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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

Instagramのストーリー機能で投稿された画像や動画と肖像権の関係

風評被害対策

有名人の私生活の様子を見たり、自身の体験を友人に共有したりできるInstagramは世界中で人気を博しています。

Instagramが人気を博している理由の1つは、2016年8月に登場したストーリー機能でしょう。フィード(ホーム画面)投稿とは別枠で、24時間で自動消滅するため、フィード投稿するほどではない些細な出来事や短時間の動画でも、知人に気軽にシェアできる人気の機能です。

最近では、気軽な情報発信手段としてストーリーのみを利用するユーザーも増えてきました。日常のシーン以外にも、豊富なエフェクトやビジュアルを使って、自分のフォロワーへの感謝の気持ちやフィードに投稿した際の告知などをカード感覚で直感的に伝えられる機能として、人気があります。

一方で、ストーリーで投稿した写真や動画に自分以外の人が写り込んでしまった場合、その人の権利を侵害するおそれがあることをご存じでしょうか。

他人が写った画像や動画を投稿した場合に問題となる権利には、著作権や肖像権、場合によってはパブリシティ権があります。ここでは、Instagramのストーリー機能と肖像権の関係について解説します。

Instagramのストーリー機能に関する肖像権の問題

肖像権とは

そもそも、「肖像権」という名前の権利が保障されていると明示的に認めた判例は存在しません。

一般に、肖像権の憲法上の保障の有無について述べたとされている最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁は、

個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁

と判示しています。

要するに、いわゆる「肖像権」とは、「承諾なしに、みだりに容ぼうなどを撮影されない自由」をいい、プライバシー権の一つとして憲法で保障されていると理解されています。(以下では説明の便宜上、この自由を「肖像権」といいます。)

容ぼうなどの撮影が違法になる場合

もっとも、本人の明示的な承諾なく容ぼうなどを撮影する行為が、ただちに違法になるわけではありません

肖像権の侵害は犯罪ではないため、違法であるか否かは、民事上の不法行為に当たるか否かにより判断されます。

例えば、正当な取材行為としての撮影などは適法となります。

刑事事件の法廷で被疑者の容ぼうなどを承諾なく撮影した行為、及び、写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為として違法となるか問題となった事案において、最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁は、

 人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。

最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁

という基準を示しました。

すなわち、肖像権侵害であるか否かは、撮影の場所や態様等を考慮して、撮影された者の社会生活上の受忍限度を超えるかどうかによって決まることになります。

なお、同判例は撮影した写真の公表についても

人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。

最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁

と判示しています。

要するに、人の容ぼうなどを撮影した写真や動画の公開の適法性は、撮影行為の適法性に左右されることになります。

Instagramのストーリーは、写真または動画の撮影と、それを編集して投稿するという2つの過程を経て生み出されます。したがって、上記判例の判示は、ストーリーの適法性判断にも妥当するでしょう。

ストーリーに投稿する際の注意点

前述のように、ストーリーの投稿は、撮影行為と撮影したものを公開する行為から成り立ちます。そのため、投稿する側としては、まず、投稿しようとしている写真の撮影時の態様が、社会生活上の受忍限度を超えない範囲であることが重要です。

もっとも、社会生活上の受忍限度の範囲内か否かを判断する明確な基準はありません。

ただし、例えば、撮影した場所が街中や遊園地のように多くの人の出入りが予定される場合には、通常自身の容ぼうなどが多くの人の目にさらされることになるので受忍限度の範囲は広がると思われます。

また、他人が映ってしまった場合でも、他人の顔が認識できない場合や、風景と同視できる程度で映っているにすぎない場合は受忍限度の範囲内である可能性が高いです。

逆に、他人の顔がはっきり認識できてしまう場合や、他人が風景とは言えないほど大きく映ってしまっている場合には受忍限度の範囲を超えていると判断される可能性が高くなります。

なお、Instagramには自身の投稿を、自分が認めた人にだけ公開できる「非公開設定」という機能があります。

しかし、自身が非公開にしていても、他人によってストーリーをスクリーンショットされるなどして公開されてしまう可能性があるので、「非公開設定をしていれば肖像権侵害にならない」わけではありません。

投稿者としては、ストーリーで肖像権侵害をしないために、

  • ストーリーに投稿する前にまずは他人が映っていないかを確認しておく
  • 自身がストーリーを投稿する際に他人が映っている場合には、他人の顔が認識できないようにモザイクをかける、顔にスタンプを張るなどの編集をする
  • 映っているのが知人の場合には投稿前に知人に許可を取る

といった対応をしておくことが望ましいです。

なお、前述のとおり、本人の承諾がない場合でも、受忍限度内であれば適法と判断される場合もあります。

しかし、いずれにしろ法的なトラブルを避けるため、投稿者としては他人の承諾を得てから投稿するようにした方が良いでしょう。

Instagramのストーリー機能と肖像権に関する裁判例

Instagramのストーリー機能と肖像権の裁判事例

無断で撮影した他人の画像や動画をストーリーに投稿した場合、肖像権侵害になる可能性があります。では、他人がストーリー上で公開した画像や動画を無断で公表した場合、肖像権侵害となるのでしょうか。

ストーリー機能で画像などを公表されている場合、元投稿者は多くの人に見られることを認識しているので、他の人に無断で公表されても受忍限度の範囲内なのでしょうか。

この点に関する判断をしたものとして、下級審のものとはいえ、興味深い判決が出ています。

訴訟の経緯

事案は以下のとおりです。

原告Aが自身の妻である原告Bの様子を撮影した動画(以下、「本件動画」といいます。)をInstagramのストーリー機能を用いて投稿したところ、氏名不詳の第三者が本件動画をスクリーンショットにより画像(以下、「本件画像」といいます。)として保存し、「ホストラブ」という掲示板に本件画像を投稿しました。

これを受けて、原告らはソフトバンクに対し、氏名不詳者の発信者情報の開示を求める訴訟を提起しました。

この訴訟では、氏名不詳の第三者による上記行為が原告Bの肖像権を侵害するのか、といった点のほかに原告Aの著作権が侵害されたかどうかの点も問題になりました。

しかし、ここでは肖像権侵害の点にのみ触れることにします。

関連記事:写真投稿における著作物性と著作者

裁判所の判断

裁判所はまず、本件動画の撮影及びそれをインターネット上の投稿サイトに投稿したのは原告Aであり、原告Bは夫である原告Aにこれらの行為を承諾していたと推認され、また、氏名不詳者はInstagramから本件動画を入手したものではあるとしつつ、

本件動画は24時間に限定して保存する態様により投稿されたもので、その後も継続して公開されることは想定されていなかったと認められる上、原告Bが、氏名不詳者に対し、自身の肖像の利用を許諾したことはない。

本件画像は、原告Aの著作権を侵害して複製され公衆送信されたものであって、本件投稿の態様は相当なものとはいえず、また、本件画像の利用について正当な目的や必要性も認め難い。これらの事情を総合考慮すると、本件画像の利用行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり、原告Bの権利を侵害するものであると認められる。したがって、本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかであると認められる。

東京地判令和2年9月24日(令元ワ 31972号)

として肖像権の侵害も認め、ソフトバンクに発信者の情報開示を命じました。

上記判示で注目すべきは、インターネット上に公開された場合でも、24時間限定で公開されるというストーリーの特性を考慮して受忍限度の範囲を広げていない点です。

このように考えると、ストーリー投稿ではなくフィード投稿で公開されている写真などを無断で公表した場合には、ストーリーで投稿された写真などを公表した場合に比べて受忍限度の範囲が広がり、適法と判断される可能性が高くなるとも考えられるかもしれません。しかし、フィード投稿をしたことのみをもって肖像権が放棄されたことにはなるわけではないので、注意が必要です。

ストーリー投稿・フィード投稿のいずれにせよ、他人の投稿した画像などを無断で投稿する場合には、元投稿者の許諾を得るように心掛けた方が良いでしょう。

関連記事:インスタアカウントを特定したい!開示請求で嫌がらせを止める手順

Instagramに無断で写真を載せられたときの対処法

Instagramに無断で写真を載せられたときの対処法

ここまでは、Instagramのストーリーで他人が写った画像や動画を投稿する際に投稿者が注意すべき点を解説しました。ここからは、自分が写った画像や動画を他人が無断で投稿していた場合の、被投稿者による対処法を解説します。

対処法1:投稿者や運営に対して削除などを依頼する

基本的に、自分が写った画像や動画を投稿しているのは知人や友人であることが多いでしょう。その場合、まずは、投稿者に直接、削除や自分だと特定できないような編集などを依頼してみましょう。

投稿者に直接の削除依頼が難しい場合や、要請しても削除などをしてもらえない場合には、Instagramの運営へ削除の依頼もできます。運営への削除依頼は、下記リンクから可能です。

関連サイト:インスタグラムヘルプセンター

ストーリーで自分の画像などを載せられた場合

Instagramのストーリーの特徴は、投稿から24時間経つと自動的に削除される点です。

そのため、投稿の削除を運営に求めて対応してもらうより、24時間が経過して投稿が自動的に削除される可能性が高いです。

どうしても投稿を早く削除してほしい場合には、ストーリーを投稿した本人に直接、削除を依頼するのが良いと思われます。

対処法2:弁護士に依頼する

対処法2:弁護士に依頼する

投稿者や運営が削除などに応じない場合でも、弁護士から依頼すれば応じてもらえる場合があります。

また、弁護士であれば、訴訟などの法的手段を講じることで、法的拘束力をもって削除などを義務付けることや、匿名の投稿者を特定して損害賠償を請求請求することも可能です。

また、肖像権を侵害している投稿の中には、名誉毀損や名誉感情侵害などの別の権利も侵害しているものもありますが、これらの判断は、専門的知識がなければ難しい場合があります。

まとめ:ネットの肖像権問題でお悩みなら弁護士へご相談を

InstagramのようなSNSは簡単に投稿できてしまうので、ついつい他人が写っている画像などを無断で投稿してしまいがちです。しかし、気軽にした投稿がきっかけで法的なトラブルに巻き込まれる可能性があるので、投稿の際には他人の肖像権にも配慮しましょう。

逆に、自身の肖像権が他人の投稿によって侵害された場合には、拡散される前に迅速に対処する必要があり、事前に対処法を確認しておくことが望ましいです。

もっとも、実際に肖像権などの侵害に当たるか否かや、どのような手段を講じることができるかの判断は、専門的な弁護士でなければ困難です。自身の肖像権を侵害するトラブルに巻き込まれた際は、専門知識を有する弁護士に一度相談してみることをおすすめします。

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モノリス法律事務所の取り扱い分野:風評被害対策

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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