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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

名誉毀損の成立と公益性

風評被害対策

名誉毀損の成立と公益性

民事の名誉毀損は、

問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得る」

(最高裁判所1997年9月9日判決)

のですが、意見ないし論評による名誉毀損の場合、以下の4つの要件を満たしていれば、違法性が否定(違法性阻却)され、名誉毀損は免責されます。

  1. 意見ないし論評が公共の利害に関する事項に係ること(公共性)
  2. 意見ないし論評の目的が専ら公益を図るものであること(公益性)
  3. 前提としている事実が真実であると証明されること(真実性)またはその事実が真実であると信ずるに足りる相当の理由があること(相当性)
  4. 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと

このうち、意見ないし論評による名誉毀損が成立するか否かの判断において最も取り上げられることが多い公益性は、実際の裁判ではどのようなときに認められているのでしょうか

公益性とは

公益性については刑法第230条2項に「その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」とあり、上の最高裁判所判例でも「専ら公益を図る」とされていますが、ほんの少しでも公益以外の目的があったら公益性が否定されるというわけではありません

インターネット広告事業を行うA社と広告を依頼したB社との広告料金返還請求訴訟において、B社がウェブサイトに掲載した記述及び原告の取引先等に送付した電子メールにつき、東京地方裁判所は、公益目的ではなく私怨を晴らすことが真の目的であるとのA社の主張に対し、「専ら公益を図る目的があることについては、主たる動機が公益目的であればよいと考えられる」(2012年11月8日判決)として、公益性を認めています。

公益性と公共性

公共性とは「公共の利害に関する事実」なので、これが認められれば、公益性があると認められる場合が多いことになります。現実に裁判では、公共性があれば、そのような内容の投稿をすることは「公益を図る目的」に出ている、つまり公益性があると推認されることが多く、その判断を覆すに足りる証拠がなければ、公益性が肯定されています

交通事故に関し、掲示板に名誉を毀損する書き込みがなされたとして原告が発信者情報開示を求めた事例で、東京地方裁判所は「本件記事は公共の利害に関するものであり、したがって、専ら公益を図る目的に出たものと推認でき、この判断を覆すに足りる証拠の提出はない」(2008年10月31日判決)としていますが、これが一般的な判断と言えるでしょう。

公益性が認められるとき

では、実際には、どういう条件下で公益性が認められているのでしょうか。

解党した「みんなの党」の元代表である渡辺喜美に対して、化粧品製造販売メーカーの会長が8億円を貸し付けたことに関し、「金で政治を買おうというこの行動は徹底して批判されなくてはならない」などと書いたブログ記事で会長と会社の名誉を毀損し、名誉感情を侵害したとして、会社(X2)とその会長(X1)が、ブログを書いた弁護士に対し6000万円の賠償とブログ削除・謝罪広告掲載を求めた事例があります。

公共の利害に関する事実に係るもの

被告弁護士は、政党代表であり国会議員であった者に対し、巨額の貸付けを行うなどの手法によって選挙資金の支援を行ったことにつき、政治資金規正法の理念に反するものであるとして批判したものである。被告は論評しているだけであり、その内容も原告の人格攻撃には及んでおらず、純粋に政治的な言論に徹している。原告らは、食品やサプリメントあるいは化粧品を大量に製造販売する事業者及びその代表者として市民の健康に直結する影響力を持ち、公人に準じる立場にあり、政治資金規正法に基づく届出のない現金を提供した点について、政治家と同様に国民からの批判を甘受すべき立場にあるというべきであるとして、「本件各記述は公共の利害に関する事実に係るものであり、その掲載は専ら公益を図る目的に出たものである」と主張しました。

これに対し裁判所は、被告の記事を意見ないし論評とし、その内容が「一般の読者に対し、本件貸付が、原告らの利益のために政治を歪めるようなものであるとの印象を与え、原告らの社会的評価を低下させるものといえる」としました。

しかし一方で、その「前提としている事実の重要部分については、いずれも真実であることの証明があったといえる」とし、

本件各記述は、いずれも意見ないし論評の表明であり、公共の利害に関する事実に限り、その目的が専ら公益を図ることにあって、その前提事実の重要な部分について真実であることの証明がされており、前提事実と意見ないし論評との間に論理的関連性も認められ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできないから、違法性を欠くものというべきである。

(東京地方裁判所2015年9月2日判決)

として違法性を阻却し、つまり名誉毀損を認めず、また、「旦那と幇間」「醜い連携」といった揶揄するような表現も、個人の人格攻撃にわたるものとはいえず、社会通念上許される範囲を超えて人格的価値を否定したものとまでは認められないから、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるとはいえないとして、原告らの請求を棄却しました。

政治家とその周辺の人々の活動に対する言論と名誉毀損という、教科書的な例と言えるでしょう。

公益性が認められないとき

ブログへの書き込み等につき公益を図る目的をもって行ったと主張しても、認められない場合がありますが、それはどんなときでしょうか。

悪質な書き込みとされた場合

アスペルガー症候群に関するブログを開設し、出版社を経営する原告X1とその夫であるX2の名誉を毀損する書き込みを行ったとして、X1とX2が不法行為に基づき損害賠償を請求した事例があります。

X1は、自閉症等に関する書籍を出版し、各地において自閉症や発達障害に関する講演を行ったり、翻訳家として内閣府の中央障害者施策推進協議会の委員を務めたりしたとされているAの担当編集者でもあるのですが、被告は「Aは実在しない自閉症患者であり、健常者で実在する原告X1が商売のためにでっち上げた架空の人物であって、X1がAを演じている」「X2も、妻に加担して商売のために、Aをでっち上げている」とし、原告らを、「詐欺師」「犯罪者」「変質者」「X1はお金が好き」「X2は拒食症」などとする書き込みを約80回にわたり、繰り返しました。

被告は、健常者である原告X1が自閉症患者であるAを演じることにより、「ストレスを自傷行為によって解消する」といった誤った認識が自閉症患者に広がるなど、社会に危険が生じている。「Aなる者」は、内閣府の中央障害者施策推進協議会の委員を務めるなど公的な任務に就いており、自閉症に関する誤解が社会に広がる危険がある。当該出版社の自閉症に関する「Aなる者」の著書の購入者は自閉症患者が著したものと錯誤しており、その代金等を騙し取られている。また、それらの書籍により、自閉症に関する誤った知識が社会に広がる危険もある。本件各書き込みは自閉症に関する正しい認識を社会に広め、これらの危険を食い止めるものとして公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的でしたものである、と主張しました。

これに対し裁判所は、ブログ記事は、不特定多数の者に対し、X1とX2が「自らの利益を図るためにAなる人物をでっち上げるような人物」「詐欺師」「犯罪者」等であるかのように印象付けるものとして、原告らの社会的評価を低下させるものであると認めました。

その上で公益性について判断し、約80回にわたり公開された範囲の広範さや、期間の長さ及び書き込みの回数や態様といった点にふれつつ、

本件各書き込みは、原告らの行為若しくは性質等を人身攻撃といわざるを得ない表現を用いて批判ないし論評するものであり、その文言や語調等をみても、原告らが不正ないし違法なことを行っているものと一方的に決め付けたり、執ように批判するものであって、本件各書き込みの目的が、専ら公益を図ることにあるなどとは到底認められない。

(東京地方裁判所2009年10月16日判決)

として、被告による名誉毀損を認め、原告X1に慰謝料110万円と弁護士費用11万円、原告X2に慰謝料70万円と弁護士費用7万円、合計198万円の支払いを命じました。

このように、公益を図ると主張するものであっても、人身攻撃といえるような悪質な書き込みである場合には、公益性は認められません

報酬が目的とされた場合

当サイトの別記事「自作自演のランキングサイトやアフィリエイターが作るランキングサイト」でもご紹介した、外国語教材の企画、開発及び販売等を行う会社が、アフィリエイターに名誉権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求及び将来の差止請求等をするために、Google社に発信者情報開示を請求し、認められた事例があります。

Google社は「原告が不特定多数の消費者向けに提供している原告教材について、その効果の有無、宣伝手法の当否やクレームが多いという事実は、社会の重要な関心事であり公共の利害に関する事実といえる」とし、「本件投稿は、その記載内容からして、原告教材の効果や宣伝手法について消費者に有益な情報を提供することを主たる目的としたものであり、公益目的がある」と主張したのですが、原告は、「本件サイトはアフィリエイトサイトであるから、かかる報酬目的で原告商品を引合いに出して批判する本件投稿が、専ら公益目的によるものだとは到底いえない。広告収入の追求という自らの経済的目的を秘し、一般消費者の意見を集約したかのように仮装するサイトが専ら公益目的だと判断されると、競合他社製品を攻撃する広告サイトが許容されることになり重大な問題がある」とし、「本件投稿が意見・評論に当たるとしても、前提事実に基づき不合理な推論をしている場合には、人身攻撃に及んでいなくとも違法性阻却事由は認められない」と主張しました。

これに対し裁判所は、原告が意図的に一般消費者が誤解するような宣伝文句を使用した詐欺的、欺瞞的なものであるとし、さらに、これらが原因で原告教材に対する消費者からのクレームが多発しているとしており、原告の社会的評価を低下させるものであることが明らかであるとしました。さらに、

本件サイトは、原告教材の内容はもとよりその宣伝手法にも言及して悪印象を与え、その評価を下げることにより特定の英語教材の購入に誘導し、アフィリエイト報酬を得ることを主たる目的とするものというべきであるから、本件投稿が専ら公益を図る目的によるものとは認められない。

(東京地方裁判所2015年7月13日判決)

とし、公益性を図るという目的は認められないとして、Google社に発信者情報の開示を命じました。

広告料収入というような報酬や私的利益が目的である場合には、公益性は認められないのは、当然のことと言えるでしょう。

まとめ

社会的評価を低下されたからといって、名誉毀損を問えるとは限りませんが、書き込んだ側が公益性を主張しても、必ず公益性が認められるというわけではありません。

名誉毀損を問うことが可能なのか否か、判断が難しい場合もありますが、経験豊かな弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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