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風評被害対策

LINEで誹謗中傷された!訴えることはできるのか?事例を解説

風評被害対策

「LINE」は、今や国内で最も利用者の多いチャットアプリです。複数人と会話ができるグループLINEを日常的に使われている方も多いのではないでしょうか。

しかし、その一方で、グループLINEは、数人程度から500人まで参加できるため、使い方次第では様々なトラブルに巻き込まれる可能性があります。

本記事では、LINEで誹謗中傷された場合に、誹謗中傷の相手を訴えることはできるのかという点について、事例をもとに解説します。

グループLINEでの誹謗中傷は訴えることはできるのか

グループLINEでの誹謗中傷を訴えることができるかどうかを判断するには、その投稿が「名誉毀損である」と認められるかどうかを考える必要があります。したがって、「名誉毀損」が法律上どのように扱われ、また裁判所はどう判断してきたのか、というのを見ていくと参考になります。

名誉毀損の法律上の意味合いは広く、 刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪にあたり違法なものと、民法上の不法行為にあたり違法なものの2類型がありますので、それぞれ解説していきます。

名誉毀損罪と侮辱罪の成立要件

まず、刑法上の名誉毀損罪と侮辱罪の成立要件について見ていきましょう。

・名誉毀損罪(刑法230条)
①公然と
②事実を摘示し
③人の名誉を毀損すること

・侮辱罪(刑法231条)
①事実を摘示せず
②公然と
③人を侮辱すること

両罪の成立要件を比較すると、「名誉を毀損」と「侮辱」は異なる行為に思えますが、実はどちらも人の社会的評価を低下させることをいいます。

したがって、両罪の違いは「事実を摘示」しているか否かという点です。

しかし、LINEグループでの誹謗中傷との関係で重要なのは、公然性の要件です。

「公然」とは不特定または多数の人が認識し得る状態のことを言います。

LINEグループに当てはめて考えてみると、例えば、不特定多数の人が自由に出入り可能な「オープンチャット」内での誹謗中傷は、比較的公然性が認められやすいですが、他方で、招待制・少人数のLINEグループ内での誹謗中傷の場合、公然性が認められない可能性が高いです。

名誉毀損と名誉感情侵害の違い

民法では、刑法のように「名誉毀損」や「侮辱」を明文で保護していませんが、判例上、不法行為(民法709条)に当たる場合には損害賠償が可能、という形で保護されています。

そして、不法行為に当たる2つの類型としては、名誉毀損名誉感情侵害があるとされています。

両者の違いについて、以下解説します。

民事上の名誉毀損とは

判例では、民事上の名誉毀損について、以下のように判示されています。

名誉権とは人がその品性、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、つまり社会的評価に係る権利であり、個人・法人を問わずに名誉権侵害成立します。民法723条にいう「名誉」も社会的名誉をいうとされ、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価(※注:後述の名誉感情)は含まない

最判昭和46年12月18日 民集24巻13号2151頁

つまり、民事上の名誉毀損とは、名誉権の侵害であり、事実を摘示して人の社会的評価を低下させた場合は、名誉毀損として不法行為に当たる、ということになります。また、人の社会的評価を低下させるか否かは、判例上、一般読者の普通の読み方と注意を基準として判断されています。

例えば、「反社会的勢力と繋がりがある」などといった記載が代表例です。その他に具体的にどのような記載が社会的評価を低下させると言えるのかについては、下記記事で詳しく説明しています。

関連記事:名誉毀損の成立に必要な社会的評価の低下とは? 弁護士が解説

刑法上の名誉毀損罪との異同

民事上の名誉毀損に公然性が必要かどうかという点に議論はありますが、裁判実務上は、民事上の名誉毀損にも公然性は必要とされています。

したがって、実質的には、民事と刑事で名誉毀損の成立要件に違いはないということになります。

名誉感情侵害とは

他方で、名誉感情とは、人が自身の人格的価値について有する主観的な評価のことを言います。したがって、「バカ」や「アホ」などといった事実の摘示を含まない主観的な表現により精神的に傷付けられるのが名誉感情です。

では、「バカ」や「アホ」などと言っただけで全て違法になるのかというと、そうではありません。

この点について、最高裁は、次のように判示しています。

社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて…人格的利益の侵害が認められ得る

最判平成22年4月13日 民集 64巻3号758頁

つまり、「社会通念上許容される限度を超える」場合には、名誉感情侵害として不法行為に当たる、ということになります。

例えば、「ブス」などの言葉を何回も繰り返し用いた上、 「加工してる写真すらブスってどういうことだよw」 などと中傷を繰り返すと、 社会通念上許容される限度を超えて原告を誹謗中傷するものであり、原告の名誉感情を侵害するもの と認められる可能性があります。

どのような場合に名誉感情侵害になるかについては、下記記事で詳しく解説していますので、こちらもご参照ください。

関連記事:ネット上での悪口(誹謗中傷)と名誉感情の侵害

なお、名誉感情侵害を理由として損害賠償請求する際には、先ほど刑事上の名誉毀損や民事上の名誉毀損のパートで解説した、公然性の要件が問題とならないという点でも名誉毀損とは異なるとにも注意しましょう(後述の東京地判平成31年1月18日参照) 。

LINEグループの投稿をめぐる裁判例

LINEグループにおける実際の事案において、裁判所がどのように判断したのか見ていきましょう。

事案の概要

本件は、原告が、同職場に勤務する夫を持つ妻ら5人で構成されたLINEグループのメンバーの一人(被告)に対して、被告が同LINEグループ内で原告の名誉感情を侵害する文言を含むメッセージを送信したとして、不法行為に基づく損害賠償及び慰謝料を請求したものです。

被告が送信したメッセージは以下の通りです。

  • 「今年最大の変質者情報がございます!!それは〇〇さん(原告)です。」
  • 「こいつはあり得ないほど馬鹿で汚いことを平気でできる人物なので皆さんお気を付けくださいませ!!」
  • 「うちの主人はこいつの仕事を手伝ったのですが、汚いことを平気でやります!」
  • 「社歴だけが長いにもかかわらず仕事ができないようで(笑)」
  • 「皆口には出さなくても馬鹿にされてますよ(爆) (笑)憐れですね!まぁ本物の馬鹿ですこいつ!ポンコツ野郎!(笑)」
  • 「そして、この〇〇(原告)、私にも最低な嫌がらせを仕掛けてきました!!ストーカーのような真似をして!いい歳して本物のクズ人間ね!!!」

主要な争点

本件では、名誉感情侵害の前提条件として、公然性の要件を満たす必要があるのかという点が問題となりました。

「被告が本件メッセージを送信する行為は、本件メッセージの内容を、本件LINEグループの加入者のみならず、原告や同僚の目に触れさせることに直結する」

と原告が主張したことに対し、

「LINEグループの加入者は被告以外には4名しかおらず、不特定または多数人に発信したわけではないしインターネットに書き込みをしたわけでもない。」

と被告が主張し、本件メッセージの送信行為には公然性がないと主張しました。

裁判所の判断:名誉感情侵害においては公然性の要件は不要

裁判所は、以下のように判示して、名誉感情侵害においては公然性の要件は不要であるとしたうえで、

「原告は名誉毀損ではなく、名誉感情侵害を理由として、損害賠償を求めているのであるから、公然性の要件は不要である」

東京地判平成31年1月18日

本件メッセージが原告の名誉感情を侵害するか否かについては、

罵詈雑言を並べ立てて侮辱するのみならず、原告が、職場の同僚である被告の夫を姑息な手段で陥れたとか、社歴が長いのに仕事ができずに後輩にも次々と抜かれているとか、被告に対してストーカー行為をしたといった根拠のない事実関係を列挙した上、原告が、現実に起きた猟奇的殺人事件の容疑者に似た異常な犯罪者のような顔や内面であると指摘するなどして執拗に貶め、原告の名誉感情を著しく害するものであるといえる。

同上

として、名誉感情侵害を認めました。

なお、本件では、一回限りの行為であることや、被告がこれを認めて原告に謝罪の意思を示していることを踏まえて、慰謝料30万円、弁護士費用3万円、合計33万円の損害賠償の支払いを命じました

関連記事:LINEやTwitterのDM、メール等で名誉毀損は成立する?送信者特定の請求の可否

LINEのメッセージをめぐる裁判

次に、LINEのメッセージについての裁判所の判断を解説します。

事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、被告が友人とのLINEトーク上で送信したメッセージによって主位的には名誉を毀損された、予備的には名誉感情を侵害されたとして不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

被告が送信したメッセージは以下の通りです。

  • コイツ気を付けてね
  • 詐欺とかいろいろしてるから
  • 知り合いがいろいろやられた

主要な争点

本件では、公然性の要件について、問題となっている表現が特定の少数人に向けられたものであっても、その表現が第三者に伝えられる可能性が高い場合には、なお公然性の要件を満たすのではないか(いわゆる伝播性の理論)という点が問題となりました。

「本件メッセージは原告の社会的評価を低下させる内容の事実を摘示している」、「本件情報が他の不特定多数に伝播する蓋然性が極めて高い」

と原告が主張したのに対し、

「特定人である友人に対して1対1の関係で送信し、事実を摘示したものであり、公然と事実を摘示したと解する余地はない」

と被告は反論しました。

裁判所の判断:LINEのメッセージは特定少数人に対するものであっても名誉毀損になりうる

LINEのメッセージの伝播性に関して、裁判所は、以下のように判示してこれを認める可能性を示しました。

なお、一般にLINEによるメッセージの転送等は容易であり,他に伝播する可能性があるといえる

東京地判令和3年3月10日

つまり、 LINEによるメッセージは特定少数人に対して送信されたものであっても公然性の要件を満たす可能性があるということです。

しかし、一部の裁判例では、このように伝播する「抽象的な可能性」のみで公然性の要件を広く認めることに対しては消極的な裁判例(東京地判平成20年10月8日等)もあり、実際には、伝播する「具体的な可能性」が必要なものといえるでしょう。

そして、上記のような観点は、社会的評価の低下の要件とも密接に関係してきます。本件でも、裁判所は、次のように判示して、本件メッセージは原告の社会的評価を低下させるものではないと判断しました。

本件行為は、被告が当該友人に対してのみメッセージを送信したというものであり、当該メッセージが第三者に転送されたり、インターネット上で公表されたりするなどして第三者に伝播した具体的な状況は窺われないことから、原告の社会的評価が低下したと認めるに足りない

同上

前述のとおり、社会的評価が低下させるか否かは、一般読者を基準に判断されるため、本件のように「 詐欺とかいろいろしてる」といったような、犯罪をしている事実を摘示する表現は、通常、社会的評価を低下させるものです。

しかし、実際の裁判例では、一般的に社会的評価を低下させるような表現であっても、低下の「程度」が一定程度を超えたものでなければ、名誉毀損は成立しないとされています(東京地判平成26年9月19日等)。

本件で「原告の社会的評価が低下したと認めるに足りない 」とされているのも、上記のような意味で、1対1でのメッセージの送信であり、かつ、第三者に伝播する具体的な可能性がなかったため、社会的評価の低下の「程度」が低いと判断されたものといえるでしょう。

しかし、逆に言えば、例えばメッセージを送信した当事者が以前に秘密を暴露したような事情がある場合など、名誉毀損にあたるようなメッセージが第三者に伝播する具体的な可能性が認められる場合には、社会的評価の低下が認められる可能性があるともいえます。

なお、本件では、名誉感情侵害についても、被告は当該友人に対してのみメッセージを送信していること、本件情報が抽象的な記載に留まること等をふまえて、 「本件行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められない」と判示し、名誉感情侵害についても認めませんでした。

関連記事:名誉毀損が認められない6つの事例を弁護士が解説

LINEの誹謗中傷の相談窓口

LINEで誹謗中傷に悩んだときの相談窓口を紹介します。

厚生労働省:まもろうよ こころ

厚生労働省:まもろうよ こころ

厚生労働省は、悩みを抱える人への相談窓口を紹介するサイトを設けています。 所在地の都道府県・政令指定都市が実施している公的な相談窓口につながる全国共通ダイヤルや、 LINEやオンラインチャットのリンクが記載されているため、悩んだら相談するとよいでしょう。

▷電話で相談したい
こころの健康相談統一ダイヤル(ナビダイヤル):0570-064-556
よりそいホットライン(フリーダイヤル):0120-279-338

▷SNSで相談したい
特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア:https://www.npo-tms.or.jp/public/kokoro_hotchat/
特定非営利活動法人 あなたのいばしょ:https://talkme.jp/

総務省:違法・有害情報相談センター

違法・有害情報相談センター

インターネット上の誹謗中傷、名誉毀損、プライバシー侵害、人権侵害、著作権侵害などに関する書き込みへの対応や削除要請方法等のトラブルに関する対応方法などについて、無料で相談できる窓口です。
https://ihaho.jp/

弁護士に相談する

LINEグループ等で誹謗中傷され、相手に損害賠償を請求したいときは、弁護士に相談しましょう。法律の専門家である弁護士に相談することで、訴訟手続きをスムーズに行うことができ、トラブルを早期に解決することができます。

まとめ:LINEで誹謗中傷されたら、不法行為にあたることも

LINEグループでの誹謗中傷等のトラブルに巻き込まれ、名誉毀損または名誉感情侵害が認められる場合には、当該メッセージを投稿した相手に対して民事上の不法行為責任を追及し、損害賠償を請求できる可能性があります。

しかし、名誉毀損や名誉感情侵害が認められるか否かは、判断が難しい場合もあります。

したがって、 LINEグループにおけるメッセージが名誉毀損や名誉感情侵害にあたるかも含め、 LINEグループでの誹謗中傷等のトラブル に対して法的手段を検討されている方は、経験豊富な弁護士に是非とも相談しましょう。

モノリス法律事務所の取扱分野:風評被害対策

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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