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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

風評被害対策の弁護士費用と賠償フローとは?

風評被害対策

風評被害の弁護士費用と賠償フローとは?

インターネット上で風評被害を受けてしまった場合、弁護士に相談して、その被害をページ削除等によって除去したり、犯人を特定して、犯人に対して損害賠償請求を行う、という手段があります。ただ、こうした手段を考える場合、弁護士費用が、どうしても気になるところです。

  • 弁護士費用の相場はどの程度なのか
  • 損害賠償請求までを見据えると、犯人に請求できる損害賠償金との関係で、結局のところいくら程度の予算を用意しておけば良いのか

という点について、後述するように、「甘い」見通しのみを述べるのではなく、なるべく実情等に即した解説を行います。

風評被害対策におけるページ削除

まず、弁護士に依頼を行うことで可能な風評被害対策には、大きく言って、

  • 対象となるページやツイート、掲示板投稿などの削除
  • 当該投稿などを行った犯人の特定

という2種類があります。このうち後者、削除に関しては、

  • 削除のみを、裁判外交渉や裁判所手続(後述)によって行う
  • 削除と同時に、犯人特定の第1ステップである「IPアドレス開示(後述)」を、裁判所手続によって行う

という2種類の方法があります。つまり、犯人特定も行うのであれば、それと同時に削除を求めることもできる、という事です。

このうち前者、つまり、削除をのみを求める場合、特に裁判外交渉で削除を求める場合は、完全成果報酬型、つまり、「成功した場合のみ弁護士費用が発生する」という形で依頼を行うことも、できるケースがある程度多いと思われます。もっとも、案件によっては、裁判外での削除交渉を行うための準備やリサーチなどの業務量が多く、完全成果報酬型では難しい場合もあります。

風評被害対策の犯人特定と損害賠償請求のフロー

まず、犯人を特定して損害賠償請求を行う場合、大まかなフローは、以下のようになります。

  1. 犯人が利用しているサイト(例えばTwitter)を相手に、風評被害投稿の削除とIPアドレス開示を請求する
  2. 1でIPアドレスが開示され、犯人が使っていたプロバイダ(例えばniftyやDocomo)が判明するので、そのプロバイダを相手に、ログの保全を請求する
  3. 次に、当該プロバイダを相手に、犯人の住所氏名開示を請求する
  4. 3で犯人の住所氏名が開示されるので、当該犯人に対し、損害賠償を請求する

手順1-3では、どうしても弁護士費用が発生します。ただ、手順4まで辿り着ければ、手順1-3で用いた弁護士費用は「犯人特定に要した調査費用」として、犯人に対して損害賠償請求可能です。したがって大きく言えば、

  • 手順1-3部分で一旦弁護士費用を支払う必要がある
  • しかし手順4部分で犯人から取り返すことができる

という流れとなります。

手順1:風評被害投稿の削除とIPアドレス開示

この部分は、一部サイトであれば裁判外交渉、その他、多くのサイト相手であれば「仮処分」という手続になります。仮処分とは、裁判所を通じた、しかし裁判よりは短期間で終わる手続です。

裁判外交渉の場合の費用

裁判外交渉の場合、完全成果報酬型が可能なケースも多く、その場合の費用は数十万円程度となるケースが多いと思われます。例えば一旦、本記事では「例」として、完全成果報酬型で30万円、としておきましょう。「完全成果報酬型」なので、失敗した場合には費用は発生しません。

ただ、ここでいう「成果」とは、「相手サイト(例えばTwitter)から、削除&IPアドレス開示を受けることができたこと」です。したがって、

  • 「風評被害投稿がネット上に残ること」を解決する、という意味では、削除されればこの時点で「成功」
  • IPアドレス開示を受けただけでは、まだ犯人が誰かは不明。その意味で「犯人特定」との関係では、まだ「成功」とは言えない

です。ただ、IPアドレス開示を受けられた以上、相談内容との関係では「成果」に達していると考えざるを得ないものと言えます。後述する「犯人の住所氏名の開示」に失敗した場合、この成果報酬金相当額は、犯人から取り返すことはできず、その意味で「赤字」になってしまいます。

仮処分の場合


裁判や仮処分手続には大量の書面や証拠等が必要となります 。

また、仮処分の場合、どうしても「裁判所を通じた手続」であり、完全成果報酬型では不可能になってしまうケースが多いと思われます。裁判所を通じた手続は、実際問題として、大量の書面や証拠が必要です。「着手金+成果報酬金」という価格体系が用いられるケースが多いと言えます。

なお、これらの手続については下記記事にて詳細に解説しています。

仮処分の弁護士費用の「相場」とは

ネット上の情報としては、

  • 削除について、着手金が20万円程度、成果報酬金が15万円程度
  • IPアドレス開示について、着手金が20-30万円程度、成果報酬金が15-20万円程度
  • 削除&IPアドレス開示について、着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度

といった価格感が、「相場」と言われているケースが多いと思われます。

ただ、これはあくまで、相手方となるサイトや、風評被害投稿の内容や文量などにもよるものだと思われます。例えばTwitterだとしても、1個のツイートのみについて削除&IPアドレス開示を求める場合と、10個のツイートについて求める場合では、どうしても価格は変わると思われます。

また、ネット上ではあまり触れられていないケースが多いですが、例えばTwitterは海外法人であるTwitter, Inc.が運営元なので、

  • 海外法人の法人登記取得費用
  • 書面の英訳費用

が必要です。翻訳業者や書面の文量(ツイートの量などによって変わります)にもよりますが、これらの実費で20万円程度が必要です。

削除&IPアドレス開示を仮処分で求めたが、仮処分で負けてしまった場合
→着手金と実費で、50万円の負担

ネット上の「相場」情報は必ずしも正しくない

なお、上記も含めて、ネット上の情報として示されている「相場」は、実務的にこうした業務を手がけている弁護士として、必ずしも同意できるものではありません。例えば上記のように、ネット上の「相場」は、

  • 「削除(のみ)」の場合:上記で言えば合計約35万円
  • 「削除&IPアドレス開示」の場合:上記で言えば合計約60万円

と、ある程度金額に違いがあります。しかし、仮処分としての難しさや作業量は、正直なところ、どちらもあまり差がありません。本記事で示す「相場」は、あくまで「ネット上の情報によれば」という留保付きのものであることを、ご理解頂ければ幸いです。

手順2:ログの保全請求

この工程は、「そもそも何故必要なのか」というのが少し複雑です。

まず、手順1によって犯人のIPアドレスが開示されると、犯人が使っていたプロバイダ(例えばniftyやDocomo)が判明します。そして後述するように、プロバイダは、犯人の住所氏名を契約者情報として把握しています。したがってプロバイダに対して住所氏名の開示を求めれば良い。…のですが、一つ大きな問題があります。プロバイダは、ログを無期限には保有していないということです。本記事では詳細を割愛しますが、大まかに言って、携帯回線の場合、プロバイダ(携帯キャリア)は約3ヶ月、固定回線の場合、そのプロバイダは半年から1年程度で、ログを消去してしまうのです。そして、手順3にて後述するように、プロバイダに対する住所氏名開示請求はほとんどが裁判手続となり、裁判手続は、最短でも3ヶ月程度、多くの場合は半年以上かかってしまいます。つまり、「裁判をしている間にプロバイダのログが消えてしまう」のです。

そこで、裁判を起こす前に、プロバイダに対して、「今から裁判を起こすので、問題のログは削除せず保存しておいて欲しい」という請求を行う必要があります。多くのプロバイダは、この請求さえ行っておけば、裁判が終わるまではログを保存するという運用になっています。

この部分の手続に関する弁護士費用は、後述する手順3の訴訟の費用に含まれているか、これのみを行う場合は事務手数料10万円程度が相場と言われているようです。

なお、2020年夏頃より、一部の携帯キャリアで、上記の保全請求を拒絶されるケースが出てきました。この場合、「ログを保存せよ(消去するな)」ということを、裁判所手続(仮処分)を用いて求める必要が出てしまいます。「ログ消去禁止の仮処分」と呼ばれるものです。この場合は仮処分手続となってしまうため、どうしても手順1と同程度の弁護士費用がかかってしまいます。

手順3: 風評の犯人の住所氏名の開示

この部分は、裁判外交渉ではほぼ成功しません。犯人が使っていたプロバイダ(例えばniftyやDocomo)に対し、犯人の住所氏名の開示を求めるのですが、niftyやDocomoから見れば、「犯人の住所氏名」とは、顧客の個人情報に他なりません。「裁判で負けたら開示しますが、裁判で負けたわけでもないのに開示するというのは難しいです」という回答になるケースが多いのです。

住所氏名の開示の費用

そこで犯人が使っていたプロバイダ(例えばniftyやDocomo)に対し、裁判を起こして開示を求めることになります。この部分についても

  • 住所氏名開示について、着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度

といった情報が、ネット上では多いと思われます。ただ結局、これも相手方となる会社や、風評被害投稿の内容や文量などにもよるものだとは思われます。ここでは仮に、着手金30万円、成果報酬金20万円としましょう。

削除&IPアドレス開示を裁判外交渉で求めて成功し、しかし住所氏名開示の裁判では負けてしまった場合
→削除には成功したが犯人は不明。手順1部分の弁護士費用として、成果報酬の30万円の負担。手順2部分の弁護士費用として、着手金で30万円の負担。合計60万円の負担

削除&IPアドレス開示を仮処分で求めて勝ち、しかし住所氏名開示の裁判では負けてしまった場合
→削除には成功したが犯人は不明。手順1部分の弁護士費用として、着手金と実費と成果報酬で、80万円の負担。手順2部分の弁護士費用として、着手金で30万円の負担。合計110万円の負担

なお、これら犯人特定の詳細な手順に関しては、下記記事にて解説しています。

各サイト別の詳細な手順や費用

また、本記事は、特に「このサイトの場合の手順や費用」というものではなく、インターネット上における風評被害一般に関する、一般的な手順や費用に関して解説していますが、

  • このサイトの場合には手順が一般的な場合とは少し異なる
  • その結果として弁護士費用等も異なる

といったケースもあります。当サイト内にて、サイト別に投稿者特定のフローや費用等に関して解説する記事も、本記事とは別に公開しております。

モノリス法律事務所 法律記事 タグ「投稿者の特定」記事一覧

手順4: 風評被害に対する損害賠償請求

この部分では、犯人に対し、

  • 手順1-3部分で要した弁護士費用(「調査費用」として)
  • 慰謝料(精神的損害に関する損害賠償)

の合計を請求することになります。慰謝料は、「相場」を示しにくい問題ではあるのですが、数十万円から最大数百万円程度が考えられます。

  • 被害者側の属性
  • ツイート内容など投稿内容の悪質性
  • 投稿内容の文量
  • 実際に生じた損害の大小

など、様々な要素によって、賠償額は異なるので、何とも明確には「相場」を示しにくいのです。過去の裁判例から「相場」を探る記事が下記です。

弁護士費用ですが、この部分については、着手金+成果報酬金という形、完全成果報酬型の両方があり得ます。

着手金+成果報酬金という形だと、旧弁護士報酬基準によれば、(請求額が300万円以下の場合)着手金が請求額の8%、成果報酬金が判決で認められた金額の16%となります。例えば、合計200万円を請求して150万円が認容された場合、着手金は200万円×8%=16万円、成果報酬金は150×16%=24万円で、合計40万円となります。この計算に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

完全成果報酬型の場合、30%程度が多いと思われます。

削除&IPアドレス開示を裁判外交渉で求めて成功し、住所氏名開示の裁判でも勝ち、弁護士費用90万円+慰謝料100万円を請求し、慰謝料が50万円認められた場合
→手順1部分の弁護士費用として、成果報酬の30万円の負担。手順2部分の弁護士費用として、合計60万円の負担。損害賠償請求について、着手金15万円強、成果報酬金22万円強。合計で127万円の負担。ただし犯人から140万円の支払を受けられれば、トータルでは13万円が手元に残る

削除&IPアドレス開示を仮処分で求めて勝ち、住所氏名開示の裁判でも勝ち、弁護士費用140万円+慰謝料100万円を請求し、慰謝料が50万円認められた場合
→手順1部分の弁護士費用として、合計80万円、手順2部分の弁護士費用として、合計60万円の負担。損害賠償請求について、着手金19万円強、成果報酬金30万円強。合計で189万円の負担。ただし犯人から190万円の支払を受けられれば、トータルでは1万円が手元に残る

まとめ

風評被害への損害賠償請求は儲かるとは限らない

このように、誹謗中傷に関する犯人特定は、いわば、

  • 犯人特定に至り
  • 犯人から損害賠償請求の支払を受けることができれば
  • 多少なりとも手元にお金が残る可能性が高い

というようなものではあります。しかし「弁護士費用は安いし犯人から慰謝料の支払いも受けられるので積極的に行うべき」とは、なかなか簡単には言えないものではあります。

また、インターネット上の、特に法律事務所以外が運営している情報サイトは、弁護士から広告費用の支払を受け、「弁護士を通した犯人特定はお手頃で積極的に相談すべき」という姿勢で情報を発信しているケースが多いので、「あまりインターネット上の情報を鵜呑みにせず、慎重に検討して頂きたい」というのが、こうした裁判等を多数手がけている法律事務所としての本音です。

風評被害への慰謝料は低額すぎる

こうした構造になってしまう最大の理由は、犯人に対して請求できる慰謝料が少なすぎることだと思われます。

インターネット上の風評被害は、犯人に辿り着けないケースや、技術的な限界などのせいで、相談したとしても結果として泣き寝入りになっているケースも多いものといえます。この問題に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

そして何より、インターネット上の風評被害は、個人であれば結婚や就職など人生の重大な岐路、会社であれば売上や求人、上場審査など会社の命運を握る重大な問題について、大きな悪影響をもたらすものです。

こうした「リスク」や被害の大きさを考えた場合、慰謝料が、上述のとおり「数十万円から最大数百万円程度」であるというのは、現在の日本の裁判所の運用ですが、低額すぎるのではないでしょうか。

風評被害除去のために弁護士として尽力することは可能

ただ少なくとも、犯人特定や損害賠償請求まで成功すれば、上述のように、被害者側に費用負担が生じる、ということは、原則的にはありません。また少なくとも、1段階で削除が成功すれば、インターネット上に風評被害が残り続ける、という状態は回避できます。「泣き寝入り」をすべきではない、と決断した場合には、こうした業務にノウハウと知識を有している弁護士に依頼すれば、削除だけでなく、最終的な損害賠償請求まで辿り着けるべく、弁護士として尽力することは可能だと言えます。

なお、最後に補足すると、削除や犯人特定の過程で、特定が迫っていることに気付いた犯人側から和解(示談)の申し入れが行われるケースもあります。この話に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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