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風評被害対策

他人の個人情報を電子メールで送るとプライバシー侵害になるのか

風評被害対策

他人の個人情報を電子メールで送るとプライバシー侵害になるのか

法律には「プライバシー権」という規定はありません。プライバシー権は、社会が発展するにつれ、判例において「権利」として認められるようになったものですが、メールに関しても、プライバシーの侵害が争点となって、裁判となることがあります。

刑法230条1項は「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する」と、名誉毀損罪の構成要件を規定していますが、メールは個人間の私信が多いので、名誉毀損の「公然と」を満たさない場合が多く、トラブルとなった時、プライバシーの侵害が争点となることが多くなるといえます。

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少し分かりにくい話なのですが、名誉毀損は、「公然と」行われた行為についてしか成立しません。そしてこの「公然と」は「不特定多数に対して」という意味です。典型は、インターネット上の掲示板。掲示板に投稿された内容は誰でも読めるため、「不特定多数」相手のものです。しかしメールの場合、あるメールの内容は、そのメールの宛先となった特定の少数の人間にしか読まれないため、「不特定多数向け」とは言えず、従って、名誉毀損が成立しないケースが多いのです。

そうした、特定少数にしか読まれないメールであっても、内容次第で「プライバシー侵害」とは言えるのではないか、というのが、この話のポイントです。

メールによるプライバシーの侵害の場合

以下、特定の個人に送信したメール内容がプライバシーの侵害に当たるかを争った事例を紹介します。

生命保険会社員Cが、知人Bから保険加入の相談を受けた際に知った、Aが精神障害者3級の認定を受けているという個人情報を記載した電子メールを、第三者であるBに送信したことが名誉毀損、プライバシーの侵害に該当するかどうかが争われた事例があります。

AはBを通じて知り合いになったCが生命保険会社に生命保険募集員として勤務していることを知り、保険加入の相談をしました。その際、既往症があると加入できない保険もあると説明を受けたことから、自分が過去に鬱病ないし精神病に罹患しており、精神障害者3級の認定を受けていることを明かしました。

この後、共通の趣味であるアウトドア生活についてCがインターネット上で公開している日記中での記述につきAが批判的な書き込みをし、またCを誹謗中傷する内容を第三者に触れ回ったとして、これを快く思わなかったCは共通の知人であるBに、Aが「社会に適合出来ないネット依存者」「常識に欠ける人間」であるなどと表現し、それとともに、Aが精神障害者3級の認定を受けていることを記載した電子メールを送信しました。

これを知ったAは、名誉毀損、プライバシーの侵害に対する損害賠償を求めて、Cを訴える裁判を提起しましたが、東京簡易裁判所で請求棄却を受けたため、控訴しました。裁判所は名誉毀損については、問題のある表現が含まれるものの、「特定の知人に対して送信されたものにすぎず、控訴人及び被控訴人以外の多数の第三者に閲読可能な状態に置かれたものではないから、被控訴人による上記各電子メールの送信が、直ちに控訴人の客観的な社会的評価を低下させたとはいえない」として、認めませんでした。「公然と」事実を適示したわけではないということです。

一方、プライバシーの侵害については、

このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。控訴人から保険加入の相談をされた際、本件個人情報を知った被控訴人は、控訴人の意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、保険加入とは何ら関係がなく、共通の知人にすぎないBに対し電子メールの送信により本件個人情報を伝えた被控訴人の行為は、何らの必要性も認められず、控訴人が任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、控訴人のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。

東京地方裁判所2009年11月6日判決

として認め、ただ、「プライバシーの侵害行為により、控訴人には精神的苦痛を被ったことが認められるところ、本件個人情報は、控訴人にとって秘匿性の高い情報であるといえること、他方、プライバシーの侵害態様としては特定の知人1人に電子メールを送信したというものにとどまること、控訴人は、これまでも鬱病ないし精神病を罹患していることを控訴人と被控訴人の共通の知人に話していたこと」から、慰謝料額としては、3万円が相当としました。

病気という秘匿性の高い情報ではあっても、「プライバシーの侵害態様としては特定の知人1人に電子メールを送信した」にすぎず、Bはたまたま知らなかったのですが、「これまでも鬱病ないし精神病を罹患していることを控訴人と被控訴人の共通の知人に話していたこと」から、慰謝料額は低額になりました。

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性的な関心や欲求に基づく記載内容を含むメールの場合

相手が拒絶している、性的な関心や欲求に基づく記載内容を含むメールを送信すれば、プライバシーの侵害となる場合があります。

性的嫌がらせを含む悪質なメールを送信された上、執拗に付きまとわれたため、精神的・身体的に多大な損害を被ったなどと主張して、女性が不法行為に基づき、慰謝料の支払を求めた事例があります。東京簡易裁判所に対し、送信メールによって精神的苦痛を受けたとして、調停の申立てをしたのですが不調により終了したため、控訴人は東京地方裁判所に本件訴えを提起しました。

矛盾や疑問等が多い話なのですが、同じ派遣会社から派遣された試験監督の仕事先で女性控訴人(35歳)と男性被控訴人(42歳)が知り合いになり、被控訴人が、自己の携帯電話のメールアドレスを記載した名刺を控訴人に渡しました。控訴人が被控訴人のメールアドレスにメールを送信したことをきっかけとして相互にメールを送信し合うようになり、半月程の間に被控訴人から控訴人に対して約120通、控訴人から被控訴人に対して約90通のメールが送信されました。

この間に、性的嫌がらせを含む悪質なメールが送信されたと控訴人が主張するのですが、例えば、被控訴人が「援交はダメよ」と送信してきたとするメールは、メールで情報交換をしている折に、控訴人から日払いの仕事を探していると記載されたメールを受けて、被控訴人が「短期で日払いの仕事ならば、○○が最適だと思います。携帯端末の検品で日払い壱万円です。援交はダメよ」と記載したもので、「援交はダメよ」とはどういう意味かと問う控訴人からの送信に「誤解を招いたらお許し下さい」と被控訴人は返信し、同日中のその後に、5通ずつのメールを送信し合っています。

また、別の日に被控訴人が「渋谷のラブホに入ろうと・キスを迫ったら『いや、駄目っ、主人が、やっぱり主人に一途なの…』と激しい抵抗に遭い、無念の撤退→自爆エロ」と送信してきたとするメールは、「JAL国際線元スッチーとお付き合いしていたのです、3年前…」とのメールに対し、控訴人が「「そうだったんですか」と返信したことから、「『お姉さま』『Y君』と呼び合っていました。渋谷のラブホに入ろうと・キスを迫ったら『いや、駄目っ、主人が、やっぱり主人に一途なの…』と激しい抵抗に遭い、無念の撤退→自爆エロ」と記載したものであり、やはり同日中のその後に、被控訴人から9通、控訴人から6通のメールを送信しています。

裁判所も、性的嫌がらせを含む悪質なものとされるメールの後にも「被控訴人との間でメールを交換しており、これらのメールを強く拒絶していたものとも、これらのメールの後に、被控訴人を拒絶するようになったものとも認められず、被控訴人も控訴人が被控訴人からのメールを拒絶しているものとは認識できなかったものと認められる」とし、また、2人は、2回しか顔を合わせていないこともあって付きまとい行為はなかったとした上で、

前記認定の本件性的メールの内容、態様、被告送信メール全体の内容、態様、回数、原告送信メールの内容、態様、回数、これらからうかがわれる被告送信メールの目的などをも併せ考えると、被告送信メールの送信が社会通念上許容される範囲を超えた違法なものとまでは認められず、いまだ不法行為を構成するものとはいうことができない。

東京地方裁判所2009年9月30日判決

として、控訴人の請求を棄却しました。この事例では、プライバシーの侵害は認められませんでしたが、判決文では、

相手方の意に反して性的な関心や欲求に基づく記載内容を含むメールを送信する行為は、メールの目的、内容、態様等、相手方の拒絶の程度、態様等に照らし、社会通念上許容される範囲を超える場合には、相手方の性的自由、名誉感情、プライバシー等の人格権を侵害する不法行為を構成するものというべきである。

同上

としています。

1対1のメールにおいてなされた行為でも、「相手方の意に反して性的な関心や欲求に基づく記載内容を含むメール」を送信することは、「メールの目的、内容、態様等、相手方の拒絶の程度、態様等に照らし、社会通念上許容される範囲を超える場合」には、「相手方の性的自由、名誉感情、プライバシー等の人格権を侵害する不法行為を構成」する可能性があるというわけです。下級審のものではありますが、注目すべき判示といえます。

本件ではそのような行為はなされなかったという結論ですが、「メールだから」「公表されることはないだろうから」と甘く考えて、相手が拒絶している、性的な関心や欲求に基づく記載内容を含むメールを送信すれば、プライバシーの侵害となる場合があるという指摘です。

メール転載によるプライバシーの侵害

最後に、メールのやりとりがインターネット上に公開された事例を紹介します。

「a」という同人誌サークルに所属し、「B」のペンネームで活動し、「B」としての活動に関するウェブページを開設して連絡用メールアドレスを掲載していた漫画家が、氏名不詳者により「B氏検証まとめWiki」というタイトルのウェブページを作成されました。ここに掲載された記事、転載されたメールにつき、名誉毀損、プライバシーの侵害に基づく慰謝料を請求するため、発信者情報の開示を求める請求が、経由プロバイダに対して行われました。

裁判所はまず各記事の対象となっているのが原告であると同定することが可能であるとした上で、「B氏検証まとめWiki」に投稿された記事において、Bが他人の作品を剽窃している旨の印象を与える表現があり、各記事はBが第三者の作品を剽窃しているとの事実を摘示したものであり、Bの社会的評価を低下させるものであると認めました。

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また、この漫画家が特定個人に宛てて送信したメールと当該特定個人から原告に送信されたメールが「B氏検証まとめWiki」に転載されたのですが、これにつき、

本件記事5ないし15は、原告と特定個人との間のメールのやりとり(本件記事10は,本件記事9に添付されたもの)を本件ウェブページ上に掲載したものであるところ、個人間でやり取りされたメールの内容は、通常、広く一般に公開されることを希望しない情報であり、現に、原告は、当該メール内においてその旨明確に述べている(甲1の7)。そして、これらをインターネット上に公開する合理的理由は見当たらないことから、これらを公開した行為は、原告のプライバシー権(自己の情報コントロール権)を侵害するものといわざるを得ない。

東京地方裁判所2013年7月17日判決

として、プライバシーの侵害を認め、発信者情報の開示を命じました。

「個人間でやり取りされたメールの内容は、通常、広く一般に公開されることを希望しない情報」であること、またそれを公開するかしないかを判断する「自己の情報コントロール権」を、プライバシー権として認めた判決です。

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まとめ

メールによるプライバシーの侵害に心当たりのある人は、早いうちに経験豊かな弁護士に相談しましょう。メールによるプライバシーの侵害はハラスメントと同じで、相手本人は自覚していないという場合が多くあり、だからこそ、放置しておくとエスカレートする可能性があります。さらに悪質なものになり、「嫌がっているのにも関わらず連続してメッセージ等を送る」というストーカー行為に発展したりする場合もあります。2013年7月にストーカー規制法が改正され、しつこいメールもつきまとい行為として、犯罪行為にあたるとされています。

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