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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

NHK「デジタル・タトゥー」第5話のIT技術・法律

風評被害対策

NHK「デジタル・タトゥー」第5話のIT技術・法律

6月15日に最終回が放映されたNHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」は、インターネット上の風評被害対策などを題材とした、弁護士を主人公とするドラマです。同ドラマの原案を担当した弁護士として、ドラマ内に登場する法的手続やIT技術について解説します。

匿名メール送信者の特定

最終回、第5話では、ダブル主人公であるYouTuberのタイガ(伊藤大輔)(瀬戸康史氏)が、自身の父親である政治家の伊藤秀光(伊武雅刀氏)と向き合うシーンが描かれました。ここに至るまでに、タイガは、自分を襲うよう暴漢に対して電子メール経由で指示を送った「犯人」が伊藤秀光の事務所内にいることを、暴漢の受信した電子メールを解析することで調べています。

このシーンを題材に、電子メールの送信者を特定する技術的手法について解説します。

「襲った男を捕まえて吐かせたんです。こちらの事務所から、闇サイトを通じて大輔君を狙えという指示が出ていた」

デジタル・タトゥー第5話

これに対応するシーンは、第1話です。

「(腕をねじりあげて)誰に頼まれた?誰に頼まれて、タイガを襲った?」
「し、知らねぇよ」
「誰に頼まれた!言え!」
「ネ、ネットの闇サイトで…」
「闇サイト?」
「メールが来て、ひゃ、ひゃくまんで脅してくれって…」

(中略)

「そのメール見せろ!」

デジタル・タトゥー第1話

暴漢に指示を出した犯人は、もちろん、「私は伊藤秀光事務所の者ですが」と名乗っている訳ではありません。Yahoo!など匿名で利用できるメールアドレスを用い、「闇サイト」を通じて匿名で指示を出しているはずです。しかしそうであったとしても、電子メールの送信者は、IT技術によって調査可能であるケースがあります。

メールヘッダの解析による送信経路の調査

電子メールをスマホやGMail等の画面で開くと、メール本文の他に、「差出人」「件名」といった情報が表示されます。これらの本文以外の情報は、「メールヘッダ」という領域に記載されています。この「メールヘッダ」を理解し、解析できるようになると、メールの送信経路をある程度調べることができるのです。

まず、葉書を思い出してください。葉書には表面と裏面があります。本文は裏面。表面には差出人や宛先が書いてあったり、消印があったりします。

「電子メールのメールヘッダと本文の関係」というのは「葉書の表面と裏面の関係」に似ています。手紙の用件だけを見るなら表面を見る必要はありません。その手紙が誰から来たのか、いつ頃投函されたのか。そういう情報を得るために葉書の表面を見る訳です。

そしてそのメールヘッダは、送信後に追記されていきます。葉書に消印が押されるのと同じような仕組みです。

GMailにおけるメールヘッダの確認方法

GMailにおけるメールヘッダの確認方法

Gmailの場合、メールを開いて右上のアイコンから「メッセージのソースを表示」でメールヘッダを表示させることができます。

メールヘッダの例

メールヘッダは、送信経路上でどんどん上に追記されていきます。詳細な読み方を解説しようとするとかなり細かい話になるので割愛しますが、「上に追記されていく」という仕組み上、このメールヘッダの一番下に登場するのが、メール送信者のIPアドレスとなります。いわば、葉書が最初に投函されたポストの位置がメールヘッダを見れば分かる、というような仕組みです。

メール送信者のIPアドレスから送信者が判明するケースもある

本ドラマでは、送信元は、伊藤秀光の事務所内の人物であり、同事務所のIPアドレスが、送信元になっていました。家や事務所などの固定回線の場合、IPアドレスは、日によって変わるパターンと、変わらないパターン(いわゆる固定IPアドレス)があります。ドラマ内では省略されていますが、伊藤秀光の事務所のIPアドレスは固定であり、タイガは、何らかの方法で、「この(固定された)IPアドレスは、伊藤秀光の事務所のIPアドレスである」と気付いたのでしょう。

この「何らかの方法」ですが、ドラマの描写上は、おそらく、下記の方法であったと思われます。

まず、「メールサーバー」は、IPアドレス及びこれに対応するホスト名によって表記されます。独自ドメインを取得し、自宅内にメールサーバーを立てている場合、ホスト名自体が例えば「smtp.itouhidemitsu.jp」といったように、伊藤秀光氏の独自ドメインを含むものとなり、ホスト名が記載されているメールヘッダそれ自体を読めば一見して明らかに伊藤秀光氏のサーバーから送信されていることが分かります。

また、固定IPアドレスであれば、過去のメールと照合を行うことで犯人が判明するケースもあります。例えば、かつて交際していた相手が匿名で嫌がらせメールを送っているという場合、メールアドレス自体が「匿名」であっても、

  • 交際時のメールのメールヘッダに記載されているIPアドレス
  • 匿名で送信された嫌がらせメールのメールヘッダに記載されているIPアドレス

が一致するのであれば、「犯人は元交際相手である」と判明する訳です。

ドラマの場合、タイガは伊藤秀光氏とは長年ほぼ交流がなく、たまに秘書と電話で話すだけだったようなので、伊藤秀光氏の事務所の(固定)IPアドレスを知っていたかどうかは微妙です。ホスト名自体に 伊藤秀光氏の独自ドメインが含まれていた可能性が高そうです。

ただ、メールヘッダ(内に記載されている送信者のIPアドレス)から送信者が判明する、というのは、あくまで例外的なケースです。一般論としては、この調査はなかなか困難です。

「デジタルタトゥー」について詳しく解説したページはこちら
弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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