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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

顧客情報など機密情報が匿名掲示板で漏洩!削除や投稿者特定の方法

風評被害対策

顧客情報など機密情報が匿名掲示板で漏洩!削除や投稿者特定の方法

会社内で管理している機密情報、例えば顧客に関する個人情報などがインターネット上の掲示板等に漏洩されてしまうことは、当然ながら、会社にとって看過しがたい事態です。こうした情報漏洩が発生した場合、速やかに当該情報を削除し、また、必要に応じて漏洩を行った犯人の特定も行いたいと考える事になるでしょう。

ただ、こうした削除や投稿者特定は、当然に出来るものではありません。後述するように、削除も投稿者特定も、

当該事実が書き込まれた事によって、会社の「何らかの権利」が侵害された

と言えないと実現できない、というのが法律の建付で、「機密情報が書き込まれるとどのような権利が侵害されたと言えるのか」というのはなかなかに難しい問題だからです。

漏洩した情報の削除や投稿者特定は、このように難易度が高い、専門的な業務なのですが、当事務所ではこうしたケースで削除及び投稿者特定(IPアドレス開示)に成功しています。

削除・投稿者特定には「何らかの権利」の侵害が必要

前提として、削除や投稿者特定を行うには、以下のようなロジックが必要です。

  • 当該情報が掲載されていることで会社の「何らかの権利」が侵害されているため、削除が認められるべきである
  • 当該情報が掲載されていることで会社の「何らかの権利」が侵害されているため、(プロ責法の規定に基づき)投稿者に関する情報の開示が認められるべきである

つまり、いずれにせよ「何らかの権利」が侵害されている、という主張が必要だということです。

この「何らかの権利」の典型は、名誉権(名誉毀損)です。例えば、「●●という会社は粉飾決算を行っている」と書かれた場合、「その記載は、会社が犯罪行為を行っていると言っているのであり、そう言われると会社としては世間からの評価が下がってしまう(法律用語としては「社会的評価が低下」する)し、そして、粉飾決算を行ったなどといった事実はない」と言えるので、「名誉権」の侵害がある、となります。

他にも、プライバシー権なども「典型」の一つです。ある個人の恋愛事情などに関する情報が記載された場合、その個人はプライバシー侵害を主張することができます。

機密情報の漏洩は名誉毀損・プライバシー権侵害か?

では、機密情報、例えば、顧客情報が漏洩した場合は、何の権利が侵害されたと言えるのでしょうか。

名誉毀損という主張はなかなか困難です。「顧客情報の漏洩を起こした」と思われると「社会的評価」は低下するかもしれませんが、「漏洩した」というのは残念ながら真実なので、名誉毀損が成立しません。

プライバシー侵害という主張も困難です。たしかに、情報漏洩の被害にあった顧客から見れば「当該個人はその会社の顧客である」と情報や、自身の住所氏名といった情報について、プライバシー権侵害を主張する余地はあります。しかし、その侵害を主張できるのは、あくまで顧客であり、会社が顧客に代わってプライバシー権侵害を主張することはできません。つまり、

  • 会社が当該顧客に情報漏洩発生を伝え、当該顧客から弁護士に依頼をして貰い、弁護士は当該顧客の委任状を用いてプライバシー権侵害を主張し削除などを行う、その後で会社が弁護士費用相当額などを顧客に賠償する…ということは可能
  • 会社が弁護士に依頼を行い、弁護士は会社の委任状を用いて会社のプライバシー権侵害を主張し削除などを行う…ということは不可能

となってしまいます。

「営業権又は業務遂行権」の侵害とは

当事務所が依頼を受けた案件は、いわゆる顧客情報の漏洩でした。ある会社の顧客情報が、匿名掲示板上に、おそらく内部の人間によって漏洩されてしまった、という事案です。

当事務所は、「営業権又は業務遂行権」の侵害を主張しました。

営業権又は業務遂行権とは、会社が業務を遂行する権利であり、それは会社の財産権・従業員の労働行為によって構成されるものであり、法人の業務に従事する者の人格権を内包する権利である、というように説明されます。難しい表現ですが、

  • 営利企業が業務を行うことは基本的には単なる経済行為であり、当然に法律上で保護されるものではない
  • しかしその骨幹部分は、具体的な従業員の「人格権」であり、一定以上の侵害があった場合には法律上保護に値するものである

というような意味内容です。過去の裁判例では、

法人に対する行為につき,①当該行為が権利行使としての相当性を超え,②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し,かつ,これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え,③「業務」に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合には,この行為は「業務遂行権」に対する違法な妨害行為と評することができ,当該法人は,当該妨害の行為者に対し,「業務遂行権」に基づき,当該妨害行為の差止めを請求することができる

東京高等裁判所決定 平成20年(ラ)第181号

などとされています。

そこで本案件でも、

  1. 当該顧客情報が、会社内で秘密情報として厳格に取り扱われていること
  2. 当該顧客情報が他サイトに転載されるなどして漏洩が拡大すると、会社の社会的信用が著しく低下し、これによって顧客に対して負担することになる可能性がある損害賠償額は想定が困難なほど高額になる可能性のあること
  3. 上記のような事態になった場合、会社の従業員の業務遂行に関する不利益が深刻となること

といった事実を証拠と共に具体的に挙げ、営業権又は業務遂行権の侵害を主張しました。なお、1は、いわゆる不正競争防止法上の営業秘密に近い概念です。ただ、本記事では詳細は割愛しますが、「不正競争防止法上の営業秘密に該当する」としても、当然に削除や投稿者特定が認められる、という訳ではありません。

まとめ

当該案件では、当事務所は上記のように「営業権又は業務遂行権」の侵害などを主張し、裁判官はこれを認め、

  • 当該記事の削除
  • 当該記事の投稿者に関するIPアドレスの開示

を認めました。

ただ、そもそも、機密情報が漏洩した全てのケースで「営業権又は業務遂行権」の侵害を主張すべきかは、何ともいえません。削除や投稿者特定のためには「何らかの権利」の侵害を主張すればよく、ケースバイケースで、他の権利を主張すべき(その方が証拠収集も容易で、裁判所も「違法」と認めてくれやすい)ケースもあり得るからです。具体的な事案の下でどの権利の主張をすべきかは、正に、こうした事案を多数手がけている弁護士が判断すべき高度な法律論です。

また、仮に「営業権又は業務遂行権」の侵害を主張するとしても、ある具体的な事案において、どのような事実や証拠を集めるべきなのか、というのも高度な法的判断です。

機密情報の漏洩が発生してしまった場合、少しでも早く当該情報を削除すべきです。インターネット上に一度出てしまった情報は、放置すると他のサイト等に転載されてしまい、被害が拡大する危険があるからです。

さらに、一般論として、投稿者特定は、厳しいタイムリミットとの戦いです。

機密情報が漏洩してしまった場合には、上記のような高度な判断を速やかに行い、適切な方法で削除や投稿者特定を行う必要があるのです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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