風評被害対策

プライバシーの侵害が認められるための条件とは

風評被害対策

プライバシーの侵害が認められるための条件とは

誹謗中傷行為は、民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に該当します。これを根拠に、誹謗中傷された場合に記事の削除だけでなく、不法行為に対して損害賠償金の支払いを要求することができるのですが、不法行為の主な根拠は、「名誉毀損」と「プライバシーの侵害」となります。

名誉とは人が社会から受ける客観的評価であり、その社会的評価を低下させる行為は名誉権の侵害に当たります。 また、たとえ事実であっても、個人情報等相手が知られたくない情報を公開した場合には、プライバシー権を侵害したことになる場合があり、この時、社会的評価の低下は関係ありません。

プライバシーの侵害とは

これまで第三者に公開されてなかった私生活における情報が公開されて被害者が不快に感じた場合、例えその情報が事実であったとしてもプライバシーの侵害となります。
プライバシーの侵害は、刑法上罰する規定は設けられていませんが、民事上の責任が発生します。

名誉毀損とプライバシーの侵害の違い

名誉毀損とは、公然と(不特定多数に対して)ある事実を示すことで他人の社会的評価を低下させることです。例えば、“AはBと不倫している”などの事実を公開することで、Aの社会的評価を低下させることです。また、公開された事実はたとえ本当のことでも相手の社会的評価を低下させるものであれば名誉毀損となってしまいます。

名誉毀損とプライバシーの侵害の大きな違いは刑事罰の有無です。
名誉毀損には名誉毀損罪という刑事罰があり、有罪になると「50万円以下の罰金」または「禁錮」、もしくは「3年以下の懲役」の刑罰が科されます。一方、プライバシー侵害は刑事罰がなく、民事的責任を負わせることが可能で損害賠償請求を行うことが出来ます。

プライバシー権は判例において認められるようになった

名誉毀損は、刑法第230条1項に「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とあります。一方、法律には「プライバシー権」という規定はありません。 プライバシーは、社会が発展するにつれ、判例において「権利」として認められるようになったのです。

『宴のあと』事件とプライバシー権

三島由紀夫が、昭和35年11月に『宴のあと』という小説を新潮社から出版しました。

この小説は、外交官を経て外務大臣をつとめ、昭和30年と34年の2回にわたって東京都知事選に立候補した有田八郎氏をモデルにしたものです。主人公・野口雄賢のモデルとされた有田氏は、小説の内容によって精神的苦痛を受けたとして、三島及び新潮社に100万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めました。これを、『宴のあと』事件といいます。有田氏は、「『宴のあと』は原告の私生活をほしいままにのぞき見し、これを公表したものでありこれによって原告は平安な余生を送ろうと一途に念じていた一身上に堪えがたい精神的苦痛を感じた」と、主張しました。

この訴えについて、東京地方裁判所は昭和39年9月28日、三島と新潮社が連帯して、有田氏に80万円を支払うよう命じました(謝罪広告の掲載は認めませんでした)。 判決文中で「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解される」とされましたが、これが、プライバシー権を認めた初めての裁判例とされています。

プライバシーの侵害を満たす4要件

また、判決は、プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられる境界についても判示しています。

プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容が
(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること
(ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであること

東京地判昭和39年9月28日

とし、上の(イ)(ロ)(ハ)に「当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする」を加えた4つが、現在でも、プライバシーの侵害を満たす要件とされています。

なお、判決文は、「公開されたところが当該私人の名誉、信用というような他の法益を侵害するものであることを要しないのは言うまでもない。すでに論じたようにプライバシーはこれらの法益とはその内容を異にするものだからである」ともしています。

ここで着目すべき点は、プライバシーの侵害の場合、上記の要件で問われているのは、あくまで「それがどういう事柄か」という、いわば「テーマ」の問題であり、その記載の真否は問題とされていない、ということです。例えば、ある個人について、前科前歴、出自などが記載された場合、問題なのは、そうした「テーマ」が要件を満たすか否かであり、記載された前科前歴が本当に存在するか否か、記載された出自が正しいか否かは、「プライバシーの侵害の有無」との関係では、問題とされません。

文学における表現の自由は絶対ではない

また、違法性阻却事由については、「プライバシーの保護がさきに指摘したような要件の下に認められるものとすれば、他人の私生活を公開することに法律上正当とみとめられる理由があれば違法性を欠き結局不法行為は成立しないものと解すべきことは勿論である」とした上で、文学における表現の自由は絶対ではないともしています。

しかし、小説なり映画なりがいかに芸術的価値においてみるべきものがあるとしても、そのことが当然にプライバシーの侵害の違法性を阻却するものとは考えられない。それはプライバシーの価値と芸術的価値(客観的な基準が得られるとして)の基準とは全く異質のものであり、法はそのいずれが優位に立つものとも決定できないからである。

それゆえたとえば無断で特定の女性の裸身をそれと判るような形式、方法で表現した芸術作品が、芸術的にいかに秀れていても、この場合でいえば通常の女性の感受性を基準にしてそのような形での公開を欲しないのが通常であるような社会では、やはりその公開はプライバシーの侵害であつて、違法性を否定することはできない。

東京地判昭和39年9月28日

『石に泳ぐ魚』事件とプライバシー権

『石に泳ぐ魚』は、雑誌『新潮』の1994(平成6)年9月号に掲載された小説で、柳美里のデビュー作です。柳の知人の在日韓国人で、顔に大きな腫瘍がある女性がモデルとなっています。

発表前にも後にも、柳が彼女をモデルとして小説を書いているとの話は全くなかったので、友人から知らせを受けて当該書を買い求めたモデルとなった女性は、大きなショックを受け、プライバシーの侵害として著者に抗議をしましたが、聞き入れられませんでした。そこで、出版差止めの仮処分申請を行ったのです。これを、『石に泳ぐ魚』事件といいます。

柳は「原告は著名人ではないから、読者が作中人物の朴里花を原告と同定することはないし、純文学であるから虚構性は高い。また容貌については、プライバシーは成立しない」と主張して、争うこととなりました。

一審の東京地裁は、著者の柳美里、新潮社および編集長に対して連帯して100万円の損害賠償を命じ、別個に柳美里には30万円を支払うことを命じました。柳美里のみ30万円多いのは、柳はエッセイ『表現のエチカ』を裁判中に発表しており、その中でもプライバシーの侵害を起こしているので、反省が認められないと判断されたためです。また、仮処分申請取り下げ時に、両者が取り交わした「修正なしには出版しない」との合意事項に著者側が違反したことを理由に、単行本化の差止めも認められました。

判決では、次のように判示されています

原告の属性を知る読者が不特定多数存在するから原告と作中人物を同定することは可能である。また描写に相当の変容を施すなどの配慮が行なわれていない。現在の事実と虚構事実が渾然一体となって表現されており、読者はこれらの虚実を容易に判別することが出来ない。したがって虚構を事実と誤解する危険度が高いので、原告のプライバシー及び名誉感情を侵害する。

東京地判平成11年6月22日

柳は控訴しましたが、東京高裁は平成13年2月15日に控訴を棄却し、「腫瘍がある事実を広く公表するのは人格権の侵害である」との判断を示し、やはり差止めを認めました。

柳はさらに最高裁に上告しましたが、平成14年年9月24日、最高裁は口頭弁論を開かないまま、「公共の利益にかかわらない女性のプライバシーを小説で公表することによって、公的立場にない女性の名誉、プライバシー、名誉感情を侵害した」と認定し、「出版されれば、女性に回復困難な損害を与えるおそれがある」として、上告棄却の判決を下しました。

小説等の主人公や登場人物に別の名前が与えられていても、モデルが現実の人間と同定可能とされ、名誉毀損等が成立するケースについて別記事にて説明しています。

個人の容貌はプライバシーに属するか?

この裁判の論点のひとつは、個人の容貌がプライバシーに属するかどうかでした。柳は、「容貌については、プライバシーは成立しない」と主張したのですが、第一審判決では「原告と面識がなく腫瘍があることも知らないものでも、原告という特定の人物が存在すること自体は知っている者が本小説の読者となる可能性も否定することはできず、腫瘍の事実を開示することは原告のプライバシーを侵害する」としています。

控訴審の判決でも「個人の障害や病気の事実は、個人に関する情報のうちでも最も他人に知られたくない類のものである。特に外貌に関わる障害の事実は、その障害が本件のような類症例が少ないものである場合、その人物の他の属性と合わせて公表されれば、それ自体が周囲の好奇の対象になる」としてプライバシーの侵害にあたるとし、「顔面に腫瘍の障害を負った者に対する配慮に欠ける」としました。

裁判で認められているプライバシーの侵害の範囲

『宴のあと』事件や『石に泳ぐ魚』事件やその後の裁判で得られた判例を蓄積し、少しずつ、プライバシーの侵害の範囲が決められつつあります。 ノンフィクション『逆転』事件では、最高裁は「ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有する」とした上で、次のように判示しています。

その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。

最判平成6年2月8日

なお、この判決では、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」と「前科等にかかわる事実につき、実名を使用して著作物で公表する必要性」を比較して、前者が優越する場合のみ、損害賠償を求めることができるとして、例外的に前科等の事実の公表が許される場合があることを認めています。

また、平成7年12月15日、最高裁は「指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある」とし、「憲法一三条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する」としています。

判例で認められているプライバシーの侵害の典型例

現在までに判例で認められているプライバシーの侵害の典型例には、以下のもの等があります。

  1. 前科・前歴
  2. 出自
  3. 病気・病歴
  4. 指紋
  5. 身体的特徴
  6. 日常生活・行動
  7. 氏名・住所・電話番号
  8. 家庭内の私事

上記は、インターネット上での誹謗中傷行為に関しても基本的に同様です。

プライバシーという考え方は社会の変化に応じて生まれ、判例において認められてきたのですから、社会の情報化が進めば、さらにプライバシーの考え方も変化し、発展していくでしょう。そして、プライバシーが侵害され困った際には弁護士に相談しましょう。

弁護士に依頼するメリット

依頼者自身でも法律問題を解決することはできますが、法律の素人である依頼者が行える法的な手続きには限界があり、交渉が上手くいかなくなる可能性が高くなってしまいます。しかし、弁護士は豊富な法律知識による適切な法的手続きにより、交渉を有利に進めることが出来ます。また、弁護士は依頼者の代理人であるため弁護士が相手方と直接接触し、依頼者は接触せずに済みます。さらに、複雑な法律資料の手続きも弁護士が行ってくれます。さらに、交渉から裁判まで全て弁護士が行ってくれます。弁護士は依頼者の味方です。問題が発生したら自分自身で解決せず1度弁護士に相談してみましょう。

ここまで解説してきたように、プライバシーの侵害は、法律上に明確な根拠条文がなく、裁判の蓄積によって、4個の要件が必要であるとされているなど、なかなか法律的に複雑な問題です。弁護士に依頼せず、依頼者自身の手で削除請求などを行うことも可能ではありますが、どうしても法律の素人である依頼者が行える法的手続には限界があり、交渉が上手くいかなくなる可能性も高くなってしまいます。弁護士への依頼を行えば、豊富な法律知識による適切な法的手続きにより、交渉を有利に進めることが出来るケースも多いと言えるでしょう。

また、弁護士への依頼を行えば、プライバシー侵害に該当するような情報を掲載している相手方と直接接触するのは依頼者ではなく弁護士となるため、依頼者自身が接触を行う必要はなくなりますし、複雑な法律資料の手続きも弁護士が行ってくれます。

ネット上でのプライバシー侵害に悩んでいる場合、風評被害対策の経験が豊富な弁護士に一度相談してみましょう。

モノリス法律事務所

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