってはリアルな体験談を共有できるという点で役に立つサイトですが、一方で、病院としては悪い口コミが書かれて広まってしまった場合には、採用活動や病院経営に悪い影響を及ぼしかねません。ここでは、病院転職ラボに誹謗中傷の口コミが投稿された場合の風評被害対策について説明します。

病院転職ラボに関する解説

病院転職ラボとは、医療・法律業界の人材サービスを手掛ける、株式病院WILLCOが運営するユーザーのための職場口コミメディアです。病院転職ラボでは、気になる病院の業務内容や給与水準、人間関係や女性の働きやすさなど、他の病院口コミサイトにはないリアルな評判を読むことができ、病院内部の情報を知るための強い味方になります。また、集めた情報をサイト側で集計し、5つ星満点で病院を独自に採点、ランキング化しているので見やすく、探しやすいのも特徴です。

このサイトは実際に働いている人、過去に働いていた人の口コミが中心なので、ネガティブな情報や不満が書かれることも想定されます。そして病院転職ラボの特徴はこのような本音の口コミを読むことができるところにあり、ユーザーにとっては有益なサイトですが、病院にとっては、誹謗中傷等が書かれてしまうと、求人活動への悪影響や、病院利用者(患者)に悪い印象を与えるなど大きな損害を与えかねません。本記事では、病院転職ラボではどのようなネガティブな口コミが書き込まれうるのか、書き込まれてしまった時にどのように対処すべきなのかを解説していきます。

病院転職ラボの検索画面

病院転職ラボではどのような風評被害があるのか

病院転職ラボでの風評被害例を挙げていきます。

病院転職ラボはユーザーの書き込みが中心の口コミサイトですので、ネガティブな口コミが掲載されてしまうこともありえます。病院転職ラボにおいて口コミが用いられているのは、主に病院別の「口コミ・評価」ページです。以下では、そこで想定されるネガティブな口コミ・風評被害の内容を紹介します。

ハラスメント・法律違反などの告発をする口コミ

病院転職ラボは、実際に働いた人たちの生の声を掲載するコンテンツのため、勤務中に感じたことが中心となります。職場でハラスメント被害にあって辛い思いをした先輩たちが、もう二度とこのような経験をしてほしくない、という思いを口コミとして掲載することは多く考えられることだと思います。ハラスメントの被害報告に限らず、長時間残業、給与面など、勤務形態についての告発も同様に考えられます。しかし、病院側にとっては、このような書き込みが求人に悪影響を及ぼして、思うような採用活動ができなくなることは好ましくないことです。特に、勤務形態の改善を図っている、ハラスメント行為を行なった社員を処分しているなど、これらの問題について対策を行なっている場合、このような書き込みが残り続けることは病院にとっては実態に即さず好ましくない口コミといえます。

断定的表現を用いる・事実と異なる・悪意ある口コミ

例えば、「この病院は赤字経営の自転車操業なので将来性は無く1年以内に潰れます!」「ここは衛生状態が悪いです」と言った断定的表現を含んだ口コミです。このような断定的な表現は根拠に乏しいにも関わらず、ユーザーの不安を煽り、また病院イメージを著しく低下させるもので、病院にとって好ましくないといえます。残念ながら、病院に対して不満を持ったまま退職した元従事者が、病院を攻撃・妨害する意図をもって、うらみつらみを口コミとして投稿するケースも実際にあるようです。このような口コミは、どこまでが事実なのか明らかでなく、断定的表現を用いて病院の社会的評価を下げるものであり、悪影響が大きいです。削除されるべき口コミといえるでしょう。

トラブルを書いた口コミ

「先日、〇〇病の患者さんがいらっしゃたのですが、A田という医者が明らかな誤診をしました。そのせいで体調がもっと悪くなったみたいで…」というようなトラブルを示したものです。このような個人間トラブは真偽が判断しづらく、ケースによって異なるものなのでユーザーにとって就活のために有益とは言えません。さらに、ケースによっては守秘義務違反にもなりかねません。医師や患者など、このような投稿によって名誉毀損の被害などを受ける可能性がある人にとっては、できるだけ早い削除が望ましいでしょう。

利用規約違反で削除請求する方法

利用規約違反での禁止行為に該当する口コミがあれば削除対象となります。

「病院転職ラボ」利用規約

病院転職ラボの利用規約の禁止行為の章には、禁止事項が列挙されています。この各号に該当する事由が削除したい口コミにあれば、削除対象となりいえるでしょう。

病院転職ラボ利用規約「禁止行為」(一部抜粋)

削除依頼を行う方法

病院転職ラボには違反報告専用のフォームや通報ボタンはありません。そのため、全体のお問い合わせフォームから違反報告を行うことになります。ここから報告をすると、3営業日以内にメールで返信が来るようです。

お問い合わせフォーム画面より

利用規約違反として削除依頼を行う時の例

お問い合わせフォームに従って記入を進めます。まず、氏名とメールアドレスを入力してください。次に、問い合わせ内容欄では、削除依頼である旨を示した上、削除を依頼したい投稿のURL、その投稿のどの部分がなぜ問題なのかなどを具体的に示して、病院転職ラボ側が特定しやすいように配慮しましょう。また、利用規約違反に当たることを示したほうが削除される可能性が高いので、当該投稿が利用規約違反にあたるのかを慎重に確認した上で、丁寧な説明を記入するように心がけましょう。

今回は、先ほどの例で紹介したような事実と異なる誹謗中傷を含む口コミ、例えば「この病院は赤字経営の自転車操業なので将来性は無く1年以内に潰れます!」という書き込みを例にします。説明欄は以下のように書くとよいでしょう。

お世話になります。〇〇病院医事課広報担当△△と申します。
本口コミの削除をお願い致します。
URL: https://byoutenlab.com/abc
この口コミの3行目から、「この病院は赤字経営で」という記述がされていますが、当病院が赤字経営というのは事実無根です。これは利用規約内に禁止事項として掲げられている「自分、他のユーザーまたは第三者に関する虚偽の情報を提供、公開する行為」にあたります。
さらに、将来性がなく潰れるという書き込みも、当院の社会的評価を著しく低下させるものであり、「他のユーザー、第三者を誹謗中傷する行為」にあたると考えています。
以上の理由から、一連の利用規約違反の投稿は、ユーザーに役立つような内容ではなく、当院の社会的評価や信用を低下させ当院の採用活動及び病院運営に悪影響ですので、削除をお願いしたいです。よろしくお願い致します。

もっとも、同利用規約には、

なお、弊社は本利用規約違反行為に対して取った処置に関して一切の責任を負わず、また処置に関する質問、苦情は一切受け付けておりません。
判断の難しいケースに関しては、運営基準と照らし合わせ、複数のスタッフにより都度判断をくだします。その場合、ユーザーの皆様から寄せられる通報に対して迅速な対応ができない場合があります。

とあります。これは、削除をするかどうかは病院転職ラボ側が自由に決定することができ、削除をするとは限らないということです。このように削除依頼をしても投稿が削除されないときは病院転職ラボに対して、送信防止措置請求を行う、または訴訟の提起を検討することになります。これらは、法律事務になりますので、自分自身で行うまたは弁護士に相談して行っていくことになります。弁護士以外の削除代行業者に依頼すると、法律違反になりうることに注意しましょう。

違法だとして削除請求する場合

インターネット上の風評被害対策に関する法的措置について説明していきます。

法律上取りうる手段

権利侵害など、法律に抵触する内容であれば弁護士を通じて削除を裁判上で争うことができます。まず、インターネット上の風評被害対策に関連する法的にとりうる手段には、大きく分けて

  • 送信防止措置請求による自主的削除の依頼
  • 投稿記事削除請求・仮処分の申立て
  • 発信者情報開示請求(IPアドレスの開示請求、住所氏名の開示請求)
  • 損害賠償請求(投稿者を特定できた後の損害賠償請求)

などがあります。この中でも、削除に直結する請求は、送信防止措置請求または、投稿記事削除請求、及び仮処分の申立てになります。

法律上主張するべき内容

では、法律上で削除の請求をしていくには、まず考えられるのは「名誉毀損」の主張をすることです。

名誉毀損は、

  • 「公然と」
  • 「事実を摘示し」
  • 「人の名誉を毀損する」

の全てに該当する事実があるときに成立します。
例として、「この病院は掃除をあまりしておらず衛生状態が悪い」という真実でない内容に基づくクチコミが掲載されていた場合、1から3の要件をみたすのか、具体的に見ていきましょう。

まず、今回のように病院転職ラボなどクチコミサイトにおける投稿は、会員制とはいえ、インターネット上で不特定多数の人物が閲覧することが可能な状態に置かれているといえるので、「公然と」といえます。

次に、「事実の摘示」とは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実を告げることをいい、真実か虚偽であるかを問いません。今回、病院が掃除をあまりしていておらず衛生状態が悪いという内容は、衛生状態が第一に求められる病院にとっては著しく社会的評価を低下させるものといえます。

最後に、「毀損した」というためには、実際に社会的評価が害されていなくても、その危険性が抽象的に存在すれば足り、名誉が現実に侵害されている必要はありません。実際に問題となっている投稿がネットニュースやSNSで不特定多数の人に閲覧され、病院に対し非難や抗議が殺到したことを証明する必要はありません。その危険性が客観的に存在することがいえればよいということになります。

名誉毀損の詳しい成立要件等は下記の記事にて詳細に説明していますので参考にしてください。

裁判所を通した手段(訴訟および仮処分)による削除

裁判所を通した削除請求には訴訟と仮処分があります。

名誉毀損など、上記のような法律違反の指摘をして削除を求めるには、まずは、送信防止措置請求の方法をとるのが通常です。しかし、送信防止措置請求は裁判所を通さない削除依頼の方法で、サイトの管理人や運営病院(プロパイダ)による自主的な削除を求めるものです。これは任意手段なので、判断によっては、削除は行われないこともありえます。これに対し裁判所を通した手続きでは、裁判で削除が認められれば判決による拘束力が生じるので、プロパイダは強制的に削除に応じることになります。このため、送信防止措置が認められなければ、裁判手続に移行することが効果的です。

なお仮処分とは、民事保全法に規定されている方法で、一刻も早い解決が求められる場合に、正式な訴訟によって確定判決を得る前に暫定的な処分を求めるものです。今回のような誹謗中傷の口コミなどは、一度拡散してしまうと回復困難な損害が生じるおそれが多分にあるので、仮処分の制度を利用して一刻も早い情報の削除を求めることが有効的です。仮処分命令が発令されると、裁判所が相手方に投稿を削除するように命令しますので、相手方は削除に応じなければなりません。

仮処分の場合、風評被害対策にノウハウのある弁護士へ相談を行えば、依頼から削除まで、2-3ヶ月程度で実現できるケースが多く有効的な手段といえます。
誹謗中傷や風評被害を受けた場合の当該記事の削除、仮処分の手続きに関しては下記の記事にて詳細に説明しています。

仮処分による投稿者特定

ところで、上記のような法的手段をとるためには、誰がその書き込みをしたのか、名前や住所などを特定する必要があります。しかし、インターネット上の誹謗中傷は匿名で行われるケースがほとんどであるため、書き込んだ人物(発信者)の特定は困難です。そこで、プロバイダに、書き込んだ人物の個人情報の開示を求め投稿者特定を行うことが必要となります。これが仮処分による投稿者特定というものです。発信者開示請求とは、『プロバイダ責任制限法第4条1項』によって規定されている、投稿者を特定するための情報開示請求の事です。弁護士に依頼を行えば、この発信者情報開示請求で投稿者のIPアドレスなどの情報を開示し、投稿者を特定することができる可能性があります。これにより投稿者が特定されれば、その人に対して、誹謗中傷投稿により被った損害について今後誹謗中傷を行わないと誓約させたり、損害賠償を請求する、あるいは刑事告訴をするなど法的手段の実現が可能になります。これらの手続の流れに関しては下記記事にて詳細に解説しています。

まとめ

病院転職ラボは、実査に働いていたユーザーの口コミにより、リアルな病院の情報を知ることできるサイトです。他方で、批判的な投稿であっても、転職先の判断において重要な情報となりうるからか、ネガティブな投稿が広く認められているサイトであるともいえます。実際にトップページから多くのネガティブな口コミが表示されます。しかし、仮に悪質な口コミによる風評被害が発生してしまっても、法的な手段をとれば、投稿の削除などの解決をすることができるかもしれません。もっとも、どのような方法でどのような主張をしていけばいいのか、削除が認められるのかは個別のケースによって異なります。

いずれにしても、違法性を主張する場合は専門的な内容や手段を含むので個人で行うのは難しく、また法律行為になりますので、弁護士の力が必要になります。まずは、弁護士に相談して、当該口コミが権利侵害にあたるのか、法律に抵触しているかどうかを判断してもらいましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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