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肖像権侵害とは?成立の基準と判例を解説

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肖像権侵害とは?成立の基準と判例を解説

スマートフォンが普及し、そのカメラ機能で写真や動画を日常的に、大量に撮影できるようになりました。同時に、誰でも気軽にネット上に撮影物を投稿できるようになり、トラブルが増えています。

SNSや動画サイトに知らないうちに自分や家族の写真を投稿されたら、どう対処すればいいのでしょうか。また、うっかり自分が加害者になってしまわないためには、何を知り、どのような注意を払っておけばいいのでしょうか。

肖像権とは

肖像権とは、本人の許可なく自分の顔や姿態を「撮影」されたり、「公表」されたりしない権利のことです。

肖像権は、著作権などとは異なり、明文化はされていません。判例によって確立されてきた権利であり、その根拠は憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」という、幸福追求権に基づいています。

肖像権やプライバシーの侵害で他人を訴える場合、この条文が根拠として用いられます。

議論のあるテーマではありますが、「肖像権」「プライバシー権」「パブリシティ権」は、概ね、以下のように整理するのが一般的だと思われます。

  • 肖像権は、プライバシー権の一つの形。つまり、個人の顔(肖像)は、その人のプライバシーの一種であり、勝手に用いられてはならない
  • 肖像権がプライバシーの側面を持つのに対して、パブリシティ権は、特に芸能人などに認められる、自身の顔の有する経済的な価値に着目した権利

一般個人が自身の顔(肖像)を無断でインターネット上に掲載されるなどした場合、感じる「不愉快」は、自分のパーソナルな情報である顔写真を、自身の意思に反した形で公開されることに対するものでしょう。「肖像権」は、そうした側面を有する権利です。

肖像権侵害と損害賠償請求

肖像権侵害は、プライバシーの侵害と同様、刑法で罰する規定はありません。しかし、刑事上の責任は発生しなくても、民事上の責任が発生し、民法第709条の不法行為による損害賠償を根拠として訴えることができます。

少し分かりにくいですが、ある行為、例えば自分の顔が写った写真を無断公開されることが「違法」であるという場合、その「違法」には

  • 当該行為は犯罪であり、警察が犯人を逮捕し処罰してくれる(刑事上の違法)
  • 当該行為は自分の権利(又は法律上保護された利益)を侵害する行為であり、犯人が特定された場合、その犯人に対して損害賠償請求を行うことができる(民事上の違法)

という二種類があります。そして肖像権侵害は、上述の通り、刑事上の違法行為ではありませんが、民事上の違法行為です。

そして、自己の肖像権が侵害された場合、民法第709条の定める、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という規定に従い、損害賠償請求を行うことができるのです。また、差し止め請求、つまりネット上での肖像権侵害との関係で言えば、当該記事の削除請求も認められています。

肖像権侵害になる基準

ネット上で自分や家族の写真が勝手に利用された場合などに、肖像権侵害が成立するかどうか、どのような基準で判断されるかを知っておくことは、ネット社会においては必須です。

肖像権侵害になるかどうかについては、以下の事情が考慮されます。

自分や家族の顔を特定できるかどうか

自分や家族の顔が特定できる場合には、肖像権侵害が認められる可能性が高くなります。反対に、ぼんやりしていて特定できない場合には、肖像権侵害にはなりません。

自分や家族がメインになっているかどうか

写真の中で、自分や家族が被写体のメインになっている場合には肖像権侵害が認められやすくなります。これに対し、風景等がメインになっている場合には肖像権侵害になりにくくなります。

拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか

たとえばSNSなどでは拡散可能性が高く、不特定多数の人間に閲覧されることになるので、肖像権侵害が認められやすくなります。

撮影や公開の承諾があるかどうか

肖像権侵害が起こるのは、被写体の承諾がないからであり、権利者である被写体が撮影や公開について許可をしている場合には、肖像権侵害になりません。

ただ、注意せねばならないのは、撮影と公開については別個の承諾が必要になることです。撮影の承諾をしていても、公開の承諾がない限り、勝手に公開したら肖像権侵害になるので、注意が必要です。

撮影されることが予測できる場所であるかどうか

どこで撮影されたかによっても、判断は異なります。観光地の施設やイベント会場など、テレビカメラ等で撮影されることがあらかじめ十分予測できるような場所では、写り込んでいたとして肖像権侵害を訴えるのは、難しくなります。

肖像権侵害の判例

具体的に、どういう場合に肖像権侵害が認められてきたか、いくつかの例を見てみましょう。

ストリートファッション撮影でも、無断掲載は法的にNGです。

街を歩く女性の写真をウェブサイトに掲載した例

東京の最先端のストリートファッションを紹介するという目的で、銀座界隈を歩いていた原告の写真を無断で撮影し、被告が管理するウェブサイトに掲載したことが肖像権の侵害にあたるとして、損害賠償請求が認容された例があります。

女性が着ていたのは、ドルチェ&ガッバーナがパリコレクションに出展した服で、胸に大きく赤い文字で「SEX」というデザインが施されていました。

この写真が発表されると、2ちゃんねるの複数のスレッドからリンクが貼られ、「オバハン無理すんな、絶対ブラ見せるなよき分悪いから」、「胸に大きく『SEX』って書いた服を着たエロ女発見!」等の原告に対する下品な誹謗中傷が書き込まれ、個人ウェブサイトで本件サイトからダウンロードされ複製された写真が掲載され、拡散されました。

撮影されていたことを知らなかった女性は写真が掲載され誹謗中傷されていることを友人から知らされ、すぐに抗議したため、写真はサイトから削除されたのですが、個人のウェブサイトにダウンロードされて複製された本件写真のページに対してリンクが貼られ、原告に対する誹謗中傷が繰り返されました。

女性が損害賠償を求めた裁判で、裁判所は「何人も、個人の私生活上の自由として、みだりに自己の容貌や姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益を有しており、これは肖像権として法的に保護されるものと解される」とし、

本件写真の撮影及び本件サイトへの掲載が原告の肖像権を侵害するか否かについて検討するに、本件写真は原告の全身像に焦点を絞り、その容貌もはっきり分かる形で大写しに撮影されたものであり、しかも、原告の着用していた服の胸部には上記のような「SEX」の文字がデザインされていたのであるから、一般人であれば、自己がかかる写真を撮影されることを知れば心理的な負担を覚え、このような写真を撮影されたり、これをウェブサイトに掲載されることを望まないものと認められる。

東京地方裁判所2005年9月27日判決

として、女性の損害賠償請求を認めました。

法廷での被告の写真を撮影した例

「和歌山毒物混入カレー事件」の法廷において、被告の勾留理由開示手続が行われた際に、雑誌「フォーカス」のカメラマンが、カメラを隠して持ち込み、本件刑事事件の手続における被告の動静を報道する目的で、裁判所の許可を得ることなく、かつ、被告に無断で、被告の容貌、姿態を写真撮影しました。

この写真が「フォーカス」に掲載されたため、被告であった林眞須美は、肖像権侵害に対する損害賠償を求めて提訴しました。

この肖像権侵害裁判は地裁で原告勝訴、高裁で原告敗訴となり、最高裁まで争われましたが、写真や一部のイラストについて違法としつつ、「みだりに自己の容ぼう等を撮影され、これを公表されない人格的利益は、被撮影者が刑事事件の被疑者や被告人であっても法的に保護され」るとし、原審に差し戻しました。また最高裁はこの判決文の中で、

人はみだりに自己の容ぼう、姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、ある者の容ぼう、姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。

最高裁判所2005年11月10日判決

として、日本の最高裁判所として初めて肖像権の存在を認め、また肖像権侵害となるのはどういう場合なのかについての基準を示しました。

出会い系サイトの広告に顔写真を無断で利用された例

撮影には同意していましたが、公表形態、時期、媒体について同意の範囲、承諾の要否が争点になった事例があります。

メイクのサンプル用に撮影した女性の顔写真が、本人の同意なく出会い系サイトの広告に使用され、多数のアダルト雑誌に大きく掲載されたことに対し、顔写真を利用された女性が損害賠償を請求し、提訴しました。

この判決で裁判所は、

本件不法行為の態様は、原告が公表の意図なく撮影に応じた際の本件写真を、原告に無断で、約五か月間にわたって出会い系サイトの広告に用いたというものであり、かかる用法は、通常人がおよそ承諾しないものである。(略)原告は、今後控えている就職において不利益を被るのではないか、原告の同級生が本件写真のアダルト雑誌への掲載を知っているのではないかなどという不安にかられるなどの精神的打撃を被ったばかりでなく、多数のアダルト雑誌に原告の顔写真が大きく掲載され、大勢の人に原告の顔を見られたことによる精神的苦痛も被ったことが認められる。

東京地方裁判所2005年12月16日

として、写真家と出会い系サイトの広告作成会社に、肖像権侵害に基づく損害賠償の連帯支払いを命じました。

ウェブにあった写真を、無断でデマ記事に添付して投稿した例

当時2歳の乳児を原告として提起された、発信者情報開示請求があります。 Twitterに「自分が反対したし孫も泣いて帰りたがっていたのに、嫁が孫を安保法案反対のデモに連れて行き、孫が熱中症で死んだ」という内容のデマ記事が、原告の写真を添付して投稿されました。

仮処分命令を受けたTwitter,Inc.がIPアドレス等を開示したのを受け、経由プロバイダに発信者情報開示請求を行なった裁判で、裁判所は、

被告は、本件画像はすでにウェブサービスで公開されていたのであるから、本件記事に添付して本件画像を公開することは、原告の肖像権を侵害するものではないと主張する。しかし、人格価値を表し、人格と密接に結びついた肖像の利用は、被撮影者の意思に委ねられるべきであり、ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって、このことから直ちにその方法に限定なく本件画像を公開できるとか、本件画像の公開について被撮影者である原告が包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない。

新潟地方裁判所2016年9月30日判決

として、経由プロバイダに発信者情報開示を命じました。

また、判決文中で、「(被告は)本件記事をもって原告の社会的評価を低下させるものではないから、本件記事に添付して本件画像を公開することは、原告の肖像権を侵害するものではないと主張する。しかし、肖像権は、みだりに自己の容貌や姿態を撮影、公表されない権利であって、社会的評価の低下は肖像権侵害の成否に直接関係するものではない」と、明示されています。

「社会的評価の低下」というのは、名誉毀損(名誉権侵害)との関係で問題となるキーワードで、社会的評価の低下がなければ名誉毀損(名誉権侵害)は成立しません。

本件訴訟で、被告側は、「社会的評価の低下がない以上、(名誉権侵害の場合と同様に)肖像権侵害は成立しない」と反論したのですが、裁判所は、「名誉権侵害の場合と異なり、肖像権侵害の場合、社会的評価の低下の有無は問題とならない」という旨を判示したのです。

肖像権侵害の被害にあったらどうすればいいか

肖像権侵害に気付いたら、速やかに弁護士にご相談を。

上にあげた例以外にも、様々な形で肖像権侵害が起こっています。では、もし、肖像権侵害の被害にあったら、具体的に、どのような対応をすればいいのでしょうか。

肖像権が侵害されていることに気づいたら、削除請求と損害賠償請求を求める手続きを速やかに、進めましょう。

削除請求とは、投稿者の不正行為を停止するために対象コンテンツの削除要求をすることです。拡散される前に、掲載先の媒体を管理するウェブサイトの運営者に、対象コンテンツの削除を申し出る必要があります。

その際、ウェブサイトによっては、専用の削除申請用フォームが用意されていますが、それらがない場合は、ウェブサイト上に掲載されているメールアドレスやお問い合わせフォームから差止請求を申請することになります。

こうした交渉で削除を実現できない場合は、裁判所を通じた、仮処分という手続による削除を求めることになります。

また、上述のように、肖像権侵害は民事上の違法行為であり、被害に遭った人は、犯人に対して損害賠償請求をなし得ます。誰が肖像権侵害を実行しているのか特定できていない場合は、発信者情報開示請求という手続で犯人特定を行うことになります。

1日でも早く弁護士に相談し、拡散されてしまう前に早急に解決することが、自分や家族のプライバシーを守ることになります。

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