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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

風評被害関連の裁判や仮処分の管轄裁判所とは

風評被害対策

風評被害関連の裁判や仮処分の管轄裁判所とは

インターネット関連に限らずあらゆる法律的な話について、「それを裁判所を通じて(訴訟や仮処分で)解決する場合に、どこの地域の裁判所で取り扱って貰えるのか」という問題があります。専門用語で「管轄裁判所」と呼ばれる問題です。

例えば当事務所は、東京都内の法律事務所です。東京地方裁判所であれば電車ですぐに行けますが、これが大阪や名古屋の裁判所になると、どうしても交通費がかかってしまいます。また、当事務所を含め多くの法律事務所は、遠方の裁判所で裁判を行う場合には、移動時間に対応する費用として「日当」を頂く形になってしまいます。可能な限り、東京地方裁判所で手続を行えた方が、弁護士としても、ご依頼者様としてもベターな訳です。

インターネット上の風評被害対策に関連する、削除、IPアドレスや住所氏名の開示請求の裁判や仮処分を、東京地方裁判所で取り扱わせることはできるのでしょうか。「管轄裁判所」の考え方について解説します。

国際裁判管轄と国内裁判管轄

なお、この「管轄裁判所」というものには、

  1. そもそもその裁判や仮処分を日本の裁判所が扱えるのかという問題(国際裁判管轄)
  2. 日本の裁判所が扱えるとして、それは例えば東京地方裁判所なのか大阪地方裁判所なのかという問題(国内裁判管轄の中の土地管轄)

があります。本記事で解説するのは後者です。前者に関しては別記事で解説しています。

インターネット上の風評被害対策に関連する仮処分や裁判の種類

風評被害対策関連の裁判、仮処分について、管轄裁判所を踏まえて説明していきます。

まず、インターネット上の風評被害対策に関連する仮処分や裁判には、大きく3種類があります。

  • 投稿記事削除
  • 発信者情報開示請求(IPアドレスの開示請求、住所氏名の開示請求)
  • 損害賠償請求(投稿者を特定できた後の損害賠償請求)

これらの関係や大まかなフローに関しては、別記事で詳しく解説しています。

そしてこれらは、「管轄裁判所」との関係では

  • 投稿記事削除と損害賠償請求
  • 発信者情報開示請求

に分けられます。「投稿記事削除」と「損害賠償請求」は、管轄裁判所が同じになり、「発信者情報開示請求」はこれらとは別になるからです。以下、順に説明していきます。

投稿記事削除や損害賠償請求の管轄

まず、投稿記事削除や損害賠償請求請求の場合、「原告(債権者)側の管轄」と「被告(債務者)側の管轄」のうち好きな方を使う事ができます。少し分かりにくいですが、裁判でいう「原告」は、仮処分という手続では「債権者」と呼ばれ、裁判でいう「被告」は仮処分では「債務者」と呼ばれます。要は、訴える側と訴えられる側です。

原告(債権者)側の管轄

要は「訴える側」ということで、記事の削除や損害賠償を請求する側の事情に基づく管轄です。

これは単純に、記事の削除や損害賠償を請求する側の住所地となります。つまり例えば、

  • 東京都内に住んでいる(正確には住民票上の住所がある)個人の場合は東京地方裁判所
  • 東京都内に本店所在地がある法人の場合は東京地方裁判所
  • 横浜に本店所在地がある法人の場合は横浜地方裁判所

といった具合です。

被告(債務者)側の管轄

訴えられる側で、記事の削除や損害賠償を請求される側の事情に基づく管轄です。損害賠償請求の場合、通常は「その記事を書いた本人」ということになります。記事削除の場合は、当該記事を消す権利と義務を持つ者、例えば

  • その記事を書いた本人
  • その記事が掲示板等のコメントであれば掲示板管理者
  • その記事がレンタルサーバー上のサイト内のものであればサーバー管理者

などです。

これらが国内の個人や国内法人の場合、上記と同様に、その住所地の裁判所となります。

また、外国法人の場合は、少しややこしいのですが、

  • 日本国内に主たる事務所・営業所が存在する場合→日本国内に存在する主たる事務所・営業所の所在地の裁判所
  • 日本における代表者その他主たる業務担当者が存在する→日本における代表者その他主たる業務担当者の住所地の裁判所

となります。

これらが共に存在しない場合、被告(債務者)側の管轄は存在しない、ということになり、原告(債権者)側の管轄でしか裁判を行うことができません。

まとめ

以上より、例えば、以下のようになります。

東京都内の個人が、大阪のサーバー会社を相手に、投稿記事削除を求める場合

  1. 原告(債権者)側の事情として、東京地方裁判所
  2. 被告(債務者)側の事情として、大阪地方裁判所
  3. したがって、東京地方裁判所でも大阪地方裁判所でも良い

埼玉県内の法人が、名古屋の個人を相手に損害賠償請求を行う場合

  1. 原告(債権者)側の事情として、埼玉地方裁判所
  2. 被告(債務者)側の事情として、名古屋地方裁判所
  3. したがって、埼玉地方裁判所でも名古屋地方裁判所でも良い

埼玉県内の法人が、国内には事務所・営業所や代表者・業務担当者がいない海外法人を相手に、投稿記事削除を求める場合

  1. 原告(債権者)側の事情として、埼玉地方裁判所
  2. 被告(債務者)側の事情として、管轄なし
  3. したがって、埼玉地方裁判所のみ

発信者情報開示請求の管轄

サーバーやプロバイダを相手に、投稿者のIPアドレスや住所氏名の開示を求める、発信者情報開示請求の場合は、「原告(債権者)側の管轄」が使えません。つまり、「被告(債務者)側の管轄」に応じた裁判所をしか用いることができないのです。

被告(債務者)が国内の個人や法人の場合は、上記と同様、その住所地の裁判所となります。

また、外国法人の場合、基本的には上記と同じなのですが、少し違いがあります。

  • 日本国内に主たる事務所・営業所が存在する場合→日本国内に存在する主たる事務所・営業所の所在地の裁判所
  • 日本における代表者その他主たる業務担当者が存在する→日本における代表者その他主たる業務担当者の住所地の裁判所
  • どちらも存在しない場合→「管轄が定まらない場合」として、東京地方裁判所

「どちらも存在しない場合には東京地方裁判所でOK」というルールがあるのです。

投稿記事削除や損害賠償請求と、発信者情報開示請求を同時に行う場合

損害賠償請求を伴う場合、仮処分ではなく裁判となります。

以上のようなルールに加え、さらに、投稿記事削除や損害賠償請求と、発信者情報開示請求を同時に行う場合は?という話があります。

この話には、「仮処分のルール」という話が関わってきます。まず、損害賠償請求は、仮処分では求めることができません。仮処分は迅速な手続なので、迅速な手続が必要とされる場面、例えば

  • 速やかに記事が削除されないと違法な記事による被害が日々発生してしまう
  • 速やかにIPアドレスの開示を受けないとプロバイダの保有しているログが消えてしまう

といった場面でしか用いることができず、損害賠償請求はこれらに該当しないからです。

裁判の場合の管轄

この上で、裁判であれば、複数の請求のうち、どれか一つでも管轄が認められる裁判所に、全ての請求をまとめて一度で行うことができます。例えば、

東京都内の個人が、大阪のサーバー会社を相手に、投稿記事削除&発信者情報開示を求める場合

  1. 投稿記事削除について東京地方裁判所に管轄が認められる
  2. 発信者情報開示請求については大阪地方裁判所にしか管轄が認められない
  3. したがって、東京地方裁判所にまとめて一つの裁判で、投稿記事削除&発信者情報開示を求めることができる

大阪府内の個人が、国内には主たる事務所・業務担当者が存在しない海外法人を相手に、発信者情報開示&損害賠償を求める場合

  1. 発信者情報開示について東京地方裁判所に管轄が認められる
  2. 損害賠償請求については大阪地方裁判所に管轄が認められる
  3. したがって、東京地方裁判所にまとめて一つの裁判で、発信者情報開示&損害賠償を求めることができる

となります。

仮処分の場合の管轄

これに対し、仮処分の場合、「複数の請求のうち、どれか一つでも管轄が認められる裁判所に、全ての請求をまとめて一度で行うことができる」という規律が存在しません。したがって、

  • 投稿記事削除は投稿記事削除用の管轄に従う
  • 発信者情報開示請求は発信者情報開示請求用の管轄に従う
  • たまたま上記2個が一致する場合、その裁判所にて同時に1個の手続で、投稿記事削除&発信者情報開示を求めることができる

となります。

そこで、

東京都内の個人が、大阪のサーバー会社を相手に、投稿記事削除&発信者情報開示を求める場合

  1. 投稿記事削除について東京地方裁判所・大阪地方裁判所に管轄が認められる
  2. しかし、発信者情報開示請求については東京地方裁判所に管轄が認められず、管轄が認められるのは大阪地方裁判所のみ
  3. したがって、両者について管轄が認められるのは大阪地方裁判所のみなので、一つの仮処分で両者を求めるなら、大阪地方裁判所を使う必要がある

大阪府内の個人が、国内には主たる事務所・業務担当者が存在しない海外法人を相手に、投稿記事削除&発信者情報開示を求める場合

  1. 投稿記事削除について管轄が認められるのは大阪地方裁判所のみ
  2. 発信者情報開示について管轄が認められるのは東京地方裁判所のみ
  3. したがって、一つの手続で両者を求めることはできない

となります。

まとめ

以上のように、裁判管轄というのは、非常に複雑なルールです。また、ルール自体が複雑な事に加え、具体的な海外法人、例えばGoogleやFacebookやTwitterやFC2などについて、

  • 日本国内に主たる事務所・営業所
  • 日本における代表者その他主たる業務担当者

が具体的にどこ・誰なのかというのは、こうした風評被害対策を多数手がけている弁護士が「ノウハウ」として保有している情報です。こうした裁判や仮処分を多数手がけている弁護士でないと、なかなか判断が難しい問題であると言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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