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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

イニシャルや伏せ字での書き込みはどこから権利侵害になるのか

風評被害対策

名誉権やプライバシー権を侵害されたと主張したいとき、まず、それが本当に自分を対象にしたものなのかという点が、問題となります。これを「同定可能性」と言いますが、被害者に同定可能性が認められることが、名誉毀損やプライバシー侵害などが成立する前提です

名誉を毀損する投稿があったとしても、対象者がどこの誰であるのか第三者に分からないなら、その人の社会的評価が低下する事は考えられにくく、本人が自分のことかどうかわからないのなら、その投稿によって侮辱されたと確信することはできないでしょう。プライバシー侵害などの場合も同様で、どこの誰のことについてか分からない場合は、私生活が公開されたということにはなりません。

では、ネット上の匿名掲示板やSNSにおいて、イニシャルや伏せ字で名前等の一部を隠したりして誹謗中傷を行う場合が度々ありますが、このような書き込みは、どこまで許されるのか、どこから権利侵害が認められるのかを解説します。

裁判所のスタンス

まず、インターネット上におけるブログなどにおける匿名記事について、名誉毀損が成立するか否かについては、匿名記事が記載された出版物等と同様に扱われます

記事が匿名記事である場合は、その記載内容から認められる当該人物の属性等を総合することによって、不特定多数である一般読者が、匿名であってもなおその人について記載されたものと認識可能であることが必要です。

そして、実名が記載されていなくても、記載内容から当該対象者の属性等について一定の知識や情報を有している人たちによって、対象者の特定ができる可能性があり、さらに不特定多数の第三者に伝播する可能性があるなら、名誉毀損における対象者の特定については十分であるとされています。

また、インターネット上におけるブログなどでは、問題とされる記載の後に、さらに他の人により様々な情報が追加記載されてしまう特性があるので、少なくとも当該対象者と特定できるか否かについては、不法行為がなされた時である当該記事の投稿時、書き込み時などを基準として判断すべきともされています。

複数営業所から成る会社の社員の場合

「5ちゃんねる」に投稿された記事1と2が、X1の名誉を毀損し、また、記事3が原告X2の名誉を毀損し、同人の名誉感情を侵害するとして、2人が被告に対し損害賠償を請求した事例があります。

事案の経緯

原告X1は、a株式会社立川営業所営業部に所属している女性であり、原告X2はa社の賃貸部長の地位にある男性ですが、「昭島の○○グループを語ろう」という題名で、

本社F部(不動産部)のAと立川E部(営業部)のKOは肉体関係ありありのW不倫。おばはんに誘惑された若造。

と記載があるスレッドにおいて、不倫関係にあるという事実を摘示されました。

裁判所の判断

○○グループは、a社ほか複数の事業所からなり、そのうち頭文字が「E」で始まる部署は、a社の営業部以外になく、また「F」の頭文字で始まる部署はa社の不動産部以外にありません。また、女性に対する蔑称である「ババー」という言葉で「F部」の人物が特定されており、その記載内容から「本社F部のA」が、○○グループ不動産部に勤務する女性を意味すると認識できます。

また、○○グループの当時の社員数は合計191名であり、a社営業部の構成員は顧問等を含めて9名でしたが、その内イニシャル(名字又は氏名のいずれも含む)が「K」で始まる者は原告X1の他、2名しかおらず、イニシャル「KO」の者は、原告以外にはいませんでした。なお、a社の所在地は、東京都昭島市の他に、東京都立川市に立川営業所がありました。

そして、記事中に対象人物「KO」が、賃貸部長の役職にあることが記載されていますが、○○グループの中で賃貸部長の地位にある者は原告X2のみであり、一般読者にも、本件記事の対象人物は原告X2を指すと理解できるものでした。

これらにより、裁判所はX1とX2が同定できるとし、

X1に対する名誉毀損、X2に対する名誉毀損と名誉感情の侵害を認め、X1に慰謝料10万円と弁護士費用1万円の合計11万円、X2に慰謝料10万円と弁護士費用2万円と発信者情報開示費用11万円の合計23万円、合わせて34万円の支払いを、被告に命じました。

東京地方裁判所2018年10月30日判決

当サイトの別記事にて、ネットスラングについても解説しましたが、会社グループ内、あるいは周辺の人からは、イニシャルや伏せ字で書き込まれても、原告らが特定できる場合があるという事例です。

会社名と社員の氏名を同定するためのプロセスは、概ねこのようなものであり、特殊な知識や能力があるわけではない人でも容易に推理できるだろうという一般読者基準に従ったものですが、この場合の一般読者とは、○○グループ内、あるいは周辺の人のことです。

なお、慰謝料が他の名誉毀損事案と比して低額であるように思われるかもしれませんが、○○グループ外の者からは、原告X1を指すものとは容易に理解することができず、その伝播の可能性も限定的であること、また書き込みの回数も2回であり、記載態様も原告X1が不倫関係にあると断定するものとはいえないこと、また、X2に関する投稿も1回だけであったこと等を総合考慮したものです。

地方の町における会社取締役等の場合

原告らが、インターネット上のブログにされた匿名投稿によってそれぞれ名誉を毀損され、名誉感情を侵害されたとして、当該投稿をした者に対する損害賠償請求権の行使のため、経由プロバイダに発信者情報開示を求めた事例があります。

事案の経緯

原告X1は、貨物自動車等の運送を業とする運輸株式会社の取締役専務であり、原告X2は、原告X1の子であり、同社の常務取締役です。原告らの会社は、gooブログにおいて氏名不詳の会員により「〇〇」との題名でブログを作成され、タイトルの下には、

「同業者から君達の会社はまるで北*鮮だねと言われる程の独裁企業と戦うべく組合を立上げ現在進行中!各組合員交替で更新中!」と記載されていました。

この中で、原告X1につき、

組合員のS君が事故報告をしたところ、嘘つき呼ばわりされ真実を述べても嘘やと信じてもらえず、本人は話す気力を失い黙りこんでしまいました。すると専務に車に乗りなさいと言われ、言われるがままどこに連れていかれるのかと乗り込むと到着したのは病院。本人ちんぷんかんぷんのまま付いて行けば、何と!この子は頭がおかしいと言われ頭をCTスキャンされました。

という記事に対し、

こんばんは!CTの件驚きましたし、SEN*のほうが脳に異常があるかのような行動ですね。。ほんとに怖いです。よくTさんが鬼畜とかかれているけれど、大げさではなく当てはまります・・・(後略)

コメント1

と書き込みに続き、原告X2につき、

代表取締役代理てさぁ?言っている意味わからんし?アスペルガー症候群じゃね?一度病院で診てもらった方がいいよ

コメント2

という内容のコメント1、2がされました。これらに対し、原告らは名誉毀損又は、名誉感情侵害等を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求のために、経由プロバイダに、発信者情報の開示を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、まず同定可能性について、

本件ブログの他のコメントに、「O運*」、「O川U*」と記載されていること、また「滋賀営業所にて座りこみ」、「滋賀県△○町は小さい町です」などの記載があるが、滋賀県に△がつく町は△○町しかないことから、話題となっている会社が滋賀県△○町に営業所を有しており、トレーラーを使用する運送会社であるとも記されているので、「乙川運輸」という会社名が特定できる。

とし、

コメントにある「SEN*」との記載は「専務」を意味することは明らかであり、そうすると、「乙川運輸」の取締役専務は原告X1のみであるから、「乙川運輸」につき一定の知識、情報を有している者らが本件コメント1の「SEN*」につき原告X1を意味するものと同定することは可能であるし、「お前ただのぼんぼんやんけ、親の力なかったら、なにもでけへんくせに」と言われている「代表取締役代理」が、原告X2を意味するものと同定することも可能である。

としました。その上で、

原告X1に対する権利侵害につき、「脳に異常があるかのよう」とか「鬼畜」という表現が「大げさではなく当てはまります」などとその言動について論評する内容が記載されており、原告X1がこれらの評価がふさわしい人物であるとの印象を閲覧者に与えるものといえるから、コメント1はX1の名誉を毀損するものである。

としました。また、原告X1に対する権利侵害については、

原告X2がアスペルガー症候群を有しているのではないかとする論評は、原告X2がそのような評価が相応しい人物であるとの印象を閲覧者に与えるものといえるが、今日の日本社会においては必ずしもアスペルガー症候群をはじめとする発達障害についての理解が十分とはいえず、社会的に偏見が残っているといわざるを得ず、そのような発達障害を抱えているかのような論評を適示する本件コメント2は原告X2の名誉を毀損するものである。

としました。そして、それぞれ名誉感情の侵害の点を判断するまでもなく、原告らの権利を侵害するものであるとして、原告X1にコメント1、原告X2にコメント2に係る発信者情報の開示を、経由プロバイダに命じました。( 東京地方裁判所2013年10月18日判決 )

地方の小さな町の運輸会社のため、それほど大きな企業ではないのかもしれませんが、コメントにより同定は十分可能でした。

まとめ

イニシャルや伏せ字を使って書き込みをすれば、権利侵害にならないだろう、というのは誤りです。

記事を見た人が、会社名や姓名等を推理できないのなら、新たな記事やコメントを書き加える人も出てきません。あの会社のあの人のことだなと自分が推理できるのなら、他の人も推理でき、同定できるだろうと考えるべきです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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